オーケストラ・アンサンブル金沢第156回定期公演F 2004/02/15 石川県立音楽堂コンサートホール 1)シュトラウス,R./交響詩「ツァラトゥストラはこう語った」〜冒頭部 2)ホーナー/映画「タイタニック」の音楽〜メドレー 3)ロウ/ミュージカル「マイ・フェア・レディ」〜踊り明かそう 4)ディズニー映画メドレー(ジッパディドゥーダ,ハイホー,狼なんか恐くない,星に願いを,ビビデバビデブー,美女と野獣,イッツ・ア・スモール・ワールド,スーパーカリフラジステックエクスピアリ ドーシャス.) 5)ローズ/ホリディ・フォー・ストリングス 6)スタイナー/映画「カサブランカ」〜アズ・タイム・ゴーズ・バイ 7)ニューマン/映画「慕情」〜Love is many splendored things 8)スタイナー/映画「風と共に去りぬ」〜タラのテーマ 9)ロジャース/映画「情熱の狂騒曲〜わが心に歌えば 10)平岡精二/学生時代 11)カーマイケル/スター・ダスト 12)ロイド=ウェッバー/ミュージカル「キャッツ」〜メモリー 13)チャップリン/映画「モダンタイムズ」〜スマイル 14)プリエト/ラ・ノヴィア 15)武政英策/南国土佐を後にして 16)ロジャース/ミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」メドレー(サウンド・オブ・ミュージック,一人ぼっちの羊飼い,エーデルワイス,ドレミの歌,) 17)(アンコール)モノー/愛の讃歌 ●演奏 ペギー葉山(歌*3,6,7,9-17) 水木ひろし指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサート・ミストレス:アビゲイル・ヤング)
オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演ファンタジー・シリーズの今回のゲストは,OEKの「応援団」の一人で,岩城宏之音楽監督の友人でもあるペギー葉山さんでした。指揮はファンタジー・シリーズではおなじみの「水木ひろし」さんでした。 ペギーさんは,今年で何とデビュー53年とのことです。女性の年齢について詮索するのは失礼なのですが,どうも水木さんとほぼ同世代のようです。ペギーさんのトークによると「生まれた時から歌っていました」とのことですが,それにしても全然衰えることのない,歌唱力には驚かされます。 私がペギーさんを最初にテレビで見た記憶はNHKの「歌はともだち」という歌番組の司会だったと思うのですが(「ひらけポンキッキ」はもう少し後でしょうか?),印象としては(外見も含めて),その時からほとんど変わっていません。一昨年のファンタジー・シリーズに登場した加山雄三さんも「永遠に若大将」という感じでしたが,ペギーさんの息の長い活躍ぶりも本当に素晴らしいものです。 演奏会は,前半は映画音楽中心,後半はペギーさんのヒット曲中心という構成になっていました。前半はまず,OEKのみの演奏で序曲がわりに映画「2001年宇宙の旅」のテーマ(つまり,R.シュトラウスの「ツァラトゥストラはこう語った」の冒頭部分)が演奏されました。この曲あたりは,全曲を聞いてみたい曲ではありますが,トロンボーン3本,トランペット3本に増強されたOEKの演奏は,開演に相応しい華やかさを持ったものでした。 次に「タイタニック」の音楽が演奏されました。通常は,テーマ曲の"My heart will go on"(セリーヌ・ディオンの歌っている曲)が演奏されることが多いのですが,今回はそれ以外の音楽も含まれていました。水木さんの話によると「映画を見ていてもあまり印象に残らない曲」とのことでした。そう言われてしまうと選曲の意図がよくわからなくなってしまうのですが,フルートがちょっと音を滑らすように演奏する辺り,なかなか面白い編曲だったと思いました(今回のプログラムには,編曲者名が全然書いてなかったのが残念でした)。 その後,水木さんが「さて...」と言って「踊り明かそう」の指揮をはじめると,赤と黒のドレスを着たペギーさんが登場しました。ファンタジー・シリーズに登場するポップス歌手の方々は,オーケストラと共演するだけあって,実力のある方ばかりなのですが,ペギーさんもまた堂々とした登場の仕方でした。 この曲は元々はジュリー・アンドリュースの持ち歌ですが(オードリー・ヘップバーンの映画版では別の人が歌っていますが),ペギーさんの歌う「踊り明かそう」には,ジャズのテイストが感じられ,余裕たっぷりでした。暖かく太い声は健在で,聞いていて疲れるところがありませんでした。ペギーさんが長く活躍されているのは,自然な発声法で歌われていることと,ジャズ風の味付が感じられる点だと思います。長年歌い込んでいるジャズ歌手の場合,どういう曲を歌っても,年を重ねるにつれて,その人の人生を感じさせるような歌になってくるところがありますが,ペギーさんの歌にもそういう年輪を感じました。 その後は,ペギーさんと水木さんのトークを交えながら進められました。次にOEKのみの演奏で,ディズニー・メドレーとホリディ・フォー・ストリングスが演奏されました。ディズニーの曲には有名な曲が次々と出てきましたが,この辺の曲については,「子供のためのコンサート」といえば,いつも「となりのトトロ」が出てくるのと同じように,「映画音楽といえば...」という感じで少々新鮮味が薄くなって来た感じもします。 それに対して,「ホリディ・フォー...」の方はとても新鮮に響きました。「トランペット吹きの休日」のヴァイオリン版という感じのタイトルですが,曲想もルロイ・アンダーソンを思わせるような軽妙なスピード感がありました。一度,こういう「こじゃれた曲特集」みたいなのも聞いてみたいものです。 再度,ペギーさんが登場し,懐かしの映画のテーマ曲が2曲歌われました。「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」は,映画のムードを彷彿とさせるようなピアノ伴奏のみで始まり,次にドラムスが加わり,その後,オーケストラが加わるという編曲でした。「慕情」の方は,日本語と英語を混ぜて歌われました(その他の曲でもそういうパターンが多かったようです)。どちらもペギーさん自身の若い頃のアメリカ映画への「憧れ」が滲み出てくるような歌でした。 ちなみに,ペギーさんは「慕情」の主役のウィリアム・ホールデンの大ファンだったそうです。「慕情」の中で,ホールデンが横になっているジェニファー・ジョーンズに手を差し出すシーンが特に気に入っているそうです。 前半最後には,「風と共に去りぬ」の「タラのテーマ」が演奏されました。今回の演奏では,「タラのテーマ」の前に,映画の冒頭部分と同様,「鐘の音」が入っていました。私はこの方が好きです。この「鐘の音」は,20世紀フォックスのファンファーレなどと同様,映画会社のテーマだと思うのですが,この音を聞くと何故か懐かしい気分になります。 「タラのテーマ」の方は,「利家とまつ」を観ていた人にとっては,雰囲気が似ているなと感じたのではないでしょうか?金沢の人なら,「タラのテーマ」の方が似ていると思うかもしれません。 後半はペギーさんのヒット曲が中心となりました。ファンタジー・シリーズの場合,衣装の「お色直し」も楽しみの一つですが,ペギーさんの後半の衣装は,ラメ入りの黒のドレスでスカートの部分にはレースのようなものが付いたものでした。 最初の曲は,ペギーさん自身のテーマ曲である「わが心に歌えば」でした(そういえば,ちらしに書いてあった演奏会のタイトルもこれでした)。テーマ曲らしく,最後はファンファーレ風に華やかに終わる曲でした。 次の「学生時代」は,恐らく,ペギーさんのいちばんの代表曲でしょう。ノリの良いリズムを持った曲ですので,手拍子入りとなりました。水木さんも客席の方を向いて和やかに手拍子をしていました。ちなみに水木さんですが,この曲がヒットした時に日本に居なかったそうです(東京オリンピックの年(1964年)のことです)。そのせいで,この曲が日本の歌だと知らなかったなどとおっしゃっていました。どこまで本当かわかりませんが,なかなか面白いお話です。 続く,「スター・ダスト」「メモリー」「スマイル」は,どれもピアノのシンプルな伴奏から始まりました。この辺はディナー・ショーのような雰囲気がありました。「スター・ダスト」では,途中に入る谷津さんのトランペットソロも見事なものでした。「メモリー」は,先に聞いた「慕情」とどこかメロディラインが似ているなと思って聞いていました。「スマイル」には,アビゲイル・ヤングさんのヴァイオリン・ソロが入りました。ギドン・クレーメルがこの曲を弾いたCDもありましたが,チャプリンの曲には,ヴァイオリンが良く似合います。ヤングさんの演奏も美しいものでした。 コンサートの最後の3曲は,ペギーさんの代表的な作品ばかりでした。「ラ・ノヴィア」は,曲の中で歌われているドラマが見事に表現されていました。個人的には,この日歌われた曲の中でいちばん強く印象に残りました。テレビの歌番組では,時間の都合で全曲をなかなか歌えない曲とのことですが,今回は全曲をたっぷり聞かせてくれました。「アベ・マリア」という言葉を何回も繰り返すうちに次第にドラマティックになっていくあたりが大変聞き応えがありました。ペギーさんは,この曲を外国旅行の「おみやげ」として日本に持ち帰ったそうですが,「ドレミの歌」同様,ペギーさんの大きな功績の一つなのではないかと思います。 「南国土佐を後にして」は,この日歌われた曲の中では,いちばん日本的な曲した。ペギーさん自身は,この曲を「代表作」と呼ばれたくないようでしたが,やはり,私には,この曲はペギーさんの声と歌いまわしでないと納得できないところがあります。民謡の親しみやすさを残しながらも,泥臭さを薄め,洒落た雰囲気になっているあたりが,いつ聞いても新鮮な曲です。曲の最初に出てくるフルートの音,途中に出てくる打楽器の音など,西洋の楽器で和風を真似たようなアレンジも大好きです。 かつて,ペギーさんが出演したミュージカルの指揮を水木さん(その時は「岩城宏之さん」という名前だったようですが)が担当したことがあるそうです。その際,当時大流行していた「南国土佐...」を強引にミュージカルに入れたそうです。そういうお二人の共演ということで,大変貴重な演奏でした。 プログラムの最後は,ペギーさんのもう一つの代名詞である「ドレミの歌」を含む,「サウンド・オブ・ミュージック」メドレーでした。これも映画版でのジュリー・アンドリュースの歌でおなじみの曲ばかりですが,実は,映画よりも先にペギーさんの「ドはドーナツのド...」の詞があったところが面白いところです。オリジナルのオスカー・ハマーシュタイン2世の歌詞は,「ラはソの次の音」という”逃げた”ような詞ですので,私は「ラはラッパのラ」のペギーさんの詞の方がよく出来ていると思っています。 「サウンド・オブ・ミュージック」については,(「南国土佐」のペギーさん同様),ジュリー・アンドリュースの歌を超えるものは考えられないのですが,ペギーさんの落ち着いた声には大人の魅力がありました。親が子供に読んで聞かせるような味わいがあったと思います。さすがに「ドレミの歌」を「ご一緒に」と言われても,ちょっと恥ずかしくて歌えないところはありましたが,最後の方は手拍子も入り,楽しい雰囲気で演奏会は締められました。 アンコールでは,「愛の讃歌」が歌われました。これも「ラ・ノヴィア」同様,ドラマを含んだ曲で,ペギーさんの声にはぴったりでした。 今回のファンタジー・シリーズは,ペギーさんの長年のステージ経験と自信に溢れた歌が次々と歌われ,その魅力が十分に発揮されていました。変わらぬ声を聞いて,特に同世代のお客さんには,大きな励みになった演奏会になったのではないかと思いました。 PS.今回のペギーさんのトークの中で「バレンタインデーの日(春一番が吹いていましたね),金沢蓄音器館に出かけて,「南国土佐を後にして」の原盤を見つけた」というお話をされていました。そこで,蓄音器館のページに何か書いてないか見てみたところ,次のような写真と記事が載っていました。蓄音器館にもいろいろ有名な方が来られているようですね。 http://www.owaricho.jp/places/c_topic/pegii.html (2004/02/16) |