ライネッケ連続ピアノコンサート2004/金澤攝
第4回

2004/12/27 石川県立音楽堂交流ホール

1)ライネッケ/真面目さと楽しみ:12の練習曲と12の舞曲op.145
2)ライネッケ/レントラーop.152
3)ライネッケ/4つのピアノ曲op.157
4)ライネッケ/言葉のないメルヘン:10のピアノ曲op.165
●金澤攝(ピアノ)
金澤攝,高久暁(プレトーク)
Review by 管理人hs  

今年の9月末から毎月1回ずつ行われてきた,金澤攝さんのピアノ独奏によるライネッケ連続ピアノ・コンサートの4回目に出かけてきました。このシリーズでは,デンマーク生まれで19世紀を中心にドイツで活躍した「知られざる作曲家・ライネッケ」のピアノ曲を年代順に演奏してきましたが,4回目はライネッケ50代の作品が4曲演奏されました。私自身,このシリーズを聞くのは第1回目以来なのですが,前回同様,今回の作品も分かりやすい曲が多く,埋もれている作品を発掘する楽しみを金澤さんと一緒になって味わうことができました。

今回のプレトークは,金澤さんと高久暁さんによる対談でした。高久さんは金澤さんの友人で,音楽評論家としても有名な方です。金澤さんからの依頼でドイツの図書館などで,ライネッケの楽譜のコピーをとったりしたそうですが,その楽譜集めの作業も大変な仕事だったようです。今回はそのコピーの譜面を見ながらの演奏でした。こういう光景も金澤攝さんの演奏会ならではの光景かもしれません。

最初の「真面目さと楽しみ」という曲は12曲からなる教育用の練習曲集です。レントラー,マズルカ...といろいろな舞曲が並び,練習曲でありながら"世界舞曲めぐり"という感じになっているのが面白い点です。ただし,私自身,この日の日中,職場の大掃除でかなり体がくたびれていたせいもあり,聞いているうちについうとうととして,どの舞曲を演奏しているのか段々とわからなくなってきました。いくつか印象的な曲はありましたが,比較的シンプルな曲が多かったせいか,全曲通してだと結構長く感じてしまいました。

次のレントラーはとても良い曲でした。ラヴェルに「優雅で感傷的なワルツ」というピアノ曲がありますが,曲の作りとしてはそういう感じかもしれません(このラヴェルの曲自体,シューベルトの曲を真似て作ったようなのですが)。ワルツのリズムに乗った幻想的な雰囲気が魅力的でした。

後半の最初の4つのピアノ曲は,この日の作品の中ではいちばん重量感のある作品でした。夜想曲,葬送行進曲,リゴードン,前奏曲とフーガという4つの曲から成っているのですが,どの曲も大変充実した響きを持っていました。

最初の夜想曲にはショパンの曲にシューマンの文学的な気分が混じったような落ち着いた雰囲気がありました。第2曲の葬送行進曲は途中からフォルテになり重厚さを増してきます。第3曲,第4曲はタイトルはバロック音楽風ですが,第2曲に輪をかけて激しく盛り上がるヴィルトーゾ風の曲でした。リゴードンもすごいと思ったのですが,第4曲も同様に技巧的な盛り上がりがあり,曲の後半に行くほど大きく盛り上がるような構成になっていました。

金澤さんの演奏は,鮮やかに技巧を見せつけるというというよりは,もやもやとした空気と鬼気迫るような迫力を激しく伝えるような演奏でした。楽譜に対して常に真面目に立ち向かい,曲の持つ気分をしっかりと表現しようとする金澤さんの演奏姿勢をよく伝える演奏だったと思いました。

最後の曲は10曲の小曲からなる作品でした。各曲に「ばらの精の行進」「かっこうと小川」といった標題が付いているとおり,メルヘン的な気分を伝える小品集となっていました。どの曲もストーリーを持っているわけではないのですが,背後に物語性を感じさせてくれる曲ばかりでした。特に真ん中辺りに出てくる「愛の幸福」という曲はとてもしっとりとした曲でした。どの曲にも「本当は怖いグリム童話」といった感じの幻想味がありましたが,この辺の気分は,ライネッケのピアノ曲の特徴かもしれません。

後半の速い動きのある曲などでは,もう少し鮮やかさがあるといいかな,とも思いましたが,先に書いたような”ちょっと不気味な感じ”には相応しかったかもしれません。最後の「婚礼の行列」は重厚な雰囲気の曲で特に印象的でした。ライネッケは元々はデンマーク出身なのですが,そのせいか北欧の曲のような気分がある曲だと思いました。

というわけで,50代のライネッケのピアノ独奏曲の世界をあれこれ楽しむことができました。ライネッケは,ドイツのピアノ音楽の歴史を一人でまとめてしまったようなところがあります。それはタイトルを見るだけでもわかります。今回演奏された4曲も,4つの小品を中心にどの作品も完成度が高く聞き応えのあるものばかりでした。

金澤攝さんは,知られざる作品を発掘する活動を20年以上されていますが,今回のような曲を聞いていると,その功績が段々と大きな財産として蓄積されてきているような気がします。このライネッケ・シリーズはひとまず終わりなのですがライネッケは80代まで活動をしていた作曲家なので,そのうち後半生の曲を取り上げた第2シリーズが企画されるのではないかと思います。今回のシリーズは石川県音楽文化振興事業団と石川県立音楽堂楽友会との共催企画だったのですが,山腰音楽堂館長が最後に挨拶されたとおり,とても面白い独創的な企画になったのではないかと思いました。

PS.今回のコンサートでは,充実した内容のプログラムも特筆すべきものでした。金澤さん自身による曲目解説に加え,ライネッケのピアノ独奏曲一覧,ライネッケによる校訂出版譜リストが付いています。資料的な価値もある内容のある立派なプログラムでした。(2004/12/28)