第3回北陸新人登竜門コンサート:管・打楽器,声楽部門
2004/04/04 石川県立音楽堂コンサートホール
1)大能正紀/マリンバ協奏曲〜第1楽章
2)黛敏郎/シロフォン小協奏曲〜第2,3楽章
3)イベール/室内小協奏曲
4)ヴェルディ/歌劇「リゴレット」〜慕わしい人の御名は
5)ドヴォルザーク/歌劇「ルサルカ」〜月に寄せる歌
6)ヴォーン・ウィリアムズ/チューバ協奏曲ヘ短調
7)コープランド/クラリネット協奏曲
●演奏
表希(マリンバ*1),山崎智里(マリンバ*2),山本晃世(アルト・サクソフォン*3),河内麻美(ソプラノ*4),木村綾子(ソプラノ*5),長谷川正規(チューバ*6),西田宏美(クラリネット*7)
岩城宏之指揮オーケストラ・アンサンブル金沢,石田一志(解説)
Review by管理人hs

毎年4月恒例の北陸新人登竜門コンサートに出かけてきました。今年は,管・打楽器,声楽部門で,これまででいちばん多い7人の新人奏者がオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)と共演しました。弦楽器,ピアノ部門の場合,大曲3曲というパターンが多いのですが,今回の部門の場合,いろいろな部門の「寄せ集め」という感じになり,そのことがかえって華やかな気分を盛り上げていました。

どの方の演奏もよくまとまったものだったのですが,今回特に印象に残ったのは,20世紀の協奏曲が多かったことです。チューバ協奏曲,マリンバ協奏曲,サクソフォーン協奏曲...といった珍しい曲を楽しむことができました。今回オーディションに合格した管・打楽器奏者の皆さんの楽器が比較的新しい時代の楽器で,その結果として20世紀の曲が中心となったともいえます。考えてみると,オーボエ,フルート,ホルンといった歴史の古い楽器については,まだこのコンサートで合格者が出ていません。歴史のある楽器は,楽器の機能的には,新興のサックスなどに比べると演奏するのが難しいともいえそうです。

最初に登場したマリンバの表希さんは,大能正紀さんの作曲したマリンバ協奏曲の第1楽章を演奏しました。大能さんは,地元金沢で活躍されている音楽家で,金沢交響楽団の指揮者をされています。こういう形で,地元の作曲家の作品が演奏されるのは,地元の演奏者を応援している音楽ファンとしてはとても嬉しいことです。曲の方は,伝統的なスタイルで書かれており,ところどころ日本的な情緒を感じさせてくれました。

表さんのマリンバは,広い音域を上がったり下がったりしていましたが,どの音も,とてもまろやかで気持ちよく楽しむことができました。楽章の後半にはカデンツァが入りましたが,ここではマレットを両手に2本ずつ持って,しっとりと演奏していました。この楽章を聞く限りでは,少々地味な印象だったので,続く楽章はどういう展開になるのか聞いてみたいものだと思いました。

演奏後は,客席にいらっしゃった大能さんも紹介されました。表さんは小柄な方で,ピンクのドレスの中でとても若く見えました。岩城さんのコメントによると,今回の受賞者は度胸のある人が多い,ということでしたが,表さんもあまり緊張している様子もなく,とても伸び伸びと明るい雰囲気で演奏されていました。

続く山崎智里さんもマリンバの演奏でした。表さんの演奏した曲は第1楽章のみ,山崎さんの演奏した曲は第2,第3楽章のみ,ということで,併せて1曲という感じでした。ここで演奏された黛敏郎さんのシロフォン小協奏曲は,解説の石田さんの話によると,この楽器をソロ楽器として扱った先駆的な作品とのことでした。とても分かりやすい音楽でした。

最初の第2楽章は,どこかリンゴ追分か何かを思い出させるような,日本民謡的な情緒がありました。そういう意味で,最初の大能さんの曲との相性がとても良いと思いました。続く第3楽章では一転して,ショスタコーヴィチの急速な楽章に出てくるようなハメをはずしたような疾走感が出てきました。カバレフスキーのギャロップなどとも似た雰囲気がありました。

山崎さんは,ラメ入りの服+パンツルックで演奏していましたが,何となくバトントワリングとかをやっていそうな快活な雰囲気の感じの方でした。この楽章の明るいムードにはぴったりでした。指揮の岩城さん自身,マリンバで演奏したことのある曲とのことですが,恐らく目を細めて喜んでいたのではないかと思います。OEKの定期公演などで一度全曲を聞いてみたい曲だと思いました。

なお,この曲には,数年前の登竜門コンサートに出演されたサクソフォンの筒井さんもエキストラで加わっていました。この登竜門コンサートが縁となって,OEKと地元演奏家とのつながりも強くなているんだなと思いました。

続くイベールのサクソフォーン小協奏曲には山本晃世さんが登場しました。この曲は11人の奏者のための協奏曲ということで,OEKの管楽器奏者は各一人ずつになっていました。大変よくまとまった曲で,山本さんの演奏の方もとてもよくまとまっていました。山本さんの演奏は,外観同様とてもスマートで,芯のある音でしっかりと聞かせてくれました。ただ,少々ソツがなさ過ぎるかな,という気もしました。ケレン味とか遊びの雰囲気があるともっとインパクトの強い演奏になるような気がしました。

ここで一度休憩が入った後,声楽の2人が登場しました。最初の河内麻美さんは,可愛らしい歌声でしたが,どこかオペラ的な華やかなムードが足りないような気がしました。よくまとまってはいたのですが,息がちょっと浅い感じでスケールが小さい気がしました。河内さんはプログラムによると富山のFM局のパーソナリティを務められているそうです。これからはトーク入りのクラシック音楽の演奏会などで活躍する機会が増えるのではないかなと思いました。そういった親しみやすく明るい雰囲気を持った方でした。

続く木村綾子さんの歌は,大変印象深いものでした。この曲自体,心に染みるような美しい曲だったのですが,木村さんの声は,リンとした高級感があり切実な雰囲気が伝わってきました。長身のスラリとした姿からもスケールの大きさを感じました。水谷さんのイングリッシュホルンのオブリガードもとても美しいもので,歌にぴったりでした。

続いて,チューバの長谷川正規さんが登場しました。楽器の大きさに比例するように大変立派な体格の方でした。見た感じも素朴な良い人そう(?)で,チューバにぴったり,という感じの方でした。演奏も大変立派なものでした。チューバからこれだけ滑らかで柔らかな音が出るとは思いませんでした。第2楽章のロマンスも素晴らしかったのですが,野性味を感じさせてくれる第3楽章はチューバならではだと思いました。チューバ奏者というのは世界的に少ないと思いますので,今後は北陸だけでなはく,全国的,世界的に活躍していく奏者になっていくのではないかと思いました。

ただし...チューバというのは,大きな楽器を抱きかかえるとほとんど顔が見えなくなってしまいます。そういう点ではやはりソロ向きの楽器ではないのかな,と思いました。

演奏会の最後には,クラリネットの西田宏美さんが登場しました。演奏されたコープランドの協奏曲は大変魅力的な曲です。OEKの過去の演奏では,かつてクラリネット奏者として所属していたロバート・シューベルトさんがソリストとして登場した演奏を聞いた時に(10年ぐらい前?),とても良い曲だな,と思った記憶があります。それ以来,生でもう一度聞いてみたい,とずっと思っていた曲です。

今回の西田さんの演奏も素晴らしいものでした。前半は,ゆったりとしたテンポで叙情的な雰囲気を作っていきます。西田さんの音は,細身のすっきりとした音で,OEKの作る透明感のある響きとぴったりマッチしていました。甲高い音の美しさが魅力的でした。聞き応えたっぷりの長いカデンツァの後,ジャズ的な雰囲気のある快活な部分に入っていきます。この部分も大変鮮やかでしたが,この辺になると,もっとくだけた味があっても良いのかな,と思いました。この曲はベニー・グッドマンのために作られた曲,ということですが,一体どういう演奏をしていたのか,聞いてみたい気もしました。

今回登場した7人の方の演奏は,どの方も新鮮な雰囲気がありました。ちょっと硬い表情の方もあれば,全然プレッシャーを感じていないような方もありましたが,いずれも実力を十分発揮していたと思います。今回の演奏会はこれからの演奏活動を広げていくための大切な第1歩となったのではないかと思いました。(2004/01/31)