オーケストラ・アンサンブル第182回定期公演PH
2005/05/28 石川県立音楽堂コンサートホール
ハイドン/交響曲第1番ニ長調Hob.I:1
ハイドン/交響曲 第104番ニ長調Hob.I:104「ロンドン」
モーツァルト/交響曲第1番変ホ長調K.16
モーツァルト/交響曲第41番ハ長調K.551「ジュピター」
(アンコール)ハイドン/交響曲第45番「告別」〜第4楽章後半
●演奏
アントン・ガブマイアー指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサート・マスター:エヴァルト・ダネル)
アントン・ガブマイアー,フロリアン・リーム(プレトーク)
Review by 管理人hs  雅やんさんの感想 

アントン・ガブマイアーさん指揮によるオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の5月の定期公演は,ハイドンとモーツァルトの交響曲だけ4曲というプログラムでした。これまで「モーツァルトの交響曲3曲」というプログラムは何回か行われていますが,「4曲」というのは室内オーケストラのOEKとしても初めてのことかもしれません。協奏曲もなく,定員以上の奏者もいませんでしたので,”純正OEK”のお得意プログラムを楽しむプログラムとなりました。

その内容は,期待をはるかに上回る素晴らしいものでした。今回の指揮者のガブマイアーさんは数年前に行われたハイドン・フェスティバルでハイドン・アカデミー管弦楽団とともに音楽堂に登場しましたが,その時の演奏よりもさらに強靭な迫力を感じさせてくれました。基本的には古楽器奏法を取り入れた演奏で,音自体は非常にすっきりとしているのですが,トーマス・オケーリーさんのバロック・ティンパニの強打を中心として曲全体にエネルギーが溢れていました。

今回のプログラムは,前半がハイドンの1番と104番,後半がモーツァルトの1番と41番というプログラミングの意図が一目瞭然という取り合わせでした。結果として,それぞれの作曲家の到達点である104番と41番のすごさを改めて感じ,この2曲はOEKの最重要レパートリーの中の2つであることを確信しました。その素晴らしい演奏を聞くことができ,「さすがOEK」と嬉しくなりました。

最初のハイドンの交響曲第1番は演奏される機会が非常に珍しい曲です。この曲にしても,後半のモーツァルトの交響曲第1番にしても本当に1番なのかは分からないところはありますが,初期の作品であることには変わりありません(ハイドンの方は大人になってからの作品ですが)。この2曲については次のような編成・配置となっていました。

     Hrn2 Ob2
   Vla*2 Vc*2 fg Cb
Vn1*5         Vn2*4
     指揮者


弦楽器の方はフル編成の約半分の人数ということになります。恐らく初演当時の編成を意識してのものだと思います。第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンは対向配置になっており,ファゴットが通奏低音の位置に1人だけいたのも特徴的でした。

ハイドンの第1番はわくわくさせるようなクレッシェンドで始まりますが,その強弱の付け方が非常に念入りで精彩があり,大変鮮やかでした。上述のとおり古楽器奏法を取り入れたノンヴィブラート奏法で演奏していましたので,全体にすっきりした感じもありました。この曲などはバロック音楽的な雰囲気も残っている曲ですので,曲想によく合っていました。

これは他の曲にも共通する点ですが,各フレーズの歌わせ方のメリハリが大変よく効いていました。ふやけた部分が全くなく,すべての部分に指揮者の息がかかっているような充実感を感じました。

第1楽章と第2楽章は繰り返しもきっちり行っており,聞き応えがあったのですが,第3楽章はそれに比べるとやけに短い気がしました。この辺のバランスの悪さはやはり,いかに「交響曲の父」とはいえ,「第1番」ということで,作曲の熟練度の問題なのかもしれません。

続く「ロンドン」は過去にOEKの定期公演でも何回か取り上げられていますが,その中でも特に素晴らしい演奏だったと思います。ハイドンの第1交響曲も上述のように精彩のある良い演奏でしたが,やはり並べて聞いてみると作品の充実感において「隔世の感」というぐらいの進歩をしていると感じました。前半の編成は非常にこじんまりとしたものでしたが,この「ロンドン」ではOEKのフル編成になっていましたので,視覚的な面でもハイドンの進化を実感しました。ちなみに次のような配置でした。

   Timp  Cl*2  Fg*2
        Fl*2  Ob*2
   Tp*2 Vla*4 Vc*4 Cb*2 Hrn*2
  Vn1*8?        Vn2*6?
        指揮者


※第1,第2ヴァイオリンの人数は間違っているかもしれません。

まず,冒頭のスケールの大きな響きに圧倒されました。この日はトーマス・オケーリーさんがティンパニでしたが,この曲と後半の「ジュピター」では,バロック・ティンパニの硬質な響きが要所要所で大きな効果をあげていました。ガブマイアーさんは,ハイドンの専門家ということで,自信に裏打ちされたような安定感のある曲作りが,特に両端楽章に顕著に現れていました。

弦楽器の音自体,ギュッと締まっていたのですが,ティンパニの音が加わることでさらに緊張感と強靭な力強さを増していました。冒頭もすごかったのですが,展開部の終わり辺りの迫力も物凄く,雷が落ちたような鬼気迫るような怖さを感じました。テンポは普通ぐらいだったと思うのですが,時々,ハッとさせるような長い間を作っていたのも印象的でした。この間が緊張感をさらに高めていました。

第2楽章,第3楽章は第1楽章に比べると比較的のんびりとしたペースになりますが,それでも時折出てくるティンパニの強打を中心に力強さを感じさせてくれました。第3楽章のトリオの部分の新鮮な響きも印象的でした。オーボエとフルートにメロディが出てくると空気が変わったような気持ちよさを感じました。

第3楽章の後,かなり盛大に拍手が入ってしまいました。恐らく,1曲目が3楽章構成だったので,この曲も3つの楽章だろうと勘違いして拍手した人が居たのだと思います。意外に多くの人がつられてしまったのですが,ここまでの演奏の充実感を聞いて「拍手したくなる気持ちも分かるな」と同情してしまいました(個人的には第1楽章の後に拍手したかったくらいです)。

第4楽章はその充実感をさらに継続させたものでした。この日はホルンがステージ前方の方にいましたので,まず,冒頭のドローン・バスのような低音の響きがとてもよく聞こえてきたのが印象的でした。その後は急速なテンポで開放感のある響きが続きました。ここでもティンパニの響きが素晴らしく,見事なクライマックスを作っていました。

全曲を通じてもガブマイアーさんの気合がストレートに伝わってくるような一本筋が通ったような一体感を感じました。その点では3楽章後に拍手が入ったのは残念でしたが,それだけお客さんにアピールする演奏だったのだと思います。

後半のモーツァルト2曲の方も前半のハイドンと同じことを感じました。第1番ではこじんまりとした編成,ジュピターではフル編成(クラリネットとフルート1本は抜けていましたが)というOEKの編成の対比も同様で,ここでも最後の交響曲の凄さを印象づける形となっていました。プログラム全体が,小品−大曲/小品−大曲 という感じでシンメトリカルな形でまとめられていたのも非常にバランス良く感じました。

とはいえ,最初に演奏された第1交響曲も悪くはありませんでした。ハイドンの交響曲第1番の演奏と同様の精彩のある響きを楽しむことができました。第1楽章のクレッシェンドの感じもハイドンの交響曲第1番と似ていました。古楽器奏法はこういうシンプルな曲でより鮮明になると思いました。

第2楽章はジュピター音型の出てくることで知られています。最初と最後の交響曲に同じ音型が出てくる辺り,「いかにも天才」の作品なのですが,演奏の方もそういう神秘的な感じを漂わせたものでした。ゆっくりとした演奏で,しかも繰り返しをしっかりと行っていたので,曲が進むにつれてどんどん沈み込んでいくような深さを感じました。

最後の「ジュピター」は,「ロンドン」に劣らない迫力のある演奏でした。これまでOEKは何回もこの曲を演奏してきましたが,その中でも特に力強く迫力のある演奏になっていました。

第1楽章は最初はそれほど力んだ感じはありませんでしたが,曲が進むにつれて次第に堂々とした迫力が浮き上がってくるようでした。特に弦楽器の力感の溢れる響きとしなやかな響きとの対比が印象的でした。

第2楽章は,比較的速目のテンポで演奏されていましたが,するする流れていくのではなく,味わいの深さと落ち着きを感じました。ここでも繰り返しをしっかり行っていましたので,全体はかなり長く感じましたが,それがスケールの大きさとなって感じられました。

第3楽章にはいかにも踊りの楽章という感じのダイナミックな躍動感がありました。その勢いをそのまま続けたような第4楽章は全曲の頂点を作るような見事な演奏でした。「ロンドン」の時も感じましたが,鬼気迫るような迫力を感じました。最後の方の立体的な音の動きなど,すべてのパートがしっかりと演奏されており,大変壮麗でした。ここでも繰り返しを行っていましたので,全曲を通じて大変スケールの大きな「ジュピター」となっていました。

演奏後は,ブラボーの声がかかり,大変熱烈な拍手が続きました。拍手に応えて演奏されたのは,ハイドンのアンコールの定番である「告別」交響曲の第4楽章の後半でした。会場の照明が次第に暗くなり,最後は指揮者も退場してヴァイオリンが2名になるというパフォーマンスはいつものことながら楽しめるものでした。その後,OEK団員が全員引き返してきて,ステージ前面に並ぶのですが,私はこの光景が好きです。OEKの団員全員が一列に並ぶと音楽堂のステージの幅と一致します。この辺を見ても,このホールはOEK専用ホールだな,と感じます。ここで演劇やオペラのカーテンコールのように挨拶をした後,演奏会はお開きとなりました。

この日のお客さんは,OEKの主要レパートリーであるハイドンとモーツァルトの交響曲のA-Zまでを一晩で堪能したのではないかと思います(音楽評論家の吉田秀和さんあたりだと「古典派音楽のアルファでありオメガである...」という雰囲気で書きそう?)。OEKの素晴らしさをストレートに引き出してくれたガブマイアーさんも素晴らしかったのですが,この日のゲスト・コンサートマスター,エヴァルト・ダネルさんの功績も大きいのではないかと思います。プログラミングについても演奏についてもOEKらしさを堪能できた演奏会となりました。

PS.この日も終演後ロビーでOEK団員を含んだ出演者によるサイン会が行われました。今回は色紙は買わなかったのですが,プログラムなどにあれこれサインを頂いてきました。
指揮者のガブマイアーさんのサインです。何やら沢山メッセージが書いてあります。 ゲスト・コンサートマスターのエヴァルト・ダネルさんのサインです。 ティンパニのトーマス・オケーリーさんのサイン。新譜CDを差し出したところ,嬉しそうに"Thank you very much"と書き添えてくれました。このCDはレーベル面が白いのでサインの色紙に最適です。 団員の皆様にも頂きました。今回は,ヴァイオリンの大村夫妻,山野さん,オーボエの加納さんに頂きました。加納さんのサインは右下のものです。
(2005/05/29)



Review by 雅やん さん  

名古屋より演奏会を聴きにきました雅やんと申します。

OEKを初めて聴いたのは愛知県立芸術劇場がまだ改築される前の古いホールのさよなら公演だったかと思いますが、名フィルとの合同演奏会があり、その前半でOAKだけでのプロコフィエフの古典交響曲をアツモン氏の指揮で聴きました。

その時のOEKの演奏も舞台衣装も素晴らしく日本の地方にこんなオケが出来たのかと思い、すっかり関心してしまい、それ以来名古屋にもしらかわホール等の音楽堂に近いようなホールも完成し、度々岩城さんの指揮で聴きに行きました。

今回音楽堂での演奏会は私にとっては2回目となるのですが、OEKは本拠地での響きは名古屋で聴くよりも一段と洗練されている気がします。団員の方々がホールを把握されてみえるのでしょうが、客席も含めた全体の会場の雰囲気も良い気がします。勿論名古屋でも一級の演奏で楽しませてもらっています。

小生は専門家ではありませんが、5/28の演奏会の感想です。

「ハイドンの1番かぁ?思ったより堂々とした曲だ。でも初期っぽい旋律だ。旋律の繰り返しもちと多いすぎるよ。」

「指揮者は学者っぽい独特の硬さもないし、良い感じかも?」

「ティンパニの音がオケよりデカクない?あんだけ叩くならもう少しテンポ遅くして少し粘れば良いかもしれんなあ。でもキリッとしてる。」

「弦と木管のフレーズの受け渡しも良いなあ!フルート、ファゴットのフレーズ感は良いなあ。」

と、前半は演奏様式にも少しずつ慣れた程度だったのですが、圧巻は後半の41番でした。後半1曲目の1番で41番の終楽章の旋律がホルンで奏されましたが、ワーグナーの楽劇を思わせるような荘厳な前奏曲のように聴こえました。

その前奏が後半、モーツァルトが晩年研究したと言われるバッハのフーガで最高潮に盛り上がり、終楽章を締めくくった時は、

「こんな構築的でしかも生命感のあるジュピターは聴いたことが無〜い!!」

と、久々に演奏会で爽快感と感動を味わえました。

やはりOEKは日本オケの財産であり、遺産です。

「人を感動させる」言葉で書けば一言なのですが、それを大事にして欲しいです。一人一人が主張を持って演奏して欲しいです。単なる上手いではなく私はこう感じてこう表現します。そういう演奏をして頂ければ3階席迄も伝わり、更に時間が経過しても忘れることはありません。もっともっと奏者が前面に出ても良いと思います。OEKはそれで全体の響きが崩れるようなオーケストラでは無いと思います。

長くなりすぎましたのでこれで終わります。アツモン氏の次回演奏会は名古屋人としても心より成功を祈っています。極力聴きに来たいです。 (2005/05/30)