ジョイント・コンサート
朝日親子サマースペシャル

2005/08/21 石川県立音楽堂コンサートホール
1)メンデルスゾーン/交響曲第4番イ長調「イタリア」
2)三善晃(倉知竜也編曲)/こどものための合唱曲集「風のとおりみち」
3)アンダーソン/シンコペーテッド・クロック
4)アンダーソン/サラバンド
5)アンダーソン/タイプライター
6)シュトラウス,J./ワルツ「美しく青きドナウ」
7)(アンコール)きみに会えて
8)(アンコール)山本直純/歌えバンバン
●演奏
鈴木織衛/オーケストラ・アンサンブル金沢;石川県ジュニア・オーケストラ(3-8),OEKエンジェルコーラス(合唱指導:篠原陽子,清水史津)(2,6-8),斉藤彩(司会)
Review by 管理人hs
毎年,夏休みの恒例となっているオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)と地元の子供たちが共演するジョイント・コンサートに出かけてきました。例年は7月に朝日親子コンサートという演奏会も行っていたのですが,今年の7月はOEKは海外に出かけていましたので,今年はその朝日親子コンサートも兼ねる形になっていました。

例年,子供たちとOEKが共演するのを見るのは楽しいのですが,今年の選曲は特に良かったと思いました。倉知竜也さん編曲による管弦楽伴奏版の「風のとおりみち」は数年前にも一度演奏されたことはあったのですが,たしか前回は,曲の始まりの部分がオリジナルとは違い,はじめからステージに乗っていたと思います。今回は最初は合唱団がステージ上に乗っていず,歌いながら入ってくるというオリジナルどおりの形になっていました。

子供たちのア・カペラで「ひとだまひとつ,ふたしてふたつ...」という具合で数え歌を歌いながら歩いて入ってくるのですが,上手と下手から複数のグループがそれぞれ別のタイミングで歌っていますので,サラウンド効果のような面白さがありました。ただし,ちょっとテンポが速かったような気ました。もう少しのんびりしたテンポの方が素朴な感じが出たかなと思いました。

それに続く歌は,どれも言葉遊びを含むようなわらべ歌風の歌で,大変楽しめました。オーケストラ伴奏だと楽しさがさらに膨らむようでした。所々,合唱団メンバーやジュニア・オーケストラの打楽器奏者によって鈴やらタンバリンなど楽しげな効果音が入れられていたのも楽しいものでした(この打楽器については,オリジナルにも入っているものです。)。

エンジェル・コーラスには,かなり小さな子供も参加しており,児童合唱というよりは,わらべ歌そのもののような素朴な感じがよく出ていました。数年前,我が家の子供もこの曲を歌ったことはあるのですが,聞いていて懐かしさを感じました。2曲目の「栗の実」などを聞いているうちに,自分の子供が小さかったときのことなどを思い出し,時の流れるのは早いものだ,と感慨に浸ってしまいました。

前半は,このエンジェル・コーラスのステージの前に,OEK単独でイタリア交響曲が演奏されました。小気味の良い部分は小気味の良く,しっとりとした部分はしっとりと,というよくまとまった演奏でした。全体にこじんまりとした感じで,ちょっとスケールが小さいような感じはしましたが,最終楽章などは音量が1段階アップし,曲全体をキビキビと締めてくれました。

ただし,この日のお客さんは親子連れが非常に多かったので,30分近くの交響曲をいきなり聞かせられるのには厳しいものがあったかもしれません。私の隣に座っていた子供などは演奏中「いつ終わる,いつ終わる」と時間ばかり気にしていました。この日の指揮者の鈴木織衛さんは,非常にトークの得意な方ですので,演奏前に一言曲についての説明があっても良かったかなと思いました。

後半はまず,ジュニア・オーケストラとOEKのジョイントでした。リロイ・アンダーソンの曲が3曲演奏されましたが,どれも大変楽しめました。シンコペーテッド・クロックとサラバンドはとてものんびりと演奏されており,曲の持つ温かみととぼけたユーモアがにじみ出ていました。

タイプライターは通常どおりのかなり速いのテンポで演奏されていました。ジュニア・オーケストラはこのテンポに見事に対応していました。タイプライター”ソロ”を演奏したのは,チューバの少年でしたが,ちゃんと事務員風のアームカバーをして登場し,演技力もなかなかのものでした。このタイプライター風の音なのですが,実はタイプライターだけで出しているのではなく,3人で分担していることが分かりました。「チャカチャカチャカチャカ...,チン,ジャッ」というタイプライター風の音が出てくるのですが,「チン」と「ジャッ」の方は別の打楽器奏者2人で音を出していました。というわけで,チューバの少年はひたすら「チャカチャカ...」演奏していたことになります。

プログラム最後は全員で「美しく青きドナウ」が演奏されました。この日は,トロンボーン,チューバなども編成に加わっていましたが,ジュニアとはいえ,こういう楽器が加わると大変充実した響きになります。この曲では,児童合唱も加わっていましたので,スケールの大きな演奏になっていました。合唱の方は,最初,オーケストラに負けているような感じでしたが,曲の終わりに近づくにつれて,声が出てきて,素晴らしいクライマックスを作っていました。

今回,アンコールとして「きみに会えて」という曲が演奏されましたが,その後,先日亡くなられた指揮者・作曲家の榊原栄さんを偲んで「歌えバンバン」が演奏されました(この曲の作曲者は榊原さんの師匠の山本直純さんというのも何かの因縁でしょうか)。榊原さんは,石川県のジュニア・オーケストラの指導をずっと行っていましたので,今回演奏しているオーケストラのメンバーの中にも指導を受けた人が多分いるのではないかと思います。指揮者の鈴木織衛さんは,「通常の追悼の演奏の場合は拍手はしないのですが,今日の演奏後は榊原さんのために盛大に拍手をしてあげてください」と言って演奏が始まりました。私も榊原さんには,拍手の方が似合うと思いましたので,同感でした。

「歌えバンバン」のイントロを聞いた瞬間,私の方は思わずグッと込み上げてしまいました。悲しい曲の時はそういうことはないのですが,明るい曲だとかえって悲しく感じてしまいます。榊原さんも何度か登場したこのコンサートでの追悼というのは,ある意味,とても相応しかったのではないかと感じました。私にとっては,大変印象深い演奏会となりました。
(2005/08/21)