オーケストラ・アンサンブル金沢
ウェルカム・スプリング・コンサート
2005/04/02 石川県立音楽堂コンサート・ホール
1)モーツァルト/歌劇「ドン・ジョヴァンニ」序曲
2)ハイドン/交響曲第85番変ロ長調Hob.I:85「王妃」
3)ベートーヴェン/交響曲第8番ヘ長調op.93
4)(アンコール)モーツァルト/セレナード第13番ト長調K.525「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」〜第1楽章
●演奏
ギュンター・ピヒラー指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサート・マスター:サイモン・ブレンディス)
Review by 管理人hs  

年度初め恒例のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のウェルカム・スプリング・コンサートに出かけてきました。このコンサートは「お客様感謝デー」的な演奏会で,定期会員ご招待でした。今回の演奏会の目玉は,ピヒラーさんのヴァイオリンが聞けるということだったのですが,ピヒラーさんが指のケガをされたということで,残念ながら曲目が変更になってしまいました。なかなか金沢でピヒラーさんのヴァイオリンを聞く機会はないのですが,ピヒラーさん自身語られていたとおり,きっとそのうちに実現することでしょう。

当初演奏される予定だったモーツァルトのヴァイオリンとオーケストラのためのアダージョは「ドン・ジョヴァンニ」序曲に変更されましたので,結果とした今回演奏された曲は,1年前の定期公演と似たものになりました。というわけで聞く前は新鮮味が薄いかなと思ったのですが,聞き始めるとそういうことは全然ありませんでした。ピヒラーさんとOEKの関係も段々と熟成されてきているなと感じさせる素晴らしい演奏会となりました。

最初に演奏された「ドン・ジョヴァンニ」序曲は,深くえぐるような強い響きで始まりました。この日のティンパニはトーマス・オケーリーさんでしたが,そのバロック・ティンパニが効果的でした(オケーリーさんがバロック・ティンパニを叩くのは珍しい気がします)。トランペットやコントラバスも強い音を要所で聞かせており,デモーニッシュな雰囲気がよく出ていました。

2曲目はCDも発売されているハイドンの交響曲第85番「王妃」でした。古典派の交響曲らしいきちんと整った枠組み内での自由な動きを感じさせる演奏で,現代オーケストラの演奏するハイドンの典型となるような演奏だと感じました。ピヒラーさんが指揮するときはいつもピリっとした空気があります。引き締まった響きが小回りの効いた軽快な雰囲気を作っていました。

その中に「ドン・ジョヴァンニ」同様,強いアクセントが入ってきます。特に第1楽章ではコンサート・マスターのブレンディスさんを中心とした弦楽器が大変大きな動きで演奏しており,熱気を感じました。コントラバスの迫力のある音も印象的でした。時折強調されていたトランペットの鋭い音も祝祭的な気分を出していました。

第2楽章は淡々とした変奏曲ですが,その基本となる枠の中で鮮明に各曲が描き分けられていました。第3楽章のメヌエットはすっきりとしたテンポで始まった後,ちょっと間をおいて,ゆっくりとしたトリオになります。これはピヒラーさんの指揮する古典派交響曲の3楽章の演奏パターンなのですが,今回の演奏は余裕のある遊び心を感じさせてくれました。OEKとの関係も熟成してきているな,と感じさせる味のある演奏でした。第4楽章はすっきりと小粋にまとめられていました。

全曲を通じて,緊張感のあるきっちりとまとまった部分とそれを少し崩したような部分とがバランスよく共存しており,ハイドンらしいハイドンになっていたと思いました。

後半のベートーヴェンの交響曲第8番は,さらに聞きごたえのある演奏でした。OEKの全メンバーがピヒラーさんの手足になったような熱のこもった演奏でした。1年前にもピヒラーさんの指揮でこの曲を聞いているのですが,その時にも増して,各楽器の主張が強いなぁと感じました。ピヒラーさんの作る求心力と各奏者のソリスティックな個性とが一体になった名演だったと思いました。

この曲ではコントラバスが3人に増強されていましたので,前半にも増して力強さを感じさせてくれました。特に第1楽章は素晴らしい演奏でした。この曲自体,第1主題と第2主題のコントラスト,フォルテとピアノのコントラストがはっきりと付けられており,その点が大きな魅力となっている曲です。ピヒラーさんは,その点をとても強調していました。流れの良いテンポで演奏していたこともあり,曲の面白さがストレートに伝わってきました。引き締まった強い響きも前半同様でした。展開部などでは,ピヒラーさんが向いた先の楽器の音がグッと大きくなる様子が面白いようによくわかり,OEKが文字通りピヒラーさんの手足になっているのを実感しました。

第2楽章も快適なテンポでした。とはいえ,それほど気楽でのどかな感じでもなく,時折出てくる「ダダダダ,ダダダダダー」という音型などはとても強烈なものでした。第3楽章はハイドンの3楽章と同じような作り方でした。ここでもたっぷりとしたテンポで演奏されたトリオの味のある響きが魅力でした。ホルン2本,カンタさんのチェロ,木藤さんのクラリネットによる演奏は緊張感と同時にひなびたユーモアを感じさせるものでした。

第4楽章はとても速くキレの良い演奏でした。この楽章の音型は非常に弾きにくいものなのですが,それがとても鮮やかに演奏されていました。ピヒラーさん自身ヴァイオリン奏者なので「テンポをどれくらい速くすればどうなるか」ということは大体分かっていると思います。OEKの弦楽器奏者のレベルの高さを信頼したテンポ設定だったのではないかと思います。この楽章では,オケーリーさんのティンパニも大活躍していました。バロック・ティンパニということで調律が大変そうでしたが,その甲斐があってここでも見事な音を聞かせてくれました。特にコーダ付近での強烈な連打が見事でした。

このベートーヴェンは,ピヒラーさんの求める明晰さと情熱とにOEKが見事にが応えた名演だったと思いました。このベートーヴェンの第8番はワーナーからCD発売されるようなので非常に楽しみです(1年前の定期公演を収録していたのではないかと思います)。

アンコールでは,モーツァルトのアイネ・クライネ・ナハトムジークの第1楽章が演奏されました。アルバン・ベルク四重奏団(ABQ)がこの曲のレコーディングを残しているのかどうかは知りませんが,ABQが演奏したらこうなるだろうな,と思わせるような軽い響きを持った流れの良い演奏でした。その中に微妙なニュアンスが付けられているのもとても面白いと思いました。

定期会員ご招待だった今回の演奏会は,OEKの力量が見事に発揮された素晴らしい演奏会になりました。この日は演奏後,ピヒラーさんも交え,OEK団員とファンとの交流会が行われたのですが,OEKの熱烈なファにンも十分に満足できた演奏会になったのではないかと思います。

PS.開演前,4月からのOEKの事務方の体制を紹介する山腰音楽堂館長の挨拶がありました。ゼネラル・マネージャーの山田さんを後藤さんとフロリアン・リームさんがヴァイス・ゼネラルマネージャーとして補佐する体制のようです。元OEKのチェロ奏者だったリームさんがどういう働きをされるのか特に注目したいと思います。リームさんは日本語も得意なので,通訳としても大活躍されるのではないかと思います。

【交流会編】
上述のとおり,演奏会後,OEK団員との交流会が行われました。会費500円でビール,ワイン,ジュースなどの飲み物(何杯飲んでも良かった?)とオードブルが出てきたのですが,それにもまして,OEK団員の皆様の生の声を聞けたのが嬉しく思いました。途中から団員の皆さんのスピーチ大会のような感じになりましたので,その様子を写真入りでご紹介したいと思います(ボケた写真ばかりですが...)。

●乾杯の音頭
交流会はカフェ・コンチェルトで行われました。乾杯の音頭はギュンター・ピヒラーさんでした。お隣にフロリアン・リームさんが写っています。
●竹中のり子さん
交流会の後半は,今年度インスペクターを担当する大澤さんのペースで,「スピーチ大会」のようになりました。最初に登場したのはいちばん最近入られたヴァイオリンの竹中さんでした。
●加納律子さん
ピヒラーさんのご指名でオーボエの加納さんが登場しました。ピヒラーさんから最大級の賛辞を受けていました。ピヒラーさんのお隣にいるのが来週の定期の指揮者のロジェ・ブトゥリーさんです。
●ヴォーン・ヒューズさん
大澤さんと何やらもめているようですが...。日本語を勉強されているという第2ヴァイオリンのヒューズさんが一言「ヨロシク」と挨拶をされました。コンサート・マスターのブレンディスさんも日本語で挨拶をされましたが(奥様が日本人だそうです),写真は撮りそこなってしまいました。
●古宮山由里さん
ヴィオラ古宮山さんです。この辺は新しく入団された方を中心に挨拶されていました。
●大村俊介,一恵さん
続いてOEKの中のご夫妻が2組登場しました。ヴァイオリンの大村御夫妻は6月に金沢と名古屋で行うコンサートの宣伝もされていました。
●渡邉昭夫,聖子さん
今日はステージに登場されなかった渡邉昭夫さんがご家族で参加されていました。
●原田智子さん
この後は大澤さんのご指名のあった人が登場しました。第1ヴァイオリンの原田さんです。
●山野祐子さん
鹿児島出身で,相変わらず寒さには弱いという第1ヴァイオリンの山野さんです。
●原三千代さん
昨年,手の怪我のためしばらく休んでいた第2ヴァイオリンの原さんです。復帰の喜びを語られていました。
●ルドヴィート・カンタさん
ピヒラーさんは小柄だけれども音楽は大きいと語られた首席チェロ奏者のカンタさんです。
●シメの挨拶
ピヒラーさんが交流会のシメの挨拶をされてお開きとなりました。

帰り際にピヒラーさんからサインを頂きました。色紙代わりになっているのは,ABQの演奏によるベートーヴェンの弦楽四重奏曲全集のCDの解説です。
(2005/04/03)