オーケストラ・アンサンブル金沢
スマトラ沖地震津波・新潟地震災害復興支援チャリティコンサート
2005/03/15 石川県立音楽堂コンサートホール

1)武満徹/弦楽のためのレクイエム
2)シュトラウス,J.II/ワルツ「春の声」
3)ブラームス/ハンガリー舞曲第5番
4)ブラームス/ハンガリー舞曲第6番
5)ドヴォルザーク/スラヴ舞曲op.72-2
6)モンティ/チャールダーシュ
7)モーツァルト/ピアノ協奏曲第21番ハ長調K.467〜第2,3楽章
8)宮城道雄(池辺晋一郎編曲)/春の海
9)カバレフスキー/組曲「道化師」〜ギャロップ
10)ポーランド民謡/クラリネット・ポルカ
11)アンダーソン/トランペット吹きの子守歌
12)リムスキー=コルサコフ/熊蜂の飛行
13)ビゼー/組曲「アルルの女」第2組曲〜メヌエット,ファランドール
14)(アンコール)ベートーヴェン/トルコ行進曲
15)(アンコール)ブラームス/ワルツop.39-15
●演奏
岩城宏之指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサート・ミストレス:アビゲール・ヤング),宮谷理香(ピアノ*7),アビゲイル・ヤング(ヴァイオリン*5),ルドヴィート・カンタ(チェロ*5),遠藤文江,木藤みき(クラリネット*11),岩城宏之(シロフォン*9),藤井幹人(トランペット*11),石川県箏曲連盟(8)
Review by 管理人hs   i3miuraさんの感想

昨年2004年は,世界的に見て大変災害の多い年でした。その中でも特に被害の大きかったのが新潟県中越地震とスマトラ沖地震・津波の2つでした。その復興支援のためのチャリティ・コンサートが岩城宏之さんとオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)を中心として行われました。OEKは過去,通常の演奏会中でたびたび募金を行ってきましたが,募金目的で入場料無料というチャリティ・コンサートを行うのは,珍しいことです。それだけ,2004年の災害は大きなものだったと言えます。

この日の公演は災害復興支援のための演奏会だったのですが,そういった目的を抜きにしても,大変心温まる演奏会となっていました。定期公演で聞くのとは一味違い,OEKの個々の団員の名人技であるとか岩城さんの指揮する”通俗名曲”の味わい深さを堪能できました。この演奏会は急遽行うことが決まったものだったのですが,それにも関わらず非常に多彩な内容となっていました。OEKが”かくし芸”を一挙に公開したような楽しさがありました。

演奏会場に行くとまず入口付近にOEK団員が募金箱を持って並んでいました。私は早速ここで募金をしたのですが(紙のお金でした),これは演奏会中の岩城さんのトークによると「Aチーム」の募金隊ということでした(後述するとおり,続々と募金隊が出てくることになります。

演奏会のチラシには,「立見の場合はご容赦下さい」という断り書きが書いてありましたが,さすがにそこまで満員ではありませんでした。それでも1階席,2階席はほとんど埋まっていたようでした。

最初に被災者を追悼するための音楽として武満徹の「弦楽のためのレクイエム」が演奏され,その後に黙祷が行われました。「悲しい曲はここまで。あとはチャリティ・コンサートを楽しんでもらう」という趣向でしたが,そのレクイエムとして武満さんの曲を取り上げる辺りは岩城さんらしいところです。災害を前に呆然と立ち尽くすようなぼんやりとしたはなかげな悲しみの漂う演奏でした。被災者を慰めるというよりは災害の怖さを間接的に感じさせてくれるような曲であり演奏だと思いました。

その後は岩城/OEKお得意のアンコール・ピースを中心として,親しみやすい名曲が並びました。岩城さんの指揮は,力むことなく,曲の楽しさを率直に引き出してくれるものばかりで,名曲コンサートにぴったりのものでした。この日は,3月19日に行われる,ブラームスの交響曲第1番を中心とした定期公演に出演するメンバーがそのまま登場していたようでした。トロンボーン3本が加わり,ホルンも4本に増強されていましたので,オーケストラの音全体にも暖かい膨らみがありました。演奏会がの方も曲が進むにつれて会場の雰囲気はどんどんリラックスしたムードになっていきました。

金沢ではこの日,「兼六園の雪吊りはずし」「武家屋敷の”こも”はずし」が行われましたが,最初の「春の声」は,この季節にちなんだ選曲でした。「岩城さんの指揮するウィンナー・ワルツは珍しい」と思いながら曲が始まるのを待っていたのですが...なんと,最初の1拍を振り下ろす直前に岩城さんの指揮棒が客席の方に飛んでしまいました。こういうアクシデントを見たのは初めてのことでした。コンサート・ミストレスのヤングさんが,さっと指揮棒を拾いに行き,パッと岩城さんに渡していましたが,岩城さんは「これは災害ではありません」とうまく切り返していました。

岩城さんの話によると,ワルツということで指揮棒を軽く握りすぎていた,とのことでした。図らずも,これで会場全体の気分が一度にリラックスした感じになりました。たっぷりとしたテンポによる,これ見よがしのところの全くないワルツで,会場全体が一気に暖かい気分に包まれました。岩城さんは「ウィンナー・ワルツは好きなので,演奏してこなかった」と語っていましたが,その言葉どおり曲に対する愛情が伝わって来る演奏でした。

この日,岩城さんはいつもにも増して,沢山おしゃべりをされていましたが,このトークが「老人力(?)」に溢れたものでした。「あれは何だっけな」というシーンが頻繁に出てきましたが,それがまた,会場を(もしかしたらオーケストラの方も)リラックスさせていました。

次のブラームスのハンガリー舞曲第5番,第6番は,テンポが速いのに落ち着きを感じさせてくれる演奏でした。聞かせどころをよく心得ており,力み過ぎていないのがここでも素晴らしいと思いました。今回,トロンボーンが入っていたことで,オーケストラの音全体にいつもにも増して力感が溢れていました。ビシっ,バシっという感じの締まった響きは岩城さんが指揮するときのOEKのサウンドそのものでした。ハンガリー舞曲ということで,テンポの変化はもちろん付けられているのですが,それでいながら,ストレートな気分を感じさせてくれるのも岩城さんならではです。

その後,プログラムに書いてなかったドヴォルザークのスラヴ舞曲が演奏されました。これもお馴染みの曲ですが,テンポはそれほど揺らさず,ここでもストレートな美しさを感じさせてくれました。特に弦楽器の清潔さが印象的でした。メランコリックなムードのある曲ですが,湿っぽくならずにワビ・サビ的なさらりとした味を感じさせてくれるのが岩城さんらしさだと思います。

続く,モンティのチャールダーシュは,ヤングさんカンタさんという2人の首席奏者をソリストとした二重協奏曲風の演奏でした。お2人はステージ前面で1つの楽譜を見て演奏していたのですが,聞いた感じだと,チェロとヴァイオリンという楽器の違いがあるにも関わらず,同じ音域で演奏しているように感じました。最初の部分ではヴァイオリンの低音が,中盤以降はチェロの高音が特に印象的でした。途中に出てきた,お二人によるフラジオレットの応酬も聞きものでした。テンポの動かし方も面白く,お二人の芸合戦を楽しませてもらった感じでした。演奏後,健闘を讃え合って抱き合うお二人の姿も楽しさを倍増させてくれました。

前半最後は,金沢出身のピアニスト,宮谷理香さんのソロによるモーツァルトのピアノ協奏曲第21番の後半2楽章でした。有名な2楽章は速目のテンポでさらりと演奏された清潔感のある演奏でした。第3楽章は,速いパッセージでの動きの美しさが印象的でした。モーツァルトの曲というとで,ピアノの音量は常にmpからmfぐらいの間で,それほど大きいな起伏はありませんでしたが,明確ですっきりした演奏は古典派の曲にはぴったりでした。

休憩時間は,OEKの「Bチーム」による募金活動が行われました。この辺の分業体制もさすがでした。

後半は,石川県箏曲連盟の箏合奏を加えての管弦楽版「春の海」で始まりました。前半の「春の声」と呼応するようなプログラミングの妙を感じました。池辺さんの編曲によるこの曲を聞くのは,2回目ですが,今回もたっぷりしたテンポ設定による優雅な演奏でした。中間部の少し動きが出てくる部分で,合いの手を入れるように活躍する打楽器の使い方も面白いと思いました。箏を演奏された皆さんの上品な着物の色合いも美しく映えていました。

続いては,カバレフスキーの「道化師」からギャロップが演奏されました。シロフォンの独奏は...岩城さんでした。岩城さんは,元打楽器奏者としての本能がうずくらしく,時々打楽器の演奏をされます。今回も,冷や冷やさせながらもとても嬉しそうに演奏されていました。バックのオーケストラの皆さんの顔も心なしかほころんでいるようでした。

曲の後のトークによると,カバレフスキーのこの曲を日本で最初に演奏したのは岩城さんのシロフォンによるラジオ放送用の演奏(山田一雄指揮)ではないかということでした。さすが「初演魔」の岩城さんです。その時はほとんど初見演奏だったが,演奏しているうちに非常に緊張してきたとのことです。

次は,OEKの2人のクラリネット奏者をフィーチャーしたクラリネットポルカでした。クラリネットの音の心地よさと軽快さを堪能させてくれるリラックスした演奏でした。この演奏では,遠藤さんが第1クラリネット,木藤さんが第2クラリネットだったのですが,演奏後,岩城さんが「2人がパートを変えて演奏できるかやってみましょう」と言いながら,とまどう2人にお構いなく,2人の譜面をパッと交換してしまいました。お2人にとっては,恐らく,予定外の演奏だったと思います。初見演奏にも関わらず見事に演奏されました(曲の途中までの演奏でしたが)。岩城さんは「混乱するかと思ったが,混乱しなかった」と残念(?)がりながらも大きな拍手を送っていました。岩城さんも意地悪というか本当に茶目っ気たっぷりです。

続く,トランペット吹きの子守唄にはOEKのトランペット奏者の藤井幹人さんがソリストとして登場しました。藤井さんは,譜面なしで,最初から最後まで目を閉じたまま演奏していました。祈りの気分を感じさせるような暖かい演奏で心に染みました。藤井さんが目を閉じていたということは,OEKの方がピタリと合わせていたということになります。この小品でこれだけ深い情感を感じさせてくれるのはすごいと思いました。

続く「熊蜂の飛行」ですが,これも一味違った演奏でした。岩城さんによると「Bamblebee」というのは,「熊蜂」ではなく,「マルハナバチ」というもっと小さめの蜂なのだそうです。通常この曲はものすごい勢いでうなりを立てるように演奏されますが,今回のOEKの演奏は,弱音で演奏されており,文字通り小さな蜂のイメージを表現していました。岩城さんは日頃「譜面どおり演奏する」ということをよく語っていますが,この演奏は「辞書どおりの演奏」ということになります。

コンサートの最後は,「アルルの女」からの2曲でした。有名なメヌエットでは岡本えり子さんがフルート・ソロを演奏しました。慎ましやかで穏やかでありながら,芯の強さを感じさせてくれる爽やかな演奏でした(岩城さんの話によると,故武満徹さんは,岡本さんのフルートの音色をとても高く評価していたそうです)。途中から加わってくるOEKの伴奏も暖かなものでした(この演奏の後半では,サクソフォーンの筒井さんも加わっていました)。

最後は,ファランドールが演奏されました。アッチェレランドして終わる曲ですが,どれだけ速くても最後までコントロールが効いており,粗っぽさのない演奏でした。この日は打楽器奏者が3人いらっしゃいましたが,良く見てみると,最後の部分ではシンバルと大太鼓を1人で同時に演奏していました。これもちょっとした隠し芸かもしれません。

アンコールにもおなじみの2曲が登場しました。最初のトルコ行進曲は岩城さんのトライアングル兼指揮でした。これは岩城さんのお得意のパフォーマンスですが,金沢では意外に演奏していないかもしれません。OEKのCD「カンタービレ」の中にもこの曲は収録されていますが,曲の最後の部分でのテンポの落とし方が「いつもより余計に遅くしております」という感じで変化が付けられており,アンコールならではのサービス精神が感じられました。

アンコール2曲目のブラームスのワルツは,ブラームスの交響曲のアンコールなどとして過去数回聞いたことのあるものでした(3月19日の定期公演でもアンコールとして演奏されるかもしれません)。これも曲を愛でるような感じの心温まる演奏でした。

こうやって,小品集を聞いていると,岩城さんはこういった曲が本当に好きなのだと実感しました。力を入れすぎず,抜きすぎずという絶妙のバランス感覚を持った演奏でした。

今回のコンサートがとても面白かったのは,OEK全体としてだけではなく,個々の奏者の名人技も楽しめたことにもよります。途中,入れ代わり立ち代わりOEKの奏者がステージ前面に登場してくる光景はのど自慢を見ているような楽しさがありました。OEKファンにとっては,非常に嬉しいプレゼントとなりました。こういう演奏会は,ネタを少しずつ変えて,毎年見てみたいものです。

演奏後,今度はOEK団員の「Cチーム」がロビーに待機していました。1回募金した人も2度募金したくなるという「巧い仕組み」になっていました。募金集めの方も絶妙のチームワークでした。私は入場時にお札を1枚入れたのですが,退場時には残っていた小銭全部をチャリンと募金箱に入れてきてしまいました。今回の演奏会は,開演前に募金した人でも,演奏会後にもう一度募金したくなるようなとても良い演奏会だった思いました。

PS.今回の演奏会の収入は100万円を超えたとのことでした。思わず一人平均いくら入れたのだろうと割り算などをしたくなりますが,この収入は,岩城さんとOEK団員のサービス精神の賜物だと思いました。

PS.数日前,岩城さんはサントリーホールで行われた「ツナミ・エイド」というチャリティコンサートの指揮もされてきたそうです。その時は「司会者が余計なことをしゃべって...」と感じたそうですが,この日は「司会者がいないもの困る」と感じたそうです。このコンサートには,都はるみ,森進一といった大物に混じって,(岩城さん言うところの)「元モー娘。のゴトウなんとか」なども登場したとのことです。5時間もかかるコンサートだったそうですが,岩城さんも本当にお元気ですね。 (2005/03/17)



Review by i3miuraさん  

久しぶりの書き込みです。ご無沙汰しております。
僕も昨日のチャリティーコンサートに行ってきました。
前回の定期演奏会は所用で行けなかった為に、久しぶりのOEK演奏会でした。

演奏会の趣旨から、一曲目はレクイエムでしたが、二曲目以降は本当に楽しい演奏会でした。マエストロのやや危なっかしいマリンバも聴けましたし・・・

アンコールでは楽しいおまけもありましたし・・・
本当に楽しい2時間でした。

ところで一つ気になったのですが、今回配られたパンフレットの色の違い(黄色と青色)は、一体なんだったのでしょうかね?(2005/03/16)