オペラで涼もう!!海の日!!
ミュージカル&オペラアリアの名曲コンサート
2004/07/19 石川県立音楽堂コンサートホール
1)マスカーニ/歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」〜前奏曲〜「ああ乳色のシュミーズを着たローラ」
2)マスカーニ/歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」〜サントゥッツアのアリア「ママも知るとおり」
3)マスカーニ/歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」〜間奏曲
4)マスカーニ/歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」〜「サントゥッツア,お前がここに」〜「グラジオラスの花」〜「ああ見たか」
5)ヴェルティ/歌劇「ドン・カルロ」〜「一人寂しく眠ろう」
6)ヴェルディ/歌劇「椿姫」〜ヴィオレッタのアリア「ああ,そはかの人か」
7)ヴェルディ/歌劇「リゴレット」〜マントヴァ公爵のアリア「女心の歌」
8)ヴェルディ/歌劇「椿姫」〜「乾杯の歌」
9)バーンスタイン/ミュージカル「ウェストサイド物語」〜「マリア」
10)バーンスタイン/ミュージカル「ウェストサイド物語」〜「一つの手,一つの心」
11)バーンスタイン/ミュージカル「ウェストサイド物語」〜「サムホエア」
12)バーンスタイン/ミュージカル「ウェストサイド物語」〜「トゥナイト」
13)シュトラウス,J.II/喜歌劇「こうもり」〜序曲
14)シュトラウス,J.II/喜歌劇「こうもり」〜三重唱「一人で八日も暮らさねばならない」
15)シュトラウス,J.II/喜歌劇「こうもり」〜アデーレのアリア「侯爵様,あなたのような方は」
16)シュトラウス,J.II/喜歌劇「こうもり」〜ブリューダライン
17)シュトラウス,J.II/喜歌劇「こうもり」〜シャンパンの歌
18)(アンコール)渡辺俊幸/NHK大河ドラマ「利家とまつ」〜颯流
19)(アンコール)村祭り
20)(アンコール)ジーツィンスキー/ウィーン,我が夢の街
●演奏
アンドリヤ・パヴリッチ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:松井直)
サーニャ・ケルケス(ソプラノ*4,6,8,10,11,14-17,19,20)
中西富美枝(メゾ・ソプラノ*2,4,8,11-12,14,16,17,19,20)
ヤンコ・シナディノヴィッチ(テノール*1,4,6-12,14,16,17,19-20)
イワン・トマセフ(バス*5,8,11,16,17,19,20)
Review by 管理人hs

「海の日」は,いつの間にか7月の第3月曜日という曜日指定の祝日になってしまいましたが,その「海の日」にちなんで「夏祭り」を意識したオペラ・ガラ・コンサートが行われました。同じ北陸地方でも福井や新潟では,河川の堤防が決壊し,街中泥だらけになっているのを考えると,この日,こういう楽しいコンサートを行うことができたのも運が良かったのかもしれません。

今回の演奏会は,「中西富美枝を励ます会」主催ということで,金沢出身でウィーン国立歌劇場合唱団などで活躍されているメゾソプラノ歌手中西富美枝さんを含めた4人の歌手が登場しました。日本での知名度の高い歌手は含まれていなかったのですが,いずれもヨーロッパの歌劇場で活躍されている歌手ということで,「ヨーロッパではこういう感じで,日常的にオペラが親しまれているんだ」という気分が伝わってきました。

今回,そう感じたのは,プログラムの構成にもよります。通常のガラ・コンサートでは,各歌手が好きな曲をバラバラに歌うことが多いのですが,今回は,特定のオペラが集中的に取り上げられていました。そのことによって,オペラの全体的な気分がある程度伝わってきました(全曲を聞きたくなりますね)。

まず,最初のステージでは,マスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」が取り上げられました。前奏曲に続き,オルガン・ステージにテノールのシナディノヴィッチさんが登場しました。少々高音が不安定な感じはありましたが,オルガン・ステージと同じ高さの3階席で聞いていたこともあり,伸びやかな声をダイレクトに楽しむことができました。

続く「ママの知るとおり」には,メゾソプラノの中西富美枝さんが登場しました。もう少し押しが強い方がイタリアの田舎の人妻(?)っぽくなるのかもしれませんが,ほどよく艶のある声は,とてもバランスが良いと思いました。

間奏曲は,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)が得意としている曲で,CD録音は3種類もあります(井上道義指揮,山下一史指揮,本名徹二指揮+奥村愛ヴァイオリン)。今回の指揮者のパヴリッチさんがOEKを指揮するのは初めてだと思いますが,OEKから大変しっかりとした響きを引き出していました。

このステージの最後は,「昼下がりの愛憎劇をお見せしましょう」という案内どおり,歌手3人による三角関係の激しいドラマを見せてくれました。通常のガラコンサートでは単独のアリアが中心で,重唱のメドレーの選曲がされることは少ないので,なかなか良い演出だと思いました。特に決め所でのテノールの強い声が印象的でした。OEKの作り出す暴力的な程の盛り上がりも聞き応えたっぷりでした。

次は,ヴェルディの有名アリアを集めたコーナーでした。まず,バスのイワン・トマセフさんが登場しました。トマセフさんは大変大柄な方で,ステージに現れた瞬間に会場の空気を支配し,音楽に集中させてくれました。声にも底しれぬ迫力を感じさせてくれるようなスケール感と品がありました。国王役にはぴったりでした。

続く「椿姫」の「ああ,そはかの人か」は,大変有名かつ大変な難曲です。ソプラノのサーニャ・ケルケスさんは,とても軽い声で後半のコロラトゥーラの部分などにはよく合っていましたが,高音部はかなり苦しげで,最後の超高音も余裕がありませんでした。声量も少々物足りなく感じました。舞台裏のテノールとの掛け合いの部分ではテノールの声が大きすぎるように感じるくらいでした。OEKの伴奏の方は,ここでもオペラのドラマに沿った盛り上がりうまく作っていました。

次の「女心の歌」も大変有名な曲なので,歌う方もプレッシャーが掛かると思います。シナディノヴィッチさんの歌は,伯爵の”お気楽な軽薄さ”はよく表現していたのですが,ちょっと仕上げが粗いようなところがあると思いました。全体にざらついた感じでした。

このヴェルディ・コーナーの最後は,おなじみの「乾杯の歌」で締められました。本来は,テノール+ソプラノ+合唱なのですが,今回は合唱部分をメゾソプラノとバスのお二人が歌っていました。この日は,うちわを持って行くと入場料がキャッシュバックされたのですが,4人の歌手の皆さんも,この曲のときはうちわ持参で登場し,客席からの手拍子を煽るようにうちわを振っていらっしゃいました。

後半は,「ウェストサイド物語」「こうもり」からの曲が演奏されました。「ウェストサイド物語」は,ミュージカルなのですが,オペラと並べて演奏しても全く違和感がありません。20世紀を代表するオペラと呼んでも良いのではないかと思います。オーケストラの編成で目を引いたのは,ヴィオラが入っていない点です。その代わりにピアノが加わっていました。通常の編成よりも,硬質でクールな響きが出ていたのはそのせいだと思います。

演奏された4曲はいずれも名曲です。「マリア」は,3大テノールなども歌っているようにクラシックの歌手向けの曲です。シナディノヴィッチさんの声は,強く声を張り上げる高音部は,よく聞こえたのですが,それ以外の部分でオーケストラに声が消されてしまうようなところがあったのは残念でした。「手に手をとって」はソプラノとテノールの二重唱で歌われました。伴奏とのテンポが合いにくいところがありましたが,じっくりとした濃密な雰囲気をよく伝えていました。

「サムホエア」は,4人全員で歌われました。バス・ソロで始まりましたが,ここでもオーケストラとテンポ感が微妙にずれているように感じました。声自体は非常に立派でした。この曲をはじめとして,「ウェストサイド物語」の曲には,チェロの大澤さんの美しいソロが随所で登場しました。音域的に言っても,ソリストがもう一人加わったような効果が出ていました。

このコーナー最後の「トゥナイト」は,テノールとメゾソプラノの二重唱で歌われました。通常はソプラノで歌われる曲ですが,違和感はありませんでした。中西さんの声は,慎ましやかでありながら,艶がありましたので,悲劇のヒロインには相応しいと思いました。

最後のステ−ジは,「こうもり」の中の曲が歌われました。OEKの10月の定期でも,このオペレッタが取り上げられますので,その予告編のようでもありました。10月公演では,中西さんも登場しますので,PRを兼ねて,そのお知らせがあっても良かったのではないか,と思いました。

まず,おなじみの序曲が演奏されました。ニューイヤーコンサートなどで毎年のように演奏している曲ですが,今回の演奏はとてもダイナミックでした。特に後半,金管楽器が加わってからの充実した厚みのある響きが見事でした。他の曲についても,同様な盛り上がりを作っていましたので,この辺は指揮者のパブリッチさんの持ち味だと思いました。

次の曲は,序曲の中の1節が出てくる三重唱でした。前の曲と韻を踏んでいるような面白さがありました。悲しんでいるはずなのに,つい浮き浮きしてしまう,というオペレッタらしい曲でした。ちょっとした動作も加えて,楽しげな雰囲気を出していました。アデーレのアリアは,コロラトゥーラが出てくる曲で,軽やかに歌われていました。小柄で少しコケティシュなところのあるケルケスさんは,曲の雰囲気によく合っていましたが,「椿姫」同様,少々高音部が苦しそうでした。

続くブリューダラインは,ゆったりとしたワルツに乗せて歌われ,よいムードを醸し出していました。演奏会最後の「シャンパンの歌」は,着実なリズムの上に乗ったリズム感が快適でした。ここでも金管楽器のまとまりのある音が見事でした。10月の定期公演では,中西さんはオルロフスキー役で登場しますが,その公演への期待を膨らませてくれるような演奏でした。

演奏後,浴衣を着た子供さんたちによる花束贈呈があった後,アンコールが3曲演奏されました。最初は,OEKのテーマ曲でもある「利家とまつ」のメインテーマでした。今回はトロンボーン3本,ホルン4本,打楽器数人を含む大きめの編成でしたので,大変聞き映えのする演奏になっていました。メロディの歌わせ方がゆったりとしており,まさに大河ドラマというスケール感を作っていました。特にホルン4本による充実した響きが印象的でした。

次のアンコールでは,歌手4人と指揮者が浴衣やハッピを着て登場し,会場は大いに盛り上がりました。リズムのノリの良い和風の曲が始まったので,一体何だろうと思って聞いていると唱歌の「村祭り」でした。中西さんは,会場のお客さんにも歌わせたかったようで,音頭を取っていましたが...残念ながら会場からは声はほとんど聞こえてきませんでした。この曲は有名な曲なのですが,若い世代を中心に,意外に歌詞は知られていないのかもしれません。手拍子が次第に純和風に頭打ちになって行くのも面白いと思いました。

アンコール最後は,ウィーンの歌手のアンコールの定番「ウィーン,我が夢の街」でした。金沢出身の中西さんにとっては,故郷ゆかりの「利家とまつ」の後に,第2の故郷ゆかりの曲をアンコールで取り上げることができ,大変幸せだったのではないかと思いました。金沢出身の世界的に活躍する歌手として,これからの活動にも注目していきたいと思います。まず,10月の「こうもり」でどういうオルロフスキーを聞かせてくれるかに注目したいと思います。
(注)その後予定が変更になり中西さんではなく,三橋千鶴さんという方がオルロフスキー役を歌うことになったようです。

↑私が持っていったうちわと履いていった草履です。草履の方は一見本物っぽいですがゴム草履です。
PS.この日登場した歌手の中でケルケスさん,中西さん,ケルケスさん,トマセフさんは,昨年から今年にかけて行われたOEKのジルベスター・コンサートにも出演されていたようです。どこかで見たことのある名前だなと思っていたのですが,その理由がやっとわかりました。

PS.この演奏会は,「浴衣・きもの→1000円バック/ぞうり→1000円バック/うちわ持参→500円バック」という中々斬新な企画の演奏会でした。このキャッシュバック効果は目覚しく,かなりの女性は浴衣+ぞうり+うちわで参加していました。私は,浴衣は着て行かなかったものの,ぞうり+うちわで参加し,1500円キャッシュバックしてもらいました。会場では,中西さんの顔写真を貼ったうちわを300円ほどで売っていましたので,うちわを持って行かない理由はない,という感じでした。

↑うちわ・草履・浴衣の3点セット揃いの人には,サイン用色紙が配布されていましたが,私はプログラムそのものに書いてもらいました。
このキャッシュバックコーナーの他にもお茶会コーナーが1階玄関付近にありました。会場内には沢山のスタッフがおり,コンサートを自分たちのアイデアで盛り上げようという楽しさが,色々なところに現れていました。演奏会後は,歌手・指揮者によるサイン会も行われたのですが,ここでも和やかな空気に包まれていました。

この日はデジタル・カメラを持っていくのを忘れたのですが,会場の雰囲気をお伝えすることができず,残念です。
 (2004/07/22)