オーケストラ・アンサンブル金沢第186回定期公演PH
2005/09/04 石川県立音楽堂コンサートホール
1)バッハ,J.S./管弦楽組曲第3番〜エア
2)ロッシーニ/歌劇「ブルスキーノ氏」序曲
3)ロッシーニ/歌劇「ウィリアム・テル」序曲
4)ラロ/スペイン交響曲op.21(3楽章カット版)
5)シューマン/交響曲第3番変ホ長調op.97「ライン」
6)(アンコール)ロッシーニ/歌劇「セヴィリアの理髪師」序曲
●演奏
金聖響(1-6)指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:マヤ・イワブチ)
川久保賜紀(ヴァイオリン*4)),池辺晋一郎(プレトーク)
Review by 管理人hs  i3miuraさんの感想

9月の定期公演の指揮者交代についてのホール内掲示
オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の2005〜2006年のシーズン最初の定期公演は,岩城音楽監督の代役で登場した金聖響さんの指揮,川久保賜紀さんのヴァイオリン独奏による若々しい気分のあるコンサートとなりました。指揮者の変更に伴い,メイン・プログラムがシューマンの「ライン」に変更になったのですが,この演奏をはじめとして,演奏会全体の雰囲気は大変新鮮なものでした。金聖響さんの解釈は,ロッシーニとシューマンでは,古楽器奏法を取り入れていました。加えて,音楽自体のキレがとても良いので,どの曲もスリムにダイエットされたように響いていました。ダイエットしながらも,響き全体にしなやかさと音の芯の強さのあるのは,OEKならではだと感じました。

この日のオーケストラの配置は,以下のとおり古典的な配置でした。この配置もすっかりお馴染みになってきました。今回,トロンボーンがかなり前の方にいましたので,ロッシーニの曲などでは特に迫力がありました。

            Perc
           Cl  Fg  Timp
        Hrn  Fl  Ob   Tp
       Cb   Vc   Vla   Tb
       Hp Vn1  指揮者   Vn2


前半では,まずロッシーニの序曲が2曲演奏されました。当初は3曲並ぶはずだったのですが,後半にラインが演奏されることになったので,2曲に変更されたようです。いずれにしても定期公演で序曲2曲が演奏されるのは珍しいケースです。

最初に「ブルスキーノ氏」序曲が演奏されました。この曲はそれほど知られていない曲ですが,大変楽しい曲です。いつもながらのロッシーニの序曲のパターンなのですが,所々,第2ヴァイオリン奏者が譜面台を「カチカチカチ」と入るのがユニークです。初めて聞いた(見た)人はきっと「何だ何だ」と思ったことでしょう。私も実演で聞くのは初めてでしたが,お客さんの目を引き付けるにはうってつけの曲でした。テンポは落ち着いたもので,しっかりと演奏されていました。

続く,「ウィリアム・テル」序曲は大変有名な曲ですが,OEKが定期公演で演奏するのは,今回が初めてかもしれません。曲はまず,カンタさんのチェロ独奏で始まった後,チェロ・パートによる五重奏になります。カンタさんの音は最初ちょっと力み過ぎかなと思ったのですが,とてもシリアスな雰囲気を出しており,思わず曲の中に引き込まれてしまいました。その後の重奏も非常に良いムードがありました。チェロ奏者がいつもより多いなと思っていたのですが,この部分のためにエキストラ奏者が入っていたのかもしれません。

続く,「嵐」の部分では,大太鼓,トロンボーンが加わり,非常に迫力のある響きを楽しめました。弦楽器とのバランスからすると,管楽器の音は強すぎたかもしれませんが,それほど暴力的な感じはせず,十分コントロールされている音でした。

「牧歌」では,水谷さんの存在感のあるイングリッシュ・ホルンの音が印象的でした。のどかさと逞しさをしっかりと感じさせてくれました。最後の,「スイス軍の行進」も,十分な迫力を感じさせてくれました。お祭り騒ぎにならず,大変引き締まった感じがありました。コーダの部分も大変鮮やかでした。この部分では,ピッコロとフルートの強い音が印象的でした。

続く,ラロのスペイン交響曲もOEKが演奏するのは珍しい曲です。こちらも定期公演で演奏するのは初めてだと思います。今回のソリストの川久保さんがOEKの定期公演に登場するのは,3回目ですが,毎回,充実した演奏を聞かせてくれます。まだ若い方ですが,すでに大家のような落ち着きがあります。音は非常に瑞々しく,どの部分も鮮やかで,健康的な歌を聞かせてくれるのが素晴らしい点です。緩やかな部分でのたっぷりとした情感も素晴らしいもので,この曲の持つスペイン風の情緒が生き生きと伝わってきました。

第1楽章冒頭から十分情熱を感じさせてくれましたがが,この楽章では,ちょっと粗く,音が十分出ていないような所がありました。それが楽章を追うに連れて,曲の流れに乗ってきました。

第2楽章のスムーズな流れに乗った,粋な歌は気の効いたヴァイオリンの小品を聞くようでした。続く,第3楽章がカットされていたののは残念でしたが(プログラムには3楽章の解説が書いてあったので「おや?」と思いました。カットするならば,そう書いてあった方が良かったですね。),続く第4〜5楽章はさらに素晴らしい演奏でした。第4楽章冒頭のトロンボーン+ホルンの充実した音に続いて,たっぷりしたメロディが出てきます。どんどん演奏に脂が乗ってきたような感じで,大変濃い歌を楽しむことができました。下降していく音などを聞くとゾクゾクとしました。

第5楽章は,ハープも加わり,大変カラフルな感じで始まりました。川久保さんの瑞々しさと艶のある音はここでも魅力を発揮していました。演奏自体には落ち着きがあるのに,演奏全体から沸き立つようなノリの良さが伝わってきます。技巧も大変鮮やかなもので,文句なしのヴァイオリンでした。OEKの音色もラテン的のカラっとした音で,川久保さんの演奏にぴったりでした。

川久保さんの演奏を聞いていると,いつも音楽の流れに非常に良く乗っているなぁと感じます。そういう集中力のある演奏には,客席の方も曲の世界に入り込んでくれるような魅力があります。最近,avexからはOEKの伴奏による協奏曲的な作品のレコーディングがいくつか出ていますが,今回の組み合わせによるスペイン交響曲のレコーディングにも期待いしたいところです。

後半の「ライン」は,金聖響さんの意図がストレートに反映した,気持ちの良い演奏でした。古楽器奏法を取り入れた演奏だったこともあり,全体の響きが透明で,すっきりとしていたのですが,曲全体は大きな塊のように有機的にまとめられており,十分なスケール感もありました。シューマンがダイエットをして,贅肉を落とし,筋肉質になったような演奏だと思いました。非常に新鮮でした。なお今回も,ティンパニはバロック・ティンパニを使っているようでしたが,前回の「英雄」の時ほど,強烈な響きは出していませんでした。

第1楽章冒頭は,引き締まった音で始まります。普通は,「国際河川ライン河」という太いうねりを感じさせる部分ですが,もっとゴツゴツした感じがありました。その分,柔らかさのある第2主題との対比が鮮明でした。

第2楽章はすっきりした流れの良い響きで始まりました。この楽章に限らないのですが,各パートが鮮やかに聞こえて来るのも新鮮でした。特に,途中,力強く立ち上がってくるようなホルンの音の盛り上がりが見事でした。こんなに格好良く,面白い楽章だったのか,と再認識しました

第3楽章は,編成的にOEKにぴったりでした。全曲の真ん中で,ほっと一息付くようなインティメート雰囲気がありました。

第4楽章は,全曲中の白眉でした。弦楽器のヴィブラートが少ないこともあり非常に清潔な感じがありました。この楽章は,ケルンの大聖堂からインスピレーションを得た曲ということですが,この日の演奏は,バロック音楽の宗教曲を聞くようなところもありました。対位法的な音の動きもとても明確でした。冒頭のトロンボーンを含む金管の響きも絶妙のバランスで,楽章全体を通じて,宗教的すがすがしさのような気分を感じました。

第5楽章にはアタッカでつながっていました。ここでも弦の響きが薄く,音の動きがキビキビしているので非常にスマートに聞こえました。音の流れも良く,とても爽やかでした。特にトランペットの音が爽快でした。コーダでは,ギアチェンジしたようにテンポ・アップしました。この部分での驚くべき歯切れの良さと輝きは,本当に格好良いものでした。今回の新鮮な演奏を締めるのに相応しいエンディングでした。

アンコールでは,「ロッシーニをもう一曲」ということで,当初のプログラムに入っていた「セヴィリアの理髪師」序曲が演奏されました。アンコールにしては,やや重い曲ですが,とても面白い演奏でした。冒頭から音を短く切るような奏法で始まった後,第1ヴァイオリンに美しいメロディが出てきます。この部分のノンヴィブラートの効果が見事でした。大太鼓の音のダイナミックさも加わり,非常に聞き応えのある演奏になっていました。

今回,岩城音楽監督の急病のため,金聖響さんに指揮者が交代になりましたが,その穴を埋めて余りあるほどのチャレンジングな演奏会になりました。OEKから新鮮な響きを引き出してくれた金聖響さんに心から感謝したいと思います。

PS.このところ恒例となっているプレ・コンサートではヴァイオリンの坂本さん,ヴィオラの石黒さん,チェロの大澤さんの3人によってベートーヴェンの三重奏が演奏されました。私は途中から聞いたのですが,全曲演奏されていたようです。ロビーで立って聞くには少々長かったかもしれません。

PS.演奏会に先立って,先日亡くなられたOEKの元専属指揮者,榊原栄さんを追悼するためにバッハのアリアが演奏されました。この演奏は指揮者なしの演奏でしたが,今回のゲスト・コンサートミストレスのマヤ・イワブチさんのリードの下,非常に落ち着きのある演奏を聞かせてくれました。ノンヴィブラートの美しさは,本割の演奏会の素晴らしさを予感させるものでした。このマヤ・イワブチさんですが,次のページの情報によると,イギリスのフィルハーモニア管弦楽団のリーダーのようです。
参考ページ:フィルハーモニア管弦楽団のページから

PS.プレトークは池辺晋一郎さんでした。相変わらず,話題が豊富で「おもしろくてためになる」内容でした。池辺さんは,シューマンのラインが大好きということで,この曲の面白さを色々と語って下さいました。池辺さん自身は,能登演劇堂で行われる無名塾の公演の音楽のために石川県に来られていたそうです。ちなみに今回上演されるのは「ドライビング・ミス・デイジー」という作品です(実は,数日後に私も見る予定です。金沢市民劇場という会員制の演劇鑑賞会で見ることができます)。

●今回のサイン会
指揮者の金聖響さんには,ラインと同じ3番ということで「英雄」のCDの表紙に頂きました。 川久保賜紀さんのサインを頂くのは今回が2度目です。今回川久保さんは鮮やかな水色のドレスを着ていらっしゃいました。 ゲスト・コンサートミストレスのマヤ・イワブチさんのサイン OEKの団員の皆さんのサイン。上左からマティアス・ファイレさん(チェロ),フルートの岡本さん,ホルンの山田さん,不明(すみません分からなくなってしまいました),チェロのカンタさん,ホルンの金星さん,ヴァイオリンの大隈さん
(2005/09/06)



Review by i3miuraさん

漸く待ちに待った新シーズンが始まりました。岩城さんの病気入院は残念でしたが、代役に久し振りの定期登場の金聖響さんと言うことで、非常に楽しい演奏会になりました。

メインの「ライン」もOEKの演奏会でもかなり点数の高い演奏だったのではないでしょうか?ますます今後の競演が楽しみです。

川久保さんも、これで3度目?の競演だと思いますが、相変わらず若々しい音楽で良かったと思います。(2005/09/06)