チェコ・フィルハーモニー管弦楽団演奏会
2005/11/14 石川県立音楽堂コンサートホール
プロコフィエフ/バレエ「ロメオとジュリエット」から(モンタギュー家とキャピュレット家,少女ジュリエット,マドリガル,メヌエット,仮面,ロメオとジュリエット,タイボルトの死,ジュリットの墓の前のロメオ)
チャイコフスキー/交響曲第4番ヘ短調op.36
(アンコール)チェイコフスキー/バレエ「白鳥の湖」〜ワルツ
●演奏
シャルル・デュトワ指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
Review by 管理人hs  
音楽堂入口にはデュトワさんの写真入りの大きな看板が出ていました。
金沢初登場のシャルル・デュトワさんと,1994年以来の金沢の舞台となるチェコ・フィルによる演奏会に出かけてきました。チェコ・フィルといえば,「ドヴォルザークとスメタナのオーケストラ」という印象が強かったのですが,近年は国際化が進んでいるようで,今回は,スイス人指揮者によるロシア音楽という組み合わせとなりました。前半後半ともにソリスト無しでしたので,何よりもまず指揮者のデュトワさんの強力なリーダー・シップを感じさせてくれる演奏会となりました。

今回,メイン・プログラムとして,チャイコフスキーの交響曲第4番が演奏されたのですが,個人的には前半のロメオとジュリエットの方が楽しめました。もちろん,チャイコフスキーの第4番の生演奏を楽しめないわけはないのですが,どうもデュトワさんのコントロールが強すぎて,聞いていて少々窮屈な感じがしました。

前半のロメオとジュリエットは,バレエ組曲版の中から 曲を抜粋し,自由に並び替えた形で演奏されました。この曲を生で聞くのは初めてでしたが,変化に富んだ曲が並べられており,デュトワ/チェコ・フィルの魅力を十分に味わうことができました。

曲は有名な「モンタギュー家とキャピュレット家」から始まりました。最初の不協和音に続いて,力こぶを作るようにズンと低音が入ってくるのですが,まず,その音の重量感が印象に残りました。ぐっと鷹揚に迫ってくるような力感がありました。チェコ・フィルは,弦楽器の表情が大変豊かです。低弦の音が大変充実しており,華やかな部分でも薄っぺらな感じになりません。ちょっとしたヴァイオリンの音にも厚みと艶があり,その音を聞いているだけで充実感に浸ることができました。

デュトワさんのテンポ設定は全体にゆったりとしたものでした。力みのないゆとりのある音楽がたっぷりと広がりました。続く「少女ジュリエット」のような細かい音の動きのある曲でも,せせこましくならず,常に優雅な雰囲気が漂っていました。「マドリガル」での暖かさと爽やかさがブレンドされた弦楽器の響きも素晴らしいものでした。

音がキラキラとはじけるけれどもうるさくない「メヌエット」,打楽器群の軽妙なリズムが快適な「仮面」と続き,バルコニーの場面の愛の音楽となります。ここでもチェコ・フィルの落ち着きのある響きがムードにぴったりでした。

次の「タイボルトの死」は,長年生で聞いてみたいと思っていた作品です。25年ほど前,セルジュ・チェリビダッケ指揮ロンドン交響楽団の来日公演でこの曲がアンコールで演奏されたのですが,そのFM放送をいきなり聞いて以来,ショックを受けたように大好きになりました。デュトワさんの作る音楽は非常にスマートで,洗練された流れの良さのある演奏でした。低弦のリズムが,本当に生き生きと弾んでいました。その上に流れるようなメロディが乗ってきます。すっきりしているのに,そんなに慌てた感じがしないのはデュトワ/チェコ・フィルの演奏の持つ余裕でしょうか。

後半の葬送行進曲風の部分はそれほど強烈な感じではなく,どちらかというと淡白に進みます。それでも物足りなさはなく,曲の終わりに近づくにつれて,重厚さを増していきます。最後の最後に強烈な音が出てきて,強いインパクトを残して終わりました。

ここで一区切りが付くのですが,その後に続く「ジュリエットの墓の前のロメオ」は,前曲に負けない深みを持っていました。弦楽器の悲痛なメロディやホルンの力強い響きが全曲を締める重石のように響いていました。

後半のチャイコフスキーもまたデュトワさんらしさを強く感じさせてくれる演奏でしたが,上述のとおり,そのリーダーシップがあまりにも強力で,演奏全体を少々窮屈なものにしているように感じました。競馬でたとえると,最初から最後までデュトワさんは一瞬も手綱を緩めることがない感じでした。

冒頭のホルン,その後のトランペットと続く「運命の主題」の後,ゆったりとしたテンポによるメランコリックが気分が続きます。その抑制された重い雰囲気が次第に大きくのしかかって来ます。弱音で演奏される第2主題の揺れ動くような美しさが大変印象的でした。冒頭の金管楽器による「運命の主題」は,その後も繰り返し登場するのですが,次第に冴え渡ってきます。ホルン,トランペットの強く引き締まった音は警鐘のように響いていました。全体に足取りが重く,憂鬱な気分が晴れることのない第1楽章だったと思います。

第2楽章はオーボエの少しくすんだような落ち着きのある響きで始まりました。木管楽器全体にもそういう雰囲気がありましたので,楽章全体にもしっとりとした気分がありました。ただし,この楽章でもデュトワさんのコントロールする力が強く感じられ,普通はちょっとホッとした感じになる中間部でも緊張感が感じられました。

その後の第3楽章,第4楽章はほとんど休みなしで一気に演奏されました。弦楽器のピツィカートが主体となる第3楽章は,その音の豊かさが素晴らしいと思いました。人懐っこい表情も魅力的でした。中間部ではピッコロなどの木管楽器が活躍します。この部分での素朴な肌触りもチェコ・フィルならではかもしれません。

第4楽章も比較的ゆっくりとしたテンポで始まりました。楽章全体に渡りそのテンポを維持していましたので,非常に重量感のあるフィナーレとなっていました。エンディングに向かってどんどん音圧を増していくような力強さのある演奏で,激しく煽ることはないけれども,常にデュトワさんの大きな存在を感じさせるような底知れぬ迫力がありました。一旦,音量をすっと落とした後,さらにぐっと盛り上げていくようなパターンも印象的でした。オーケストラの音をもっと発散させ,お祭り騒ぎ的に熱狂させてくれるような演奏もありますが,それはデュトワさんの流儀とは違うのかもしれません。

アンコールでは「白鳥の湖」のワルツが演奏されました。じっくりとしたテンポの中に,豊かなニュアンスが付けられた演奏で,ここでもデュトワさんの存在感が強く現われていました。この曲ではシンバルが華やかに演奏されることが多いのですが,曲の最初の方では控えめに演奏されており,曲全体としても抑制された雰囲気がありました。その分,最後の最後の部分でのシンバルの華やかな音が大変効果的に響いていました。

終演後,楽屋口には大勢の人が集まっていました。デュトワさんは機嫌よくそのサイン攻勢に応じていました。これはフランス音楽集のCDです。
デュトワさんとチェコ・フィルというのは少々意外な組み合わせでしたが,相性は良いと思いました。チェコ・フィルの個性を感じさせながらも,いつの間にかオーケストラ全体がデュトワさんのペースになっているあたりにデュトワさんの指揮の凄さを感じました。私自身,チェコ・フィルの生演奏を聞くのは初めてだったのですが,従来とは一味違ったチェコ・フィルの姿を見せてくれた演奏会だったのではないかと思います。

PS.この公演のチラシには「北陸初登場」と書いてあったのですが,1997年3月にデュトワさんはモントリオール響とともに富山県の入善コスモホールでコンサートを行っていますので,このチラシの表記は間違いということになります。正確には「石川県初登場」ということになります。(2005/11/15)