2004いしかわミュージックアカデミー:室内楽コンサートI
2004/08/20 石川県立音楽堂コンサートホール
1)ラヴェル/弦楽四重奏曲
2)フランク/ヴァイオリン・ソナタイ長調
3)ブラームス/ピアノ三重奏曲第1番ロ長調op.8
●演奏
原田幸一郎,神谷美千子(ヴァイオリン*1),ロラン・ドガレイユ(ヴァイオリン*2),堀米ゆず子(ヴァイオリン*3),川崎雅夫(ヴィオラ*1),毛利伯郎(チェロ*1),植田克己(ピアノ*2),ジャン・ワン(チェロ*3),パスカル・ロジェ(ピアノ*3)

Review by 管理人hs  

いしかわミュージックアカデミーの看板今年もいしかわミュージックアカデミーの時期になりました。この講習会では,何といっても豪華講師陣による演奏会が楽しみです。今回は,その中の室内楽コンサートIに出かけてきました。

ラヴェル,フランク,ブラームスというプログラムは,編成の多様性と同時にまとまりの良さを感じさせてくれるものでした。この日の金沢は,台風が通り過ぎたばかりで,前日とは打って変わって穏やかな日になりました。そういう爽やかな日に聞くには最適の室内楽でした。

前半最初は日本人奏者4人による弦楽四重奏でした。このアカデミーの音楽監督である原田幸一郎さんが第1ヴァイオリンだったこともあり,模範的な熟練の音楽を聞かせてくれました。ラヴェルの音楽らしく,熱しすぎない落ち着きが曲全体にありました。第2楽章ではピツィカートの軽妙な部分と緩やかな中間部との対比がうまく付けられていました。第3楽章では川崎雅夫さんのヴィオラの音に惹かれました。非常に美しい音で,しかもピンとした立派な風格がありました。第4楽章は第1楽章の変奏曲のような感じで,とても生き生きしているのですが,このグループの演奏には,常にさりげなさがあります。さりげなく弾み,さりげなく盛り上がり,さりげなくスッと終わりました。

続く,フランクのヴァイオリン・ソナタは,生で聞くのは久しぶりのことでした。大好きな曲なので,楽しみにして聞き始めたのですが,その期待どおりの演奏でした。植田さんのピアノがたっぷりと始まり,ホール内に艶のある響きが気持ち良く広がると,既にフランクの世界になっていました。続いてドガレイユさんがフランクのこの曲にぴったりの音色で入ってきます。適度に肉厚だけれども,しつこいところのない音色で,大変バランスの良い演奏でした。全曲を通じて音程が崩れるところはなく,大変きちんと演奏されていたのですが,そこかしこに自然にフランス音楽の甘い香りが漂ってくるのが魅力的でした。

第2楽章はかなり激しい音色で情熱的に演奏していましたが,派手な演奏という感じではありませんでした。常に節度がありました。第3楽章から第4楽章に掛けては,静から動への自然が推移が絶品でした。「永遠に続いて欲しいようなはかなさ」の漂う曲ですが,そのイメージどおりの演奏でした。繊細でありながら,神経質過ぎるところもなく,安心して聞くことのできる演奏でした。

後半はブラームスのピアノ三重奏曲第1番だけでした。実はこの曲を聞くことは初めてだったのですが,本当にブラームスらしい堂々たる大作でした。堀米ゆず子,ジャン・ワン,パスカル・ロジェという豪華でインターナショナルな3人組で聞くにはぴったりの曲でした。

演奏も素晴らしいものでした。まずチェロの素晴らしい歌で始まります。過去のいしかわミュージック・アカデミーの演奏会でもジャン・ワンさんの素晴らしさは何度も味わってきましたが,この曲でのチェロにも凛とした潔さとヒロイックな力強さがありました。その他の楽章でもチェロの独奏が度々出てきていましたので,ジャン・ワンさんの魅力を味わうにはとても良い曲でした。

堀米さんのヴァイオリンも,大らかな気分のあるもので,ジャン・ワンさんの強い響きをしっかりと受けていました。パスカル・ロジェさんのピアノは,輝きがあると同時に堅固なもので,全体を引き締めていました。カザルス,ティボー,コルトーの時代からピアノ三重奏というのは,ソリスト3人による演奏がよくありますが,今回の3人もそういうスケールの大きさと華やかさのある演奏でした。初めて聞く曲ということで,細かい部分までは覚えていませんが,全体的にのびのびとした気分に酔わせてくれる素晴らしい演奏でした。その一方,「アカデミーの講師」ということもあり,小細工をしない正統的な立派さも感じさせてくれました。

それにしても,今回のトリオはインターナショナルな顔合わせでした。日本人,中国人,フランス人によるドイツ人作曲家の曲の演奏ということになります。練習は一体何語で行ったのでしょうか?

この日の会場は,昨年までの金沢市アートホールではなく,石川県立音楽堂コンサートホールだったこともあり,豪華メンバーだった割には空席が目立ちました。それでもアカデミーの受講生や講師(ヴァイオリンのジョルジュ・パウクさんの姿を見かけました)やボランティアが沢山入っており,いつものコンサートとちょっと違う華やかさもありました。演奏後の拍手にも熱い雰囲気がありました。

今年のいしかわミュージックアカデミーでは,これまでのようなオーケストラ,室内楽の演奏会に加え,金沢城公園での野外コンサートに受講生オーケストラが参加するという新しい試みも行われます。このアカデミーも回を重ねるごとに夏の恒例行事として定着してきていますが,コンサートホールの外に出ることによって,これまで以上に金沢市民に親しまれていって欲しいものです。 (2004/08/21)