クリスマス・メサイア公演
2004/12/26 石川県立音楽堂コンサートホール
1)クリスマス・キャロル
2)久石譲/映画「天空の城ラピュタ」〜君をのせて
3)赤鼻のトナカイ
4)林光/オペラ「森は生きている」〜黄金の太陽
5)榊原栄編曲/クリスマス・ソング・メドレー(諸人こぞりて,もみの木,赤鼻のトナカイ,ホワイト・クリスマス,サンタが街にやってくる,天には栄え,ジングルベル,きよしこの夜)
6)ヘンデル/オラトリオ「メサイア」(抜粋,7-11,19,21,27-30,33-35,37,41,45-46,49-52曲は省略)
8)(アンコール)きよしこの夜
●演奏
朝倉喜裕指揮北陸聖歌合唱団(6,8),保田紀子(オルガン*6,8),山内博史(トランペット*6)
朝倉あづさ(ソプラノ*6),池田香織(メゾ・ソプラノ*6),君島広昭(テノール*6),篠部信宏(バス・バリトン*6)
春日敏美(1-3)指揮北陸学院高等学校ハンドベルクワイア(1-4,8)
篠原陽子(4-5)指揮OEKエンジェル・コーラス(4-5,8),北陸学院高等学校聖歌隊(5,8),清水史津(ピアノ*5)
Review by 管理人hs  

半世紀以上に渡り,クリスマスの時期に金沢でメサイアを歌っている北陸聖歌合唱団によるメサイア公演に出かけてきました。ここ数年は,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)または金沢弦楽合奏団との共演だったのですが,今年はパイプオルガン(一部の曲にはトランペットが加わっていました)伴奏による演奏でした。こういう編成による演奏も大変魅力的なものでした。

このメサイアという作品は,宗教音楽ではあるのですが,演奏会用に作られた作品です。それをパイプオルガンで演奏すると,教会用の音楽のように響くのが面白いところです。そのせいか,じっくりとしたテンポでオーソドックスに演奏されていながらも,毎年聞いているのとは一味違った新鮮味が感じられました。

このメサイアに先立って,北陸学院高等学校の生徒とOEKエンジェルコーラスによって,クリマス・ソングが演奏されました。最初に登場したのは,北陸学院高等学校ハンドベルクワイアでした。実は,ハンドベルの演奏をこうやってコンサートホールでじっくりと聞くのは初めてのことです(私自身,何故か宴会芸(!)でハンドベルを演奏したことはあるのですが)。

ステージには赤い布に覆われた長い机が置いてあり,その後に15人ほどのクワイアのメンバーが立ってハンドベルを演奏します。ハンドベルは振って音を出すだけかと思っていたのですが,ベルを布の上に置いたまま艶を消したような音を出してリズムを刻んだり,釣鐘のように大きなベルがあったりと,音色に変化がありました。ベルの音にも硬質な冷たさよりは,透明感のある暖かさが感じられました。大勢で演奏しているのに音の粒が揃っているのも素晴らしいと思いました。「赤鼻のトナカイ」のような速い曲でスピード感を出すのは難しいのですが,その代わりに常に優雅な感じが漂います。コンサートホールで聞くハンドベル演奏も良いものだなと感じました。

その後,OEKエンジェルコーラスとハンドベルの共演で,林光の「黄金の太陽」という曲が演奏されました。児童合唱とハンドベルという”純粋なもの”同志の取り合わせがピタリとはまっていました。

ハンドベルクワイアが引っ込んだ後,今度は北陸学院高等学校聖歌隊が入ってきて,クリスマス・ソング・メドレーになりました。このメドレーは昨年も歌われたものですが,100人ぐらいの合唱で,明るく率直にパリっと歌われた演奏は聞き映えがしました。それにしてもOEKエンジェル・コーラスは大活躍です。24日に音楽堂で行われた「くるみ割り人形」にも登場したはずですので,ここ数日は練習が大変だったのではないかと思います。

引き続いてメサイアのステージになりました。前半はいろいろな団体が入れ替わり立ち代り出てくる形になりましたので,この辺りで一度休憩が入っても良いような気もしました。

今回のメサイアですが,昨年同様,抜粋版で演奏されました。ただし,主要な曲は入っており,「大曲メサイアを聞いた」という充実感を十分感じさせてくれるぐらいのボリュームはありました。

上述のとおりパイプオルガン伴奏ということが今回の公演のいちばんのポイントでした。そのせいか全般に遅めのテンポ設定となっていました。今回のパイプオルガンはサイトウ・キネン・オーケストラなどで活躍している保田紀子さんが担当しましたが,さすがに通常,弦楽器などで演奏する速いパッセージなどでは,オルガンで演奏するのは苦しそうな部分がありました。テンポを合わせるのが難しい部分もあり,少しハラハラする部分もありましたが,オルガンで聞くメサイアにもいつもとは違った魅力がありました(保田さんはオルガンステージから”バックミラー風小型モニター画面”で指揮を見ていてようですが,これだけ指揮やソリストと距離があると速いテンポの曲を合わせるのは至難の技なのかもしれません)。

先に書いたとおり,教会でメサイアを聞いているような敬虔さの感じられる演奏でした。北陸聖歌合唱団の歌は,バランス的に男声低音が弱いようなところはありましたが,その年季の入った歌には真摯さと暖かさのありました。じっくりとしたテンポ設定に相応しい歌だったと思います。

曲はオルガン独奏による序曲で始まりました。パイプオルガンの重低音は,音の圧力的には室内オーケストラの音量を上回る点がありますので,一気に大曲の世界に引き込んでくれる力がありました。

続いてテノールの君島さんの独唱になります。今回の独唱の皆さんの歌はどなたも素晴らしいものでした。個々の歌もさることながら,4人全体の雰囲気がバランス良く揃っていたのが,良かったと思いました。ソプラノの朝倉さんが白のドレス,メゾ・ソプラノの池田さんが黒のドレスでしたので,ステージ全体が白黒のモノトーンで統一されていました。このことも演奏の気分に相応しいものでした。

テノールの君島さんの声は,節度のある中に,そこはかとなく甘さが漂うもので,大変魅力的な声でした。パイプオルガンのテンポと合わせにくそうな感じはありましたが,朝倉さんが本当にしっかりと指揮をされており,その指揮ぶりが,かえって強い情熱と緊張感を生み出していたような気がしました。

バス・バリトンの篠部さんは外見はとてもスマートな方でしたが,とても引き締まった充実感のある歌を聞かせてくれました。メゾ・ソプラノの池田さんは,昨年に続いての登場です。昨年同様,大変見事な歌でした。常に凛とした品の良さと瑞々しさがありながら,でしゃばるようなところのない歌で,宗教曲にぴったりの聞いていて癒される声でした。

12番の合唱曲では,"Wonderful"という言葉が出てくる辺りのきらめきが素晴らしいと思いました。パイプオルガンの華やかの音がこの言葉に重なって出てくるのですが,オーケストラ伴奏の時以上に効果的でした。

その後のクリスマス物語の部分では,メサイア公演ではすっかりお馴染みのソプラノの朝倉あづささんの歌が出てきます。朝倉さんの声は,軽やかさの中に暖かい優しさを感じさせてくれるもので,この部分の気分にはぴったりです。

17番の合唱曲では,山内博史さんのトランペットが加わりました(トランペットもオルガンステージでの演奏でした)。このトランペットもまた効果的でした。その後も曲の後半を中心にトランペットは要所要所で登場しましたが,その使い方が限定的だっただけに,登場したときの輝かしさが光っていました。この曲でも「高きところ...」と「地には...」というコントラストをトランペットの高音とオルガンの重低音とで象徴しているようでした。

第1部の最後は池田さんと朝倉さんの歌の競演で結ばれました。上述のとおり,言うことのない素晴らしい歌でした。お二人ともすっきりとした歌い方で崩れることのない安定感のある歌を聞かせてくれました。メゾ・ソプラノ→ソプラノと続くのですが,違和感なく優しい歌の世界に浸ることができました。

ここで休憩が入った後,第2部,第3部の抜粋が続けて演奏されました。後半の最初の部分でも,池田さんのしみじみとした23番のアリアが大変印象的でした。今回は前半部分しか歌っていなかったようですが,このまま後半も聞いてみたいなと思わせるような深みを感じさせてくれる歌でした。

その後は合唱曲が続きます。第26番の"All we like sheep"ではオルガンの動きがかなり苦しそうで,ハラハラするような感じがありましたが,どの曲も堂々としたテンポで歌われており,充実感がありました。

第40番のバス・バリトンのアリアも,速い曲なので合わせにくそうな感じでした。やはりこの曲は,もう少しスピード感と力強さがあると良いかなと感じました。

第2部最後のハレルヤ・コーラスは堂々とした演奏でした。この曲ではトランペットに加え,4人の独奏者も一緒に歌っていましたので,輝かしい雰囲気もありました。遅めのインテンポで歌われ,次第にスケールの大きな品格が出てくる感じでした。結びの部分の大きな間の取り方もピタリと決まっていました。

第3部は大部分が省略され,3曲だけが演奏されました。トランペットとバリトンが入る第48曲では,山内さんのトランペットが本当に見事でした。ここ数年聞いた中ではいちばん輝かしさと安定感のある演奏だったような気がします。

最後のアーメン・コーラスもまた堂々たるテンポ設定でした。後半の”アーメン”の部分では,4人の独唱者も加わり,全員が一丸となったクライマックスを築いていました。今回のメサイアは非常に堂々としたテンポ設定だったのですが,それを最後まで強力に引っ張った指揮者の朝倉さんと見事に歌いぬいた合唱団のエネルギーに大きな拍手を送りたいと思います。

今回指揮をされた朝倉喜裕さんは,ここ数年はずっと合唱指揮を担当されていたのですが,今回は,OEKが登場しなかったこともあり全体の指揮をされました。合唱団としては,練習と本番が同じ指揮者なので,安心して歌うことができたのではないかと思います。その分,意外性は少なかったのかもしれませんが,曲に対する情熱が伝わってくるような指揮ぶりは感動的でした。奇を衒わない真摯な歌は,聞いていてとても気持ちの良いものでした。

今回のような,パイプオルガン伴奏によるメサイアが珍しいものなのかどうかは分からないのですが,そのことによって,オーソドックスでありながらも新鮮さのある演奏になっていたと思います。聞く前は,オーケストラ伴奏版よりも物足りない点が出てくるのでは,と少し危惧していたのですが,そういうところは全然ありませんでした。逆に,こういう形の上演も良いかなと思いました(ずっと弾きっ放しだった保田さんは大変な重労働だったと思いますが。)。

最後に,OEKエンジェルコーラス,ハンドベル,北陸学院高等学校聖歌隊が再度登場し「きよしこの夜」がアンコールとして演奏されました。今回の真摯なメサイアを受けるのに相応しい,暖かみのある歌でお開きとなりました。(2004/12/27)