Quadrifoglio:La primavera
クアドリフォーリオ Vol.2
2005/03/30 金沢21世紀美術館シアター21
1)ヴィヴァルディ/弦楽のための協奏曲ト長調RV.151「田園風」
2)カウエル/弦楽四重奏曲第1番
3)ショスタコーヴィチ/弦楽四重奏曲第8番ハ短調op.110
4)ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第13番変ロ長調op.130(第6楽章は「大フーガ」op.133を演奏)
5)(アンコール)バッハ,J.S./管弦楽組曲第3番〜エール
●演奏
クアドリフォーリオ(坂本久仁雄,上保朋子(ヴァイオリン),石黒靖典(ヴィオラ),大澤明(チェロ))
Review by 管理人hs  
金沢21世紀美術館内の小ホールで,20世紀の弦楽四重奏曲とべートーヴェン後期の四重奏曲が組み合わされた魅力的なプログラムの演奏会が行われましたので,出かけてきました。金沢でこういった曲を聞く機会は非常に少ないので,会場はほぼ満席になっていました。

今回はオーケストラ・アンサンブル(OEK)の坂本さん,大澤さん,石黒さんに上保朋子さんが加わったクアドリフォーリオという弦楽四重奏団による演奏でした。クアドリフォーリオがこの美術館で演奏を行うのは2回目ですが,その他にもいろいろな場所で演奏会を行っているようです。

OEK内の弦楽四重奏団と言えば,マイケル・ダウスさんを中心としたザ・サンライズ・クワルテットが有名ですが,ダウスさんがOEKから離れることになりましたので,クワドリフォーリオはその後継のグループと言えそうです(実際,ダウスさん以外のメンバーは同じで,その代わり第2ヴァイオリンに上保さんが加わった形になっています。ちなみにクアドリフォーリオというのは「四つ葉のクローバー」という意味です。弦楽四重奏団にはぴったりのネーミングです)。

演奏会は大澤さんのトークを交えて進められましたが,演奏自体もこの大澤さんと第1ヴァイオリンの坂本さんがリードしているような感じでした。配列も向かって左から坂本さん,大澤さん,石黒さん,上保さんの順に並んでいました。

このシアター21というホールの残響が少ないことは知っていたのですが(「シアター」という名称自体,音楽用ではないことを示しているのかもしれません),今回のプログラムに関しては残響が少ないのも悪くはないと思わせる部分もありました。弦楽四重奏という編成自体,線と線の絡み合いという性格がありますので,演奏全体が非常に明確に聞こえてきました。演奏者にとっては,ちょっとしたミスもすぐに目立ってしまう怖さがあるのですが,そのことも含めて,演奏者の集中力の高さを感じさせてくれる演奏でした。

大澤さんの話によると,美術館のコンドウ課長の意向で,「必ず新しい曲を入れて欲しい」「背広はやめてほしい」ということでした。そのこともあって21世紀美術館の雰囲気と合ったコンセプトを目指すという姿勢がよく伝わってくる演奏でした。4人の奏者はそれぞれ自由な服で演奏されていましたが,その中ではやはり坂本さんの「インドネシア風(大澤さんのコメントですが)」の服がいちばん華やかで,ファッショナブルな雰囲気を醸し出していました。

最初に演奏されたヴィヴァルディの曲は,急−緩−急の3つの部分から成っていましたが,一続きで演奏されており,大澤さんが語っていたとおり「あっという間に」終わってしまいました。残響が少ないので,のびのびした明るさは感じませんでしたが,明確できっちりとした密度の高いアンサンブルを楽しむことができました。

次のヘンリー・カウエルの作品は,演奏されるのが非常に珍しい作品です。「初演魔の岩城音楽監督に初めて勝った(大澤さんの話)」という曲です。曲は2つの部分から成っていました。最初の部分は不気味な不協和音風のささくれだった響きが続き,後半は一音一音じっくりと聞かせるような静かな音楽が続きます。1916年の作品ということで,意外に古い曲なのですが,このホールだと緊張感を湛えた,不安で前衛的な雰囲気が強調されます。ただし,いつの間にか終わってしまった,という感じで私にはちょっとピンと来ない曲でした。

前半最後のショスタコーヴィチは,曲全体に寒々とした怖さのある曲です。「ファシズムと戦争の犠牲者の思い出に捧ぐ」というサブタイトルのある曲ですが,今回のような乾いた響きの閉鎖的な暗いホールで聞くと,これは,むしろソ連時代の管理された社会の怖さを描いているのではないかと感じました。

曲は「レミドシ(DEsCH)」というショスタコーヴィチの名前を含むモチーフで始まります(演奏前,最初大澤さんがこの辺のことを説明をしていたのですが,だんだんややこしくなってきたので坂本さんに説明を交代していました)。そのモチーフを中心に非常にじっくりとしたテンポで演奏した後,次の部分でテンポが急に速くなります。この辺には狂気を感じさせるような熱気が満ちていました。間近で聞くと,坂本さんのヴァイオリンを中心にうなりをあげるような迫力が溢れていました。このホールだと音程の乱れなども目立つのですが,この部分に関してはすべてが曲の迫力となって感じされました。

「ドンドンドン」という恐ろしげな音型(大澤さんの話によるとKGBがドアをノックするようなイメージとのことです)も迫力がありました。曲の最後の部分は恐怖の静寂の世界に吸い込まれるようでした。この曲の演奏に関しては,ホールの残響の無さはプラスに働く面が多かったと思いました。

休憩の後,ベートーヴェンの四重奏曲第13番という大曲が演奏されました。私自身,生で聞くのは初めてのことです。この曲は当初「大フーガ」として知られている曲が最終楽章として使われていたのですが,楽譜出版社の意向もあって,別の曲に差し替えられています。今回はその「大フーガ」の方を最終楽章として演奏していました。

この曲については,ホールの残響の無さが,プラスとマイナスの両面に働いていました。大フーガなどでは,線と線が絡み合う対位法的な扱いが強調されますので,曲の構造が非常に明確に感じされました。硬い硬筆で描いたエンピツ画という感じでした。その分,聞いていて段々と疲れてきます。また,わずかな音程のズレも明らかになってしまいますので,各楽章の後半の技巧的な感じの部分になると,苦し気な感じとなって聞こえる部分が出てきました。第1楽章最初や大フーガの出だしの充実した響きは良いなと感じたのですが,楽章が進むにつれて,演奏の粗の部分が気になってきたのは少々残念でした。その中では第4楽章カヴァティーナの落ち着きのある響きがいちばんしっくりきました。

夜の闇の中に白く浮き上がる21世紀美術館には幻想的な美しさがあります。
今回のポスターです。美術館のコンサートだけあって装飾的なデザインが洒落ていました。
帰る途中,兼六園前で見かけたぼんぼりです。もうすぐ花見シーズンです。
今回の演奏では坂本さんの第1ヴァイオリンが活躍する部分が多かったのですが,向かって右半分の石黒さんと上保さんの存在感がその分やや薄かった気がしました(私の座席が左側だったせいもあるかもしれません)。そういう点では,内声部という言葉どおり,中央部に第2ヴァイオリン,ヴィオラが並んでいる方が落ち着くような気がしました。

最後にアンコールとして,G線上のアリアが演奏されました。速目のテンポでチェロのボンボンボンボンという伴奏のリズムを強調した演奏になっていました。その辺が個性的でしたが,今回のプログラムの並びを考えると,特にアンコールはなくても良かったかな,という気もしました。

このホールは内装が真っ黒で,非常に音楽に集中できるのですが,もう少し響きに潤いがあるとホッとできるのになと感じました。とはいえ,ベートーヴェンの弦楽四重奏をじっくり聞ける機会というのも金沢では貴重です。この日は演奏会は大澤さんトーク同様,気軽かつマニアックな内容でしたが,この路線で是非また,クアドリフォーリオの演奏会を聞いてみたいと思いました。

PS.休憩時間,ロビーでは無料で飲み物がサービスされていました。お茶だけかと思ったら,なんとビールなどのお酒もサービスしていました。会場内は結構暑かったので,後から,ビールにすれば良かったかなと後悔しました。(2005/03/31)