オーケストラ・アンサンブル金沢第188回定期公演PH
モーツァルト・フェスティバルin金沢:ザルツブルク・モーツァルト・フェスティバルオーケストラとの合同演奏
2005/10/08 石川県立音楽堂コンサートホール
1)モーツァルト/交響曲第35番ニ長調,K.385「ハフナー」
2)モーツァルト/協奏交響曲変ホ長調,K.297b
3)モーツァルト/交響曲第41番ハ長調,K.551「ジュピター」
4)(アンコール)モーツァルト/ディヴェルティメントニ長調,K.136〜第1楽章
5)(アンコール)モーツァルト,L./アルペンホルン協奏曲
●演奏
岩城宏之指揮ザルツブルク・モーツァルト・フェスティバルオーケストラ(1,3-5);オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:松井直)(2-5)
イザベラ・ウンタエール(オーボエ*2),遠藤文江(クラリネット*2),柳浦慎史(ファゴット*2),ヴィリー・シュヴァイガー(ホルン*2,アルペンホルン*5)
ヴィリー・シュヴァイガー,フロリアン・リーム(プレトーク)
Review by 管理人hs
オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演とモーツァルト・フェスティバルin金沢のオーケストラ公演とを兼ねたOEKとザルツブルク・モーツァルト・フェスティバルオーケストラ(SMFO)による合同演奏会は,堂々たるスケール感を感じさせる演奏会となりました。

この日のプログラムは,最初にSMFOの単独演奏,続いてOEKの単独演奏に両オーケストラの管楽器奏者がソリストとして加わる演奏,最後にSMFOとOEKの合同演奏という構成になっていました。オーケストラの合同演奏だけではなくソリストの合同演奏が聞けたのも面白い点でした。

最初の「ハフナー」は,いつもの合同演奏ではOEKが単独演奏を担当する曲ですが,今回はこの曲がSMFOの担当となっていました。ザルツブルクのオーケストラ奏者にとって,モーツァルト作品はレパートリーの基本中の基本ですが,そのことを実感させるような素晴らしい演奏でした。SMFOは編成がOEKより小さいこともあり,一部の隙もなく,古典的なバランス良さを感じさせてくれるような演奏でした。各楽器の音はクリアなのですが,冷たくすましたようなところはなく,人懐っこさのある優しさも感じさせてくれました。

第2楽章は,岩城さんらしく遅すぎない快適なテンポで演奏されていましたが,淡々とした音の流れの中から自然と優しさがにじみ出てくるようでした。最終楽章も速すぎず遅すぎずの最適のテンポでした。そのこともあり,すべての音がしっかりと弾き切れており,充実感のある演奏となっていました。最後,手綱を締めるようにわずかにトランペットを強調していたのも祝祭的な気分を盛り上げていました。

この演奏では,管楽器については,OEKがSMFOを補うような形で演奏に加わっていました。ティンパニもOEKの渡邉さんが担当していましたが,バロック・ティンパニを使っていたようでした。これも終楽章などを中心に効果を発揮していました。

OEK単独(少しSMFOの方も加わっていたようですが)で演奏された,協奏交響曲は非常にたっぷりした音で始まりました。OEKの方が編成が大きいこともあり,1曲目に比べると音に厚みが加わったような気がしました。その後もたっぷりとした響きで柔らかで暖かみのある雰囲気を作っていました。

ソリストは,下手からオーボエのウンタエールさん(SMFO),ファゴットの柳浦さん(OEK),ホルンのシュヴァイガーさん(SMFO),クラリネットの遠藤さん(OEK)の順に並んでいました。これらのソリストたちが演奏に加わると,演奏はさらに平和でのどかな雰囲気になりました。やはり,自分のオーケストラの奏者たちがソリストとして登場するというのは,オーケストラにとっても聴衆にとっても,通常のソリストの場合とはかなり気分が違うのではないかと思います。会場全体に4人を暖かく見守る空気がありました。逆に言うと,そういう空気に相応しい曲であり演奏であったと言えます。岩城さんの作るゆったりとしたテンポの上で,各楽器がのびのびと歌っていました。ただし,のびのびと歌いながらも,全体のバランスは良く,岩城さんの掌の上で4人が楽しく戯れているような感じでした。合同演奏ならではの友好的な雰囲気のある演奏でした。

第2楽章も同じ傾向でしたが,さらに濃密な雰囲気となりました。モーツァルトの13管楽器のためのセレナーデ「グランパルティータ」の一つの楽章を聞くようでした。

第3楽章になると,パッとテンポが変わり,ステージの空気も変わります。この楽章には各楽器の技巧合戦のような楽しさがありました。4つの楽器それぞれが,4つのキャラクターを演じ分けているようでした。ファゴットとホルンには頼りがいのある男性,オーボエとクラリネットには快活な女性という一般的なイメージがあるのですが,今回の演奏はそのイメージどおりでした。

オーボエのウンタエールさん,クラリネットの遠藤さんが両脇から速いパッセージを闊達に演奏し,アルペンホルンですっかりお馴染みとなったホルンのシュヴァイガーさんとファゴットの柳浦さんがおおらかに応えるという組み合わせは絶妙でした。特にシュヴァイガーさんのホルンはギュッと引き締まった強い音で安定感抜群でした。この曲は偽作と言われている曲ですが,「ソリスト4人」ということもあり,今回のようなイベント的な演奏会にはピッタリの曲だと思いました。

演奏会は,「ジュピター」交響曲で締められました。岩城さんの大きな流れを作りながらも要所を締める指揮ぶりは,オーケストラから余裕のある豊かな音を引き出していました。今回は合同演奏といっても,2つのオーケストラを合わせて通常のオケになるぐらいの大きさです(管楽器の方はさすがに2管編成のままでした。「ジュピター」の場合,クラリネットなし,フルートも1本でしたので,弦楽器だけが2倍になっていた感じでした)。東京や大阪などのオーケストラでは,こういうサイズでのモーツァルト演奏は珍しくないのかもしれませんが,金沢の聴衆にとっては新鮮だったと思います。

室内オーケストラによる,引き締まった響きも良いのですが,2つのオケが合わさったマイルドでたっぷりとした響きも良いものです。演奏史的に見ると,こういう演奏は現代では時代錯誤的なのかもしれませんが,「ジュピター」については,大シンフォニーとして演奏されても全然問題ないと思います。

第1楽章は冒頭から全く力みのない響きで始まりました。流れの良さを持ちながら,堅固で所々筋肉質の力強さを残しているのは岩城さんらしいところです。神経質なところがなく,大らかな気分に溢れており,「ジュピター」のイメージにぴったりでした。

第2楽章は,弦楽器の音が非常にまろやかで,第1楽章と好対照を作っていました。第3楽章も落ち着きがあり,全体にたっぷりと演奏されていました。その一方,キレの良さを感じさせてくれる部分もあり,舞曲的な運動性も感じさせてくれました。

第4楽章は岩城さんの復帰を印象づけるような元気で速いテンポで演奏されました。ホルン,トランペットといった楽器がクライマックスでは強調され,演奏全体もクライマックスに向けて自然な盛り上がりが築かれてました。

その後は,一昨日と同じようなパターンでアンコール曲が演奏されました。最初に演奏されたK.136のディヴェルティメントの第1楽章は,今回のように大編成の弦楽合奏でも聞いても良いものです。岩城さんは,一昨日同様,最初の指示を出した後,ステージ後方の座席に移り,音楽に浸っていました。この曲については,日中,交流ホールで弦楽四重奏版を聞いたばかりだったのですが,こういう聞き比べができるのも「フェスティバル」ならではです。

アンコールの2曲目は,今回のフェスティバルのMVP=シュヴァイガーさんでした。シュバイガーさんはすっかり金沢ではおなじみになったのではないかと思います。一昨日と全く同じ曲が演奏されましたが,その楽しさは相変わらずです。今回もカーテンコールの時に長い長いアルペンホルンを持ったままステージと袖を往復していましたが,この姿はユーモラスです。他の楽器にぶつからないか見ていて冷や冷やしましたが...。


今回のフェスティバルは,モーツァルト演奏の経験が豊かなOEKとSMFOという両オーケストラのメンバーが中心となって,大いに盛り上がりました。SMFOとOEKの相性はとても良かったので,モーツァルト・フェスティバルin金沢を定期的に行なっても良いぐらいだと思いました。OEKは数年前,「フィガロ」「魔笛」といったモーツァルトのオペラ全曲を上演したことがありますが,今度は「ドン・ジョバンニ」「コジ・ファントゥッテ」辺りの上演を期待したいと思います。

PS.今回も開演前のロビーで「プレコンサート」が行なわれました。今回はSMFOの4人のメンバーによる弦楽四重奏で,ディヴェルティメントK.138全曲が演奏されました。この曲ですが,ほんの1時間ほど前に,交流ホールで行なわれたアンサンブル・チェルブによって全く同じ編成で聞いたばかりでした。偶然の一致だと思いますが,なかなか興味深い聞き比べができました。SMFOの奏者はチェロ以外は立って演奏されていましたが,動作がとてもダイナミックで,演奏の呼吸もとても深いと感じました。モーツァルトが血肉になっているような印象を持ちました。
プレコンサートには,SMFOの4人の弦楽器奏者が登場しました。。

PS.この日は定期公演だったのですが,サイン会は行なわれませんでした。その代わり,次の写真のとおり,モーツァルト展で展示されていたパネルに演奏者たちがサインをしたものを2000円で販売していました。かなり人気を集めていたようです。
1点2000円で販売していました。 その他にもいろいろなグッズの販売をしていましてので,売店は大賑わいでした。
フェスティバルの様子を伝えるポスターが早くも並んでいました。左の写真には,よく見るとアルペンホルンを吹くシュヴァイガーさんが写っています。 一昨日,復帰された岩城さんのポスターも展示されていました。
(2005/10/10)