オーケストラ・アンサンブル金沢第165回定期公演F
2004/07/25 石川県立音楽堂コンサートホール
第1部:渡辺俊幸の世界
1)渡辺俊幸/ファンファーレ・フォー・ザ・セレブレーション
2)さだまさし(渡辺俊幸編曲)/主人公
3)さだまさし(渡辺俊幸編曲)/防人の詩
4)渡辺俊幸/映画「解夏」〜メインテーマ
5)渡辺俊幸/NHKドラマ「夢見る葡萄」〜メインテーマ
6)渡辺俊幸/NHKスペシャル「阪神大震災5年」〜悲しみを乗り越えて
7)渡辺俊幸/NHK大河ドラマ「利家とまつ」〜まつのテーマ,颯流(メインテーマ)

第2部:さだまさしを迎えて

8)さだまさし/北の国から
9)さだまさし/精霊流し
10)さだまさし/秋桜
11)さだまさし(山本直純編曲)/親父の一番長い日
12)さだまさし/人生の贈り物
13)さだまさし/たいせつなひと
14)さだまさし/青の季節
15)(アンコール)さだまさし/風に立つライオン
●演奏
さだまさし(歌*8-15)
渡辺俊幸指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス)

Review by 管理人hs  七尾の住人さんの感想

約1年前に行われたオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の創立15周年記念の演奏会以降,OEKは渡辺俊幸さんの指揮でポップスの演奏にも力を入れていくことが表明されましたが,今回の演奏会は,その"OEKポップス"の第2回目の演奏会でした。"OEKポップス"という名前自体,まだ正式なものではないようですが,今年の夏は,さだまさしさんとの共演に加え,矢野顕子さん,ペギー葉山さんとの共演が続きますので,夏の風物詩として今後定着していきそうな感じです。

今回のゲストのさだまさしさんは,金沢には毎年のように来られていますが(今年の冬にも石川厚生年金会館でコンサートを行っています),OEKとの共演は初めてのことです。「利家とまつ」が渡辺さんとOEKをつなげ,渡辺さんがOEKとさださんをつなげ...と縁が縁を生んで,今回のさださんとOEKの”夢の共演”となりました。

今回のOEKの編成は,昨年のポップス・コンサート同様,かなり編成が増強されていました。特に目立ったのは,ホルン4,トランペット3,トロンボーン3,チューバ1,パーカッション5という金管と打楽器の充実です。弦楽器の方もコントラバス4,チェロ6と低音がかなり増強されていました。渡辺さんのスケールの大きなアレンジにとって「必要十分条件」という感じの編成でした。

それに加え,今回は,さださんのバックバンドのピアニストの倉田さんが参加されていました。いちばん最初にOEK団員と混じって,倉田さんが入ってきたときに大きな拍手が湧いたのには驚きました。さださんの熱心なファンがお客さんの中に含まれていたのだと思います。

会場内に貼ってあった「売り切れ」のポスター今回は,夏のポップスコンサートということもあり,OEK団員は全員白い服で登場しました。会場は満席で(チケット完売御礼という貼り紙もいくつか見かけました),指揮者正面のパイプ・オルガンのステージにまでお客さんを入れていました。

前半は渡辺さんのトークを交えて,オーケストラのみで演奏されました。オープニングの「ファンファーレ...」は,OEKポップス活動開始記念として渡辺さんが作曲した華やかな曲です。渡辺さんは一時期アメリカで作曲・編曲を勉強したことがありますが,そのことがよくわかる曲で,ジョン・ウィリアムズ風威風堂々といった感じの曲です。特に中間部の雰囲気が似ています。OEKは増強された金管楽器が大変きらびやかでした。

その後,ゲストのさださんにちなんだ曲が2曲演奏されました。「利家とまつ」以来,渡辺さんの曲を聞く機会が増えたのですが,渡辺さんの好む音色・楽器使用法が段々とわかってきました。このアレンジにも”渡辺節”が溢れていました。「主人公」は,さださんの曲の中で特に人気の高い曲で,ファン投票をすると常に上位に来る曲です(以前,さださんがそう語るのを聞いたことがあります)。弦楽器の上に,ホルンやオーボエのソロと続き,ドラムスなどが加わって次第に大きく盛り上がるような構成でした。続く「防人の詩」の方も,オーボエ→フルートと管楽器ソロが歌の部分を演奏するようなアレンジでした。あまり絶叫することなく,はかなさを感じさせてくれました。

続いて,映画「解夏」のテーマが演奏されました。この映画はさださん原作の小説を映画化したもので,渡辺俊幸さんが音楽を担当しています。今日の演奏会に取り上げるには最適の曲ということになります。今回のアレンジは,この日の演奏会用のもので,ここでもフルート,オーボエが活躍していました。それに加え,ハープ,ピアノ,チェレスタといった,ちょっと硬質の響きのする楽器を使っていました。ピアノの音の静謐な気分が特に印象的でした。映画の中ではどのように響くのか一度見てみたいものです(この映画のDVD発売の宣伝もしていました。さださん,渡辺さんと映画の監督との対談などの”特典”も含まれているとのことです)。

前半最後のコーナーでは,渡辺さんのアルバム「浪漫紀行」の中から4曲演奏されました。まず,OEKの奏者のソロの入る曲が2曲演奏されました。「夢見る葡萄」は,とても陶酔的な曲です。私自身,このアルバムの中でも特に気に入っている曲です。ブレンディスさんヴァイオリンは,CDで演奏している二村さんの演奏よりはもっとすっきりした感じがありました。この曲については,もっと甘い感じの方が良いかなとも思いましたが,この辺は好みの問題かもしれません。

「阪神大震災5年」の中の曲は,バーバーの弦楽のためのアダージョなどを思い出させるような静かな雰囲気で始まります。その中から大澤さんの人の声を思わせるようなチェロが湧き上がってきます。CDでのカンタさんの演奏よりももっとシリアスな味があると思いました。

その後,おなじみ「利家とまつ」の曲の中から2曲演奏されました。「颯流」の方は,何回も聞いているのですが,「まつのテーマ」を生で聞くのは久しぶりのことです。ここでも,弦楽器の上にフルートやイングリッシュ・ホルンの歌が続くというパターンなのですが,この曲の美しさは絶品です。明るいのに悲しくなるような,何ともいえない情緒があります。

「颯流」の方は先週も別の演奏会で聞いたばかりだったのですが,今回はドラムス(おなじみのデヴィッド・ジョーンズさんでした)が入っていたことがあり,後半のテンポアップしてからの部分がサントラ版とは少し違っていました。ドラムスの細かい音の動きを聞かせるように,じっくりとしたテンポで演奏していました。最後の最後の部分は大編成を生かして,パーカッションが「ダダーン」という感じの物凄い音を出していました。ただし,弦楽器の響きは先週聞いた,パブリッチさんの指揮の時の方が線の太い流れの良さがあったような気がしました。

後半はいよいよさださんの登場です。まず,序曲のような感じで「北の国から」がオーケストラ演奏のみで始まりました。下手の戸が開いたままだったので,いつさださんが入ってくるのだろうか,と気になりました。この「気の持たせ方」はとても効果的で,真っ白の衣装のさださんが,パッと入ってくると,大きな拍手が起こりました。左右上下前後のお客さんに手を振りながら,なごやかなムードで後半は始まりました。

さださんのコンサートでは,トークも楽しみの一つです。今回もさださんのトークは全開でした(「今回も」と書いたのですが,実は私がさださんのコンサートに出かけたのは今回が初めてのことです。というわけで「今回も」というのは推測です)。次のようなトークが次々と湧き出てきました。
  • 「さださーん」の掛け声に対して,「音楽堂では珍しいことです」
  • 「最近,金沢には冬ばかりに来ていました。寒いところかと思ったが,やはり夏は暑い」
  • 異常気象の話題。「東京湾岸に高層ビルが出来て,都心の気温が高くなった...というニュースを湾岸にある放送局のニュースで言っているんですね」。
  • それに絡めて,新潟・福井の水害への募金のお願いの話が出ました。「2億円でなくても良いです。」
  • 「「北の国から」は,最近では北海道のテーマ曲のようになっている...が,実は九州人が作曲したことを忘れてはいけない」
続く「精霊流し」は,私にとってはさださんの第1印象そのものです。それは,"ヴァイオリンを演奏しながら,繊細で甲高い声で歌う人"というものです。そういう点で,今回さださんのヴァイオリン演奏と歌でこの曲を聞けて大満足でした。ただし,声質は若い時に比べると,かなり変わって来ていると思いました。折れてしまうような線の細さは少なくなり,歌声に堂々とした貫禄がついてきたと思いました。それとこの日は,かなり声がハスキーだったと思いました。

ヴァイオリンソロについては,さださん自身「歌の一部としてのヴァイオリンです」と語られていました。この曲は歌手自身がヴァイオリンを弾くという意外性が大きな聞き所です。今回は,ヴァイオリンの名手に取り囲まれての演奏ということで,さすがのさださんもかなり緊張されたのではないかと思います。

その後,長いトークが入りました。友人の結婚式に呼ばれ,電子オルガン伴奏で仕方なく「秋桜」を歌うことになったときの話です。会場の電子オルガン奏者は,両手両足を使いながら,さださんと打ち合わせをし,さらには,イントロの後,ご丁寧に「ハイ」と歌が入る場所まで教えてくれた(「私が作曲したんだ!」),というエピソードを身振りを交えて語ってくれました。まさに抱腹絶倒でした。その後,しんみりと「秋桜」に入っていきます。この躁鬱病的落差が「さだのやり口」とのことです。

OEKの皆さんにも大いに受けていましたので,さぞかし気分転換が大変だったと思います。オーケストラのメンバーは,本当に楽しそうにトークを聞いていましたが(外国人奏者の多くはキョトンとしていましたが),こういう表情がまた演奏会を盛り上げてくれます。

次の曲も結婚式に関係する「親父の一番長い日」でした。この曲は,さださんの曲の中でも最も長く,大変感動的な曲です。その作曲のきっかけは,今は亡き山本直純さんのアドバイスによるものです。初演も直純さんとさださんとで軽井沢で演奏されるはずだったのですが...直純さんはある事情があって,この演奏会に出られなくなってしまいます。その代役で登場した指揮者が,岩城宏之さんでした。会場のOEK定期会員からは「へぇ」という感じの声なき声が上がっていたのではないかと思います。というわけで,「親父...」を初演した岩城さんが作ったOEKとさださんと共演するというのは,とても「不思議なご縁」です。OEKの定期公演にぴったりの選曲だったと思います。

トークはさらに続き,初演前日,岩城さんがやってきて(「アンパンマンのような顔をされた岩城さん」と語られていましたが,若い頃の岩城さんは言われてみればそういう感じかも...),朝までビール片手で飲んでいったそうです。そこで出てきたのが「山本直純一世一代の名アレンジ」という言葉です。岩城さんは,この曲の初演時,オーケストラだけの間奏部分で涙を流しながら指揮をされていたそうです。

という長い前ぶりがあった後,今回は,その名アレンジで演奏されました。これは嬉しかったですね。アレンジといっても前半はずっとギター弾き語りが続きます。途中から「いつのまにか」という感じでひっそりと弦楽器が加わってきて,後半のドラマに向かって奥床しく盛り上がっていきます。今回のさださんの歌は,オリジナルのレコードの歌いまわしとはちょっと違った部分があると思いました。レコードの方は,一定のテンポで淡々と進む感じですが,今回はテンポにゆれがありました。最後の「殴らせろ」の部分は反対に淡白になっていたと思いました。この曲が発表されてからすでに25年ぐらい経っていますが,この曲の内容そのものとダブるように,年輪を重ねた余裕のある歌いっぷりだと思いました。

それにしても,素晴らしい曲です。さださんでないと歌えない曲です。「3曲としてカウントしてください」と語られていましたが,実際はそれ以上にエネルギーを使う曲だと思いました。

その後,最近は,小説家としても忙しくなり,「夜遊びをする時間も無くなった」という話になりました。「自分がこういう人生を送るようになるとは予想もしなかった」というセリフは,誰の人生にも多かれ少なかれ言えることだと思います。「死ぬまでにまた変わるだろう」という話を受けて,「人生の贈り物」と映画「解夏」の主題歌の「たいせつな人」が歌われました。どちらも倉田さんのピアノの伴奏が活躍する曲でした。「枯れた味」とまでは行きませんが,まさに「心に染みる歌」でした。前半,軽妙洒脱なトークでお客さんをぐっと引き付けた後,後半で聴衆の心をぐっとつかむ構成はライブを何回も何回も重ねてきたさださんならではの見事さだと感じました。

プログラム最後は,さださんのファンクラブのためのコンサートで評判の良かった「青の季節」という曲でした。オーケストラはフル編成になり,さださんも所々シャウトしてました。野性味を感じさせてくれるような迫力がありました。どこか現代的な響きを感じさせる編曲も印象的でした。

アンコールでは,「風に立つライオン」が歌われました。この曲を聞くのは初めてのことだったのですが,前半の「語り歌い」の部分は,いかにもさださんらしいと思いました。曲の内容は,かなりストレートに現代日本を批判するメッセージ性を持っていました。この辺は,好みが分かれるところかもしれませんが,コンサートの最後に聞くと非常に説得力があります(演奏会の最初にいきなり聞く曲ではないですね)。この曲も「親父...」同様エネルギーのいる曲だと思いました。

途中から曲のメロディは,アメージング・グレースに変わり,ハミングで歌われます。「アメージング・グレース」といえば,昨年から今年にかけてフジテレビで放送された「白い巨塔」を思い出すのですが,この曲自体,「アフリカで働く医師」を歌っていますので,どこか「白い巨塔」の中の里見医師を思い出させるようなところがあります。このドラマでの選曲はこの曲の影響?と思わせるほど,深みを感じさせる曲でした。曲の最後はボレロ風に盛り上がって,演奏会全体を締めてくれました。

さだまさしさんは,抱えきれないほど沢山のメッセージを持った詩人だと思いました。さださんの作る音楽はそのメッセージを伝えるための乗り物です。どの曲もはっきりとした言葉で語り,歌われているのが素晴らしいところです。これからも,音楽に乗せて軽妙かつ真摯に語り・歌うというスタイルの歌をずっと作り続けていって欲しいと思います。今回指揮・編曲をされた渡辺さんとさださんは,30年来の友人ですが,このお二人とOEKによるオリジナル作品などを,是非聞いてみたいものです。

PS.今回のコンサートは,我が家では親子3代で出かけることになりました。私の母はさださんの熱烈なファンなのですが,一緒に行くはずだった友人の都合が悪くなり,急遽,私の娘(小学生)が代わりに行くことになりました。子供の方は「みんなが笑っているので私も笑った」というレベルだったのですが,母親の方は「孫と一緒にさださんを聞ける時代が来るとは」と大変喜んでいました。そういう目で見てみると,会場にはとても幅広い年齢層の人がいました。長年ファンを続けている人が累積的に多くなっているのだと思います。  (2004/07/26)


Review by 七尾の住人さん

OEKポップスもとても楽しめましたが、何よりも今回は第2部につきるでしょう。さだまさしさんのトークも軽快で、何よりも歌がとても素晴らしかった。昔ファンになり、レコードを何枚か買って今でも持っていますが、やはり聴かせてくれる歌を歌ってくれます。さださんの歌は、時には物語であり、時には詩でありで、これが本当の歌なんだなぁと改めて感心しました。サブタイトルの通り、本当に心にしみいる歌で、もやもやしてた心を綺麗に洗濯してもらいました。

もちろんさださんの歌をサポートしたOEKポップスにも大拍手です。
ぜひぜひまたこんな形で、さださんの歌を聴きたいものです。(2004/07/26)