小川典子ピアノの世界
2004/03/03 石川県立音楽堂邦楽ホール

1)ムソルグスキー/組曲「展覧会の絵」
2)(アンコール)ドビュッシー/亜麻色の髪の乙女
3)ブラームス/ピアノ五重奏ヘ短調op.34
4)(アンコール)ブラームス/ピアノ五重奏ヘ短調op.34〜第3楽章(前半のみ)
●演奏
小川典子(ピアノ*1-4)
松井直,原三千代(ヴァイオリン*3-4),石黒靖典(ヴィオラ*3-4),ルドヴィート・カンタ(チェロ*3-4)
Review by 管理人hs   takaさんの感想

日本を代表するピアニスト,小川典子さんとオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のメンバーによる演奏会に出かけてきました。前半は小川さんの独奏で「展覧会の絵」,後半は小川さんとOEKメンバーの共演によるブラームスの室内楽というプログラムで,小川さんのピアニストとしての2つの面を見せてもらいました。

やはり,強く印象に残ったのは,前半に演奏された「展覧会の絵」でした。この曲ぐらいの大曲になると,通常は後半のメイン・プログラムとして演奏されるのが普通ですので,前半に登場というのは異例のことかもしれません(小川さん自身,この曲を前半に演奏するのは初めてと語っていました。私も最初こちらが後半かなと思っていました)。

演奏はピアノの王道を行くような堂々とした演奏でした。磨かれた音で弾かれているのに,神経質になるところはなく,自信に溢れていました。この曲は,短目の曲が集まった組曲なのですが,全曲が大きな塊となって一気に迫ってくるような大曲にふさわしいスケール感がありました。

冒頭のプロムナードは,何事もないようにさりげなく,しかし,しっかりと始まりました。前半はどの曲も比較的落ち着いた気分を感じさせてくれましたが,「ひよこのバレエ」など速い音の動きのある曲ではキレの良さときらびやかさもありました。その他の曲も荒々しいわけではないのに,線の太い逞しさがあり,後半に行くほど力強さを増していきました。特に最後の「キエフの大門」ではピアノが大変良く鳴っていました。クライマックスになっても,常に響きに余裕がある点が素晴らしいところです。全体的に健康的で自然な伸びやかさがあるのが,小川さんの音楽のいちばんの魅力だと思います。

邦楽ホールは間接音が少なく,楽器の音がダイレクトに音が聞えて来るところがありますので,少々聞いていて疲れるようなところはありましたが,あいまいさのないピアノの音の迫力を十分に楽しむことができました。

その後,前半にも関わらずアンコールが1曲演奏されました。この日は「前半はソロ,後半は室内楽」とはっきり分かれていましたので,前半でソロ曲のアンコールが演奏されて当然という感じでした。それほど,「展覧会の絵」には圧倒的な迫力がありました。

演奏されたのは,ドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」でした。「展覧会の絵」の時とは全く違う,暖かく柔らかい音色で弾かれていたのが印象的でした。

小川さんは,いつも曲の前後に,ご自身によるトークを加えながら演奏会を進めて行っているようです。演奏者と聴衆との間に良いコミュニケーションを作ろうとされているのだと思います。この日のトークにも率直で明るい雰囲気があり,よいムードを作っていたと思いました。

後半はブラームスの室内楽となりました。こちらでは,小川さんはアンサンブルの一員となり,しっかりとした響きで全体を支えていました。

この曲は,ブラームスの比較的若い時の作品ということで,第3楽章などからは,若々しい情熱が感じられたのですが,この日の演奏は,アンサンブル全体に落ち着きがありました。速いパッセージでも走り過ぎず,上滑りすることがないのが良いと思いました。がっちりとしたまとまりの良さを感じました。

小川さんは前半よりは抑え気味に演奏していましたが,それでも十分にしっかりとした手応えの感じられる音でした。このピアノが全体の核になっていたと思いますが,それに,第1ヴァイオリンの松井さんの繊細な音色,チェロのカンタさんの甘い音などがバランス良く加わっていました。

ただ,全体的に弦楽器の方は,少々テンションが低いような気もしました。楽章の中間の展開部では,盛り上がるよりは,沈み込むようなところがあると思いました。それと,これは,邦楽ホールの響きのせいなのですが,弦楽器の音に酔えないようなところがありました。このホールの場合,通常は気にならないような弦楽器の微妙な音程のズレが強調されてしまうようなところがあると思いました。

例えば,第3楽章の最初はチェロのピツィカートの連続で始まるのですが,残響が少ないので,チューニングの延長のようなそっけない響きに聞こえてしまいました。弦楽奏者には辛いホールと言えそうです。昨年聞いたメシアンなどの現代音楽の時はそうでもなかったのですが,ロマン派の渋さと甘さのある音楽を聞くには,もう少し柔らかさが欲しいと思いました。

今回は邦楽ホールの方は超満員でしたので,室内楽の方はできればコンサート・ホールの方で聞きたかったな,という気がしました。小川さんのピアノ独奏の方もコンサート・ホールの広い空間だとどう響くのかを味わってみたい気がしました。 (2004/03/04)



Review by takaさん

私も行ってきました。
満員で補助席まで出ていましたね。
ピアノの音は邦楽ホールの方が良く聴こえる様な気がしました。
あの「展覧会の絵」は圧巻でした。
本人いわく、「ドロ臭い演奏」との事でしたが、メリハリの利いた音、重量感があって、しかも色彩の鮮やかな演奏には驚きました。
オリジナルのピアノ演奏を生で聴くのは初めての経験でしたが、フルオーケストラをも凌ぐ「展覧会の絵」だったと思います。
聴きに行って良かったと思える演奏でした。(2004/03/04)