オーケストラ・アンサンブル金沢第154回定期公演M
2004/01/25 石川県立音楽堂コンサートホール
1)ハイドン/交響曲第30番ハ長調Hob.I:30「アレルヤ」
2)プロコフィエフ/ヴァイオリン協奏曲第2番ト短調op.63
3)シュトラウス,R./組曲「町人貴族」op.60
4)(アンコール)シュトラウス,R./組曲「町人貴族」op.60〜仕立て屋の登場と踊り
●演奏
外山雄三指揮オーケストラ・アンサンンブル金沢(コンサート・マスター:マイケル・ダウス)
西江辰郎(ヴァイオリン*2),外山雄三(プレトーク)
Review by 管理人hs  gontanさんの感想

金沢ではここ数日,雪の日が続き,3年ぶりの大雪になりました。50cm未満の積雪なのですが交通機関がかなり乱れ,市民の生活に少しずつ影響が出始めています。この日は「県民一斉除雪デー」ということで,私も午前中家の前の除雪(途中で雪遊びに切り替わったのですが)をした後,午後からオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の演奏会に出かけてきました。雪の方は午後からはほとんど降らず,湿気が多くなって来ましたので,混乱することもなく,石川県立音楽堂に着くことができました(徒歩で帰ることができるように長靴を履いて行ったのですが,結果的には不必要でした。ただし,似たような格好でホールに来ていた人をかなり見掛けました)。

ウェルカム・コンサートの様子
ホールに到着すると,「雪の中,演奏会に来られた皆様のために」ということで,ロビーでウェルカム・コンサートを行っていました。1月8日の定期公演の時と同様,トランペット2本と室内楽編成で,ヴィヴァルディの2本のトランペットのための協奏曲とクラークのトランペット・ヴォランタリーが演奏されました。こういう人情味(?)のあるサービスは嬉しいですね。

今回のOEKの定期公演の指揮者は,昨年9月に行われた仙台フィルとOEKとの合同公演以来の登場となる外山雄三さんでした。プログラムは,「古典的な曲」と「現代の作曲家の作った古典的な曲」が組み合わされたもので,OEKにはぴったりの内容でした。今回,外山さん自身がプレトークを務められましたが,その落ち着いた語り口同様,”大人”の魅力に溢れた指揮ぶりでした。外山さんは,考えてみると「国内現役最長老(多分)」の指揮者ですが,老け込んだところはなく,どの曲も折り目正しい演奏でした。この日の外山さんは,昼間の演奏会ということで,普通の背広に銀色っぽいネクタイをされていましたが,ピシっと決まった隙のなさは,大変ベテランらしいと思いました。

まず,最初はハイドンの交響曲第30番「アレルヤ」が演奏されました。ハイドンの比較的初期の交響曲ということで,古典派の交響曲とバロック音楽の中間的な雰囲気のある曲でした。ファゴットの柳浦さんがチェロとコントロバスの間のような位置に座っていましたが,通奏低音を担当していたようです。

タイトルになっている「アレルヤ」のモチーフは,第1楽章に出てくるのですが,実はよくわかりませんでした。第1楽章は全体として祝祭的な雰囲気があります。我が家にあるCD(アダム・フィッシャー指揮のハイドン全集の中の1枚です。全部で1万円しないぐらいの超廉価盤です)では,トランペットが入っているようなのですが,この日の演奏には入っていませんでした。この辺はいろいろな版や解釈があるのかもしれません。

演奏は全体としてまろやかな響きに包まれ,落ち着いたムードがありました。慌てたところがなく,安心して聞くことができました。2楽章は,フルートがソロ楽器として活躍します。岡本さんのフルートのすっきりした響きが気持ち良く響いていました。第3楽章はメヌエットで,のんびりとした感じで終わります。こういう形のフィナーレは交響曲としては珍しいものです。

次のプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲には,西江辰郎さんがソリストとして登場しました。西江さんは仙台フィルのコンサート・マスターで,昨年9月のOEKとの合同演奏会の時にもコンサート・マスターとして参加されていました。当然,外山さんとの呼吸はぴったりです。

西江さんはとてもお若い方で,一見,クールでキレる若手弁護士といった雰囲気があります(変な発想ですみません。現在放送中のフジテレビのドラマ「白い巨塔」に丁度,及川光博の演じる若手弁護士が出てきたところなので,ふと連想してしました)。とても正統的で崩れるところのない立派な演奏でした。どの楽章も落ち着いたテンポ設定で,西江さんのヴァイオリンの音色の美しさを堪能できました。

第1楽章は,いきなりソロ・ヴァイオリンが出てきます。息の長いメロディの歌わせ方には陶酔的な美しさがありました。音自体はすっきりとしているのですが,程よいヴィブラートがついており,コクのある豊かさも感じました。OEKの演奏はハイドンと比べると色彩感がありました。木管楽器が時折きらめくように入って来るのが印象的でした。ヴァイオリンに第2主題が出てくると,さらにロマンティックな雰囲気になりました。一貫して平静で落ち着いたムードがあり,格調の高さを感じました。楽章の最後の意味深げな弱音の大太鼓の音も効果的でした。

第2楽章も同様に叙情的なメロディの美しさを楽しむことができました。弦楽器と木管楽器がポツポツと演奏するシンプルな伴奏の上に,じっくりと出てくる透明感のある主題は永遠に続いて欲しいぐらい美しいものでした。OEKと一体となって,ミステリアスな雰囲気を作っていました。特に遠藤さんクラリネットの音が深い味を出していました。

第3楽章もじっくりとしたテンポでしたが,この楽章についてはもう少し速い方が私は好みです。どこか腰が重い感じで,全体にぎこちない感じがしました。カスタネットが入ってもあまり弾んだ感じはしませんでした。西江さんのヴァイオリンは十分に情熱的でしたが,熱くなり過ぎることがありませんでした。すべてに目配りが効いておりバランスの良いヴァイオリンでした。曲の最後のトランペットの音には不気味な雰囲気がありましたが,全体として古典的な雰囲気のある演奏になっていたと思いました。

後半は,R.シュトラウスの「町人貴族」が演奏されました。この曲はR.シュトラウスの曲の中では珍しく室内オーケストラでも演奏できる曲です(それでもトロンボーン,打楽器のエキストラは必要ですが)。OEKの重要なレパートリーとなっている曲で,過去2回,岩城さんの指揮で聞いたことがあります。今回の演奏もとても洗練された響きを楽しむことができました。

この曲は室内オーケストラ用の曲とはいえ,ちょっと変則的な編成になっています。まず,第1ヴァイオリンが6人しかいません(その他の弦楽器は通常の人数です)。管楽器ではトロンボーンとトランペットが1本ずつ入ります。人数の割には楽器数が多く,これ以外にもピアノ,ハープ,打楽器6人が加わっていました。この曲は,軽さと重さが合わさって,ちょうど真中が抜けてしまっているような独特の雰囲気があるのですが,これは楽器編成によるような気がします。

曲はまず快適なテンポの序曲から始まります。ピアノと弦楽器の作る軽快でこじんまりとした響きが,風刺的な感じをよく出していました。その後に管楽器のソロなどが入ってきますが,この曲には個々の楽器がソリスティックに活躍する部分と室内楽的な部分とがバランス良く混ざっており,OEKのようなオーケストラにはぴったりの曲だと思います。

第3曲でトロンボーンやトランペットが入って来るとぐっとダイナミックになります。この曲では,おなじみのジェフリー・ペインさんがトランペットに参加していましたが,さすがに華やかに聞かせてくれました。かなり大きなタメを作って演奏していたのが印象的でした。その他の曲でも逞しいトロンボーンの音とともに,良いスパイスになっています。

第4曲は途中からポロネーズ風になり,コンサート・マスターのマイケル・ダウスさんが活躍します。装飾的で技巧的なパッセージが続くのですが,ダウスさんは堂々と聞かせてくれました。同じシュトラウスの「ツァラトゥストラ...」のヴァイオリン・ソロと似たところがあると感じました。その後の数曲でも,ダウスさんのヴァイオリンは大活躍でした。

外山さんは,全体にじっくりとしたテンポで演奏しており,とても明晰な音楽となっていました。この曲は,R.シュトラウスの職人芸的な作風がよく出た曲ですが,外山さんの方も職人的にきっちりとした音楽を作られますので,ぴったりの選曲だったと言えます。最後の曲には,打楽器なども沢山加わり華やかに結ばれるのですが,打楽器のバランスがとても良かったのでうるさい感じはしませんでした。

この曲は風刺ドラマですので,もっと安っぽく軽妙な雰囲気のある演奏でも良いのかな,とも思ったのですが,外山さんの作る,折り目正しい音楽も大変立派で聞き応えがありました。この曲は,”OEKの十八番”としていろいろな指揮者で聞いてみたい曲だと思いました。

盛大な拍手に応えてアンコールが演奏されました。今回は”変則編成”ということで第4曲目のポロネーズ風の曲が再度演奏されました。この日のプログラムは,どの曲もすっきりとした雰囲気にまとまっており,外山さんの”紳士的な雰囲気”が良く出ていたのではないかと思います。雪の中を出掛けたお客さんもOEKらしいプログラムを十分に楽しめたことと思います。(2004/01/26)

(番外)「一斉除雪の日」の金沢写真集
この日は,「一斉除雪の日」でした。香林坊から石川県立音楽堂まで歩きながら,街中の写真を撮ってみました。
←(1)香林坊の裏通りです。堅くなった雪をツルハシで割って,山のように積んでいました。街中は雪の置き場がないので大変です。 ←(6)金沢市立図書館の別館です。この辺で一息入れました。なかなか美しい光景でした。
←(2)大野庄用水です。市内を流れる用水は,雪捨て場として重要な役割があるようです。雪捨て用に,手すりが開くようになっていました。 ←(7)玉川町の郵便局の前にあった雪だるまです。鏡餅のように美しい仕上がりです。「バケツの帽子」「ホウキの手」もありパーフェクトです。〒マークも良いですね。
←(3)武家屋敷方面です。こうやって見るとなかなか風情がありますが.... ←(8)通りかかった寺の屋根の下にありました。屋根雪の山の除雪をしなくても,このトンネルをくぐると本堂に入れます。雪国ならではのアイデアグッズ?
←(4)そのすぐ傍では,何と電動ドリルで雪を割っていました。「便利屋」さんのような人が仕事を請け負っていたようです。 ←(9)音楽堂に到着しました。2階席前から東口広場方向を見た写真です。ガラスドームの屋根雪がどうなるのか気になっていたのですが,簡単に落ちないような作りになっているようでした。
←(5)路傍に見かけた不思議な雪のかたまりです。ポリバケツで雪を運んでいたようです。      
 


Review by gontanさん

こんばんは、福井のgontanです。
金沢の雪はもうひと段落したのでしょうか。
私は先週金曜の晩に金沢入りしましたが、JRも遅れるなど、大変でした。

さて、今年最初のコンサートに選んだOEKの定期ですが、とても楽しく聴くことができました。一見、地味なプログラムでしたが、OEKらしさ、外山さんらしさが出た良い演奏会でしたね。

ハイドンのやわらかい木管の響きや、R.シュトラウスでのペインさんやダウスさんの名人芸は、これぞOEKといった感じです。

プロコフィエフを弾いた西江さんは、派手さはないですが、とても落ち着いたやわらかい音色をした方で、さすがオーケストラのコンサートマスターだなぁ、といったところ。ヴァイオリンの美しい面を前面に出した、魅力的な演奏でした。(個人的にはメンデルスゾーンのホ短調を西江さんの演奏で聴いてみたいと感じました。)

西江さん、再登場を望みたい演奏家のひとりですね!(2004/01/30)