ピアノの詩人ショパン:心の旅
第3回 情熱の華

2005/08/11 石川県立音楽堂交流ホール
1)ショパン/ポロネーズ第2番ホ短調op.26-2(1835)
2)ショパン/マズルカ変イ長調op.24-3(1833)
3)ショパン/ノクターンロ長調op.32-1(1837)
4)ショパン/スケルツォ第2番変ロ短調op.31(1837)
5)ショパン/練習曲変イ長調op.25-1「エオリアン・ハープ」(1836)
6)ショパン/練習曲ハ短調op.10-12「革命」(1831)
7)ショパン/ピアノ三重奏曲ト短調op.8(1828-29)
8)(アンコール)ショパン/ピアノ三重奏曲ト短調op.8〜第2楽章
●演奏
吉村絵里(ピアノ*2-3,5-6),大野由加(ピアノ*1,4,ナビゲーター)
徳力清香(ピアノ*7-8),上島淳子(ヴァイオリン*7-8),福野桂子(チェロ*7-8)
Review by 管理人hs
石川県立音楽堂交流ホールで6回シリーズで行われている「ショパン:心の旅」の第3回目に出かけてきました。今回は「情熱の華」というテーマで「革命」に関係する曲など情熱を秘めた作品に焦点が当てられていましたが,メインは後半に演奏されたピアノ三重奏曲でした。この曲が演奏されるのは大変珍しい機会です。

このシリーズには毎回,石川県内の若手ピアニストが登場していますが,今回,前半には吉村絵里さん,後半には徳力清香さんが登場しました。後半の室内楽にはオーケストラ・アンサンブル金沢のヴァイオリン奏者の上島さんと,金沢出身のチェリスト福野さんが加わり,過去2回と一味違った演奏会となりました。今回もシリーズ全体のプロデューサである大野由加さんがナビゲータ兼ピアノ奏者として登場しました。大野さんが登場しただけで,会場の雰囲気がショパンの曲を聞こうというムードになります。今回も過去2回のシリーズ同様の見事な司会ぶりでした。

前半にはピアノ独奏曲が6曲演奏されました。最初に大野さんのピアノで演奏されたポロネーズ第2番は「シベリア」とか「革命」というニックネームを持っています(ショパンの曲の中に「シベリア」という名前の曲があるとは今まで知りませんでした)。その名のとおり,この曲はウツウツとした暗い感じで始まる独特なポロネ−ズでした。こういう曲を聞けるのもこのシリーズならではです。

次の2曲は吉村絵里さんの独奏でした。吉村さんは,まだ若い方で前曲の暗いポロネーズとは一転して,初々しさのあるピアノを聞かせてくれました。ノクターンの最初の部分など,美しい音がスッと耳に入ってきて大変魅力的でした。ただし,この曲の最後の方などはもう少し大きなドラマを感じさせてほしいなと思いました。大野さんは,吉村さんの演奏の前に,ショパンの作品を「花の陰に隠された大砲」と評したシューマンの言葉を紹介していましたが,そういった点からするとマズルカの方も,少々屈託が無さ過ぎるかなという気もしました。

続いて,大野さんのピアノでショパンの曲の中でも特に聞き応えのある曲であるスケルツォ第2番が演奏されました。大野さん自身,ショパンの曲を弾き始めるきっかけとなった曲ということで,大変堂々とした自身に満ちた演奏でした。

前半最後は,練習曲が2曲演奏されました。最初の「エオリアン・ハープ」は,ゆったりとした爽やかさのある演奏で,吉村さんの雰囲気にぴったりでした。「革命」の方も,よくまとまっていましたが,全体に音の迫力が不足していると感じました。

後半は,ピアノ三重奏曲が演奏されました。私自身,ショパンの室内楽曲を聞くのは初めてのことでしたが,かなり地味な印象を持ちました。特にヴァイオリンは,高音を演奏する部分があまり無く,それほど目立っていませんでした。むしろ第2楽章の最初の部分などヴァイオリンとチェロの二重奏のような部分の美しさの方が印象に残りました。その他,ピアノ協奏曲第1番の3楽章を思い出させるような舞曲風の第4楽章にもショパンならではの味がありました。

この曲のピアノは,徳力清香さんでした。スラリとした長身の方で,その外観とマッチしたような,しなやかなピアノの音が印象的でした。共演の上島さんと福野さんが白っぽいドレス,徳力さんが鮮やかな赤のドレスを着ていましたので,ステージ上の雰囲気も大変華やかでした。

ただし,演奏の方は,曲全体の方向性が見えにくく,楽章間の区別が付きにくいところがありました。演奏全体を引っ張っていくリーダーシップや楽章間のメリハリが不足していた気がしました。これは曲自体が習作的な作品だったからなのかもしれません。

アンコールには第2楽章がもう一度演奏されました。これが素晴らしい演奏でした。全曲を通して聞くよりは,2楽章単独で「小品」として聴く方が良い曲に聞こえるのが大変面白いと思いました。大野さんが,「ショパンが幸福だった時代に暮らしていた田園風景を思い出させる」と語っていましたが,まさにそのような曲であり演奏でした。

大野由加さんプロデュースによる,このショパン・シリーズは,考えてみると女性奏者ばかりが次々と登場します。開演前は,爽やかな森林をイメージさせるような緑色の照明がステージを照らしていましたが,演奏会全体にファッショナブルな感性があるのが魅力です。今回は,ショパンのピアノ三重奏曲という珍しい曲を中心とした比較的地味なプログラムだったのですが,大野さんの分かりやすく内容のあるトークと併せて聞くと「なるほど」と思って楽しむことができます。日頃なかなか聞くことのできない曲と名曲とをバランスよく楽しませてくれるこのシリーズは,とても良い企画だと思います。県内の若手ピアニストを発見できるという意味も含め,6回全部を聞いてみたくなります。9月の公演では,ピアノ・ソナタ第2番が聞けるということで,これにも期待したいと思います。
開演前は上の写真のような美しいライトで照らされていました。 先日,シュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭に楽友会の皆さんが出かけた時の写真が飾られていました。これはショパンのお墓の写真です。 ピアニストの方を囲んでの記念写真です。
(2005/08/12)