オーケストラ・アンサンブル金沢 大阪定期公演
2004/09/23 ザ・シンフォニー・ホール

1)ベートーヴェン/「プロメテウスの創造物」序曲op.43
2)サン=サーンス/ハバネラop.83
3)アウエルバッハ/ヴァイオリン協奏曲第2番op.77(2004年度委嘱作品・世界初演)
4)アウエルバッハ/ヴァイオリン,ピアノと弦楽オーケストラのための組曲op.60(4楽章版)
5)ベートーヴェン/交響曲第2番ニ長調op.36
6)(アンコール)ベートーヴェン/トルコ行進曲
●演奏
岩城宏之指揮オーケストラ・アンサンンブル金沢(コンサートマスター:マイケル・ダウス)
諏訪内晶子(ヴァイオリン*2-4),レーラ・アウエルバッハ(ピアノ*4)
Review by ねこさん  

OEK大阪定期公演に行ってきました。チケットは早々に売り切れているようでしたが、予想通り満席のお客さまで、1階席後部にはさらに立ち見の人たちが並んでいるという盛況ぶり。団員のみなさんにはきっと大入袋が出たことでしょう。

大阪公演は前々日の金沢でのプログラムのうち、諏訪内さんのソロによる「序奏とロンドカプリチオーソ」がサンサーンスの「ハバネラ」に、ブラームスがベートーベンの第2番の交響曲にかわり、あとは同じ曲、という内容でした。

いちばん印象に残ったのはやはり諏訪内さんの「ハバネラ」でした。金沢での演奏会のときと同じものと思われるワインレッドの細身のドレス姿で登場された諏訪内さん。その演奏の姿からはさまざまなイメージが立ち上ってくるように感じられます。最初と最後のゆったりしたテンポでハバネラのリズムが奏される部分では美しい異国の踊り子がエキゾチックな雰囲気のゆったりした踊りを踊っているかのような印象を受けました。一転して中間部の激しく速いテンポの部分では、どんなに速く激しくなっても微塵の乱れも見せない正確なボウの動きに感嘆!それはまるでワインレッドの鎧をまとった女戦士の刀さばきのようでした。曲の最初から最後まで本当に見事に聴かせてくださいました。

アウエルバッハさんのバイオリン協奏曲第2番。いろいろな雰囲気の含まれるこの曲の中では特にゆったりした、でも非常に不気味な感じの部分が印象に残りました。弦楽器の特殊奏法やグリッサンドのかかったトリルなどに加えてチェレスタとベルの音が不安を掻き立てるように響いてとても効果的だなと思いました。後半で最初のテーマがまた戻ってきたのもおもしろかったですね。

もう1曲のバイオリンとピアノの入った協奏曲のほうですが、大阪公演のプログラムには解説がまったく載っていなかったのです。管理人さんのお話ではそれぞれに標題がついているとのことでしたが、それも書かれていなくて何が何だかぜんぜんわかりませんでした。急遽追加された曲のようなので印刷に間に合わなかったのかもしれませんが、標題があるのならそれだけでも載せておいてほしいものです。

#その後,解説文は別刷りで添付されていたことが分かりました。詳細は文末をご覧下さい。

アウエルバッハさんの2つの作品は諏訪内さんにとってとても大切なもののようで、2曲とも途中で弓の毛が切れるほどの熱演ぶりでした。ところが、別の席で聴いていた友人にあとで聞いたところによると「諏訪内さんの指は右手、左手ともにあちこちテーピングだらけでとても痛々しい状態だった」というのです。おそらくこの2曲のために相当激しい練習をされたのではないかと想像しています。金沢でサイン会がなかったのも(大阪でも諏訪内さんのサインはいただけませんでした)手に負担をかけないためだったのかもしれません。

休憩のあとのベートーベンの交響曲第2番。大阪定期公演では毎年ベートーベンの交響曲を聴かせてくれていたのですが、今回の2番をもってシンフォニーホールでの全曲演奏が完結するのだそうです。演奏を聴く前には「ベートーベンを順番にやっていくと最後に残るのはやはりこの2番か…」などと思っていたのですがそれは浅はかな考えであったことがよくわかりました。最初の楽章を聴いてまず思ったのは「何と若々しい演奏か!」ということ。岩城さんの演奏には年齢をへて「枯れる」といった表現はまったく当てはまらないようです。全体を通してさわやかな風が駆け抜けていくようなとても爽快な演奏で、シリーズの最後を飾るのに実にふさわしいものであったように思います。

さて、今回も特筆すべきはアンコールでした。「六甲おろし」は今年はありえないことがわかっていたので今度は何をやってくれるのかと楽しみにしていたのです。拍手が鳴り続け、アンコールを演奏するために舞台袖から出てきた岩城さんの手には指揮棒ではなく何とトライアングルが!それを持ってそのまま指揮台に上がり、始まった曲はベートーベンの「トルコ行進曲」でした。

あの曲のトライアングルには確かに楽譜は要りません。ダイナミクスだけを変えながら最初から最後までずーっと8分音符の「チンチンチンチン」を延々と鳴らし続けるのです。トライアングル以外にバスドラムとシンバルが入るのですが、こちらはバスドラにシンバルの片方を固定したものが用意されていて(そういえばステージのセッテイングを見たときに「あのシンバルつきのバスドラは何に使うのだろう?」と思ったのでした)オケーリーさんが器用に一人でこの二つの楽器を演奏しておられました。

岩城さんのトライアングルは時によろめきながらも(あれは演技だったのでしょうか…?でも実際の話、結構しんどいと思います。)指揮棒の代わりを兼ねて最後まで鳴り続け、トルコの軍楽隊ははるか遠くへ去って行きました。6月に和泉公演を聴いたときにも思ったのですが、OEKの演奏はダイナミクスレンジが非常に広く、このような曲では特に軍隊が次第に近づいてきてまた遠くへ消えていく様子が実に見事に表現されていました。

9月23日の大阪公演はもう定例となっていますが、ベートーベンが全部終わったので来年からは何を聴かせてくれるのか、そして今度はどんな奇抜なアンコールが飛び出すのか、今から1年後が本当に楽しみです。OEKのみなさん、素晴らしい演奏を聴かせて下さってありがとうございました。これからまだまだ続く演奏旅行、がんばってください!(2004/09/24)

(補足説明)
お詫びしなくてはなりません。アウエルバッハさんの作品の解説文、やはり別刷りの印刷物で入っていました。管理人さんのお返事を読んで「えっ!」と思ってチラシの束を見たらその中に…!

シンフォニーホールでは毎回山のようのチラシを束にして渡されます。あまりに多くて会場のゴミ箱に捨てて帰る人が増えたせいか、数年前からは「チラシお持ち帰り用」のビニール袋がクロークのそばに準備されるようになりました。今回もすごい量だったのでその袋をもらって突っ込んで、当日も帰ってからも見る暇がなくそのままになっていたのでした。なんということ!気がつかなかった私が悪いといえばそれまでですが、プログラムを渡すときにひとこと言って欲しかったですね。(2004/09/25)