ラフィネブラスバンド第5回定期演奏会 2005/06/26 金沢市文化ホール 1)リチャーズ/ジャガー 2)ビゼー(ウィルキンソン編曲)/歌劇「真珠とり」〜「聖なる寺院の奥深く」 3)ビゼー(ラングフォード編曲)/カルメン・ファンタジー 4)グレイアム/光のように輝いて 5)ケイ,プリンス(ウッドフィールド編曲)/ブギウギ・ビューグル・ボーイ 6)ジョエル(バリー編曲)/素顔のままで 7)アレス/ハッピー・トロンボーン 8)マンシーニ(フェルニー編曲)/ムーン・リバー 9)ボール/自由への旅 10)(アンコール) 11)(アンコール)ジョージア行進曲 ●演奏 高島章悟(1-4);小泉伸(5-11)指揮ラフィネ・ブラスバンド 徳応文子,原和歌子(ユーフォニアム*2),多嶋勇(フリューゲルホルン*6)
今日は知人からもらった招待券でラフィネ・ブラスバンドという県内にあるアマチュアのブラスバンドの定期演奏会に出かけてきました。この団体については,実は名前もよく知らなかったのですが,その名のとおり正真正銘の”ブラス”バンドでした。つまり,パーカッション以外のすべての楽器が金管楽器でした。考えてみると,「ブラスバンド」という名称を持った団体は意外に珍しいかもしれません(「○○吹奏楽団」「○○ウィンド・オーケストラorアンサンブル」という名前が多いですね)。ブラスバンドと名乗る限りは,やはりブラスバンドなのだと変なところで感心しました。 チケットにこのバンドのURLが書いてあったので,あらかじめどういう団体なのか調べてみたところ,「英国形式のブラス・バンドです」とありました。数年前,「ブラス!」という英国の炭鉱の町のアマチュア・ブラスバンドを題材とした素晴らしい映画を見たことがあるのですが,「きっとそこに出てくるようなバンドに違いない。これは面白そうだ」と思い,出かけてみることにしました。 というわけで,たまたまビデオに撮ってあった「ブラス!」を見返しておいたのですが,ステージに登場したバンドの編成と配置が予想どおり映画とほとんど同じだったのに感激しました。映画を見ただけでは楽器名がはっきり分からなかったのですが,今回プログラムを読んで次のような楽器が含まれていることが分かりました。 (1)コルネット(Cor) (2)リピエーノ・コルネット(RCor) (3)フリューゲルホルン(FHrn) (4)テナーホルン(THrn) (5)バリトン(Br) (6)ユーフォニアム(Eup) (7)トロンボーン(Tb) (8)バス・トロンボーン(BTb) (9)バス(B)(E♭+B♭) 意外なことにトランペットとホルンは入っていませんでした。1曲目の行進曲の音を聞いた瞬間,何ともいえない柔らかくまろやかな響きに包まれましたが,これは同族の楽器を集めていることによるのだと思います。ちなみにこれらの楽器の大部分はサクソルン族という仲間に入るとのことです(トロンボーンはサクソルン族には入らないと,司会者の方の説明がありました)。オーケストラの中の管楽アンサンブルとは全く別の世界ということになります。配置は次のような感じでした パーカッション B(Bb+Eb) FHrn THrn RCor Solo Br BTb Cor Cor 指揮者 Eup Tb 映画でもそうだったのですが,各奏者同士がかなりぴったりとくっついていたのも英国スタイルなのかもしれません。ちなみに映画に出てきたバンドは男性ばかりの中に女性のソロFH奏者(タラ・フィッツジェラルドという女優が演じていました)が紅一点として加わるのですが,ラフィネの方は若い女性奏者の姿が目立ちました。この点だけが映画の雰囲気とかなり違った点でした(あと,映画の方はお揃いのユニフォームを着ていましたね。)。 映画でユアン・マクレガーが演奏していた楽器がよくわからなかったのですが,今回のプログラムを見てテナーホルンにだとわかりました。ワーグナーチューバと呼ばれている楽器と似た楽器です。実は,私は中学生の頃,一時,吹奏楽部に入っていたことがあり,どういうわけかユーフォニアムを吹いていました(余っていたから選んだのですが)。このユーフォニアムとバリトンもテナーホルン同様,赤ん坊を抱きかかえるように持つのですが,その辺の楽器の区別が遠目にははっきり分かりませんでした。そういった点も含めて,ブリティッシュ・スタイルのブラスバンドの歴史・特徴であるとか各楽器の紹介コーナーがあると良かったかなと感じました。 というわけで,この映画「ブラス!」を見ておいたお陰で,編成を見ているだけで楽しめたのですが,演奏はさらに楽しめるものでした。映画でもそうだったように,途中,フリューゲルホルンがソロを演奏する曲が入ったり,クラシックの曲をバンド用にアレンジした曲が入ったり,さらにはポップスの曲が入っていたりとプログラム的にも変化が付けられていました。ビリー・ジョエルの曲を演奏しても,カルメンを演奏しても,この編成で演奏すると,英国スタイルになるのがいいなあと思いました。 演奏会は,前半の指揮は高島章悟さん,後半の指揮が音楽監督の小泉伸さんでした。女性司会者の和やかな進行とともに演奏会は進められました。 最初は行進曲でした。やはりブラスバンドにはぴったりです。それほど派手な感じはありませんでしたが,その分,ブレンドされた音の良さをしっかり味わうことができました。テンポ設定も快適なものでした。 次のビゼーの「真珠とり」の中のアリアは,ユーフォニアム奏者2人がステージ前方に登場して,ソロを演奏しました。その間,他の楽器がミュートを付けてデリケートな世界を作っていたのも印象的でした。 カルメン・ファンタジーは,ヴァイオリン版も有名ですが,ブラスバンド版だとビールの泡が沸き立つような楽しさが出てきます(今日は蒸し暑かったのでこういう比喩になってしまいました)。どういうアレンジでも楽しめるというのは,ビゼーのメロディの良さによるのだと思います。 前半最後は,大変聞き映えのする曲でした。途中,コルネットのソロが入った後,最後の最後で非常に鋭い音が見事に決まりました。これまでまろやかな音が続いていたので,身が引き締まるような強いインパクトが残りました。 後半は音楽監督の小泉さんに指揮者が交替しました。小泉さんの方が体格的にも貫禄があるせいか,演奏にも落ち着いた感じがあるような気がしました。最初の曲は,「ワン,ツー,スリー,フォー」の掛け声と共に始まったビッグバンド風の曲でした。グレン・ミラーの「イン・ザ・ムード」などと似た軽快な感じが魅力でした。 続いて,フリューゲルホルンの独奏が加わって,ビリー・ジョエルの「素顔のままで」が演奏されました。多嶋さんのソロは,途中のアドリブ風の音の動きもうまく演奏しており,この曲の持つ甘く控えめな気分をよく表現していました。ただし,全体のテンポはもう少し遅い方が良いかな,と個人的には思いました。 続く「ハッピートロンボーン」では,5人のトロンボーン奏者がステージ前面に並んで,掛け合いをしながら,楽しく演奏しました。リロイ・アンダーソンの曲のように気軽に楽しめる曲でした。「トロンボーン吹きの休日」といった感じでしょうか。 「ムーン・リバー」もおなじみの作品です。こういう曲を,ブレンドされた音でゆったり演奏してくれると,何ともいえない幸福感が漂います。 演奏会の最後は,「自由への旅」というスケールの大きな曲でした。ブラスバンドの世界では有名な作品のようです。人生のいろいろな側面を曲の中に詰め込んだような曲で,プログラムの最後に相応しい重みを感じました。 アンコールは,2曲演奏されました。1曲目は曲名が分かりませんでしたが,バスの重い音とリズムの上に楽しげなメロディが出てくる曲でした。聞いたことがあるようでないような曲でした。イギリス民謡風の曲かな,という気がします。ご存知の方はお知らせ下さい, 2曲目の方は「ジョージア行進曲」だったと思います。この演奏会は,行進曲で始まり,行進曲で結ばれたことになります。 演奏全体としては,トランペットがない分,ギラギラとした強烈な感じはありませんでした。”Raffine"という語はフランス語で「上品な,洗練された」という意味があるそうですが,このバンドの方向性もそのとおりだと感じました。個々の楽器を聞かせるよりは,バンド全体としてのまとまりのある響きを中心に楽しむことができました。 石川県内にも吹奏楽関係の団体が沢山ありますが,実はこれまでほとんどその演奏会に行ったことはありませんでした。このバンドは,その中でも独自の個性を持った団体なのではないかと思います。これからもこの"Raffine"路線を追求していって欲しいと思います。 PS.このところ,石川県立音楽堂と金沢市観光会館での公演が多いので,金沢市文化ホールで音楽を聞いたのは久しぶりでした(演劇はよく見ていますが)。このホールは,音が通らない印象を持っていたのですが,ブラスバンドの演奏だと気になりませんでした。2階席で聞いたせいもあるのかもしれません。
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