オーケストラ・アンサンブル金沢第189回定期公演F
2005/10/29 金沢市観光会館
チャイコフスキー/バレエ「眠りの森の美女」(ヴィースバーデン歌劇場演出版)
●演奏
ジャン=ルイ・フォレスティエ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス)
ベン・ヴァン・コウヴェンベルク(振付・演出);マレック・トゥマ(カンパニーマネージャー);ヴィヴィアン・ロエバー,アレキサンダー・モナホフ(振付アシスタント);黒柳和夫(舞台監督)

イレーナ・ヴェテロヴァ(オーロラ姫),アリエル・ロドリゲス(デジレ王子),アレキサンダー・モナホフ(カラボス),マリアナ・ガルシーア(妖精リラ,フロリナ姫),エルヴィス・ヴァル(カエル,青い鳥,騎士,赤い靴をはいた猫),ヴァディム・ラツァエヴ(騎士),マシュー・トゥーザ,アデミルソン・モレッティ(騎士,カラボスの部下),マレック・トゥマ(国王)
OEK特別編成バレエ団(バレエミストレス:川内幾子)(三村佳美,前田加奈子,殊才真実,内井美穂,大竹真悠子,旭若菜,山下恵,橋爪美香,辺本萌 他)
Review by 管理人hs  
今回のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のファンタジー公演は,ヴィースバーデン歌劇場バレエ団のソリスト及び地元のバレエ団との共演によるチャイコフスキーのバレエ「眠りの森の美女」の上演でした。これでOEKはチャイコフスキーの3大バレエを全部演奏したことになります。OEKのバレエ公演は毎回大変盛り上がります。今回もまたバレエの楽しさを堪能させてくれました。ヴィースバーデン歌劇場バレエ団とOEKとは,過去数回共演しているのですが,今回はオーケストラ・ピットを拡張した金沢市観光会館での公演ということで,これまでよりも群舞を楽しむことができたのが最大のメリットでした。

この作品自体,非常に華やかなムードがあります。これをオーケストラの伴奏付きで見るというのは最高の贅沢です。有名なローズ・アダージョやオーロラ姫とデジレ王子によるパ・ドドゥなどゾクゾクするような場面が沢山出てきました。

今回の上演は,「ヴィースバーデン歌劇場演出版」という独特の構成・曲順で演奏されていました。本来は,プロローグ+3幕という構成なのですが,休憩が1幕の後に1回だけ入る,2部構成となっていました。

曲順もかなり大胆に変更していました。オリジナルでは最終幕が「オーロラの結婚」となり,ガラ・パフォーマンスのようにいろいろなダンスが続くのですが,ヴィースバーデン版では,その中の有名な「青い鳥のパ・ドドゥ」を”少女時代のオーロラの憧れ”というセッティングで第1幕に持って来ていました。開演直後の序奏部が「王妃の入浴シーン」となっており,そこに「カエルの踊り(ペロー童話に出てくるのだと思います)」が出てくるのも独特でした。最終幕には,金,銀,ダイヤモンドといった精の踊りもあるのですが,これも別のダンサーの踊りに変更されていました。結局,最終幕に残った”キャラクターもの”は「長靴をはいた猫」ぐらいでした。

この各種キャラクターを1人のダンサーで踊っていましたので(カエル,ネコ,青い鳥に加え,姫に求婚する騎士も兼ねていました。衣装換えが,大変だったと思います),これはかなりの「経費節減」になるのではないかと思いました。ただし,その分,結婚式のゴージャス感はかなり薄れていました。「キャラクターもの」をバレエ全体に散りばめるために,いろいろストーリー展開に工夫はしていたのですが,はじめてこのバレエを見るものとしては,豪華な仮装パーティ的な最終幕を見てみたかったなと思いました。

バレエは,悪い妖精カラボスのテーマで始まりますが,このテーマをはじめとして,この日は大変打楽器の音が力強く,聞き映えがしました。トロンボーンとチューバをはじめ,金管楽器と打楽器を増強していましたので,地の底から湧き出てくるような非常に野性味のある音を楽しむことができました。

続く行進曲が終わったところで,幕が開いたのですが,上述のとおりいきなり王妃の入浴シーンだったのには驚きました。ペロー童話の中にカエルと王妃が出てくる話が確かあったと思うのですが,子供を待望する王妃ということで,その話を挿入していたようです。照明が緑色に変わり,カエルが身軽にひと踊りしてくれました。カエルのマスクを被っていたこともあり,スパイダーマンを見るような感じでした。

この日の舞台は非常にシンプルなものでした。具体的な建物や風景を表すような大道具は全くなく,下手奥に吊り下げられている大きな額縁のようなスクリーンにイメージ映像を映し,背景の照明の色合いを変えることで場面の気分を変えていました。

その後,オーロラの誕生の場となります。実際の赤ん坊の泣き声が入ったりして,ストーリーを分かりやすくしていました。こういう”効果音”は後にも数回出てきました。個人的にはチャイコフスキーの音楽と演技だけで表現して欲しかったな,と思いました。

名付け親の妖精たちが続々出てくる場では,地元のバレエ団の選抜メンバーが大活躍していました。過去,音楽堂で公演を行なっていた時は,大規模な群舞を行なうことは難しかったのですが,こちらのステージだと存分に踊ることができます。そのことを意識してか,今回は地元バレエ団の皆さんの出番がかなり多くなっていました。パンフレットによると70人以上登場していたようです。次々と違う踊り手が出てくるのはそれだけで舞台が華やかになります。

その後,悪役の妖精カラボスがオーロラ姫に呪いを掛けるために出てきます。今回,このカラボス役は,振付アシスタントも担当していたアレキサンダー・モナホフさんという男性が担当していました。癖の強い役柄なので,男性が踊る場合もあります。非常にキレの良い踊りで,悪役ぶりを非常に強烈にアピールしていました。このカラボス役は,"どこかグランディーバ・バレエ団"という感じでしたが,手下の2人組の方には"どこかレイザーラモンHG"といったところもあり,冷静に考えると結構ユーモラスな3人組でした。

「オーロラの教育」の部分もオリジナルにはない部分です。ここでは,子役のオーロラが出てきました。大切に大切に育てられましたというストーリーを丁寧に説明していました。さらに,食事シーンで王様と王妃の陰に隠れている間に,もう少し大きなオーロラに早変わりしていました。オーロラが生まれてから16歳になるまでをきちんと描くというのが,このヴィースバーデン版の特徴のようです。

その後,本来2幕に出てくるチェロの独奏が印象的な美しいアダージョが入りました。この日の独奏も大変聞き応えがありました。続いて,本来3幕に出てくるはずの「青い鳥」のパ・ド・ドゥが入ります。上述のとおり,少女時代のオーロラの憧れという設定になっていました。今回の「青い鳥」は,最初のカエル役で既に登場していたエルヴィス・ヴァルさんが踊りました。相手役のマリアナ・ガルシーアさんとあわせて,ラテン系の2人組によるパ・ドドゥでした。足の素早い動きをはじめ,とてもキレの良い踊りとジャンプを楽しませてくれました。

オーロラの16歳の誕生日の場では,有名なワルツの場が見ごたえがありました。手に手に花輪をもったダンサーがワーっと集まって踊るというのは,この部分のイメージどおりです。今回,小さなコックさんのような扮装をした少年が踊りの中心に入っていましたが,愛嬌があって(金沢弁で言うところの「あいそらしい」),明るいムードを盛り上げていました。

その後,オーロラ姫が登場します。オーロラ役を踊っていたのは,イレーナ・ヴェテロヴァさんでした。この方は前回の「白鳥の湖」の時も主役でした。今回も気品と落ち着きのある踊りを見せてくれました。「来るか,来るか」と待っている中,主役がスーッと入ってくるのはバレエを見る醍醐味の一つかもしれません(オリジナルでは,階段から駆け降りてくることになっています。本当はこのパターンを見てみたかったのですが)。

第1幕のいちばんのヤマは,続く「ローズ・アダージョ」でした。オーロラ姫が爪先立ちしたまま,4人の騎士が順に手を取っていく部分は,非常にスリリングでした。OEKの伴奏も非常に遅いテンポで,じりじりと盛り上げてくれました。特に小太鼓の音が効果的でした(ただし,トーマス・オケーリーさんのティンパニの方は,伴奏にしてはちょっと音が大き過ぎかなと思いました。)。

音楽と踊りの盛り上がりが一体になったような,この部分が見事に決まった後は,あまりの格好良さにしびれるような感覚が残りました。

第1幕の最後は,カラボスが再度登場し,姫が予定どおり指を刺してしまうのですが,リラの精の魔法によって,「死」から「眠り」に変更されます(「死刑」が「懲役100年」に減じられた感じ?)。この辺のドラとかファンファーレが入る部分には,スペース・ファンタジー映画の先駆という気分がありました。

後半は第2幕と第3幕が続けて演奏されました。第2幕の最初の方は,オリジナル版では比較的印象の薄い部分なのですが,ここではそれを補うかのようにいろいろと小道具が使われていました。本物の犬がステージ上に2頭出てきたり(金沢に住んでいる犬でしょうか?とても大人しくしていました),「パーン」という効果音と共に鉄砲を撃つと天井から鳥がバサっと落ちてきたり(どこか「8時だョ全員集合風」)退屈させない工夫がされていました。

ここで初めて白タイツのデジレ王子が登場します。今回は,アリエル・ロドリゲスさんが担当しました。地元バレエ団の方々との共演が続いた後,王子とリラの精が出逢う場になります。オリジナルでは,リラの精がオーロラ姫の「まぼろし」を見せて,王子を城まで案内するというはずなのですが,今回はリラの精と王子によるかなり長い踊りになっていました。この部分の音楽は技巧的なヴァイオリン・ソロが延々と続くものでした(本来は別の部分に出てくる音楽だと思います)。今回のコンサートマスターのサイモン・ブレンディスさんのソロには水も滴るような色気がありました。全く危なげなところもなく,「さすが」という感じでした。

ただし...有名な「パノラマ」の音楽が出てきませんでした。オリジナルでは,この幻想的な音楽に合わせて小船に乗り(その間に舞台転換をしているのだと思います),全員が眠っている城に到着するのですが,今回は大道具が全然なく,舞台転換の時間が必要無いのでカットしたのかもしれません。これは少々残念でした。有名な曲なので,間奏曲的に入れても良かったのではないかと思いました。

スクリーンが上がると,「100年間眠っている人々」が浮かび上がってきます。その後,再度ドラやらファンファーレやらが入って,100年ぶりに目覚めるのですが,やはり,パノラマの音楽が無かったり,オーロラのまぼろしを追う部分が無かったりしたせいもあり,「100年にしては短いな」という感覚が残りました。

ここで一旦幕が降ります。ここで少年2人が登場し,「場つなぎ」のような感じで幕の前でパフォーマンスを見せてくれました。ストーリーには全く関係ないクシャミの入る「小ネタ」を品良くユーモラスに演じてくれました。クシャミの演技が巧いなと感心して見ていました。

その後,幕が上がり,第3幕になります。これまでクールな色合いだった照明が暖色系等に変わっており,鮮やかな印象を与えてくれました。天井からシャンデリアが降りてきたり,舞台奥にテーブルが出てきたりおり,結婚式らしいおめでたい華やかさが出ていました。

オリジナルでは,ここで宝石の精の踊りが出てくるのですが,今回は第1幕に出てきた妖精たちの踊りになっていました。ヴィースバーデンの男性ダンサーと地元の女性ダンサーによる共演は,とてもうまくいっていました。

続いて,ペロー童話に出てくる長靴をはいた猫の踊りになります。かぶり物をし,シッポ付きの衣装を着てのユーモラスな踊りということで,良いアクセントになっていました。

第3幕の見せ場,オーロラ姫とデジレ王子のパ・ド・ドゥは,第1幕最後のローズ・アダージョに対応するような見ごたえがありました。有名な「フィッシュ・ダイブ・ポーズ(女性が頭から前に飛び出し,男性の脇の下で抱えるポーズ)」はちょっと女性が重そうに見えましたが,うまく決まっていました。

デジレ王子のヴァリアシオンでは,のびのびとしたマネージュ(ステージに大きく弧を描くような踊り)の途中から大きな拍手が起きていました。やはりこういった部分は,音楽堂のステージでは踊れないと思います。

オーロラ姫のヴァリアシオンの方は,軽妙なステップを楽しませてくれました。ここでもブレンディスさんのヴァイオリンが活躍していました。

全曲のフィナーレは全員によるマズルカです。これまで出てきた人たちが総出演し(カラボスはいませんが),音楽が高揚する中,最後,全員が一斉にピルエットをして,手を広げて終わるというのには,バレエならでは高揚感があります。

カーテンコールでは盛大な拍手が続きました。独奏ヴァイオリンを弾いたサイモン・ブレンディスさんまでステージ上に登場していたのは,珍しいかもしれませんが,それだけ見事な独奏でした。今回,音楽をいくらかカットしていたとはいえ,この曲の音楽は非常に派手で,技巧的なメロディが続々と出てきますので,2時間以上演奏していたOEKの皆さんは本当に大変だったと思います。ステージ上の動きで発散できるダンサーの皆さんよりは,暗いところに閉じ込められ続けているオーケストラの皆さんの方が,かえって疲労が多いのではないかと思ったりもしました。お疲れ様でした。

今回は,ヴィースバーデン版ということで,物語の流れは良くなっていたのですが,やはりオリジナルの曲順の方が良いかなという部分がありました。機会があれば,オリジナル版の方も見てみたいものです。バレエというのは,言葉がない分,身体の動きと音楽の動きでダイレクトにドラマが伝わってきます。ガラコンサート形式でも良いので,これからも毎年1本ぐらいはオーケストラ伴奏付きでバレエを見てみたいものだと思いました。

PS.今回も定期公演恒例のサイン会を行なっていたようですが,ファンタジー公演についてはOEKは主役ではないので,特に行なう必要はないかな,と感じました。というわけで今回はパスしてきました。

●金沢市観光会館〜21世紀美術館〜柿木畠界隈の散歩
この日は18:00開演だったのですが,座席引き換えが16:30からだったこともあり,いつもよりも早目に出かけてきました。券の引き換えの後,そのまま観光会館の前で待っているのも芸がないので,久しぶりに柿木畠(かきのきばたけ)商店街まで歩いてみました。

座席引き換えの様子です。かなり大勢の方が既に並んでいました。
金沢市観光会館での公演の時はいつも,このような垂れ幕のような看板が出ています。こういうは遠くから目だって良いですね。
取りあえず21世紀美術館方面に向かいました。単なる「通路」として通り抜けただけなのですが,せっかくなので「タレルの部屋」にしばらく佇んできました。左が入った時,右が出たときです。この時期はすぐに暗くなります。右の写真の方はライトアップが始まったため明るくなっています。
その後,柿木畠商店街の方に行きました。かつてOEKが金沢市観光会館定期公演を行なっていた頃はこの辺をよく通っていました。手前の店は有名なジャズの聴ける店「もっきりや」です。
さらに行くとうつのみや書店の前に出ます。この店の前は広場のようになっていますが,これは金沢市特有の広見と呼ばれるスペースです。この先さらに行くと竪町または香林坊の繁華街に出ます。
この辺を歩くと懐かしくなります。その後,観光会館に戻りました。途中,かつてのOEKの練習場だった旧プラネタリウムの前にも行ってきました。今は何に使われているのでしょうか?
観光会館に戻るとすっかり暗くなっていました。
入口付近には花束コーナーがありました。地元の知人・親戚が沢山出る公演の時にはいつも華やかな雰囲気になります。
当日の出演者の写真と公演時間の書かれた貼り紙です。第1幕75分,第2幕25分,第3幕ということで前半が重くなっていました。
終演後,再度21世紀美術館の前を通りかかりました。「本当の結婚式」をやっていたようでした。
この日はバスで帰りました。香林坊のバス停の後ろにある石川近代文学館の写真です。最近ではどこもライトアップしています。
(2005/10/30)