邦楽器&オーケストラ・アンサンブル金沢
ジョイント・コンサート
2004/11/14 石川県立音楽堂コンサートホール
1)宮城道雄(池辺晋一郎編曲)/春の海
2)堀内貴晃/小編成管弦楽のためのCapriccio「あばれ祭りによせて」
3)清水目千加子/幻想天女
4)宮城道雄(近衛秀麿,近衛直磨編曲)/越天楽変奏曲
5)小山薫/おてもやん:尺八とオーケストラのために(初演)
6)多田栄一/八木節幻想曲:尺八とオーケストラのために(初演)
7)牧野由多可(多田栄一編曲)/日本の心「海」
●演奏
ギュンター・ヒヒラー指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス)
砂崎知子(箏*4,7),山本邦山(尺八*5-7),石川県箏曲連盟(箏合奏*1),石垣清美,沢井箏曲院(箏合奏*7),特別編成合唱団(もりのみやこ合唱団及びOEK合唱団の有志*7),水野好子(構成・演出)
Review by 管理人hs

この数年恒例になっている邦楽器とオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)によるジョイントコンサートに出かけて来ました。今回,私はOEK定期会員ご招待の券(3つのコンサートの中から選べる券です)で入場したのですが,そういう人と邦楽関係者が大挙してやってきたせいか,会場はほぼ満席でした。客層は,いつもとどこか違う感じでしたが(演奏後の拍手が少なく,タイミングの入れ方もどこか違っていました。会場内で飴玉の袋などをガサゴソさせている人などもチラホラ),とても熱気のある会場でした。

今日の演奏会にはOEKと邦楽器奏者の共演に加え,最後の曲には合唱団が加わっていましたので,コースの料理を順番に食べて行った後,大皿に豪華に盛り付けられた和食を食べたような趣きがありました。山本邦山,砂崎知子という邦楽器の第1人者の演奏も楽しむことができ,豪華な気分のある演奏会となりました。

最初の曲は石川県箏曲連盟のメンバーが加わっての「春の海」でした。箏二十数面がステージ手前の赤じゅうたんの上に並ぶのを見るのは壮観で,した(「琴」と「箏」の区別ですが弦の本数が1〜12本までは「琴(きん)」,13本以上からは「筝(そう)」と呼ぶとのことです。ちなみに1台,2台...ではなく1面,2面...と数えます。)。上手からパステル調の上品な色合いの着物を着た女性たちが入って来ると会場は一度に華やかになりました(そういえばこの日は,音楽堂の内外で着物を来た女性をたくさん見かけました。)。ピヒラーさんの方は,ステージ前面にあまりにもぎっしりと箏が並んでいましたので,すんなりと指揮台にまでたどりつくことが出来ず,一旦客席に降りた後,再度ステージに上って指揮台に到着しました。

テンポ設定はかなりゆったりとしたものでした。箏の合奏に配慮したテンポだったのかもしれません。この曲のオリジナルは,箏と尺八による二重奏なのですが,箏の合奏だと,スケールの大きなゆったりとした海の雰囲気になります。そこに入ってくるのがオーボエ・ソロです。音質的にはフルートの方が尺八に似ていますが,オーボエだと箏の合奏の中から鮮明に音が立ち上がってくるような感じになります。

池辺さんのアレンジは,原曲に忠実なもので,箏の合奏とオーケストラの鮮やかな音とが掛け合いをしながら進んで行きます。原曲の良さをそのまま残して,曲に艶やかさと暖かなスケール感を付け加えたような見事なアレンジだったと思います。

次のコーナーは,OEKのみの演奏だったのですが,その前に車椅子に座った女性が舞台袖に登場して,曲の解説などをされました。はっきりと名乗っていなかったようですが,今回の演奏会の演出・構成を担当した水野好子さんだったようです。

その後,数年前,OEKがアンコール・ピースを公募したコンクールで優秀作に選ばれた2曲が演奏されました。どちらも石川県をイメージした曲ということで,邦楽器とはとても良い取り合わせでした。

堀内貴晃さんの「あばれ祭りによせて」は,このコンクールで最優秀だった作品です。今回の演奏は,その時以来の再演になります。躍動感のあるとても面白い曲なのですが,初演を行った岩城さんが「難しくて演奏不可能に近い曲」と語っていたとおり,オーケストラにとってはかなりの難曲のようです。

ただし,今回聞いた感じでは,以前よりも”あばれ具合”が少なくなっていた感じでした。「あばれ祭り」の野性味よりは,むしろ新古典主義的な整った演奏という印象を持ちました。月日が経つと,曲そのものに対する感じ方も変わってくるものなのかもしれません。テンポも初演時よりも幾分ゆっくりだったような気もしますが,この辺は定かではありません。

とは言うものの,打楽器を和太皷のバチのように使った,イキの良さは,祭りの雰囲気に相応しいものでした。この曲は,短い曲ですので,機会があれば,OEK1000シリーズなどにも加えて欲しいと思います。

続く,清水目さんの「幻想天女」の方は,過去数回演奏されたことがあります。こちらは,CD化・DVD化もされていますので,私の耳にも馴染んでいます。映画音楽的な聞きやすさがあり,金沢の風景にもよくマッチしそうな曲です。ピヒラーさんのテンポは,ここでもかなりゆっくりしたもので,ねっとりとした柔らかさを感じました。

前半最後の,「越天楽変奏曲」はとても重厚な作品でした。冒頭,大太鼓が「ドン」とやった後,小太皷の「トントントン...」という音が続き,木管楽器などが音程を微妙に揺らして”黒田節”のメロディを演奏する辺り,雅楽のムードが見事に再現されていました。曲はオーケストラと箏とが交替で出て来るような感じで進んで行きます。

最初の「春の海」の合奏に比べると,箏のソロからはより凛とした雰囲気が感じられます(不自然にならない程度にPAを使っていたようでした)。今回の砂崎さんの箏の響きには,特にそういうピリっとした感じがありました。途中,ファゴットとヴィオラのソロもあり,オケの見せ場も多い曲でした。

前半では,「春の海」と「越天楽」という邦楽・雅楽の名曲のオーケストラ版を聞いたのですが,どちらも聞き応えのあるものでした。オーケストラで演奏する邦楽には,もう少し違和感があるかと思ったのですが,「これがオリジナル」と思えるほどこなれたアレンジだったと思います。

後半は,人間国宝の山本邦山さんの尺八が加わって,尺八とオーケストラのための日本民謡が2曲演奏されました。2曲ともこの日が初演で,いずれも短めのさっぱりした曲でした。

最初の「おてもやん」の方は,オーケストラと尺八がチョッカイを掛け合いながら進んでいく曲でした。尺八の息が抜けたような音は,オーケストラの滑らかな音の中だとザラっとした違和感が残ります。それをうまく生かしたアレンジだったと思います。曲は原曲ほどふざけた感じではありませんでしたが,打楽器をはじめとして,さり気ないユーモアを感じさせてくれる曲でした。

次の「八木節」の方は,予想と反して静かな曲でした。八木節のオーケストラ版と言えば,外山雄三さんの「ラプソディ」の最後の部分を思い出すのですが,どちらかというと,この曲の中間部の静かな部分に似た静謐さの感じられる曲でした。ざわざわとした雑音の中から八木節が何となく聞こえて来るというのは,文字通り幻想的でした。

演奏会最後の曲は,オーケストラ+混声合唱+箏合奏+箏独奏+尺八独奏という大掛かりな編成の曲でした。ここでの箏合奏は,石垣清美さんと沢井箏曲院の皆さんでした。ピンクや黄色といった,前半の石川県箏曲連盟の皆さんよりももっと派手な色合いの着物で登場されていましたが,演奏の方もさらに表情豊かでした。この曲では,海をテーマにしたお馴染みの曲がメドレーで演奏されたのですが,箏の音は,波の音のような多彩でダイナミックな表情を見せていました。特に黄色い着物を着ていた石垣清美さん(多分)は,所々「バチン」という感じのかなり強い音を出しており視覚的にも聴覚的にも印象的でした。

曲は,「砂山」「浜辺の歌」「出船の港」の順で進んで行きました。たっぷりとした合唱の響きが加わって,次第にスケールアップして行った後,尺八と箏による「春の海」がカデンツァのように入ってきます。この部分は,まさに「正調春の海」という感じの見事さでした。特に山本邦山さんの,力強い尺八の響きは惚れ惚れとするようなものでした。最後は,「浜千鳥」となるのですが,ここでは,何とラテン系の盛り上がりを見せます。ここまでやると,「これが邦楽?」という感じもしましたが,「マツケン・サンバII」の例もあるとおり(変な例で申し訳ありませんが),着物を着ながらのラテンというのも妙な祝祭感があります。コンサート全体のクライマックスに相応しい盛り上がりを作っていました。

今回の演奏会は邦楽と現代音楽に力を入れているOEKならでは,金沢ならではの企画だったと思います。大勢入っていたお客さんも多彩な内容を十分楽しんだのではないかと思います。(2004/11/15)