オーケストラ・アンサンブル金沢第177回定期公演M 2005/03/04 石川県立音楽堂コンサートホール 1)バッハ,J.S.(外山雄三編曲)/トッカータとフーガニ短調BWV.565 2)ボッケリーニ/チェロ協奏曲第9番変ロ短調G.482 3)ブリクシ/オルガン協奏曲第5番ヘ長調 4)バッハ,J.S./管弦楽組曲第3番ニ長調BWV.1068 5)バッハ,J.S./管弦楽組曲第3番ニ長調BWV.1068〜エール ●演奏 ジャン=ピエール・ヴァレーズ指揮オーケストラ・アンサンンブル金沢(コンサート・マスター:松井直) 小林英之(オルガン*1,3),遠藤真理(チェロ*2) 池辺晋一郎(プレトーク)
バッハの管弦楽組曲で演奏会を締めるというのは,これまでにあまりないパターンでした。ヴァレーズさん自身が考えたプログラムでないせいか,全体的なインパクトは少々弱い感じはありましたが,その分「腹八分目」的なさっぱりした心地良さが残りました。 最初に演奏された外山雄三編曲のトッカータとフーガは2001年の石川県立音楽堂柿落公演以来の再演となります。独奏は前回同様小林英之さんでした。この時は1階席で聞いたのですが,パイプオルガンの入る曲の場合,今回のような2階席で聞く方が楽しめると思いました。 外山さんの編曲はオルガン独奏曲の雰囲気をそのまま残したものです。プオルガンのパートはバッハの楽譜を一部省略してそのまま演奏している感じでした。この省略した部分をオーケストラのいろいろな楽器がオルガンのストップの一つになったような感じで多彩な音色で埋めるような感じです。オーケストラとパイプオルガンの掛け合いの部分では音が上下に動くような面白さが出てきます。 管楽器がオルガンの音色の一つのように感じられるのは当然ですが,弦楽器の方も違和感なくオルガンのパートとバランス良く溶け合っていました。オーケストラで聞いたにも関わらず,オリジナルのパイプオルガン版のトッカータとフーガを聴いた感じと同じような感じを受けました。OEKの各パートの磨かれた音とオルガンの音とのバランスの良さが印象的な演奏でした。 続いてボッケリーニのチェロ協奏曲が演奏されました。今回は遠藤真理さんというまだ若いチェリストが登場しました。プログラムによると東京芸術大学3年に在籍中ということですので20歳ぐらいということになります。遠藤さんは2003年の日本音楽コンクール・チェロ部門で第1位になった方ということですが,そのとおりの実力を聞かせてくれました。 ボッケリーニのこの作品自体非常に難しい曲ですが(今回は,従来聞かれて来たグリュッツマッハーによる編曲版ではなく,原典版による演奏でした),その難しさを全然感じさせない演奏でした。明るい音色もイタリアの曲にぴったりでした。これまでボッケリーニというのはハイドンに近い作曲家かと思っていたのですが,チェロの世界のパガニーニに近いのかなと感じさせてくれる演奏でした。 両端楽章には超高音が頻繁に出て来るのですが,音程の安定感が素晴らしく,安心して聞ける大変鮮やかな演奏となっていました。遠藤さん自身小柄な方でしたので,その印象とあいまって「チェロという楽器はこんなに小回りの効く楽器なんだ」とチェロの印象を変えてくれるような曲であり演奏でした。ヴァレーズさんの作り出すリラックスしたムードのもとで,慌てすぎず伸びやかに演奏していたのも素晴らしかったと思います。 第2楽章は反対に気持ちの良いヴィブラートが繊細に掛けられた美しい演奏でした。たっぷりとした暖かみと細やかさを同時に伝えてくれました。OEKの伴奏もとても良い雰囲気を作っていました。 この曲を原典版で聞くのは初めてだったのですが,編曲版とは全く違う雰囲気がありました(そもそも編曲版の第2楽章は別の曲です)。今回のOEKの演奏は古楽器風ではありませんでしたが,原典版で聞くと古典派よりもちょっと前の気分が出てくると思いました。 遠藤さんの演奏には技巧や音色の魅力に加え,演奏全体に大げさ過ぎない自然な表情の豊かさが漂っていました。昨年の3月に石坂団十郎さんという素晴らしい若手チェリストの演奏を聞きましたが,今回また新たな才能が登場したと実感しました。 後半最初は,ブリクシのオルガン協奏曲という珍しい作品でした。このブリクシというのはボッケリーニとほぼ同時代のボヘミアの作曲家です。パイプオルガンの曲というと重厚さをイメージしますが,そういう雰囲気は皆無で,むしろ管楽器と弦楽合奏のための協奏曲といった気分のある曲でした。 曲は「ド・ミ・ソ・ド」という単純明快な感じで始まりました。そういう気分がずっと続く曲でしたのでどこか素朴な民芸品を見るような感じでした。小林英之さんのオルガンの音も比較的抑え目で,単一の音で弾いているような感じでした。そのこともあって,管楽器を聞くような印象を持ちました。中間の第2楽章では少し音程が甘い笛のような独特の音を使っていました。これが非常に魅力的でした。この曲の中ではこの部分がいちばん印象的に残りました。 演奏会最後はバッハの管弦楽組曲第3番でした。「G線上のアリア」で有名な曲ですが,全曲が演奏されるのはニコラス・クレーマーさんが登場した1998年の定期公演以来のことだと思います。 今回のOEKの演奏は古楽器風はそれほど意識していない感じでしたが,ティンパニはバロック・ティンパニを使っており,存在感を示していました。全体にすっきりとした音楽の流れを持った演奏でした。後半の曲はあまりインターバルを置かずに演奏していました。 トランペット3本が大活躍する曲ですが(今回のトランペットは,OEKの谷津さんとエキストラの方が2名でした),それが見事で,演奏全体に格調の高い気分を作っていました。ただし,演奏全体としてはトランペットだけが目立つような感じはなく,マイルドな味がありました。この辺はもっとアグレッシブな雰囲気のある,ヴェルテンさんが指揮をされていたら,違った印象になっていたような気がします。
ただし,G線上のアリアとして有名な「エール」はすっきりとした流れの良さと落ち着きとを実感させてくれる美しい演奏になっていました。OEKの弦楽器パートの純度の高さが発揮されていました。日頃,「G線上のアリア」としてアンコールなどで聞くときはチェンバロは加わっていませんので,今回のようにチェンバロ入りでこの曲を聞くもの良いものだと思いました。今回,チェンバロには辰巳美納子さんが加わっていましたが,即興的で自由な感じのする音が時々チラチラと聞こえてくるのは,とても良い味付けとなっていました。 というようなわけで,ヴェルテンさんが指揮していたらどうだっただろうか,という感じの残る部分はありましたが,終わってみるといつもどおりOEKの美しい音色が耳に残る演奏会となりました。次の機会には,ヴァレーズさん自身が選曲したフランス音楽などを中心としたプログラムを聞いてみたいものだと感じました。 PS.この日のプレトークはお馴染みの池辺晋一郎さんが登場しました。相変わらず楽しい語り口でした。3月8日に邦楽ホールで「音のふしぎ,メロディのからくり」というトーク付きのコンサートの方も楽しい内容になることでしょう。(2005/03/05) |