オーケストラ・アンサンブル金沢第157回定期公演M
2004/03/12 石川県立音楽堂コンサートホール
1)細川俊夫/庭の歌I
2)メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲ホ短調op.64
3)武満徹/トゥリー・ライン
4)ベートーヴェン/交響曲第2番ニ長調op.36
5)(アンコール)ブラームス(編曲者不明)/ワルツop.39-15
●演奏
岩城宏之指揮オーケストラ・アンサンンブル金沢(コンサート・ミストレス:アビゲイル・ヤング)
リディア・バイチ(ヴァイオリン*2)
森口真司(プレトーク)
Review by管理人hs  takaさんの感想七尾の住人さんの感想

金沢でも少しずつ気温が暖かくなり,春のような柔らかい空気になってきました。今回のオーケストラ・アンサンブル(OEK)の定期公演もそういう雰囲気の演奏会でした。現代日本の作品+若手奏者との協奏曲+ベートーヴェンという組み合わせは岩城音楽監督の組むプログラムの定番ですが,どの曲にも早春の空気を感じさせてくれるような,ほのかな暖かさがありました。この日の公演は,OEKが4月から5月にかけて行うヨーロッパ公演と同じ内容の「記念演奏会」でしたが,OEKファンにとっては,公演への期待が大きくなる演奏会となりました。

まず,最初に演奏されたのは,細川俊夫さんの「庭の歌」でした。この曲は岩城指揮OEKが1995年に初演した曲で,CD録音もされています。私自身,初演の演奏会も聞いているのですが,あまり印象に残っていません。CDを聞いた感じでも,かなり地味な曲なのですが,今回の演奏は素晴らしかったと思いました。予想以上に耳になじみ曲で,音楽堂の響きにもよくマッチしていました。

メロディがほとんどなく,各楽器の音が「スー」「キー」という感じで延びているだけの部分が多いのですが,不思議と退屈しませんでした。一種,ヒーリング・ミュージックのようなところもありました。途中,ちょっとした嵐のような雰囲気になり,打楽器やピアノが入ったりするのですが,最後はまた静かな雰囲気に戻ります。楽器が鳴ることによって,かえって静けさが際立つような曲でした。生で聞くと管・弦楽器の特殊奏法や打楽器の多彩な響きがより生々しく感じられ,それがとても印象的でした。

弦楽器奏者のうちの10人ほどが1階席の各所に散らばっていたのも独特でした。私は2階で聞いていたのでその効果はよくわかりませんでしたが,きっと1階真中で聞いていたお客さんはサラウンド効果を体感できたのではないかと思います。全体的なまとまりも良く,どことなく東洋的な瞑想の世界も感じさせてくれる曲でしたので,ヨーロッパ公演でも注目されるのではないかと思います。

次に,若いヴァイオリン奏者リディア・バイチさんのソロによるメンデルスゾーンが演奏されました。この曲はソリストの出番が非常に多い上,大変ポピュラーな名曲ですので,奏者にとってはかなり怖い曲です。バイチさんは,まだ若い奏者で,一見,フィギュア・スケートを思わせるような小柄だけれども華やかな雰囲気がありました。ステージ・マナーにもキリっとした存在感があり,なかなか魅力的でした。

演奏の方は,どの部分もしっかりと弾かれていたのですが,少々音の通りが悪い気がしました。どこか窮屈で伸びやかな感じがあまりしませんでした。1楽章後半のカデンツァの部分はたっぷりと聞かせてくれましたが,楽章の最初の方などでは,もっと速く走りたそうな感じがあり,もう少し音に酔わせて欲しいかなとも思いました。

第2楽章になるとヴィブラートのよくかかった音でじっくりと聞かせてくれました。ここでも甘さは感じなかったのですが,その分,とても密度の濃い演奏でした。第3楽章もしっかりと演奏されていました。岩城指揮OEKの伴奏も重たくはないけれども,じっくりとしたもので,所々出てくる対旋律の歌わせ方も魅力的でした。

後半の最初は,武満さんのトゥリー・ラインでした。響きとしては,1曲目の細川さんの曲と似たところがありましたが,楽器編成がさらに絞り込まれ,ほとんどの楽器は1名編成でしたので,室内楽に使い部分もありました。それでも,チェレスタ,ピアノ(木村かをりさんが両方とも担当していました。),ハープ(こちらは木村茉莉さん)や太鼓以外の打楽器類が入る辺りは武満さんらしいと思いました。その他,トロンボーンやコントラ・ファゴットも入っていましたので(そういえば1曲目にもコントラファゴットが入っていました),少ない編成の割には充実した低音が聴かれました。

同じような音型がいろいろな楽器で受け渡されていくうちに,ほのかにメロディらしきものが出てくるような曲で,後期の武満さんらしさもありました。特に印象的だったのが,最後の部分に出てきたオーボエのソロでした。曲の途中でオーボエの水谷さんが席を立ち,上手の扉から外に出て行きました。扉が開いたままだったので,「何かあるな」と思っていたら,やはり最後の方でカデンツァ風の大変印象的なソロが出てきました。ベルリオーズの幻想交響曲を思わせるような遠くから聞えて来る効果が出ていました。ただし,遠くからかすかに聞えるという感じではなく,遠くで無理やり強く吹いている感じでした。これが独特の不気味さを出していました。音程を微妙に揺らしたりして,東儀秀樹さんの演奏する篳篥(ひちりき)を思わせるような和風の味も感じました。曲全体として詩的なドラマを感じさせてくれる曲であり演奏でした。

プロゴラム最後のベートーヴェンは,いつもの岩城指揮OEKのベートーヴェンでオーケストラの音が明るくのびのびと響いていました。速いテンポなのに落ち着いた感じがある演奏で,曲全体に安心感がありました。冒頭から力みのない素直な音が出ていて,室内オーケストラとと思えないほどの余裕のある音でした。序奏部ではオーボエの伸びやかさが印象的でした。主部に入ってからも立ち止まることのない勢いの良さがありました。この勢いは曲全体を貫いており,大変引き締まった演奏になっていました。第1楽章の展開部などでは各声部が大変明確に演奏されており,立体的な力強さがありました。コーダのトランペットも高らかに鳴っており爽快さを盛り上げていました。

第2楽章も速目のテンポでしたが,それほど急いだ感じはせず,気持ちの良い脱力感がありました。これ見よがしのことは何もしていないのですが,明るさの中のほのかな悲しみも感じられました。ホルンの淡い響きものどかさを出していました。第3楽章はスケルツォといってもそれほど激しいものではなく,素朴な舞曲のような楽しさがありました。

フィナーレは,「キリッ」という感じの引き締まった音で始まりました。全てを締めつけるのではなく,時々,「キリッ」と緊張感が走るような感じでした。約1年前ピヒラーさんの指揮でもこの曲を聞いたのですが,その演奏とは対照的なところがありました。すべてにピヒラーさんの息がかかったような演奏もすごかったのですが,岩城さんの時々引き締めるような演奏の方が,曲の勢いの良さが自然に出ていたのではないかと思いました。

この曲はベートーヴェンの曲の中でも特に早春の気分がある曲ですが,この日の演奏はその気分にぴったりの暖かさと優しさを感じさせてくれる演奏でした。

アンコールでは,ブラームスの有名なワルツの管弦楽編曲版が演奏されました。このアレンジはどこかで聞いたことがあるな,と思って調べてみると丁度1年前のブラームス特集で演奏されたものでした。木管楽器の装飾的な音が印象的な可愛らしい感じのアレンジでしたが,このところ,岩城さんはこういう素朴な小品をアンコールで取り上げることが多いようです。孫を慈しむようなとても優しい感じの演奏でした。

この日の演奏会はヨーロッパ公演記念演奏会ということでしたが,ヨーロッパ公演でも爽やかな演奏を聞かせてくれることと思います。

PS.この日は,プレトークにOEK専属指揮者の森口真司さんが登場していました。ほとんど最後の部分しか聞けなかったのですが,とても分かりやすい語り口で話されていたようでした。是非,全部聞いてみたかったものです。(2004/03/13)



Review by takaさん

私も行って来ました。

庭の歌Tでは遠くのステージからの音と、近くの奏者の音の混じりあいが不思議な立体感を醸し出し、面白い感覚を覚えました。CDでは味わえないであろう醍醐味でした。

リディア・バイチさんの音は独特なものがあった様に感じました。身体を反らせて胸を大きく張り、アップボーで最後の音を弾き切る印象的な姿は実に特徴的でした。速いテンポの第三楽章は少し音も走りがちでしたね。

武満さんの曲の全体としての印象は、庭の歌Tよりも明るい音で、想起する色が全く違うと云う事でした。並木道の木漏れ日の中、まだらな陽の暖かさや、そよと吹く風の感触を味わうような音楽だったように感じました。

ベートーヴェンの二番はプレトークで話題になっていたスフォルツアンドの多用がベートーベンらしさを更に掻き立てる演奏になっていたと思います。爽やかでのびのびとした第二楽章は「田園」を彷彿とさせる曲想で、五月の爽やかな風のようなゆったりとした音の流れはあくまで明るく感じました。

余りにも盛りだくさんのプグラムにこちらの集中力が萎えてしまったのかもしれませんが、最後はスフォルツアンドの多用に少し疲れを感じました。 (2004/03/14)



Review by 七尾の住人さん

岩城さんが振ると必ず現代曲が入るので、とても嬉しいです。演奏する方は、こういうプログラムだと結構大変な思いをすると思いますが、どんどん現代曲をして欲しいものです。

さて、管理人さんも感想で書かれているように1曲目の細川俊夫さんの「庭の歌T」には1階の客席に弦の一部が散らばって配置されていました。2階席でもその効果を少し味わうことができましたが、1階席の方が圧倒的に面白かったような気がします。曲は、とても味わい深くて、またコンサートで(今度は1階席で)聴いてみたいです。

2曲目のメンデルスゾーン、リディア・バイチさんのヴァイオリンの音色は独特なもので、優しい音色なんですが芯がしっかりしているように感じました。ただ、何人もの人が書かれていますが、冒頭や第3楽章で少し走る所があり、金沢以外で行われた他の公演でも同じような感想を持っている人がいますから、もしかしたらそういう狙いだったのかもしれません。

休憩後のベートーヴェンは、2番目の交響曲とはいえ、いかにもベートーヴェンらしく大変聴き応えがあるものでした。ふと田園を思わせるようなところもあり、サブタイトルが付けられている交響曲だけで終わらないベートーヴェンの凄さを感じさせてくれました。(2004/03/16)