オーケストラ・アンサンブル金沢第164回定期公演PH
2004/07/05 石川県立音楽堂コンサートホール
1)モーツァルト/交響曲第29番イ長調K.201
2)モーツァルト/レクイエムニ短調K.626
3)(アンコール)モーツァルト/アヴェ・ヴェルム・コルプスK.618
4)(アンコール)山田耕筰/赤とんぼ
●演奏
ニコラス・クレーマー指揮オーケストラ・アンサンンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)(1-3)
ジュリエット・フレーザー(ソプラノ*2),アビ・スメサム(アルト*2),アンドリュー・ステイプルス(テノール*2),ジェイムス・マスタード(バス*2)
ケンブリッジ・クレア・カレッジ合唱団(合唱指揮:ティモシー・ブラウン)(2-4)
ティモシー・ブラウン(プレトーク)

Review by 管理人hs  takaさんの感想OEKfanのfanさんの感想

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の7月の定期公演には,おなじみのニコラス・クレーマーさんが登場しました。前回の定期公演のオリヴァー・ナッセンさんに続き,イギリスの指揮者の登場ということになります。プログラムは対照的で,今回はモーツァルトのレクイエムを中心としたプログラムでした。

クレーマーさんは,OEKの定期公演には4回目の客演になりますが,合唱曲の指揮をするのは今回が初めてです(定期公演以外では,バッハのカンタータの指揮をしたことがありますが)。合唱団は,OEK合唱団ではなく,これもまたイギリスからの客演であるケンブリッジ・クレア・カレッジ合唱団でした。この合唱団は,CD録音もすでにある宗教曲を専門とする合唱団ですが,全員ケンブリッジ大学の現役学生である点が特徴です。日本の大学生に比べると,随分大人に見えましたが,歌声は非常にしっかりとした力強いものでした。

演奏会の前半は,モーツァルトの交響曲第29番が演奏されました。クレーマーさんがこの曲を指揮するのは2回目ですので,恐らく,得意としているレパートリーなのだと思います。その期待どおりの自然な美しさに溢れた素晴らしいモーツァルトでした。

この日のオーケストラの配置はクレーマーさんが指揮される時はいつもそうであるように,古典的な配置でした。第1,第2ヴァイオリンが左右に分かれ,下手奥からコントラバス,チェロ,ヴィオラの順に並んでいました。弦楽器は,ノンヴィブラート奏法を取り入れており,後半のレクイエムではバロック・ティンパニも使っていましたので,OEKの音色が古楽器風のものに変身していました。OEKの古楽器風演奏も,このクレーマーさんの客演のたびに,定着してきているようです。

曲は自然な息づかいでスッと始まりました。弦楽器の弱音部にには,ささやくようなデリケートな味わいと品の良さがあり,とても良いムードを作っていました。アビゲイル・ヤングさんのリードによる弦楽器はいつもながら素晴らしいと思いました。

第2楽章もかなり速いテンポでした。それでも攻撃的になることはなく,弱音器を付けていた弦楽器群からは,常にはかなげな美しさが漂っていました。対照的に,オーボエの音色はくっきりとしており,その対比が鮮やかでした。楽章の最後には美しいオーボエのソロが出てきますが,その後,弱音器をはずして弦楽器がこれに答える部分のバランスの良さは見事でした。オーボエとスリムなヴァイオリンの音とがピタリと呼応していました。

第3楽章もまた速いテンポでした。メヌエット楽章なのですが,実際に踊ることのできない速さで,常に沸き立つようなリズム感を持っていました。トリオではテンポが少し変わりますが,それでも生き生きとした感じは続いていました。いつも楽しそうに指揮をされている,クレーマーさんの姿を彷彿とさせるような楽章でした。

第4楽章もまた速いテンポでしたが,ここでは軽さだけではなく,フィナーレらしい盛り上がりもありました。特に展開部では激しいアタックも見られ,力強さも感じさせてくれました。前半はこの1曲だけでしたが,曲の面白さを十分に伝えてくれる素晴らしい演奏でした。

後半のレクイエムは,過去OEKでは,岩城さん,若杉さん,クルト・レーデルさんの指揮でも取り上げられていますが,古楽器風の演奏は今回が初めてのことです。今回,ケンブリッジ・クレア・カレッジ合唱団が客演したのは,この解釈に合わせてのことだと思います。この合唱団の人数は40名弱ほどで,OEKの人数とほぼ同じです。最近ではもっと少ない人数で歌われることもありますが,視覚的にも音量的にも良いバランスでした。

この合唱団は,ケンブリッジ大学の教会で歌うための混声合唱団で,指揮者のロジャー・ノリントンなどもこの合唱団の出身です。宗教曲の分野では,イギリスを代表する合唱団と言えそうです。

曲は,全体的に速目のテンポですっきりと演奏されていました。このすっきりとした軽やかさは,クレーマーさんの音楽の特徴です。暗く沈みがちなレクイエムから躍動感を引き出していたのもクレーマーさんらしいところです。オーケストラはここでもノンビブラート奏法で演奏していましたが,冒頭をの木管楽器をはじめ,他の楽器にもしつこい感じはなく,オーケストラは透明な音色でまとめられていました。

合唱団は低音の響きがやや薄い気がしましたが,その分,とても明るい響きを持っていました。私は短調がずっと続く曲が少々苦手なので(「冬の旅」よりも「美しい水車屋の娘」の方が好きです),今回ぐらいの軽さと輝きのある響きの方が好みです。合唱は,オーケストラ同様,ヴィブラートをあまり掛けていませんでしたので,真っ直ぐに悲しみが伝わってきました。この合唱団は大学生の合唱団ということもあり,声質に清々しさを感じます。時折,エネルギーを噴出するかのように鋭く切り込んでくるようなところがあるのも魅力でした。クレーマーさんも非常に軽やかな音楽を作りますので,クレーマーさんの意図どおりの音楽を作っていたのではないかと思いました(この合唱団ですが,アルトの人数がやけに少ないなと思って,プログラムの名簿を見てみると"Peter"とか"Daniel"という名前が入っていました。男性もアルトのパートに加わっていたようです。)。

”ディエス・イレ(怒りの日)”などはあっという間に終わってしまいましたが,その後に続く,”トゥーバ・ミルム”は印象的でした。まず,冒頭のトロンボーンのソロの柔らかさが見事でした。他の曲でも3人揃っての和音がとても美しく清々しく響いていました。その後,この日のソリストが次々と出てくるのですが,プログラムによると,全員この合唱団に所属されている方々のようでした。どの方の声もとても澄んだ爽やかさを持ち,清潔感がありました。有名な歌手が登場するのも楽しみなのですが,こういう粒の揃った歌手が4人揃っているのも良いものです。合唱団と声質が合っているのも良いと思いました。この中では,特にテノールのアンドリュー・ステイプルスさんの若々しい真っ直ぐな声が特に印象に残りました。

続く,「レックス・トレメンデ」では,最初の一声が素晴らしいと思いました。若々しいエネルギーが一気に発散されていました。「ラクリモーサ」は,中盤のクライマックスを築いていました。ここでは比較的落ち着いたテンポで,じっくりと音楽を聞かせてくれました。最後の「アーメン」の部分でのオケーリーさんのティンパニには,鬼気迫るような迫力があり,曲の真ん中に楔(くさび)を打ち込んでいました。

その後の曲も弾むようなリズムと若々しい声で進んで行きましたが,後半の曲についてはもう少しじっくり歌っても良いのかな,と思いました。「サンクトゥス」などはかなり速いテンポで少々落ち着きがなかったかもしれません。その分,祝祭的な感じは出ていました。いずれにしても,このレクイエムの後半は,モーツァルトが完成させたものでないせいか,前半の繰り返しのような感じでラクリモーサまでに比べると少々物足りないところがあります。

最後に,最初の曲が戻ってくるのですが,ここでもオケーリーさんの重いティンパニの音が見事でした。全体に軽く流れる中感じでしたが,そういう中で,全曲をピシっと締めてくれました。

レクイエムの後にアンコールというのは通常はありませんが,今回はイギリスから来日した団体ということもあり,2曲演奏されました。最初の曲は,合唱団のアンコール曲の定番である,「アヴェ・ヴェルム・コルプス」が演奏されました。モーツァルトのレクイエムの後に演奏されるとすれば,この曲以外にないような曲ですが,何度聞いても素晴らしい曲です。ここでもすっきりとした美しさを聞かせてくれました。

その後,さらに「赤とんぼ」がア・カペラで歌われました。今回の日本の演奏旅行用のアンコールだと思いますが,ちょっとたどたどしい日本語がかえって微笑ましく,親しみがわきました。イギリス民謡と日本の曲には似た雰囲気の曲があるのですが,この「あかとんぼ」にも,どこかイギリスの民謡を思わせるような暖かさがありました。

今回の演奏会は,マイクを立ててレコーディングを行っていました。恐らくライブ録音のCDが発売されることになりそうです。クレーマーさんの国内盤CDは少ないので,新鮮な組み合わせの録音ということで注目を集めるのではないかと思います。

PS.今回の合唱は,強音部で声が少し歪んで聞こえるような気がしました。そういう歌い方なのかホールの響きの問題なのかわかりませんが,CD化されれば,その辺にも注目してみたいと思います。(2004/07/06)



Review by takaさん  

ケンブリッジのモツレクを聞いてきました。アルトの声がほとんど聞けませんでした。S:10 A:5 T:9? B:7? 最悪でしょ。これじゃSのアラがめだち キンキンして サバメ・・も貧弱になって。やっぱり 土台がしっかりしてないと SやTがかわいそう。OEKはよかったけど・・・。

最後まで 感謝の拍手はしましたが・・
この手の演奏会でアンコールも初めてでした。
クレマーさん 合唱のバランス音の責任もあなたでしょ。(2004/07/05)



Review by OEKfanのfanさん  

いつも見てばかりでしたが、今回は投稿してみようと思います。

昨晩の演奏のうち、前半の交響曲はクレーマーさんの良い面が演奏に良く出ていたと感じました。私はピヒラーさんのファンでもありますが、彼の切れ味の鋭さとウィーン的な洒落た感じをあわせ持つ演奏とはまた違って、しなやかさがありました。あの交響曲は大好きな曲のうちの一つですが、とても穏やかな気持ちになれる演奏でした。ただ、第3楽章のテンポは幾分速過ぎたように思います。

レクイエムですが、終始落ち着いて聴いていられない何かがありました。一つは、速い曲での速すぎるテンポだと思います。その速さに音楽的な必然性、そのテンポで演奏することの必然性を感じませんでした。数年前の岩城さんの演奏では、逆に遅い曲がさらに遅く演奏されましたが、その時はオケの音からも合唱からも、指揮者の思いが音として感じられたように記憶しています。もちろん、テンポ自体は聴く人の好みによるところも大きいでしょうが。

で、速すぎるテンポは、ディーエ・スイーレでは、最近聴いた記憶がないほどにOEKの弦楽セクションが乱れていました。合唱は何とかテンポに付いていっていましたが、曲の途中から、ソプラノとテノールが喉に力を入れて歌いだしました。これはまずいな、と思っていたら、曲が進むに従って、声のクオリティがどんどん落ちていった。合唱団としては全く不本意な演奏だったのではないでしょうか。

パート間のバランスの問題もありましたが、二人の男性アルトを加えたアルトパートだけが最後まで声のクオリティを保っていたように感じます。ベースもラクリモーサが過ぎたあたりから声が荒れだしました。なぜそうなったのか。恐らく指揮者の責任でしょう。クレーマーさんの演奏では、以前に邦楽ホールでバッハを聴いたことがありますが、その時も感心しない演奏だった記憶があります。前半の交響曲の演奏が良かったことを考えると、クレーマーさんは声楽作品があまり向いていないのかも知れません。OEK事務局さん、選曲をもっと慎重に考えて下さいね。

合唱団の実力は金曜日の単独演奏会を聴かないとわかりませんが、同じケンブリッジ大学でも、キングスカレッジやセントジョーンズカレッジに比べると少し差があるのかもしれません。もちろんキングスカレッジはソプラノパートがボーイソプラノ、アルトパートが男声アルトですから単純に比較はできないのかもしれませんが、セントジョーンズカレッジの方は今回と同じように上のパートは女声が歌っています。とにかく、金曜日の演奏が楽しみでもあり、怖くもありますね。 (2004/07/06)