ピアノの詩人ショパン:心の旅 第1回天才の開花 2005/05/10 石川県立音楽堂交流ホール 1)ショパン/幻想即興曲嬰ハ短調op.66(1834) 2)ショパン/ポロネーズト短調(1817) 3)ショパン/マズルカ変ロ長調op.17-1(1833) 4)ショパン/マズルカホ短調op.17-2(1833) 5)ショパン/マズルカ変イ長調op.17-3(1833) 6)ショパン/マズルカイ短調op.17-4(1833) 7)ショパン/ワルツ変イ長調op.34-1「華麗なるワルツ」(1838) 8)ショパン/アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ変ホ長調op.22(1831) 9)ショパン/ドイツ民謡「スイスの少年」による変奏曲ホ長調(1824) 10)ショパン/ノクターン第1番変ロ長調op.9-1(1831) 11)ショパン/ノクターン第2番変ホ長調op.9-2(1831) 12)ショパン/バラード第1番ト短調op.23(1831) 13)(アンコール)ショパン/ノクターン第20番嬰ハ短調遺作「レント・コン・グラン・エスプレッシオーネ」(1830) ●演奏 大野由加(ナビゲーター,ピアノ*1,8,12),澤田加能子(ピアノ*3-7,10-11),竹田理琴子(ピアノ*2,9,13)
毎週日曜日,NHK-FMで吉田秀和さんが特定の作曲家の作品を年代順に紹介している「名曲のたのしみ」という長寿番組がありますが,それを地元の演奏家を使って行うという感じがあります。クラシック音楽ファンには,「全集に対する欲求」というのがあります(「○○全集」というボックスものCDを安く売っていたりするとついつい買いたくなるといった心理ですね。なかなか聞く時間はないのですが...)。その辺をうまく刺激する好企画だと思いました。「6回全部聞けば,ショパン通になれるのではないか」という知的好奇心もくすぐってくれます。 このシリーズの第1回目を聞いて,その期待がますます高まりました。今回の演奏会には,大野由加さん,澤田加能子さんに加えまだ小学6年生という竹田理琴乃さんという3人のピアニストが登場し,ショパンの子供時代の珍しい曲から有名な曲まで10曲以上が演奏されましたが,どれもが曲の良さを素直に感じさせてくれる演奏でした。6回シリーズで沢山のショパンの曲を聞くことになりますが,「ショパンの音楽に浸りたい」という聞き手の要望を満足させてくれそうな期待を持たせてくれます。 このシリーズ全体の企画及び演奏会の進行はピアニストの大野由加さんによるものなのですが,これもまた素晴らしいものでした。大野さんは,原稿も何も見ずにショパンの曲にまつわるエピソードや曲の内容について落ち着いた語り口で分かりやすい説明をされていました。何よりも固有名詞がスラスラと出てくるのがすごいと思いました。 第1回目は,ショパンの原点を見つめる内容が中心で,前半はポロネーズ,マズルカといったポーランドの舞曲を中心とした内容でした。 演奏会は大野さんの演奏による幻想即興曲で始まりました。このシリーズ全体のレベルを保証するような堅実で流れの良い演奏でした。 その後,”本日のゲスト”として,金沢市内の小学6年生・竹田理琴子さんが登場しました。竹田さんは2004年第58回全日本学生音楽コンクール全国大会・小学校の部で1位を取った方ということで,あどけない表情を見せながらも,非常に落ち着いたステージ度胸を持った方でした。ショパン,7歳の時の作品を小学生が弾くという選曲の妙も面白かったのですが,何よりも竹田さんの演奏自体の持つ瑞々しさに惹かれました。 続いて澤田加能子さんが登場しました。澤田さんはポーランドへの留学経験のある方で,こちらも初々しさがありました。4つのマズルカはどれも心の中の微妙なひっかかりを感じさせてくれるような曲であり演奏でした。少々大人しい感じの演奏でしたが,op.17-4などでは,タンタタ,タンタタ...という音の繰り返しが不思議な気分を出していました。 続く「華麗なワルツ」になると気分が一転します。この曲は超高速で演奏されることもありますが,優雅で穏やかな表情を持った澤田さんのしとやかな演奏も良いなと思いました。スラリとした演奏者の雰囲気にもぴったりでした。 前半最後のアンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズは,「大ポロネーズ」の部分よりも前半の「アンダンテ・スピアナート」の部分の方がすっきりして良いと思いました。後半は華やかだけれども少々くどい感じかなという気もします。大野さんの演奏も前半のしっとりとした部分の方が良いかなと思いました。 後半最初は,竹田さんの演奏でした。ここでもまた「ドイツ民謡「スイスの少年」による変奏曲」という演奏される機会の少ない曲が演奏されました。シンプルな曲でしたが,音に芯と表情があるので飽きずに聞くことができました。 次のノクターン2曲はどちらもおなじみの曲です。op.9-1は,最初の入りの部分の高音の美しい音にゾクっとしました。op.9-2の方は,説明不要のショパンの代名詞のような曲です。どちらも耽美的ではあるけれども,しつこすぎず,すっきりとした穏やかさがあるのが良いと思いました。 演奏会最後は,大野さんの貫禄のあるバラード第1番で締められました。間にトークが入ったせいもありますが,ショパンの曲をこれだけ続けても全く飽きないのが,さすがショパンというところです。 アンコールでは,竹田さんによって遺作のノクターンが演奏されました。この曲は,映画「戦場のピアニスト」で有名になった曲です(私自身,この映画を見ていないのですが,今回のプログラム中にこの映画で流れていた曲が3曲も入っていたそうです)。竹田さんのピアノの音には,どの音にも芯があり,聞き手に語りかけてくるような表情を持っています。それが明るくすっきりとした雰囲気に包まれているのが素晴らしいと思いました。これからの成長が非常に楽しみな方です。
全6回のスケジュールを見て,こういう地元アーティストを積極的に活用する企画というのは,中々活動の場を広げられないアーティストにとっては絶好のインセンティブになると感じました。聞き手の方からみても,未知のピアニストを聞き比べ,発見する機会となります。その中で,聴衆の方が「応援したい」というようなピアニストを発見していけば,石川県の音楽界もさらに活性化されて行くのではないかと思いました。 ピアノ曲はショパン以外にも沢山あります。2005年度のショパン・シリーズの後にもいろいろな作曲家で続けていって欲しい企画だと思います。 PS.今回の会場は盛況でした。地元のピアノ奏者が登場するということで,関係者が集まったのかもしれませんが,何となく,最近人気を集めているという旭川の旭山動物園のことなどを思い出しました。クラシックの演奏会についても,有名スターが登場しなくても,企画,見せ方,切り口,価格設定を工夫すればかなり集客できるのではないかと感じました。(2005/05/11) |