オーケストラ・アンサンブル金沢第160回定期公演PH
2004/05/24 石川県立音楽堂コンサートホール
1)ミヨー/打楽器と小管弦楽のための協奏曲op.109
2)フォーレ/劇音楽「ペレアスとメリザンド」組曲op.80
3)プーランク(フランセ編曲)/音楽物語「子像ババールのお話」
4)ジョリヴェ/打楽器と管弦楽のための協奏曲
5)サティ(フォレスティエ編曲)/バレエ音楽「パラード」
6)(アンコール)サティ(編曲者不明)/ジュ・トゥ・ヴ
●演奏
ジャン=ルイ・フォレスティエ指揮オーケストラ・アンサンンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス)
トーマス・オケーリー(打楽器*1,4),黛まどか(語り*3)
ジャン=ルイ・フォレスティエ(プレトーク)
Review by 管理人hsさん

この日の演奏会は,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の金沢での久しぶりの演奏会となりました。久しぶりといっても1ヶ月とちょっとぶりだったのですが,熱烈なOEKファンにとっては,いくらか懐かしい気分もあったのではないでしょうか。ただし,プログラムの方はこれまでのOEKの定期公演になかったような新鮮なプログラムでした。打楽器協奏曲2曲+ナレーション入りの「ぞうのババール」+フォーレ+サティという20世紀フランス音楽ばかりを集めた盛り沢山で斬新なプログラムでした。

フランス音楽といえば「ドビュッシー&ラヴェル」ですが,それを敢えて外した点が今回のプログラムの狙いです。この日の演奏会は例によってライブ収録されていましたが,CDの基本レパートリーの間隙を埋めるような選曲だったともいえます。今回の指揮者は,お馴染みのジャン=ルイ・フォレスティエさんでしたが,この方の「いかにもフランス人」という名前は,CDのセールスにもプラスに働くような気がします。

この日は打楽器が大活躍する曲が多く,ステージ設営も大変そうでした。最初のミヨーの曲の時はステージ前方に打楽器が集められていました。打楽器独奏は,これまたお馴染みのトーマス・オケーリーさんでした。この曲は三部形式の中に,いろいろな打楽器の演奏が盛り込まれている曲ですが,後半のジョリヴェの曲が非常に強烈だったこともあり,少々印象が薄れてしまいました。この曲は来週のファンタジーシリーズでも同じ組み合わせで再度演奏されるますので,そのときにもう一度じっくり聞いてみたいと思います。

次のフォーレの「ペレアスとメリザンド」は,この日のプログラム中もっとも静かで落ち着いた雰囲気のある曲でした。第1曲は,軽いけれどもしっとりとした弦楽器の音で始まりました。OEKの弦は,この曲の持つはかなげなムードにぴったりでした。後半に出てくるホルンの音も,さりげなく場の空気を変えていました。第2曲は水谷さんの鮮やかなオーボエが活躍しました。くっきりとしたメロディラインが伴奏と良い対比を作っていました。第3曲は有名なシシリエンヌです。フォレスティエさんは,速目のテンポでさらりと流していました。岡本さんのフルートは,控えめな爽やかさの漂うものでした。第4曲もフルートが音が印象的でした。スーっと吹き込む息の音が聞こえるようなちょっと不思議な味を持った弱音が印象的でした。

ただ,この日のプログラムに,この組曲が「5曲から成っている」と書いてあったのは紛らわしいものでした。CDなどで5曲演奏されることもありますが,この日は4曲しか演奏されませんでしたので,お客さんの中には拍手のタイミングが分からなかった方もかなり見られたようです。

次に演奏された「子象ババールのお話」は,「ピーターとおおかみ」と並んで有名な子供向けの音楽物語です。日本では原作の絵本やアニメーションがよく知られていますが,生演奏で聞く機会は意外に少ない曲だと思います。

今回のナレーションは,俳人の黛まどかさんが担当しました。このナレーションが見事でした。黛さんはナレーションのプロではないと思うのですが,パーフェクトと言ってもよいほど丁寧で傷のない語り口でした。暖かく落ち着いた声質はNHKのアナウンサー顔負けでした(私など,台本のいちばん最初に出てくる「ジョン・ド・ブリュノフ作」と発音するだけで,舌を噛んでしまいそうです)。少々優等生的なところはありましたが,大変誠実な語り口で,安心して聞くことができました。OEKの演奏の方もじっくりとした雰囲気で始まりました。絵本のムードに相応しく全曲に渡り暖かなムードが漂っていました。

この曲では,管・打楽器群も大活躍していました。特に印象に残ったのは,ゾウの体形とシンクロするかのように豪快な音を聞かせてくれたエキストラのチューバの方(藤田英大さんという方でした)の演奏でした。その他の管楽器もほとんどが持ち替えをしていました。体操のシーンでは,ファゴット類によるユーモアが生きていました。その他,クラクションやピストルなど通常使われない楽器も沢山入っていましたが,ストーリー展開の中で聞いていたので,違和感は感じませんでした(最後の「パラード」の場合と対照的)。「ババールの戴冠式!」と言ったとたん,スカっと鳴ったシンバルは「お見事!」という感じでした。この日のコンサートマスターのブレンディスさんのソロも,相変わらず軽やかでキレの良いものでした。

お話の後半は,お祝いのシーンになります。音色の多彩さは出ていましたが,この辺はもう少しウキウキさせてくれても良いかなと思いました。ちょっと抑え気味のような気はしましたが,管楽器を中心とした原色的な響きと小粋な響きとがバランス良く共存しており,まとまりのある響きを作っていました。

曲の最後の部分は,黛さんが「おしまい」と言って終わるのですが,この部分は,オーケストラと合わせるのが大変難しい箇所だと思いました。黛さんの語りはオーケストラの最後の音とピタリと重なっており見事でした。きっと何度もリハーサルを繰り返されたのだと思います。

後半は,またまたステージ上の配置が変わり,下手からマリンバ,ティンパニ,シロフォン,ドラム(その他にも打楽器はありましたが)の順で並べられていました。「これだけ楽器が広がってるところを見ると打楽器奏者が4人登場するのかな?」と思って見ていたのですが,奏者は前半同様オケーリーさんただ一人でした。

この曲はパリ音楽院での打楽器の選抜試験用に書かれたとのことです。4楽章からなっているのですが,各楽章ごとに活躍する楽器が違っており,打楽器奏者は楽章ごとに演奏位置を変えることになります。打楽器の総合的能力を見るには最適の曲と言えますが,奏者の方からするととても大変な曲なのではないかと思います。「打楽器トライアスロン」という感じの曲だと思います(トライアスロンは3種目なのでさらに大変です)。

曲の構成は,かなり古典的なものでした。第1楽章は重々しく,第2楽章は叙情的,第3楽章はスケルツォ風,第4楽章は活気に溢れたものでした。両端楽章はタイコ類が中心,中間楽章はヴィブラフォンとシロフォンが中心に使われていました。

この曲にはサクソフォンとピアノが入っていたのも印象的で,オーケストラはどこかジャズバンド風の響きを出していました(サクソフォンはおなじみの筒井裕朗さんが担当していました)。特に印象的だったのは豪快なドラムの音が響き渡った第4楽章でした。どこか,バルトークの「中国の不思議な役人」をジャズ風にしたようなところがあり,大変スリリングな音楽になっていました。

プログラム最後は,サティのパラードでした。この曲も打楽器が大活躍する曲でしたが,基本的にバレエ音楽であるせいか,かなり散漫な印象を持ちました。突如,サイレンの音が鳴り出したり(これも打楽器?),タイプライターの音が聞えたり,チェーンのようなものを鳴らしたり,ビンをいくつも並べたものを木琴のように叩いたり...と突拍子もない音が次々と出てくるのですが,やはり,ストーリーや映像がないと何を意図していくのかついて行くのが難しいと感じました。抽象的な音楽だと勝手にイメージを膨らませることができるのですが,この曲のように具体的な音楽だと,逆に考え込んでしまうようなところがありました。この曲は,バレエ音楽として楽しんだ方良い曲なのかもしれません。演奏会の全体の構成を見てもいちばんの大曲の「ババール」を最後に持ってきてくれた方が良かったように思いました。オーケストラの響きは,冒頭のコラール風の音からよくまとまっていたので,純粋にサティの音楽だけを聞いてみたかったなという気がしました。

と,思っていたら,アンコールでサティの曲を演奏してくれました。もともとは歌曲(というかシャンソン?)として知られている「ジュ・トゥ・ヴ」をオーケストラ用に編曲したものが演奏されました。この編曲はとても楽しめました。まず,意表を突いて,ファゴットによる主旋律の演奏で曲は始まりました。続いて,これもいつもは地味な存在であるヴィオラがメロディを受継ぎました。考えてみると,どちらも人間の声に近い楽器ということで,親しみのわくアレンジでした。その他にもおしゃべりをするかのようにオブリガートがいろいろと付けられており,聞いていて思わず微笑みが出てくるような楽しめる演奏となっていました。

この演奏会は,このように大変盛り沢山の演奏会でした。打楽器や管楽器がこれだけ沢山出てくる演奏会も珍しいと思います。少々まとまりに欠けるようなところはありましたが,新たなレパートリーに挑戦しよう,という意図を感じることができました。ライブCDにどの曲が含まれるかはわかりませんが,通常のレパートリーだけでは物足りない音楽愛好家には歓迎される内容になることと思います。(2004/05/26)