シュレスヴィヒ・ホルシュタイン祝祭管弦楽団演奏会 2005/07/30 石川県立音楽堂コンサートホール 1)ブラームス/ハイドンの主題のよる変奏曲op.56a 2)メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲ホ短調op.64 3)(アンコール)クライスラー/レチタティーヴォとスケルツォ・カプリース,op.6 4)ブラームス/交響曲第4番ホ短調,op.98 5)(アンコール)ブラームス/ハンガリー舞曲第5番 6)(アンコール)スメタナ/歌劇「売られた花嫁」〜道化師の踊り ●演奏 クリストフ・エッシェンバッハ指揮シュレスヴィヒ・ホルシュタン祝祭管弦楽団(1-2,4-6) エリック・シューマン(ヴァイオリン*2,3)
実は今回,開演時間を1時間間違い,1曲目を聞き逃してしまったのですが(19:00開演と思って18:20頃出かけたところ,すでに1曲目のハイドン変奏曲が始まっており焦りました。),2,3曲目を聞いただけで大満足でした。 2曲目の直前に素早く3階席に入ったのですが,取りあえず空いていたサイド席に座ったので,いつもとかなり感覚が違いました。音がかなり遠くから届いてくる感じだったのに加え,気分が動転していたので,演奏の方に完全に集中できませんでした。 とはいえ,今回のメンデルスゾーンは,なかなか独特な雰囲気のある面白い演奏であることは実感できました。冒頭のテンポは非常にゆったりと始まりました。この日のソリストのエリック・シューマンさんの演奏は,ただテンポが遅いだけではなく,ねっとりと粘着してくるような滑らかさがあったのも独特でした。後半のブラームスを聞いてから感じたのですが,この感覚はエッシェンバッハさんの好みと近いのではないかと思いました。テンポの揺れもかなり大きなものでした。 シューマンさんは,非常に若い方なのですが,演奏には大変落ち着きがありました。第1楽章は,全体にメランコリックで,耽美的に沈み込むような演奏でした。「少年が何かを思いつめている」といった趣きがありました。それでいて,甘く流れ過ぎず,清潔感を感じさせてくれるあたりは,見事だと思いました。音楽全体がきちんとコントロールされており,知と情のバランスが良く取れていました。 第2楽章には,メランコリックな気分よりは,穏やかなまとまりの良さがありました。その後に続く,第3楽章では,第1楽章の憂鬱さを突き抜けた後の爽快感のようなものを感じさせてくれました。楽章を追うにつれで,段々と気分が晴れてくるような感じで,曲全体としてストーリーを感じさせてくれるもので,第3楽章の最後の方はかなりテンポアップし,情熱的に締めてくれました。 少々オーケストラと合いにくい部分があったり(この曲の3楽章の最初の方は本当に合いにくいですね),細かい音程がちょっと不安定なところはありましたが,ドイツの次代を担う若手ヴァイオリン奏者に違いないと感じました。 アンコールに応えて演奏されたのがクライスラーのレチタティーヴォとスケルツォ・カプリースという作品でした。最初聞いた時,誰の作品か分からなかったのですが,大変楽しめました。クライスラーにこういうシリアスな無伴奏の曲があったことも知りませんでした。前半と後半の気分の変化が面白い作品でした。 後半は,いつものように正面の座席に移ってみましバランスた。3階の後ろの方でしたが,真ん中辺りだったので,この席の方がオーケストラ全体の音をバランス良く楽しむことができました。 ちなみにこの日のオーケストラの弦楽器の配置は第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが左右に分かれる対向配置でした。コントラバスは下手側,チェロが真ん中,上手側にヴィオラとなっていました。管楽器は通常の配置でした。 後半のブラームスの第4番は指揮者の強烈な個性を感じさせるすごい演奏でした。この曲は数年前同じエッシェンバッハさん指揮の北ドイツ放送交響楽団の金沢公演でも聞いているのですが,その時よりもさらに表現が濃くなっていました。北ドイツ放送交響楽団はドイツを代表するメジャーオーケストラですが,その分,オーケストラ自体の持つ個性も強いと思います。今回のSHFOは,半分教育目的のようなところのある若手奏者の集まったオーケストラですので,オーケストラの個性が弱い分,よりストレートにエッシェンバッハさんの個性を反映していたのではないかと感じました。逆に,SHFOは柔軟な適応力を持った実力のある団体だとも言えます。 第1楽章の冒頭はすすり泣くようなゆっくりしたテンポで始まりました。楽章全体にも大きな揺らぎがあり大変濃い表現を聞かせてくれました。後半は正面で聞いたせいもあるのか,オーケストラの鳴り方も素晴らしく,大変スケールの大きな演奏となっていました。 ストレートで気持ちの良いホルンの音で始まった第2楽章も堂々たる演奏でした。特に楽章後半で弦が深い深い歌を聞かせる辺りは,本当にエッシェンバッハさんの手足となっているようでした。 第3楽章は,このオーケストラの若いエネルギーを強く解放したような豪快な雰囲気で始まりました。前半の2楽章が,かなり重かったので,この爽快感は大変効果的でした。 続く第4楽章は,全体のクライマックスを築く,さらに凄い演奏でした。きっちりと揃ったトロンボーンによる主題に続いて,次々と変奏が行われるのですが,各楽器の演奏が非常に多彩な表情を持っていました。まず,低弦を中心に演奏される変奏の迫力に驚きました。アクセントの付け方が強烈で,ホラー映画の音楽を聴くような不気味さがありました。弦楽器の音は痛切な叫び声のように響いていました。途中に出てくるフルートのソロは非常に寂しげな間を取って演奏され,圧倒的な存在感を示していました。楽章の最後の部分は,溢れる情感を振り切るかのようにテンポを上げてくるのですが,最後の最後の部分で一瞬テンポを落とし,ドキリとさせます。一筋縄では行かないようなドラマティックな第4楽章でした。 オーケストラ全体としての重量感は北ドイツ放送交響楽団が上だとは思いましたが,エッシェンバッハさんの濃い表現をしつこさとしてではなく,ストレートな情熱として伝えていたのは若いオーケストラならではの良さだと思いました。また管楽器のストレートな伸びやかさは大変魅力的でした。 第1曲目の実演を聞くことはできなかったのですが,モニターで見ていると,管楽器奏者たちを演奏後立たせているのが映っていました。ハイドン変奏曲は管楽器が活躍する曲なのでこの曲もきっと良い演奏だったことでしょう。 盛大な拍手に応え,アンコールが2曲演奏されました。最初に演奏されたブラームスのハンガリー舞曲第5番はブラームスの交響曲の後のアンコールの定番です。自在なテンポによる生き生きとした演奏でした。大太鼓の音の迫力が楽しさを増していました。 エッシェンバッハさんについては,「堅物」という印象を持っていたのですが,2曲目のアンコールでは,一味違ったユーモアのある一面を見せてくれました。1曲目のアンコールの後,オーケストラの団員が足踏みを始めました。団員自身,指導者でもあるエッシェンバッハさんを呼び戻したかったのだと思います。その足拍子に客席の手拍子がピタリと揃い,エッシェンバッハさんをステージに呼び戻すためのコールとなりました。それに応えて,小走りでエッシェンバッハさんが登場ししました。演奏されたのはスメタナの歌劇「売られた花嫁」から「道化師の踊り」でした(聞いたことがあるようなないような曲で,もしかしたらスラブ舞曲かなとも思っていたのですが会場の掲示を見て,なるほどと思いました。)。 ゆっくりとした序奏の後,「よーい,スタート」という感じで急速なテンポで楽しいメロディが出てきます。途中に出てくる呑気なトランペット・ソロも良い味を出していました。 というようなわけで,1曲目のハイドン変奏曲を聞けなかったことを改めて残念に思いました。今回のSHFOの日本公演は石川県音楽文化振興事業団が企画・招聘し,全国数箇所で公演を行っていますが,石川県からの情報発信という意味も含めて大変意義のあるものになったのではないかと思います。 PS.会場にはOEKが参加してきたばかりのシュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭の様子を紹介するパネルが掲示されていました。今回できた音楽祭ツとのつながりを今後のOEKの活動に生かしていって欲しいと思います。
PS.終演後,楽屋口に行ってみたところ,指揮者とソリストのサインをもらおうと待っている人がかなりいました。うまい具合にお二人揃って出てこられましたので,サインを頂くことができました。
3月のOEK以来、久々に音楽堂に足を運びました。金沢に行く度に、駅前周辺や地下が変わっていて驚くばかりです。 今日のブラームス4番は凄まじい演奏でした。 前回のNDRとの同曲は、プログラム前半だったこともあり、比較的あっさりした味付けでしたが、今回はオーケストラが若いこともあってか、随所に面白い表現や、独特のテンポ取りがあり楽しめました。 第一楽章のはじめをたっぷりと聴かせたあと、ゆっくりと音楽が進んでいく様子は、「ブラームスを聴いているんだ!」と思わせてくれる迫力を感じました。スコアにないクレッシェンドやテンポの揺れは、まさにエッシェンバッハ節でしたね。 1曲目のハイドンバリエーションも非常に面白い演奏でした。 かなりゆっくりとしたテンポで始まったのですが、冗長な感じにはならず、同じメロディーを少しずつ表情を変えて演奏させ色彩豊かに仕上がっていました。フィナーレでもホルンやトランペットを効果的に聴かせ、迫力満点でした。 個人的にこの曲は大好きで、たくさんCDを持っていますが、ここまで満足させる演奏はなかなかありません。 一緒に行った妻は、あまりの濃い表現に面食らっていましたが、私は、協奏曲・アンコールも合わせとても楽しめた演奏会でした(アンコールにスメタナが出てきたのは驚きましたね。)。(2005/07/31)
若々しいダイナミックな演奏会でしたね。 私は1曲目のハイドンの主題による変奏曲がこんな風に聴こえるのかと感激し、この曲の終盤にはもう胸がいっぱいでした。 もちろんメンデルスゾーンのあの溌剌としながらも甘美なヴァイオリンソロにも充分に満足しました。 圧巻はブラームスの第4番で、このダイナミックな演奏に久しぶりに「お腹いっぱい」といった感じで会場を後にしました。 本当に「行って良かった」と思える演奏会でした。 (2005/07/31) |