ギドン・クレーメル&クレメラータ・バルティカ室内管弦楽団演奏会富山公演 
2004/10/18 オーバードホール(富山市)

1)ペルト/ フラトレス
2)モーツアルト/協奏交響曲変ホ長調K.364
3)ショスタコーヴィッチ/ヴァイオリンソナタ ト長調op.134(オーケストラ版)
4)ショスタコーヴィッチ/室内交響曲ハ短調 pp.110a
5)(アンコール)ピアソラ/フーガと神秘
●演奏
クレメラータ・バルティカ
ギドン・クレーメル(ヴァイオリン*1-4),ウラ・ウリジョナ(ヴィオラ*2)

Review by 川崎(富山在住)さん

ショスタコーヴィッチの「ヴァイオリン・ソナタ(オーケストラ版)」。1楽章、余りにも重々しい歩み、ゾウさんか恐竜のそれ。スローモーで予想した手八丁口八丁のしゃきしゃき手捌きはない。作曲家特有の挑発的な姿勢、神経を逆撫でする様な旋律は感じられない。20年ほど前、クレーメルさんでこの曲を聴いている、伴奏はアファナシェフさん。レコードでも、そちらはガヴリーロフさんがピアノ。シャープな切れ味、攻撃的で刺激的、チャキチャキのフットワーク。ツボを心得た臨機応変のスピーディさがあったはず。しかし、今日の重苦しい行進、集団だから敏捷さの欠如。それに合わせて、ヴァイオリニストにもいつものサエ、キレは見られない。近代音楽、現代文明に対するメッセージが聴こえてこない。何かが違う、フラストレーション、編曲への責任転嫁。

2楽章、キバを抜かれたマンモス状態の継続、鈍い音楽。軽快なウィットのジャブ、軽いノリ、丁々発止のヤリトリ、残念だがない。挑みかかるような好戦的無骨さがあった筈。ところが、再現部の途中、オーケストラがメロディーを斉奏した瞬間から事情が一変。音の迫力、総立ちの響きのスサマジサ。この構成の素適さを初めて知る。わだかまりの氷解、よさが目に付く、上質な音楽を味わえる、幸せな時間。

3楽章、音の厚味、迫力を再確認。カミソリ的な繊細なシャープさより、ナタの重厚さが好ましく思う瞬間。ボリウム・スケールワールドに引き込まれ没頭、ヴァイオリニストとオーケストラの対話を一言たりとも聴き逃さんとする。一つの言葉、すぐさま応答、すべて厚く暖かい。エンエンと繰り広げられる細やかでナィーブなヤリトリも、同調者みんなに暖かく迎え入れられる。もはや、デュオとは別な音楽、新しい局面。比較対照とするものなしの文字通り独自な戦い。オリジナルな輝き、聴き手は是非を判断して受容か拒否か態度決定。クレーメルさん、拡大した自分の音楽に酔う、そして私も。

「室内交響曲」、弦楽四重奏曲8番のオーケストラ・ヴァージョン。この作曲家の弦楽四重奏曲、非常に好きな時期があった。少し難解なものでパズルを解く様な楽しみを感じたのかもしれない。ベートーベン・クワルテット(Q)の後期、フリッツウィリアムQの全集が強い印象。今日の8番、25年前にボロディンQで聴いている。一度聴くと心に残るメロディーの宝庫、魅力的。今日の構成、クワルテットの各パートに4〜7人、コントラバスとパーカッションが加わり、クレーメルさんは第1ヴァイオリンのトップの位置。

クワルテットの線の絡み合いが幅を持つ、多数派効果。伸びやかで穏やかな部分は甘いウットリの夢心地。蓄積する不安、苦悩、憂鬱、過去からの脱却、変革、新たなオリジナリティ。少人数ではシャープなヒラメキ、それに深さのベクトルと強さのスカラー積が加わる。ゾクゾク戦慄、心地よい陶酔感。オモサと動き難さを伴うマイナス要素も、若さのバイタリティーでクリア。そうは感じさせない、そうであっても、有り余るファインショットの連発。5楽章、消え入るような微かなツブヤキ、クレーメルさんから各パートのリーダーへ伝わっていく。衆の皆が見守る中での告白・弱音、冷たさでなく暖かくサポート。四重奏ではあくまでも対等、4分の1以上。親密すぎてタイト、逃れられない。白眉、最高の瞬間。

モーツアルトの「協奏交響曲」。この作曲家、得意でないのであまりいうことはない。ヴィオラのウラ・ウリジョナさんの音が内向的でこもりがちであるのが意外。2楽章、クレーメルさんの甘い言葉と暗い道。ベタベタチックで若い女性への話し掛け、露骨なちょっかい、気に入られんとする空しい努力。悦に入っての陶酔モード。対するヴィオラ、冷たいそぶり、無表情でそっけない。、ヴァイオリンさん、お好きに歌って下さい、ご勝手に、私知らないワヨ。このコントラストが面白い。しかし、こんな艶めかしい曲だったッケ、微笑んでしまう。

アンコールはピアソラ。パーカッションのオニイチアンがマリンバでクレーメルさんとの掛け合い。とにかく楽しいエンターテインメント。アンドレ・リューさんの世界と見まがってしまう。この合奏団のプログラム、古典、ロシアもの、現代音楽と全力投球モノの緊張の連続、息抜きのアンコールのはず、イキイキハツラツ、一生懸命興じている。 (2004/10/21)