丸岡映美箏リサイタル#2
2004/12/05 金沢市アートホール
1)千秋次郎/双樹(Twin Trees)(1989年)
2)唯是震一/神仙調舞曲(1951年)
3)中島靖子/十七弦独奏のための4つの即興曲(1976年)
4)秋岸寛久/2つの淡彩画(委嘱初演,2004年)
5)長沢勝俊/箏協奏曲(1979年)
●演奏
丸岡映美(箏*2,5,二十絃箏*1,十七絃箏*3,4),宮越圭子(十七絃箏*1,4,5),坂本ゆり子,丸岡雅楽義,奥村雅泉,丸岡雅邦,友松さつき,徳野麻紀(箏*5),柴野雅楽裕(十七絃箏*5)
Review by 管理人hs  野々市町TENさんの感想

今日はいつもとは趣きを変えて邦楽の演奏会に出かけてきました。金沢出身で日本音楽集団で活躍されている丸岡映美さんという箏奏者のリサイタルです。今回,その関係者の方から演奏会にご招待頂いて出かけてきました。

純粋な邦楽の演奏会に出かけたことは,これまでほとんどないのですが,今回のリサイタルについては,西洋のクラシック音楽を聞くのと全く同じスタンスで楽しめました。箏といっても椅子に座って演奏されていたし,衣装も前半は洋服でした。そういう外見的な雰囲気に加えて,演奏された曲自体にも「邦楽=畳の上で聞く地味な音楽」といった一般的なイメージとは少し違う,「コンサートホールで聞かせる音楽」といった積極的な気分が感じられました。

この日は全部で5曲演奏されましたが,1つとして同じ編成のものはありませんでした。通常の十三絃の箏に加え,十七絃,二十絃の箏などいろいろな楽器を使い分けていました。重奏やアンサンブルでの演奏もあり,箏という楽器で統一感を作りながらも,変化に富んだ構成となっていました。

最初の曲は二十絃箏,十七絃箏という二面の箏による重奏でした(私のところから見た感じでは楽器自体にそれほど大きな違いは感じられませんでした)。箏の音というのは,パチンとはじいているだけあって,立ち上がりの音がとてもクリアで,一音響くだけで,会場の空気が変わります(これはもちろん演奏の素晴らしさによると思います)。十七絃,二十絃の箏といってもそれほど重苦しい感じにならないのも箏の特徴です。パワーで圧倒するようなところはなく,繊細さとキレの良さを鮮やかに印象づけてくれました。箏については,アートホールぐらいの大きさのホールで奏者の息遣いを感じながら聞くのが最適だと思いました。

最初の双樹という曲は1989年の作品ですが,比較的オーソドックスでまとまりの良い曲でした。途中,リズムのノリが良くなるあたりの軽やかさが良いなと思いました。

次の2曲は丸岡さんの箏独奏による演奏でした。神仙調舞曲という作品は,唯是震一さんが1951年に作曲した曲で,1曲目よりもさらに古典的な雰囲気のある曲でした。曲自体3楽章からなっている上,ソナタ形式,ロンド形式という西洋音楽を意識した形式が使われていますので,”箏ソナタ”という感じでした。ただし,音階は和風で,メロディも素朴な民謡風なので,西洋風という印象は全くありませんでした。

丸岡さんの箏の音は,とても鮮やかで空気と一体になったような軽やかさを感じました。第1,2楽章の素朴なメロディにも典雅でスマートな上品さが漂っていました。3楽章のロンド風の部分も慌てすぎるところはなく,落ち着きがありました。

次の4つの即興曲の方は,十七絃箏用の作品ということで,表現の幅の広さを感じました。この楽器自体新しい楽器で,ヴァイオリンに対するチェロ,アルトサックスに対するテナーサックスといった位置づけの楽器です。曲はゆっくりとしたテンポで始まり,とても幻想的な気分がありました。最後の方の曲では,テンポアップし,タイトルどおりの即興的な勢いを感じさせてくれました。

十七絃箏の演奏は,かなり大変そうでした。琴柱を頻繁に移動させたり,奥の方の絃を弾くために立ち上がって手を伸ばすようにして演奏したり,と忙しそうでした。指にはめている「つけ爪」で弾く場合と普通の指で弾く場合とでも音色に違いがありますので,非常に多彩な表現ができる楽器だと思いました。その表現の幅が広い分,演奏の方も複雑さが要求されると言えそうです。

後半の最初に演奏された「2つの淡彩画」は初演でした。タイトルの雰囲気同様,フランスの印象派の音楽のような感じで始まりました。これまでの曲にない精妙な響きがありました。この曲は丸岡さんとその師匠の宮越さんとの二重奏でしたが,まず最初に出てきた宮越さんの深みのある低音が印象的でした。

後半はもう少しエキゾチックな感じになります。そういう部分では,ハンガリーの民族楽器のツィンバロンのような響きが感じられました。途中,二台同時にものすごいグリッサンドをするところがあるのですが,その部分の迫力はゾクっとするほどでした(その後,一瞬止ったように感じましたが,気のせい?)。曲の終わり方が,さり気ない感じだったことも含め,この日演奏された曲中ではいちばん現代的な感じのする曲だと思いました。なお,この日,作曲者の秋岸さんが会場にいらしゃっており,演奏後,ステージに登場されてました。

箏という楽器は現代曲を弾いても,それほど前衛的な感じにならないところがあります。古典と一緒に演奏しても違和感を感じさせません。ピアノやヴァイオリンなどで現代曲を聞くと「前衛的だ」と感じることが多いのですが,箏で聞いた場合,どういう曲でもスッと耳に入ってきます。ハープのソロを聞いたときも同じようなことを感じたのですが,大昔からある楽器にはそういうところがあるのかもしれません。

演奏会の最後は,箏協奏曲でした。協奏曲と言っても,オーケストラと箏の協奏曲ではなく,箏同士による協奏曲です。丸岡さんがソリストとなり,8人の箏,十七絃箏奏者が取り囲むように配列しました。後半のステージでは,丸岡さんを含め,全員美しい色合いの着物で登場しましたので,とても華やかな舞台となりました。

まず,宮越さんの十七絃箏による大船に乗ったようなゆったりとした伴奏が出てきました。その上に丸岡さんの軽やかな箏独奏が入ってきます。同じ箏の中で,爽やかに浮き上がっていました。

第2楽章の方は華やかなフィナーレとなります。カデンツァが入った後,力強く盛り上がります。この曲については,かなり伝統的な曲のような雰囲気があり,演奏会を締めるのに相応しい充実感がありました。

今回,箏だけの演奏会というのを初めて聞いたのですが,とても楽しめるものでした。箏の場合,奏者とお客さんとが真正面から向かい合うような形になります。奏者は,自分の手の内を全部さらすような感じになります。両手を使い,かなりダイナミックな動きもありますので,視覚的にもとても楽しめます。美しい着物を見られるという楽しみもあります。機会があれば,また丸岡さんをはじめとする箏の生演奏を聞いてみたいと思いました。

PS.箏の演奏を見て面白いと思ったのは,演奏が終わった後,絃の残響を止めるためにパッと絃を押さえる点です。この動作は「曲の終わりの目印」になります。(2004/12/05)



Review by 野々市町TENさん

管理人さんの的確な評がありますが印象を書いてみます。丸岡さん自身金沢での二度目のリサイタル、前回も意欲的なリサイタルでとりわけゲストの宮越桂子さんの演奏が刺激的で今回も大いに期待した。近年、クラシックファンにとってはOEKとのジョイントなどで箏曲演奏を聞くのも随分なじんできた。

「双樹」宮越さんの十七絃、深みのある幻想的な空間が広がる。競い合うのでなく語り合うような親密さを感じる。二十絃、この楽器になじみが薄いのだが高音が少し固く響く。リズミックな豊かさの中で、ふと、バッハの組曲をこの楽器で演奏しても面白いかなと感じた。

「神仙調舞曲」素朴な曲調に通常の十三絃ソロ、丸岡さんにも少し余裕が感じられた。転調の面白さをもっと強調して変化をつけてもよいのでは。

「四つの即興曲」十七絃のソロはかなり技術的な労苦が伴うのだろう。ところどころリズムの刻みや細かいパッセージにぶれがある。不協和音的な響きも今ひとつすっきりしない。もう少し激しさも求めてみたい。

「二つの淡彩画」丸岡さんによる委嘱作品初演。邦楽では個人が委嘱することは珍しくはないそうだが宮越さんとの十七絃の二重奏曲。このリサイタルにかける意気込み、意欲に大いに敬意を表する。変拍子的なリズムの処理にやや雑な感じがする。モーツァルトの二台のピアノのための作品でもそうだが同一楽器の二重奏はどうしても中音域が重なりすっきりしにくい。 

「箏協奏曲」合奏群のメンバーが心から丸岡さんを応援している。競奏はしない。そこに宮越さんが三拍子のリズムを正確、かつしなやかに支え、丸岡さんものびのびとソロを繰り広げる。T箏の坂本さんが美音でこれに答える。ニュアンスが豊かで力強く締めくくられた瞬間よかったなとこちらの緊張もようやくほぐれた。

今回は工夫された編成や曲選考のプログラムだったが、多少の無理もあったような気もするが、このステージで丸岡さんもまた階段をひとつ上ったことだろう。個人的には一層宮越さんのファンになった。技術的にはもちろんのこと、音楽をする喜びにあふれている。

合奏群のみなさんはお行儀がよすぎるのではないか。愚問だが出演者のお名前が本名だったり、雅号だったりするのはどんなルールがあるのだろうか。(2004/12/06)