ウェルカム・スプリング・コンサート
ピヒラーのはいどん:ロンドン時代の交響曲
2004/03/29 石川県立音楽堂コンサートホール
1)ハイドン/交響曲第101番ニ長調Hob.I-101「時計」
2)ハイドン/協奏交響曲変ロ長調Hob.I-105
3)ハイドン/交響曲第100番ト長調Hob.I-100「軍隊」
4)(アンコール)シューベルト(編曲者不明)/軍隊行進曲
●演奏
ギュンター・ピヒラー指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:松井直),松井直(ヴァイオリン*2),大澤明(チェロ*2),水谷元(オーボエ*2),柳浦慎史(ファゴット*2),響敏也(司会)
Review by 管理人hs

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の「定期会員ご招待」のウェルカム・スプリング・コンサートは,毎年4月に行なわれているのですが,今年は4月末にヨーロッパ公演を控えているせいか,例年より早く3月末にこのコンサートが行なわれました。今回は昨年からOEKと石川県立音楽堂が積極的に取り上げているハイドンの作品集でした。演奏会のタイトルは「ピヒラーのはいどん」というもので,2月末のパリ交響曲集に対応するかのようにロンドン交響曲の中の2曲と協奏交響曲が演奏されました。

この日の演奏会は,先に書いたように定期会員ご招待の演奏会で,「年度末お客様感謝デー」という位置づけになるのですが,数年前までの小品集ではなく,交響曲を並べていた点が例年と違う点です。”交響曲集”だと通常の定期公演と気分的に差がないので,個人的にはOEKの奏者がソリストとして登場するような演奏会の方が面白いという気はしていたのですが,今年の場合,スケジュール的に厳しい点があったのかもしれません。今年の3月末から4月上旬に掛けては,3月25日,29日,30日,3日とOEKのコンサートが集中していますので(OEKが主役でないコンサートも含んでいますが,10日間ほどの間に違うプログラムのこれだけ沢山演奏するというのはかなり大変だと思います。),「いつでも演奏できる」お得意の曲を並べたのかもしれません。

そのせいか,今回の演奏は,よくまとまってはいたものの,ピヒラーさん指揮OEKのハイドンにしては,少々生ぬるいところがあるような気がしました。以前,聞いた同様のプログラムでは,もっと強い緊迫感のようなものを感じました(私自身,週のはじめの月曜日ということで,何となく疲れていたせいもあると思います。)。

それでもOEKの団員がソリストとして登場した協奏交響曲など「ファン感謝デー」ならではの和やかな雰囲気がありました。今回演奏された曲中の交響曲2曲は,ピヒラー指揮OEKでレコーディングも行なっており,実演でもよく演奏している曲です。テンポの動きや間の取り方などもよく決まっていました。

最初の演奏されたのは,「時計」交響曲でした。第1楽章は,意味深な序奏から流れの良い主部へとスムーズに流れて行きましたが,展開部の緊迫感はCD録音されているものの方が上のような気がしました。第2楽章は,弾むようなリズムで始まり,生き生きとした進行を見せます。とても大きな休符をはさみ,最後の方は堂々とした雰囲気になります。

第3楽章は,速いテンポで荒々しさを感じさせるものでした。ハっとさせる間の後,トリオがさらに速いテンポになるのはピヒラーさんの解釈かもしれません。フルートの軽々と動きまわる自在さが印象的でした。第4楽章は,冒頭部の詩的でデリケートな味わいと後に続くドラマティックな展開との対比が見事でした。トランペットを強調し,祝祭的な雰囲気のあるクライマックスになっていました。

続く協奏交響曲は,ゆったりとした感じで始まりました。どこか「春眠暁を覚えず」という感じで,ちょっと眠気が残ったような立ち上がりでした。音が外に出るのではなく,内にこもった感じがしました。全体にアットホームな気分はあったのですが,少々大人しい感じの演奏でた。

ソリストの方は,おなじみのOEK団員ということで,個々人が突出し過ぎることはなく,室内楽的なバランスの良さがありました。その中では松井さんのヴァイオリンが印象的でした。松井さんのソロは意外に聞く機会が少ないのですが,とても端正で美しいものでした。

第3楽章になると元気が出てきました。ここでも,レチタティーヴォ風の音型を聴かせる松井さんのヴァイオリンが聴き所でした。また,ヴァイオリン同様,高音域を大澤さんのチェロの独奏も印象的でした。

後半に演奏された「軍隊」交響曲は,メイン・プログラムに相応しく「鳴り物入り」の華やかさのある曲でしたが,それほど,ハメを外したような感じはありませんでした。第1楽章は,遅いテンポではないのに,落ち着いた足取りを感じさせるものでした。呈示部の繰り返しを行っていましたが,その繰り返しの後の展開部に入る前の間の取り方が印象的でした。

第2楽章の前半は,力みのない鳴り物の音が快適に響いていました。後半のトランペットのファンファーレの部分は,一瞬にして切迫した感じに変わります。その後もドラマティックな表情を見せますが,前回聞いた演奏の時の方がさらに緊張感があったような気がしました。

第3楽章では,「時計」同様,トリオの自在さが聴き所でした。第4楽章は,第2楽章同様,鳴り物が楽しく響き,明るいクライマックスを築いていました。ただし,この楽章についても,もっとはしゃいだ感じがあっても良いかなと思いました。

この日の3曲は,どの曲も最終楽章に頂点がありました。逆に言うと前半の楽章にちょっと物足りなさが残りました。先週の定期公演の時のベートーヴェンの交響曲第8番のような鮮烈さに比べると,全体に鋭さが不足するような気がしました。

アンコールでは「軍隊つながり」で,シューベルトの軍隊行進曲が演奏されました。オーボエをはじめとした木管楽器の自在な演奏が印象的でしたが,せっかくのハイドン特集でしたので,ハイドンでまとめてもらっても良かったかもしれません。

それにしても,この日は暖かい日でした。うっかりセーターなどを着て行ったこともあり,3階席にいるとすっかりのぼせてしまいました。聴いているうちに,頭がボーッとなってしまったのですが,休みあけの月曜日の演奏会というのは要注意かもしれません。 (2004/03/31)