オーケストラ・アンサンブル金沢第184回定期公演F
2005/06/24 金沢市観光会館
第1部 Before and After 1970
1)マッカートニー&レノン/イエスタディ
2)レイ/映画「ある愛の詩」〜テーマ
3)ロータ/映画「ひまわり」〜テーマ
4)サイモン/明日に架ける橋
5)ラッセル&ブラムレット/スーパースター
6)筒美京平(阿久悠詞)/また逢う日まで
7)ロータ/映画「ゴッドファーザー」〜愛のテーマ
8)映画「OO7」シリーズメドレー

第2部 Kiyohiko Ozaki, Good Song's Good Days
10)オーバーチュア(ラブ・ミー・トゥナイト)
12)アズ・タイム・ゴーズ・バイ
12)イフ
13)カム・トゥー・ミー
14)ラブ・オン・ザ・ロックス
15)オール・バイ・マイセルフ
16)アランフェス・モナムール
17)(アンコール)ハワイアン・ウェディング・ソング
●演奏
尾崎紀世彦(ヴォーカル*6,7,12-17)
鈴木織衛指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:松井直)*1-16,西直樹(ピアノ),秋元公彰(ベース)
Review by 管理人hs  

4月の「トスカ」公演に続いてオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のファンタジー定期公演は新装の金沢市観光会館で行われました。今回のゲストは,日本を代表するベテラン・ポップス歌手,尾崎紀世彦さんでした。尾崎さんは1970年代前半に日本レコード大賞を受賞し,華々しい活躍をされていましたが,その歌声は健在で,大人の歌手としての貫禄を増していました。堂々とした歌いっぷり同様,ステージ上での雰囲気にも全く不安なところはなく,最初から最後までリラックスして楽しむことができました。

演奏会は2部構成で,まず前座のような感じでOEKが登場しました。この第1部では「1970年」をキーワードとしてその前後の曲が演奏されました。近年,テレビの世界では1970年代のドラマのリメイクが目立ちますが,音楽の方でも現在のポップスの原点として1970年代が注目されています。そういう点ではタイムリーなアイデアでしたが,選曲的には新鮮味がなく,もう一ひねり欲しいと思いました。

アレンジは,この演奏会の監修を務めた前田憲男さんによるものだったようで,「ひまわり」のテーマをはじめとして,オリジナル・スコアの気分をそのままうまく取り入れていました。ファンタジー・シリーズではおなじみとなった西さんのピアノが,どの曲でも核となっており,演奏全体を引き締めていました。それに秋元公彰さんのベースとOEKの渡邉さんのドラムスが加わって,基本的なテンポとリズムを作っていました。途中,カデンツァ風にピアノ・ソロが入ることがあるのも前田さんのアレンジの特徴かもしれません。演奏された曲の中では,「スーパースター」が印象に残りました,トランペットやホルンの音にタンバリンの響きが加わると,まさに70年代ポップスという気分になります。

指揮者は当初,榊原栄さんの予定でしたが,最近手術をされたということで代役で鈴木織衛さんが登場しました(榊原さんは順調に回復されているそうです)。鈴木さんのトークは非常に滑らかなものでした。にこやかな表情を見ているだけで楽しい気分になりました。

続いて,尾崎さんのテーマ曲「また逢う日まで」のおなじみのイントロが始まりました。金管楽器のパリっとした響きに乗って,スポットライトの中,尾崎さんが登場するというシチュエーションは最高にゴージャスです。尾崎さんの声は昔と変わらぬ伸びやかで豊かなものでした。以前はモミアゲが印象的でしたが,最近はヒゲがトレードマークのようで,見た目の面でもますます貫禄を増していました。

私にとっての尾崎さんは,今でも”「また逢う日まで」を歌っていたレコード大賞を受賞した歌手”というイメージです。この1970年代前半の熱い空気を伝える名曲を生で聞けただけで感激しました。今回の座席は前から2列目ということで,その堂々とした姿を間近に見ることができました(ただし,いちばん右側だったので指揮者の陰になることも多かったのですが...)。この歌は,尾崎さんのコンサートでは恐らく毎回のように歌われている曲だと思います。「二人でドアを締めて...」の部分では,いつも聞きなれている節回しよりは少し崩した感じで歌っていました。この辺は初めて生で聞く私のようなものにとっては,オリジナル版で聞いてみたかったなという気もしました。

尾崎さんの声は大変堂々としているのですが,生で聞くととても軽やかで若々しさを感じました。マイクを通した音が私の目の前にあったスピーカーから流れてきたのですが,声に余裕があるので,どれだけ聞いても疲れません。どの歌にも常に豊かな気分があるのも素晴らしいと思いました。尾崎さんは声量のある歌手なので,マイクを口からかなり離して持っていました。その使い方も大変巧いと思いました。

続く,「ゴッドファーザ」の愛のテーマもお馴染みの曲です。ベテラン歌手の年輪の中からほのかな甘さが漂うような素晴らしい歌でした。

前半最後は,OEKだけで映画「007」のメドレーが演奏されました。ブラスとパーカッションが爽快に鳴る豪華な演奏で,尾崎さんの歌を受けるのにぴったりでした。

後半はまずOEKだけで序曲が1曲演奏されました。プログラムには「オーバーチュア」とだけ書いてあったので,何かのメドレーかと思ったのですが,実質は「ラブ・ミー・トゥナイト」のインストゥルメンタル版でした。トム・ジョーンズの曲ですが,これもまた尾崎さんのムードにぴったりでした。

その後は,英語の歌詞を含む,バラード風の曲が続きました。「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」をはじめとしてピアノ伴奏で始まり,次第に大きく盛り上がるタイプの曲がほとんどでした。この辺は豪華なショーを見るような雰囲気でした。ただし,後から振り返ると曲の区別がつかなくなってしまいました。もう少し違ったムードの曲を挟んでもらっても良かったような気がしました。この中で印象に残ったのは,アランフェス協奏曲をアレンジした「アランフェス・モナムール(恋のアランフェス)」でした。ここでは加納さんのオーボエ・ソロも楽しむことができました。

後半では,この歌に加えて,尾崎さんのトークも楽しめました。次のようなお話を,緩急自在に語られました。
・映画「釣りバカ日誌16」に出演します。佐世保で暮らす「売れなくなったロカビリー歌手」役で登場。娘は伊藤美咲。途中で歌も歌います。見てください。
・尾崎さんの母上は富山の人。それで「りくつな」「キトキト」「きんかんなまなま」といった北陸の方言も知っています。

そして,「隠し芸=モノマネ」まで見せてくれました。尾崎さんは,普通は口の奥の方から出しているようなたっぷりとした声ですが,それをもっともっと口の前の方だけで発音するように変化させると...何と何と志村けんになってしまいました。尾崎さんもドリフターズも1970年代の王者ということで,「8時だヨ!よ全員集合」の一場面を見るような懐かしさを感じました。尾崎さんは,この物真似の直後に,まじめに歌を歌い始めたのですが,その落差について行ったOEKの皆さんもさすがだと思いました。

というわけであっという間にコンサートは終わってしまいました。時間的にみてもきっとアンコールを歌ってくれるだろう,とお客さんは全員期待していたと思います。少々もったいぶって,ステージと袖とを数回往復した後,アンコールで歌われた曲が素晴らしいものでした。尾崎さん自身「私の原点です」と語った後,「ハワイアン・ウェディング・ソング」がア・カペラで歌われました。ハワイの現地の歌詞で歌っていたようで,これまでに歌われた曲とは一味違った味わいがありました。ファルセットを交えたたっぷりとした歌は,この日歌われた曲の中でも特に強い印象を残すものでした。

今回のOEKの方は前座という感じで,少々印象は薄かったのですが,団員の皆さんも尾崎さんの歌とトークを楽しめたのではないかと思います。息長くプロフェッショナルなエンターテイナーとして活躍されている尾崎さんの魅力を堪能できた演奏会でした。

PS.この日は,演奏会前のプレコンサートとして木管五重奏(フルート:岡本さん,クラリネット:遠藤さん,オーボエ:加納さん,ファゴット:柳浦さん,ホルン:金星さん)で次の3曲が演奏されました。ドビュッシー /小さな黒人,ドヴォルザーク/ユモレスク,イベール/3つの小品の中の1曲。観光会館のロビーは狭いのですが,入口付近の扉をかなり大きく開けていたこともあり,開放的な雰囲気がありました。初夏のコンサートらしい爽やかな気分を作ってくれました。
 

PS.演奏会後,尾崎さんが出てこないかしばらく待っていました。出てきたとたん,おばさまたち(失礼)がタクシーの周りにわっと集まってきて,「さすが,スターだ」と思いました。

(2005/06/25)