ベルリン・フィル木管五重奏団 スウィートコンサート 2004/11/05 金沢21世紀美術館シアター21 モーツァルト/歌劇「コシ・ファン・トゥッテ」K.588から(木管五重奏版) ダンツィ/木管五重奏曲変ロ長調op.56-1 ラヴェル/組曲「クープランの墓」(木管五重奏版) ●演奏 アンドレアス・ブラウ(フルート),アルブレヒト・マイアー(オーボエ),ヴェンツェル・フックス(クラリネット),シュテファン・シュヴァイゲルト(ファゴット),ラデク・バボラク(ホルン)
*今回は,特別に「色合い」を金沢21世紀美術館っぽく(?)してみました。
■今回登場したのは,ヴェンツェル・フックス,アルブレヒト・マイヤー,アンドレアス・ブラウ,ラデク・バボラク,シュテファン・シュヴァイゲルトという5人の木管の主席奏者でした。ソリストとしても活躍されている豪華メンバーの登場ということと新しく完成した美術館内でのイベントという熱気があわさり,小ホール内にはどこか華やいだ気分がありました(平日の晴れた日の午後にゆったりと音楽を聞けること自体,大変贅沢なことですが)。 ■今回のミニ・コンサートは演奏時間が1時間以内と短かったのですが,本当に間近にベルリン・フィルの方々を見ることができ,その素晴らしい技量と磨きぬかれたアンサンブルの隙の無さをしっかりと味わうことができました。ただし,音楽に浸るという感じにはなりませんでした。このシアター21というホールが恐ろしくデッドな響きだったからです。壁にいっぱい小穴があいているような部屋で残響はゼロでした。生の音がダイレクトに耳に入ってきて,少々疲れました。 ■そういう条件だと,演奏の粗とか音程のズレとかが目立ちやすいのですが,それが全然ありませんでした。やはり彼らの実力はすごいのだ,と思いました。できれば,通常のコンサートホールで聞いてみたかったのですが,逆に貴重な経験ができたとも言えます。このホールは,収容人数が150名ぐらいで室内楽の演奏会には丁度良いのですが(ステージはなく,かなり急な階段状の客席の前に平土間があるという作りになっています),演劇などセリフを聞かせるようなパフォーマンス用のスペースとしての使い方の方が相応しいと思いました。 ■演奏されたのは3曲でした。最初のコシ・ファン・トゥッテの木管五重奏版では,序曲など5曲ぐらいが演奏されました。残響がないため,細かい音の動きがとても良く分かる演奏でした。奏者の中ではラデク・バボラクさんの安定感のあるホルンが特に印象に残りました。 ■2曲目はダンツィのオリジナルの木管五重奏曲でした。初めて聞く曲でしたが,引き締まった音が絡み合うような気持ちの良い演奏でした。 ■3曲目は当初,ピアソラの「タンゴの歴史」が演奏されるはずでしたが,ラヴェルの組曲「クープランの墓」の木管五重奏版に変更されました。この曲は大変難曲だと思うのですが,恐らく,今回のベルリン・フィルの来日公演の後に行われる木管五重奏の公演で演奏される曲なのではないかと思います。 ■第1曲目の冒頭のアルブレヒト・マイヤーさんのオーボエ・ソロからして鮮やかな演奏でした。それでいて慌て過ぎることはなく,サロン風の音楽としての優雅さも感じました(もう少し残響があれば,リラックスして聞けたのですが)。 ■今回登場した,ベルリン・フィルの皆さんは,この日が岡山からの移動日で金沢に到着したばかりだったようですが(そのせいか,開演が15分ほど遅れました),疲れた様子も見せず,始終にこやかでした。衣装もふだん着だったこともあり,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)団員が毎年行っている「ふだん着ティータイムコンサート」を思い出させるようなリラックスした雰囲気もありました(この演奏会は開演が15:00でしたので文字通り「ふだん着ティータイム・コンサート」ということになります。)。 ■美術館内のカフェ・レストランのケーキ付きのチケットも販売していたようですが,今後もこういう企画を考えて行くと美術館の活動の方も盛り上がるのではないかと思います。シアター21だけでなく,美術館の外の芝生スペースや館内の展示スペースを使ったコンサートというのも考えられそうです。 ■この美術館には,”金沢の美術界のOEK”になっていって欲しいものです。 「兼六園−加賀百万石」という伝統文化に対して「OEK−21世紀美術館」という文化が育ってくると,金沢の文化はいっそう面白いものになると思います。 ●金沢21世紀美術館ひとまわり
■この21世紀美術館ですが,展示もさることながら,建物自体がとても独創的なものでした。デジタル・カメラで撮影した写真を交えながら紹介しましょう(展示スペース内は撮影禁止なのでそれ以外の部分の写真だけです)。 ■実は正面玄関がどこにあるのかよくわかりませんでした。あれこれ巡っているうちに本多通り側が正面だと分かりましたが,"立派な玄関"という発想をあえて取っていないのではないかと思いました。上から見ると円形ということもあり,どこからでも入れる気安さのある建物になっていました。フェンスがなく,芝生に囲まれているというのも開放的な気分にさせてくれます。公園の中に美術館があるようなイメージです。 ■建物の中もまた,複雑な作りでした。壁も天井も全部白,床も大部分は白,所々天然光を入れており非常に明るいのですが,そのことによって建物の中の奥行き感がよくわからなくなっていました。展示室のつながりも分かりにくい上,どこを見ても「白,白,白」というとで,白いラビリンスに迷い込むような面白さがありました。 ■今回,有料スペースでは「21世紀の出会いー共鳴、ここ・から」という展示(というか施設と一体化している感じ)を行っていましたが,無料スペースも大変充実していました。入口は意外に狭かったのですが,入ってみるとかなり広く,お金を払わなかったとしても十分楽しめると思いました。 ■展示物の方は正直なところ,「何じゃこりゃ」というものばかりなのですが,それにも関わらず結構大掛かりなものが多く(メンテナンスが大変そう。窓ガラス拭きも大変そう。),その大きさだけで圧倒しているような気がしました。建物の構造にしてもそうですが,機能性よりは遊び心を優先しているようなところがありました。 ■賛否両論あるでしょうが,私はこういうのは大好きです。「何じゃこりゃ」と頭をひねっているうちに,日常の雑事が忘れられるようなところがあります。こういう建物の中にいる自分自身がアートの一部に溶け込んでしまうような感じがします。映画「マトリックス」などを好むような世代には特に好まれるのではないかと思います(映画「燃えよドラゴン」に出てくるような”鏡の自動ドアの連続”というのもありましたが)。 ■いずれにしてもよくこういう大胆なコンセプトの美術館(しかも兼六園の目の前に)を公立の建物として作ることができたな,と思います。石川県立美術館の方は石川県の伝統にこだわった超保守的な感じの美術館ですので,かえって超モダンな発想を取り入れやすかったのかもしれません。いずれにしても金沢に来られた方には是非立ち寄って頂きたい施設だと思います。(2004/10/25) |
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