PFUクリスマス・チャリティー・コンサート
2005/12/03 石川県立音楽堂コンサートホール
1)モーツァルト/ヴァイオリンとオーケストラのためのアダージョホ長調,K.261
2)モーツァルト/ピアノ協奏曲第9番変ホ長調,K.271「ジュノム」
3)モーツァルト/交響曲第41番ハ長調,K.551「ジュピター」
4)(アンコール)プッチーニ/菊の花
●演奏
ギュンター・ピヒラー指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサート・マスター:サイモン・ブレンディス)
マーク・マークハム(ピアノ*2)
Review by 管理人hs  
音楽堂のいたるところにクリスマス飾りがありましたのでご紹介しましょう。
正面玄関にはMerry Christmasと書かれた飾りがありました。カフェ・コンチェルトから見下ろしたものです。
その隣にはおなじみの雪だるま
柱にはリース
下を見るとトナカイ
願いごとの書かれたツリー(七夕風?)
演奏会の写真コーナーにもモールが付けられていました。
チケットボックス前のショーケースもクリスマス風
カフェコンチェルトのテーブルもクリスマス・カラー

この時期恒例のPFU主催のチャリティコンサートにオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)が登場するということで,入場整理券を入手して出かけてきました。指揮者は,ギュンター・ピヒラーさんで,プログラムはすべてモーツァルトでした(アンコールは違いましたが)。まだ,クリスマスまで時間はありますが,音楽堂内はすっかりクリスマス気分になっていました。

ピヒラーさんの指揮については,かなり厳しい音楽作りをされる方だという印象を持っていたのですが,この日のモーツァルトは,その片鱗を残しつつも,非常にまろやかで暖かみをたっぷりと感じさせてくれる演奏でした。定期公演の時とは違い,2階奥の庇の下の座席で聞いたのですが,その関係もあるのかもしれません。直接的に届く音と間接的に届く音とのバランスが丁度良く,非常に柔らかい音を楽しむことができました(ただし,庇の下の部分だと,拍手をする時に自分の拍手の音しか聞こえない感じになるのが少々物足りません)。

最初の曲はヴァイオリンとオーケストラのためのアダージョでした。この曲では,”待望の”ピヒラーさんのヴァイオリンを聞くことができました。ピヒラーさんがOEKのプリンシパル・ゲスト・コンダクターに就任して5年近くになりますがヴァイオリンを手に取っている姿を一度も見たことはありません。アルバン・ベルク四重奏団の演奏会が金沢で行われたこともありませんので,本当に意外で不思議なことですが,金沢の聴衆は,ヴァイオリン奏者としてのピヒラーさんに接したことがありませんでした。

今回その演奏を聞くことができ,やはりピヒラーさんはウィーンにルーツがある音楽家なのだと実感できました。ピヒラーさんのヴァイオリンは,ヴィブラートのしっかりとかかった非常に暖かみのある音色で,穏やかな音楽をじっくりと聞かせてくれました。曲には大きな起伏はなく,ただただ美しく時間が過ぎていきました。

その後,ピアノを舞台に設定する時間を使って,ピヒラーさんとOEKのヴァイス・ゼネラル・マネージャーのリームさんとのトークが入った後,2曲目のピアノ協奏曲「ジュノム」が演奏されました。登場したのは,マーク・マークハムさんというピアニストでした。この方は,日本ではあまり知られていませんが,チラシの情報によるとジェシー・ノーマンの伴奏などをされている,室内楽の専門家のようです。そのせいかOEKの演奏と溶け込むようなマイルドな演奏でとても居心地の良い演奏でした。落ち着きのあるテンポ,しっとりとした雰囲気が曲のギャラントなムードによくマッチしていました。ただし,その分,気持ちが良すぎて,私自身,ちょっとウトウトしてしまいました。

後半は,おなじみの「ジュピター」が演奏されました。ピヒラーさんの「ジュピター」は数年前に素晴らしい演奏を聞いたことがありますが,今回の演奏は,その時とは一味違う演奏でした。上述のとおりピヒラーさんが指揮する時のOEKは,非常に緊張感が強く鋭さを感じさせる演奏をすることが多いのですが,この日の演奏は,熟成された雰囲気を感じさせてくれました。

第1楽章の途中,クライマックスを築くかのように,ティンパニとトランペットの強い音がドラマティックに出てきましたが,全体としては暖かく大きく包み込むような演奏になっていました。第2楽章も十分な深みを感じさせながらも,深刻に落ち込むようなところはありませんでした。第3楽章は,フルートの上石さんの音をはじめとして木管楽器の音がとてもまろやかでした。メヌエット楽章では,ピヒラーさんは個性的な間の取り方をすることが多いのですが,この日の演奏は非常に自然に音楽が流れていました。第4楽章も厳しすぎることなく,全体を伸びやかにまとめていました。

以前聞いた「ジュピター」では,古楽器演奏風の雰囲気を思わせるような鮮明さを感じましたが,今回の演奏は全体的に少し丸くなった気がしました(ただし,第1楽章と第4楽章の繰り返しを行なっていたのは前回と同様でした)。どちらかというとピヒラーさんらしさをそれほど鮮明に押し出していない演奏とも言えますが,神経質なところがなく,暖かみを感じさせてくれる演奏は,「チャリティ・コンサート」には相応しいと思いました。

.この日は,演奏後,主催者から独奏者,指揮者,コンサートマスターに花束の贈呈がありました。ピヒラーさんは,もらった花束をそのままオーボエの加納さんに渡した後,アンコールが演奏されました。

アンコールもきっとモーツァルトだろうと予想していたのですが,演奏されたのはプッチーニの「菊の花」という弦楽合奏による作品でした。これが素晴らしい作品でした。プッチーニのオペラ以外の作品が演奏される機会は多くありませんが,チェロの熱く美しいメロディをはじめとしたたっぷりとした響きは聞き応え十分でした。

金沢では,この日が初雪(すぐに消えましたが)ということですっかり冬らしい気候になってきました。今回のチャリティー・コンサートはそういう季節に相応しい,暖かい音に満ちたプログラムでした。(2005/12/04)