合唱団おおやまwithオーケストラ・アンサンブル金沢
2004年8月29日 大山町民文化会館大ホール

1)ラター/レクイエム
2)ブリテン/シンプル・シンフォニー
3)三善晃編曲/唱歌の四季(朧月夜,茶摘,紅葉,雪,夕焼小焼)
4)中田喜直(編曲者不明)/夏の思い出
●演奏
山下一史指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサート・ミストレス:アビゲイル・ヤング)
合唱団おおやま*1,3,4(合唱指揮:内山太一,コレペティトゥーア:板直子)
村上育子(ソプラノ*1)
Review by管理人hs
大山町に行くのは初めてでした。これは役場付近にあった看板です。「恐竜の里」だとは知りませんでした。
金沢からカーナビだけを頼りに運転してきましたが,見事到着できました。富山地方鉄道の踏切を渡ると大山町民文化会館です。建物の左側は図書館,右側はホールになっています。
大山町民文化会館の外観です。白いタイルで覆われています。
この日のポスターが貼ってありました。
開演までしばらく時間があったので,ホール内部を撮影してみました。外光を取り込める作りになっていました。
ホール内です。シートの赤色が印象的でした。
ホールの最後列から撮影したものです。フル編成のオーケストラは入りきらないので,OEK向けの大きさです。
ホールのロビーから図書館を撮影したもの。晴れていたのですが...
コンサートが終わった時には,何と雨が降っていました。
金沢に帰る途中,サービスエリアで夕食用に「ますの寿司」を買いました。奮発して特製と普通のものとを2つ買いました(実はコンサートの入場料よりも高かったりします)。
開けてみたら,大差ありませんでした。高い方が少し厚く切ってあったようです。

夏休みの最後の日曜日,子供の夏休みの宿題のメドが付いたこともあり,富山県の大山町で行われた,合唱団おおやまとオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)が共演した演奏会に出かけてきました。大山町は富山市の隣にある町なのですが,私自身,出かけたのは今回が初めてのことです。

合唱団おおやまは1995年に大山町民を中心に結成された合唱団で,1996年以降毎年夏にオーケストラとの共演を続けています。OEKとの共演も今回で7回目になります。今回,この演奏会を聞きに行こうと思ったのは,合唱団員の方から演奏会の情報をお知らせ頂いたからです。プログラムの中で特に興味を持ったのは,OEK自身初めて演奏するラターのレクイエムです。半分この曲を目当てに高速道路を走って大山町民文化会館まで行きました。

大山町民文化会館は図書館とホールが同じ建物の中にある複合施設で,ホールの収容人数は1,000人未満ぐらいです。図書館との複合施設という点からすると石川県鶴来町のクレインと似た感じです。客席には適度に傾斜が付いており,後部の座席でもステージが大変見やすいホールでした(ステージがかなり高かったので,かえって前の席の方が観にくいかもしれません)。ただし,音響の方は多目的ホールということもあり,かなりデッドで間接音なしにダイレクトに客席まで音が飛び込んでくる感じでした。金沢市の文教会館と似た感じかもしれません。

コンサートは合唱団とOEKの共演の間にOEKのみの演奏が入るという構成でした。まず最初にお目当てのラターのレクイエムが演奏されました。この曲は,フォーレやデュルフレのレクイエムの系統を引き継ぐ「癒し系のレクイエム」で,「怒りの日」のような激しい曲を持っていません。レクイエムに付き物のトロンボーンが入らない代わりに,グロッケンシュピールやハープなどが入り,独特の透明感のある響きを持っています。1985年に作られた「現代音楽」なのですが,耳に馴染みやすいメロディを沢山持ち,ミュージカルを聞くような親しみやすさもあります。恐らく,合唱関係者の間では,人気の高い曲となっているのではないかと思います。

この曲については,CDで聞いたことはあるのですが(先日OEKと共演したばかりのケンブリッジ・クレアカレッジ合唱団によるNAXOS盤です),生で聞くのは初めてのことです。レクイエムにしてはそれほど長くなく,大変まとまりの良い曲だと改めて思いました。

合唱団おおやまは約40人の編成で,OEKの人数とほぼ同数です。音量的にも視覚的にも丁度良いバランスでした。第1曲は,ハープ,パーカッション,低弦の刻むリズムの上に始まりますが,この雰囲気は全曲を通じての基調となっていました。その上に「レクイエーム」と優しい歌が出てきます。この声で一気に曲の世界に引き込まれました。ただし,このホールは残響があまりなく,陶酔的な感じにはなっていませんでした。それと...1曲ごとに拍手が入ったのには参りました。全曲で一つの世界を作ろうとしていた演奏者にとっては,辛いものがあったかもしれません。

2曲目は,大澤明さんの渋いチェロ・ソロで始まりました。半音的な音の動きが,どこか黒人霊歌を思わせるところがありました。この「レクイエム」は,通常のラテン語の歌詞に加え,英語の歌詞が入るのが特徴なのですが,この曲についてはそのことによって,さらに黒人霊歌的になっていたと思いました。

3曲目の「ピエ・イエズス」は,最初に出てくるソプラノ独唱が,CMに使えそうなくらい,パッと耳に馴染むもので,印象的な美しさを感じさせてくれました。今回のソロの村上育子さんの声は,ものすごく軽やかで,ボーイ・ソプラノを思わせる天国的な雰囲気がありました。少々声量が不足するような気はしましたが,この曲にはぴったりだと思いました。

続く第4曲も,クリスマスを思わせるような気持ちの良いクリスタルなサウンドで始まります。この第3〜4曲のような感覚は,現代の聴衆には特にぴったり来るのではないかと思います。一方,この曲の後半の「ホザンナ」の部分は,大きく盛り上がり,曲全体のクライマックスを作っていました。

曲の後半はまた静かな雰囲気に戻ります。合唱団は良いバランスで歌っていましたが,声がダイレクトに飛び込んでくるような小ホールでしたので,時々粗さを感じさせるところがありました。特に男声は人数が少なかったせいか,一人の声が突出して聞こえてくる部分もありました。それでも,この曲に対する思いがじっくりと伝わってきました。とても誠実な合唱だったと思います。

第6曲は,「主は羊飼い」ということで,羊飼いをイメージさせる水谷さんのオーボエ・ソロで始まりました。ここでもポップスを思わせる親しみやすさがありました。第7曲の前半で,再度,村上さんの軽やかなソプラノ独唱が登場した後,最後の部分では最初のレクイエムが再現してきます。山下一史さん(髪型が以前よりかなり長髪になっていました)の指揮は,過度にロマンティックになることはなく,誠実な雰囲気にまとめていました。

この曲は,期待どおりとても聞きやすい曲でしたので,是非,石川県立音楽堂でも聞いてみたいものです。OEKの編成にぴったりの曲なので,実現の可能性は高いと思います。

後半はまずOEKの弦楽セクションのみでシンプル・シンフォニーが演奏されました(英国つながりですね)。小さいホールで聞いたこともあり,弦楽器の多彩な表情を楽しめました。特に最初の2つの楽章の強く弾む感じと第3楽章の厚く熱いカンタービレとの対比がとても鮮やかでした。低弦の響きも大変充実していました。

その後,場面転換の時間を利用して,山下さんのトークが入りました。ラターの曲の説明などが入りましたが,どうせならプレトークとして前半に説明してもらった方が良かったような気がしました。そうすれば,曲間の拍手も入らないように仕向けることもできたかもしれません。

演奏会の最後は,三善晃編曲による「唱歌の四季」という合唱曲集でした。日本の四季を代表する4曲の唱歌の後に「夕焼小焼」を付けた曲で,じわじわと感動が盛り上がって来るような曲集でした。学校で子供たちが唱歌を歌う時は,ピアノ伴奏(それともオルガン伴奏?)が普通だと思うのですが,オーケストレーションされることによってで,おおらかな気分がよく出ていました。大人の目から子供時代を回想するような気分とも言えます。

「朧月夜」での新鮮な転調,ゆっくりとしたテンポで歌われた「茶摘」のスケール感など,各曲がファンタジックに再構成されていました。最後の,「夕焼小焼」は,ア・カペラで始まりましたが,この部分には,「おかあさんコーラス」の暖かさがよく出ていました。最後はオーケストラと合唱が一緒になってクレッシェンドし,オペラの一部のように盛り上がりました。

アンコールには,この時期に聞くにはこれしかないという「夏の思い出」でした。しみじみとした響きの中で,会場中が「夏の思い出」に浸っているようでした。

演奏後,客席からステージに向かって「○○さん,よかったよ〜」というような声が掛かっていましたが,全体としてこういったローカルな暖かさに溢れた演奏会でした。楽章間の拍手は,結局,3曲とものすべての曲間に入ったのですが,皆さん本当にしっかりと拍手していました。私(だけ?)は曲間には拍手をしなかったのですが,段々と「私の作法の方が間違っているのでは?」と感じてしまうくらいでした。指揮の山下さんは「是非,この素晴らしい合唱団をサポートしてください」と語っていましたが,その言葉どおり,毎年続けて行って欲しい演奏会だと思いました。

PS.この演奏会は,石川県音楽文化振興事業団が主催だったので,おなじみのOEKの事務局の方の姿も見かけました。チラシの中には「金沢でオーケストラを聴こう」という,金沢では見かけないものが入っていたのが新鮮でした。