男声合唱団金沢メンネルコール第28回定期演奏会
2004/10/24 石川県立音楽堂コンサートホール
第1ステージ 男声合唱のための唱歌メドレー
1)源田俊一郎編曲/「ふるさとの四季」より

第2ステージ 北欧の調べ
2)シベリウス/波濤の荒れ狂い
3)クーラ/夕べの雲
4)マデトヤ/もし歌だったら
5)アルヴェーン/海の夜明け

第3ステージ コール・セコインデのステージ
6)清水脩(近藤鏡二郎採譜)/男声合唱のための「アイヌのウポポ」

第4ステージ 金沢メンネルコールのステージ
7)南弘明/男声合唱組曲「月下の一群」第1集〜小曲,輪踊り,海よ,海の秋

第5ステージ バーバーショップの世界III
8)バーンスタイン/ミュージカル「ウェストサイド物語」〜Tonight, tonight
9)When it's darkness on the delta
10)ロジャース/ミュージカル「回転木馬」〜If I loved you
11)Coney Island baby
12)Irish blessing
13)It's only a paper moon
14)黒人霊歌/When I lift up my head
15)ロジャース/ミュージカル「回転木馬」〜You'll never walk alone
16)黒人霊歌/ジェリコの戦い
17)(アンコール)Let's there me peace on the street(?)
●演奏
広瀬康夫(1,6,8-11,14-17);中川達也(2-5,7)指揮
男声合唱団金沢メンネルコール(1-5,7,9,11,13,15,16,17);コール・セコインデ(1,6,8,10,12,14,16-17)
大野由加(ピアノ*1,7),マイク村田(進行)
Review by管理人hs
昨年に引き続き,男声合唱団金沢メンネルコールの定期演奏会に出かけてきました。昨年のこの演奏会は石川県立音楽堂のコンサートホールが超満員となる盛況でしたが,今年の客席も賑わっていました。会場には,どこかアットホームな空気もあり,石川県の合唱界におけるこの団体の存在感の大きさを感じさせてくれました。

今回の演奏会は,ゲスト出演した神戸市の男声合唱団コール・セコインデの歌が大きな聞き所となりました。5つに分けられたステージのうち,合同演奏を含め3ステージにコール・セコインデは登場していましたので,定期演奏会というよりは,2つの団体によるジョイント・コンサートという感じでした。コール・セコインデは,合唱コンクールの全国大会で入賞したこともある実力のある団体ですが,そういう団体と共演(というよりは競演)することで金沢メンネルコールの方も大きな刺激を受けたのではないかと思います。

今回の5つのステージはとても変化に富んでいました。日本の唱歌,北欧の曲,アイヌ民謡を題材とした曲,フランスの詩による曲,バーバーショップと言語だけを取っても多彩なものでした。中では,両団体ともこの数年積極的に演奏しているバーバーショップの曲の「歌合戦」が特に楽しめるものでしたが,その他の曲も充実した内容となっていました。金沢メンネルコールのマイク村田さんによる親しみやすい司会進行の力もあって,誰にでも楽しめるような演奏会になっていました。

最初のステージは,両合唱団の合同演奏による,唱歌メドレーでした。こういう類の曲は,合唱のコンサートではよく取り上げられますが,多彩な表情を持った流れの良いアレンジだったこともあり,とても楽しむことができました。約60人の男声によるたっぷりとした柔らかな響きからは,男声合唱の魅力が伝わってきました。全体的に,滑らかな歌声の気持ちよさが目立ちましたが,「こいのぼり」のような元気の良い曲では,非常に歯切れ良く歌われており,メリハリも効いていました。最後に,冒頭に出てきた「ふるさと」が再現してきて静かに終わりましたが,優しさを感じさせながらも情感に溺れることなく,そこはかとない懐かしさを感じさせてくれました。今回の演奏会には,留学生や障害者の方を含め,とても幅広い層のお客さん聞きに来ていましたが,こういうステージは,是非続けていって欲しいものです。

第2ステージは金沢メンネルコールの単独ステージでした。ここでは,コンクール関連で彼らがレパートリーとしている北欧の曲が取り上げられました。昨年の定期演奏会でも演奏していますので,後半のバーバーショップと並ぶ近年のレパートリーの柱となっているようです。最初の曲はシベリウスの「波濤の荒れ狂い」という曲でした。そのタイトルの割には穏やかな感じの曲でした。どこか宗教的な雰囲気を感じさせてくれるのはシベリウスの「フィンランディア」の中間部などと共通する特徴かもしれません。歌の方もそういった気分を伝えてくれるものでした。その他の曲も民謡風であったり,ほの暗さを感じさせたり,北欧のムードを感じさせてくれました。このコーナー最後のアルヴェーンの「海の夜明け」は,霞の中から夜明けの気分が立ち上がってくるような感じがあり,特に印象的でした。

第3ステージは,コール・セコインデ単独のステージでした。これが本当に見事な演奏でした。第2ステージを聞いて,金沢メンネルコールの落ち着いた味わいのある歌も素晴らしい,と感じたのですが,このステージではさらに強いインパクトを感じました。演奏された「アイヌのウポポ」という曲自体,原始的なエネルギーを強烈に感じさせてくれるとても面白い曲だったのですが,そういう難しい曲をしっかりと再現した合唱団の実力に感動しました。

コール・セコインデは,人数的には20名ほどで金沢の半分ほどだったのですが,金沢に負けない音量がありました。野生的なたくましさとシャープな洗練味を同時に感じさせてくれる素晴らしい歌声でした。最初の曲から太い声,鳥の鳴き声を真似たような声などが次々と出てきて,聞く人の耳を引き付けてくれました。

続く「熊祭り」でも手拍子,足拍子を含む独特のリズムが印象的でした。ニュージランドのラグビー・チームの掛け声のような雰囲気もありました。その後も静かな民謡風の曲と複雑なリズムを持つ曲とが交互に演奏されました。どの曲にも複雑さとシンプルさとが共存したような不思議な味がありました。繰り返しの音型の多い曲でしたが,そのことによって呪術的な気分が出ていたのではないかかと思います。

最後の曲は,ポリリズムというか変拍子というか,とにかく複雑なリズムが根源的な生命力を感じさせてくれる曲でした。ストラヴィンスキーの「春の祭典」ように,古いのか新しいのかわからない独特の魅力を持っていました。とても刺激的な曲でしたが,その世界に浸っているうちに段々と気持ちが良くなってくるような作品でした。

この曲集は,手拍子などのパフォーマンスも含めてとても演奏効果の上がる作品でした。ただし,その前提として,高水準の歌唱が必須になります。コール・セコインデの演奏は,その条件を満たしてくれる素晴らしいものでした。

第4ステージは,金沢メンネルコールの単独の歌による,正統的な感じのするステージでした。曲は「月下の一群」という,ちょっとレトロな訳詩集に曲をつけたものですが,どこか男のロマンのようなものを感じさせるような気分がありました。冒頭の静かな曲から「海よ」のようなスケールの大きな曲へとつながる歌の世界には,陶酔的な気分が漂っていました。第3ステージのような,強いエネルギーが飛び込んでくるようなステージと比べると,少々地味な気はしましたが,この合唱団の積み重ねてきた年季とピタリと雰囲気が合っており,味わい深さを感じさせてくれました。

最後の「バーバーショップ」のステージは,誰が聞いても楽しめるパフォーマンスとなっていました。2つの団体による「歌によるバトル」が続いた後,最後に合同演奏による「バトル・オブ・ジェリコ」で締められました。

このステージでは,基本的には,下手側に黒いシャツを着たメンネルコール,上手側に青いシャツを着たセコインデが並んでおり,それぞれが歌うたびに,ステージ中央に出てくるという形になっていました。それぞれの団体の代表者が両サイドに置いてあるスタンド・マイクで曲を紹介しながら「歌合戦」は進んでいきました。

先攻はセコインデでした。バーバーショップという歌のジャンルは,男声クワルテットになるならば,基本的には何を歌っても良いようで,今回もミュージカル・ナンバー,ゴスペルを中心にいろいろな楽しい歌を楽しむことができました。最初に出てきたのは,ミュージカル「ウェストサイド物語」の中の「トゥナイト」でした。その軽やかで滑らかな歌い方からは,アイヌの曲の時とは全く違ったすごさを感じました。

後攻のメンネルコールの歌では,お得意の「コニー・アイランド・ベイビー」がとても楽しいものでした。1950年代のレトロなラジオから出てくる音声をまねた歌い方は,ベテラン団員の活躍が目立つメンネルコールにはとてもよく合っていると思いました。曲の途中に出てくるクワルテットによる歌にも良い味がありました。

その後は,各団体から4人ずつが前に出てのクワルテット合戦になりました。セコインデの方からは,両団体の久しぶりの共演を記念して「サンクスアゲイン」と名付けられた4人組が登場しました。照明が落とされた会場にロマンティックな歌が流れました。メンネルコールの方からは,指揮者の広瀬さんを加えた,4人が登場しました。こちらは対照的に「ペーパー・ムーン」が軽快に歌われました。こういう曲がピタリと決まるのは,とても格好良いものです。会場でご家族の方などが聞いていたら,惚れ直した(?)のではないかと思います。

両合唱団が,さらにゴスペルとミュージカル・ナンバーを1曲ずつ歌った後,最後に合同で「ジェリコの戦い」が歌われました。この「ジェリコの戦い」は,大変聞き応え,見ごたえのあるパフォーマンスとなっていました。

演奏前,ステージの照明は完全に落とされ,真っ暗になりました。曲が始まり,照明が点灯されると,ステージいっぱいにバラバラと広がった合唱団員たちが,それぞれ「考える人」のようなポーズでしゃがみこんでいる姿がパッと飛び込んできました。しばらく固まったままの緊迫感が続いた後,曲想に合わせて,どんどんと隊列が変わって行きました。マスゲームを思わせるような動きはとてもよく揃っており,ミュージカルの1シーンを見るようなドラマを感じました。ステージいっぱいに広がった状態で歌うと声も会場いっぱいに広がり,「気軽に楽しむバーバーショップ」というイメージを超えた叙事詩的なスケール感を感じさせてくれるものになっていました。おじさんたち(?)の素晴らしい動きを見ているうちに何となく「ウォーターボーイズ」の中の男子高校生によるシンクロナイズドスイミングなどを思い出してしまいました。映画に勝るとも劣らぬ爽やかな感動が会場に広がったのではないかと思います。

今回のプログラムは,バーバーショップのステージを中心にコール・セコインデの広瀬さんが指揮されましたが,この方の身体全体を使った指揮からは,素晴らしい熱気を感じました。今回の演奏会全体が生き生きとした空気に包まれていたのも,この方の指揮の力が大きいと思います。

今回登場した2つの団体を比較すると,コール・セコインデの歌の方に力強い充実感があるような気はしましたが,金沢メンネルコールの方も非常に味のある歌を聞かせてくれました。メンネルコールのステージには,進行役のマイク村田さんの飄々とした語り口に象徴されるように,しっかりと地に足のついた大人の雰囲気があります。今回の「ジェリコの戦い」で,また違った境地を開いたのではないかと思います。昨年同様,PRなどを含めたコンサートの運営が非常にしっかりしているのも気持ち良く感じました。金沢メンネルコールは,2年連続で石川県立音楽堂で定期演奏会を行ったことで,ますますその存在感を高めることができたのではないかと思います。(2003/10/25)