オーケストラ・アンサンブル金沢第173回定期公演PH
2005/01/08 石川県立音楽堂コンサートホール

1)バッハ,J.S./管弦楽組曲第3番〜エア
2)ロッシーニ/歌劇「セビリャの理髪師」序曲
3)シュポーア/ヴァイオリンとハープのためのコンチェルタンテ第1番ト長調
4)シュトラウス,J.II/喜歌劇「こうもり」序曲
5)シュトラウス,J.II/喜歌劇「こうもり」〜「公爵様,あなたのようなお方は」
6)シュトラウス,J.II/ポルカ「雷鳴と電光」
7)シュトラウス,J.II/アンネン・ポルカ
8)シュトラウス,J.II/ポルカ「観光列車」
9)レハール/喜歌劇「メリーウィドゥ」〜ヴィリアの歌
10)レハール/ワルツ「金と銀」
11)カールマン/喜歌劇「チャールダッシュ伯爵夫人」〜ハイア,ハイア,山こそわが故郷
12)(アンコール)シュトラウス,J.II/ワルツ「美しく青きドナウ」op.314
13)(アンコール)ジーツィンスキー/ウィーン,我が夢の街
14)(アンコール)シュトラウス,J.I/ラデツキー行進曲
●演奏
マイケル・ダウス(リーダー,ヴァイオリン*3)オーケストラ・アンサンンブル金沢
吉野直子(ハープ*3),マルセラ・セルノ(ソプラノ*5,7,9,11,13),トロイ・グーキンズ(司会)

Review by 管理人hs  taka@踏氷舎さんの感想i3miuraさんの感想

音楽堂入口の正月飾りです。こういうのがあると目を引きますね
こちらは入り口外にあった門松です。
OEK団員,職員の皆様のサイン入り立看板です。岩城さんのサインも中央付近にあります。
今年も私の”コンサート初め”は,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のニューイヤーコンサートでした。例年どおりマイケル・ダウスさんの弾き振りだったのですが,今回はソプラノのマルセラ・セルノさんとハープの吉野直子さんという2人のソリストが登場しましたので,ガラ・コンサート的な華やかさもありました。

音楽堂玄関の正月飾り,ロビーから聞こえてくる歓迎の金管合奏,着物を着た職員の皆さん,立看板に書かれたOEK団員の方々のサイン...といった趣向は昨年同様で,今年も無事新年を迎えることができたなぁ,という安心感を感じることができました。

その中で唯一違った点は,昨年末に起こったスマトラ沖地震の影響です。ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサート同様,今回のコンサートにもちょっとした影を落としていました。プログラムの直前に山腰音楽堂館長の挨拶があり,10万人を超える方が亡くなった史上最悪とも言える大災害の被災者を悼んで,G線上のアリアがゆったりと演奏されました(この曲は2001年9月11日のニューヨークの同時多発テロの時(=音楽堂開館時)にも演奏されました)。ただし,その後は,アンコールのラデツキー行進曲を含め例年どおり楽しいプログラムが続きましたので,かえって平和のありがたさを際立たせることになりました。

それ以外の違いと言えば...雪が無かったことでしょうか。毎年この時期には雪が積もることが多いのですが,この日はほとんど雪はありませんでした。

コンサート前半にはハープの吉野直子さんが登場し,後半はウィーンの音楽を中心とした毎年恒例の楽しいプログラムとなりました。演奏会は,ロッシーニの「セヴィリアの理髪師」序曲で始まりました。追悼演奏の後の沈黙を破り,ダウスさんが白いジャケットに黒く長いマフラーというお洒落な姿で登場すると,会場は例年どおりの和やかな空気に戻りました(追悼演奏にはダウスさんは参加していませんでした)。今回,OEKの女性団員は鮮やかな青と落ちついたワインレッドという演奏旅行用(?)のドレスを着ていましたので,ステージ全体にファッショナブルな気分が出ていました。演奏は非常に軽やかなものでした。速めのすっきりとしたテンポ設定でベトつくところのない演奏でした。ダウスさんはほとんどオーケストラの方を向いており,コーダなどでは弾き振りというよりは指揮を中心にされていました。室内オーケストラらしさを生かして演奏だったと思います。

続いて,うぐいす色のドレスを着たハープの吉野直子さんが登場しました。吉野さんがOEKのコンサートに登場するのは今回が初めてではないはずですが,私自身にとっては,吉野さんとOEKとの共演を聞くのは初めてのことです。ハープという楽器は音量がそれほど大きくありませんので,室内オーケストラとの共演というのは良い組み合わせだと思います。

曲は,ベートーヴェンより少し後の時代のシュポーアの作品でしたが,ロマン派というよりは,古典的な整った美しさを感じさせてくれる曲でした。吉野さんのハープの音はとても粒立ちが良く,どこにも乱れのないくっきりとした鮮やかさと折り目正しさがありました。華やかさと当時に演奏全体にどっしりとした落ち着きがあったのは,若くしてハープの第1人者となった吉野さんのキャリアの豊富さによると思います。特に第2楽章最初のたっぷりとしたソロが印象的でした。曲全体に渡り,マイケル・ダウスさんのヴァイオリンがハープにぴったりと寄り添い,とても暖かなムードを作っていました。第2楽章ではほのかにロマンティックな気分も感じられました。曲はそのまま軽快な気分を持つ第3楽章になりました(私は最初気づかず,2楽章が続いているのかと思っていましたが)。ここでも吉野さんの粒の揃った音が印象的でした。オーケストラとハープ,ヴァイオリンの音量のバランスも良く,ハープの持つ上品で高貴な美しさとそれをサポートするヴァイオリンの味わい深さを堪能させてくれました。

この演奏のとき,ダウスさんは上着を脱いでソムリエ風の黒いチョッキを着ていましたが,これもまた格好良く決まっていました。昨年,「皇太子妃のお友達の女流ハープ奏者と遊ぶ愛子さま」といった皇室のビデオが紹介されていましたが,ハープという楽器にはどこかそういう雰囲気があります。今回のお2人の共演にも,紳士淑女による大人の楽しみといった気分がありました。

後半は,ここ数年お決まりとなっているシュトラウスの音楽を中心としたウィーンの音楽集となりました。今回はソプラノのマルセラ・セルノさんが登場したこともあり,オペレッタの曲が中心でした。

このステージでは,これもまたすっかりお馴染みとなっている,第1ヴァイオリン奏者のトロイ・グーキンズさんのシャンパンの一気飲みから始まりました。トロイさんは,「十年以上たってもなかなか日本語が上達しません。私のトークは”雰囲気作り”です」といったことを語っていましたが,この”雰囲気”は非常に重要なものです。トロイさんのトークは,ダウスさんの弾き振り同様,OEKのニューイヤーコンサートには欠かせない”雰囲気”になっていると思います。

まず,「こうもり」序曲で始まりました。この曲もOEKのニューイヤー・コンサートには欠かせない曲です。全体に流れの良い演奏でしたが,ワルツの部分はゆったりとした気分がありました。他の曲でもそうですが,こういう部分を聞いていると,ダウスさんのヴァイオリンを弾く動作そのものが指揮になっているのが特によく実感できます。

続いて,マルセラ・セルノさんが登場し,同じ「こうもり」の中からアデーレの有名なアリアが歌われました。セルノさんについては,オペラ劇場で十分なキャリアを積んだ実力派歌手という印象を持ちました。この曲はとても軽やかな曲ですが,可愛らしさだけではなく,野心のある小娘の気の強さのようなものを感じさせてくれる歌でした。

今回セルノさんの歌った曲は昨年メラニー・ホリデーさんが歌った曲と3曲もダブっていましたが,どの曲もとても安定感のあるものでした。見た目の華やかさと貫禄ではホリディさんの方が上でしたが,声のバランスの良さや美しさではセルノさんの方が上でした。私自身,ドイツ語が分かるわけではないのですが,発声がとてもクリアで歌詞が分かりやすい気がしました。オペレッタ歌手としてのキャリアの豊富さを感じさせてくれるステージでした。

その後,シュトラウスのポルカが3曲演奏されました。考えてみるとこの日演奏されたシュトラウスのワルツはアンコールでの「美しく青きドナウ」だけだったことになります。

「雷鳴と電光」もOEKのニューイヤーコンサートでよく取り上げられる曲です。いつもどおり大変ノリの良い演奏でした。今回は特に大太鼓の迫力が印象的でした。そのせいもあってか,ビシっと締まった演奏になっていました。

「アンネン・ポルカ」は,通常のオーケストラ版ではなく,歌が加わったものでした。お酒を飲んで笑い上戸になったり泣き上戸になったりという面白い曲です。この曲も昨年,ホリディさんが歌った曲ですが,今年もまた巧みな演技を楽しませてもらいました。セルノさんの歌はどこか可憐なところがあり,愛嬌があるのが楽しいところです。

「観光列車」は,マゼール指揮ウィーン・フィルの今年のニューイヤーコンサートでも取り上げられたのですが,それに比べるとのんびりした演奏でした。打楽器奏者が警笛のような笛を吹いていたのものんびりした気分を盛り上げていました。新幹線ではないので,これぐらいのテンポの方が私にはぴったり来ます。

続いて,レハールの曲が2曲演奏されました。「メリー・ウィドウ」の「ヴィリアの歌」では,ダウスさんのヴァイオリンがセルノさんの歌に寄り添うように伴奏を付けていたのが印象的でした。最後の部分のセルノさんの弱音の美しさにも素晴らしいものがありました。

「金と銀」はとても有名な曲ですが,近年演奏会で演奏される機会は意外に少ない曲です。テンポをゆっくり目に取って,大変スケールの大きな気分を作っていました。このワルツの最初の方に出てくるゆったりとしたメロディを聞いていると,「懐かしの名曲だなぁ」というような,何とも言えないノスタルジック気分に浸ることができます。後半のテンポの揺れもピタリとはまっていました。

最後のカールマンの曲は2年連続でトリでした(”本当のトリ”は毎年,ラデツキー行進曲ですが)。打楽器を含むノリの良いリズムの上にエキゾティックなメロディが出てくる楽しい曲で,チャルダーシュ風に盛り上がります。ちょっとした踊りも入りますので,「そういえば昨年もこの曲を聞いたな」と思い出した方もいらっしゃったのではないかと思います。セルノさんは,ドレスを変えて出て来て,華やかな気分で全体を締めてくれました。

アンコールにも”定番”と言っても良い3曲が並びました。まず,「美しく青きドナウ」が演奏されました。少々ホルンに危ないところはありましたが,たっぷりとスタートした後,軽快に流れて行く,いつもながらの爽やかな演奏でした。コーダを省略していたのもいつもどおりでした。

アンコール2曲目はセルノさんを加えての演奏でした。歌入りのアンコールの定番と言えば「ウィーン,我が夢の街」です。昨年もホリディさんが歌っていましたが,さらにその前の年,エーリッヒ・ビンダーさんが客演したときにソプラノのグラクソッリさんもこの曲も歌っていました。その時同様,途中から日本語で歌っていましたが,上述のとおり,とても言葉が良くわかりました。言葉をとても大切にしている歌手なのだなと思いました。

終演後,吉野さんとセルノさんのサイン会がありました。吉野さんには武満さんの作品などを含むCDに頂きました。
セルノさんのCDは会場で販売していたものです。今回歌われた「こうもり」のアリアに加え,アンネンポルカも含まれていました。
アンコール3曲目にはラデツキー行進曲が演奏されました。今年のウィーン・フィルのニューイヤーコンサートではこの曲が省略されたので,OEKの方はどうかな,とも思ったのですが,こちらの方は例年どおり演奏されました。個人的には,ラデツキー行進曲を省略するなら,他の楽しい曲も省略しないといけなくなってしまうので演奏しても問題はないと思っていました。演奏会の気分からしても,楽しいコンサートを締めるにはこの曲しかないでしょう。

今回も手拍子をしやすいゆっくり目のテンポで演奏されました。曲の最初で退場したダウスさんが曲の後半でオルガン・ステージに登場して,客席に向かって指揮をしておしまい,という構成も昨年同様でした。音楽堂ならではのスタイルもすっかり定番になった感じです。

今年もOEKのニューイヤーコンサートは例年どおり楽しい演奏会になりました。史上最悪の津波災害の影もありましたが,同時に平和に音楽を聞ける喜びを実感できた演奏会になりました。2005年は2004年のような大きな災害が起きないことを祈りたいと思います。

PS.例年どおりトロイさんのトークはとても楽しいものでした。トロイさんの日本語はご自身で語られていたとおり,確かに分かりにくい部分もあるのですが,それでもそのメッセージがきちんと伝わってくるのが素晴らしい点です。今回の話の中では,「演奏会ではいろいろなことに気づいて欲しい」とおっしゃられていたのが印象に残りました。OEKfanの演奏会レビュー自体,「演奏会で気づいたこと」を書いていますので,心に残る言葉でした。

PS.今回,開演5分前のチャイムはいつもの西村朗さんのものではなく,オルガン・ステージに登場した金管八重奏の皆さんの生演奏によるものでした。その後,「その後,ただいまのチャイムは開演5分前の...」といつもどおりアナウンスしていたのが笑いを誘っていました。 (2005/01/09)



Review by taka@踏氷舎さん

あけましておめでとうございます。

吉野さんのハープはうっとりと快く聴かせてもらいました。
ダウスさんとの掛け合いも自然で微笑ましささえ感じました。
グーギンズさんが「何かに気が付く、発見する音楽会に」と言っていましたが、私の今回の発見は、マルセラ・セルノさんでした。音程の確かさ、声の張りと艶、その表現力。また聴いてみたいと思わせる歌手でした。

ところで、名誉コンサートマスター辞任と新聞に出ていましたが、ダウスさんの弾き振りによるコンサートはこれが最後なのでしょうか。(2005/01/09)



Review by i3miuraさん

遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
先日のニューイヤーコンサートは、新年の最初を飾るにふさわしい演奏会でしたね。

僕自身も気になったのは、やはりマイケル・ダウス氏の退任の話でしたが、HPでもパンフレットでも全く触れられていません。ニューイヤーの今後も含めてどうなるんでしょうかね?

個人的にはニューイヤーの方向性も含めて見直しても良い時期にきているのではないかと思うのですが・・・(例えばI.メッツマッヒャーがハンブルグでしているように、過去の委嘱作品を中心に現代物のコンサートなんかでも良いと思うんですが・・・)。 (2005/01/10)