J.S.BACH:無伴奏チェロ組曲演奏会 さまざまな、それぞれのバッハ 第8回ルトヴィート・カンタ 2005/08/30 京都府立府民ホールアルティ バッハ,J.S./無伴奏チェロ組曲第1番ト長調BWV.1007 バッハ,J.S./無伴奏チェロ組曲第3番ハ長調BWV.1009 バッハ,J.S./無伴奏チェロ組曲第6番ニ長調BWV.1012 ●演奏 ルドヴィート・カンタ(チェロ)
まず第1番と第3番が演奏されました。譜面台が置いてありましたが、1番は暗譜で演奏されていたようです。雨のせいで楽器の鳴りがよくないのではないかと少し心配だったのですが、そんなことは少しも感じさせないおだやかな響きで最初のプレリュードが始まりました。全部で6曲あるバッハの無伴奏の一番最初に登場するこの曲、その先に繰り広げられる大きな世界を予感させるようで何度聴いてもワクワクします。その後、アルマンド、クーラントと続きますが、全体的にゆったりとした テンポでしみじみと噛み締めるような味わいを感じさせる演奏でした。 続いて第3番になるとカンタさんの調子もますますのってきたようで素晴らしく豊かな響きを楽しむことができました。まるで巨大な大聖堂を思わせるようなスケールの大きな音楽が会場を満たします。そうかと思えば今度は一人ぼっちで荒れ野をとぼとぼと歩いているような絵が浮かんでくる…カンタさんの演奏からはまるでたくさんのいろいろな絵が見えてくるような感じがしました。そして、悲しい音楽でもただ悲しいだけでは終わらない、その先にそれを超えた何かを感じさせてくれるとこ ろがバッハの音楽の、そしてカンタさんの演奏の素晴らしいところなのでしょう。たった1本のチェロでこんな大きな世界を築き上げてみせてくれることには本当に感嘆せずにいられません。 音も素晴らしいのですが、私はカンタさんの演奏している姿を見るのが好きで、あの滑らかな右手の動きを見ているだけでうっとりしてしまいます。自由自在にチェロをあやつるさまは見ているだけでもとても気持ちがいいのです。(自分のぎこちない演奏を忘れさせてくれるからでしょうか。)今回第3番と第6番は縮小コピーらしい小さな楽譜を譜面台に置いて演奏されていましたが、大きな楽譜で客席から手元が見えなくなることがなくてありがたいと思いました。 休憩の後の6番の後半になるとさすがにカンタさんも疲れてきたのか少し音が荒っぽいところやピッチがわずかに届かないところも見受けられましたが(これはもしかしたら湿気のせいで調弦が狂ってきたのかもしれません)、演奏の気迫という点では先の2曲以上にぐんと心に迫ってくるところが感じられました。カンタさんのバッハをたっぷり楽しむことができて本当に幸せな夜となりました。 演奏会のタイトルを見ると、どうやらこのホールでで行われているシリーズのひとつだったようです。プログラムには次回の予告として12月に向山佳絵子さんの演奏で1、5、4番が演奏されることが載っていました。そういえば、京都出身でN響の首席を務めておられる藤森さんがこのホールでバッハの無伴奏を全曲演奏するという記事をずっと以前に新聞で見た記憶があるのですが、それもこのシリーズのひとつだったのかもしれません。 会場に置いてあったチラシによると、カンタさんは12月に大阪のフェニックスホールで今度はピアノとデュオでリサイタルをされるようです。プログラムにはベートーベンやブラームスのソナタに加えてカンタさんの故郷の作曲家の曲も予定されているようで、こちらもとても楽しみです。(2005/08/31) |