オーケストラ・アンサンブル金沢大阪定期公演
2005/09/23 ザ・シンフォニーホール(大阪市)
1)ベートーヴェン/コリオラン序曲
2)ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第5番変ホ長調op.73「皇帝」
3)ベートーヴェン/交響曲第3番変ホ長調op.55「英雄」
4)(アンコール)ベートーヴェン/歌劇「フィデリオ」〜行進曲
5)(アンコール)六甲おろし
●演奏
外山雄三指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング),及川浩治(ピアノ*2)
Review by ねこさん
OEK大阪公演に行ってきました。岩城さんがご病気のため指揮者は外山雄三さんに変更になったのですが、素晴らしい演奏を聴かせてもらって思いがけず外山さんを再発見するいい機会になったように思います。

2曲目がピアノ協奏曲だったため、最初からピアノをセッティングした状態で1曲目の「コリオラン」序曲が始まりました。堅実な、でもとても生き生きした演奏という印象でした。ピアニシモからクレシェンドでフォルテにいたる盛り上がりはいつものことながらすごいな、と思います。とても40人のオーケストラとは思えない迫力です。

続いてのピアノ協奏曲「皇帝」。及川浩治さんのピアノは堂々としたもので、とてもゆったりとした気分で楽しむことができました。それを支えるオーケストラは外山さんが隅々にまで目を光らせてコントロールしている感じで、とても緻密で完璧なサポートぶりです。これだけしっかり支えてもらえたらピアニストはとても弾きやすいことでしょう。オケーリーさんのティンパニが要所要所で素晴らしい効果を出しておられました。

後半は第3番「エロイカ」でしたが、演奏の前に外山さんからこんなアナウンスがありました。「本日は岩城が病気のため私が代役で振らせていただいています。おかげさまで岩城は順調に回復していて、10月1日から指揮活動に復帰します。来年の今日は間違いなく岩城が指揮しますのでまたよろしくお願いします」とのこと。「岩城さん復帰」の知らせに会場からは大きな拍手が起こりました。岩城さんと外山さんはN響の研究員時代からのお友達、ということは岩城さんの著書の中にもよく書かれていますが、お二人の友情の厚さがよく伝わってくるお言葉だと思いました。

「エロイカ」も堅実な演奏ぶりでしたが、意外にもすごく若々しさが感じられる場面が多々あったのはちょっとした驚きです。何度も聴いたことのある曲なのですが、テーマのつながり具合や曲の構造などで新たに見えてくるところがたくさんあって、とても新鮮に感じられました。当然のことではありますが、岩城さんとも金聖響さんともまた違ったスコアの読み方をされているのだなということがよくわかります。2楽章の長大な音楽もぜんぜん飽きさせない組み立て方はさすがです。2楽章のオーボエのソロ、3楽章のホルンのパートソロ、とても素敵でした。

アンコールの前にまた外山さんのお話がありました。「朝比奈先生が生きておられたら(ここは大阪!)『ベートーベンの音楽の後に何かを付け加えるなんてけしからん!』とお叱りを受けそうです。それにベートーベンの音楽というのは、今のエロイカにしてもそうですが、長大なものが多くて短いのがなかなかないんです」 というわけでアンコールに選ばれたのはベートーベンのオペラ「フィデリオ」の中の行進曲。外山さんのお話によると、オペラの中で悪人が登場する場面の行進曲だそうで、このオペラを指揮するときにはいつも「なぜこんな悪人が登場する場面にこんなさわやかなきれいな曲が使われているのだろう?」と不思議に思うのだそうです。お話の通り、ぜんぜん悪人らしくない素敵なマーチでした。

これで終わりだな・・・と思ったところで突然また外山さんの棒が振り下ろされました。始まったのは聞き覚えのあるメンコンのカデンツァ・・・2年前の大阪公演も聴かせてもらっている私は思わず心の中で「やったあ!」と叫んでいました。「六甲おろし」です!会場はたちまちに興奮した手拍子につつまれました。ただ、前回とはちょっと違ったバージョンでした。前回の2番は朗々としたトランペットのソロだったと思うのですが、今回はクラリネットがメロディを奏でる上にヤングさんのバイオリンソロがオブリガートのように重なるちょっとしみじみした雰囲気でした。3番は弦楽器を主体にした全奏にもどり、再び会場の拍手といっしょになって最高の盛り上がりのうちに演奏会を終わったのでした。阪神はまだ正式に優勝を決めたわけではないのですが、もう時間の問題ということでやってくださったのでしょう。アンコールの、それも六甲おろしにいちばん拍手が多い、というのは演奏している皆さんにとってはきっと複雑な気分だろうと想像してしまいますが、ここは大阪なのでどうぞ大目に見てやってくださいませ。

外山さんという指揮者は「真面目でとても怖そうな人」というイメージだったのですが、緻密な中にも若々しさや遊び心を感じさせる面もお持ちなのだということを今回発見しました。岩城さんのご病気のおかげで思いがけないものを見つけたようでうれしく思います。それから全体を通じてコンミスのヤングさんのリードが素晴らしいなと思いました。見ていて気持ちのよくなるような鮮やかな弾きぶりです。またフルートは前半だけでしたがベネットさんが1番を担当され、2年前と同じくチャーミングな音色を聴かせてくださいました。エロイカの1楽章はリピートなしで先にいってしまったのですが、あれは六甲おろしの時間を確保するためだったのでしょうか・・・?

会場は去年と同じく立ち見のでる盛況ぶりでした。北陸朝日放送の中継カメラが入っていましたので、また後日金沢でも放送されることと思います。また、これは初めて目にしたのですが、ロビーに「ミス百万石」のたすきをかけたピンクのワンピース姿の美しい女性が立ってチラシなどを配っておられました。

OEKは明日は松江、そのあと熊本、鹿児島とまだまだツアーが続くようです。明日もエロイカですが今度は井上道義さん。今日とはまたぜんぜん違った演奏になることでしょうね。練習するほうは大変だと思いますが、今年の秋のツアーを全部追っかけて聴くことができたらどんなに面白いことかと思わずにいられません。演奏旅行が無事に成功のうちに終わりますように。そしてまた来年の大阪公演を楽しみにしています。(2005/09/24)