劉薇ヴァイオリンリサイタル
〜東洋から流れたヴァイオリンの音楽〜

2005/10/18 金沢市アートホール
馬思聡/山歌(1953)
馬思聡/王昭君悲歌(1943)〜ヴァイオリン協奏曲へ長調第2楽章
馬思聡/アミ族組曲(1973)
ドヴォルジャーク/4つのロマンス 作品75
エネスコ/幼き頃の印象作品28(T:吟遊詩人 U:年の老いた修道士 V:庭の奥に流れる小川 W:籠の鳥と鳩時計 X:子守唄 Y:こおろぎ Z:窓の月 [:煙突の風 \:外は嵐の夜 ]:日の出)
ポルムベスク/望郷のバラード 作品29
モンティ/チャルダッシュ
(アンコール)1曲目不明
(アンコール)カザルス/鳥の歌
●演奏
劉薇(ヴァイオリン),寺嶋陸也(ピアノ)
Review by みやっちさん  
劉薇(リュウ・ウェイ)さんのヴァイオリンリサイタルを聴きに行ってきましたが、今までに触れたことのない本物のヴァイオリニストが奏でる詩情豊かな演奏に終始惹き込まれ、情感豊かな音色の世界を堪能しました。

今回は中国の作曲家・馬思聡(マー・スツォン)と東欧系の曲のプログラミングで、私の好きな魅力的な曲がズラリ、特にポルムベスクの「望郷のバラード」など心の奥底まで哀愁漂う雰囲気といい、東欧出身のヴァイオリニストが奏でているような何とももの悲しく繊細な音色といい、本物のクラシック音楽の真髄に初めて出会う感激を味わい尽くしてきました。

実は最初の曲目を逃してしまいましたが、会場に入ったときの劉薇さんのトークが丁寧なプログラム解説と併せて、曲目の背景やご自身の体験を通してヴァイオリンに対する愛情が伝わってくると同時に、これから聴く演奏に期待感がふくらみました。(来日20年の日本語もとっても流暢でした。)

馬思聡の「ヴァイオリン協奏曲 第2楽章」は、ヴァイオリンの音色が二胡のように感じる渋みのある東洋的な音色が大らかに伝わってきて、雄大な河の流れのようなゆったりとした音楽に身を任せていました。

続いて馬思聡の「アミ族組曲」は、台湾阿美族の民謡に基づいた5つの曲からなり、ルーマニア民俗舞曲を思わせるようなヴァイオリンの多彩な響きと独特の雰囲気を醸し出した情景豊かな音色が味わい深く伝わってきました。

前半最後のドヴォルザークの「4つのロマンス」では、第1曲のよどみなく流れるようなたくましい芯のある音色、第2曲の細かく刻みこむような切れ味のある力強さ、第3曲の曲調の転換に伴う生き生きとした音色、第4曲のしっとりとした素朴な音色に魅了されました。

後半最初のエネスコ「幼き頃の印象」は、劉薇さんが演奏前におっしゃっていた腕の消耗の極めて激しい難曲ながらも、そんなものを感じさせないような演奏で、鳥やこおろぎの鳴き声、川・風・月・嵐などの印象的な自然描写で情緒と雰囲気のある音色で包み込んでいく一番印象に残る表現力豊かな演奏でした。

続いて私がヴァイオリンに強く興味を持ったきっかけとなるポルムベスクの「望郷のバラード」では、鳥肌が立つほどもの哀しい愁いの音色を繰り返しながら、やがて不思議な安堵感に包まれていくメロディーは、時の流れを感じさせない演奏で東欧的情緒がたっぷり染み込んでいました。

最後のモンティ「チャルダッシュ」は、今までのしっとりとした雰囲気を打ち消すことなく、東欧的な味わいを色濃く表現していました。

アンコールのカザルス「鳥の歌」は、劉薇さんの知り合いの方(金沢の人)を追悼するために弾かれましたが、拍手をためらうような音が消え入る静寂感を残す演奏でした。

終演後は、劉薇さんのCD「馬思聡:ヴァイオリン作品集V」を1枚買い求め、サイン会で演奏会の感想をじかに伝え、劉薇さんは親しげに金沢での公演の約束を誓ってくれました。劉薇さんの旦那さんは金沢出身なので、楽しみにまたの機会を待ちたいと思います。

このコンサートを紹介してくれた知り合いの方と一緒に聴いたのですが、実は今回で劉薇さんの演奏は3回目というぐらいのオススメぶりで、今まで全然クラシック音楽を聴いていなかったんじゃないかと思うほど深遠な音色の世界に出会い、幸福感がいつまでも消えることのない私のベストリサイタルでした。(2005/10/23)