オーケストラ・アンサンブル金沢第192回定期公演F 2005/12/15 石川県立音楽堂コンサートホール 1)サン=サーンス/動物の謝肉祭 2)愛のめぐり逢い 3)スター・ダスト 4)思い出のサンフランシスコ 5)リクエスト 6)愛的奉献 7)ディズニー・メドレー 8)明日に架ける橋 9)(アンコール)魅せられて ●演奏 ジュディ・オング(語り*1,歌*2-9),松井晃子,田島睦子(ピアノ*1) 岩城宏之*1(水木ひろし*2-9)指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサート・マスター:サイモン・ブレンディス) 池辺晋一郎(プレトーク)
前半に演奏された,ジュディさんの語りによる「動物の謝肉祭」は,以前,浜離宮朝日ホールで演奏されたことがあります。その公演は北陸朝日放送されたことがありますが,今回のシナリオはそれと同じものでした。とても良くできた内容で,大人が気楽に楽しむのに最適でした。ちょっと「サラリーマン川柳」的で感覚が古いところもありましたが,ジュディさんの非常に聞きやすくユーモアと自信に満ちたナレーションの力もあり,安心して楽しむことができました。 オリジナルの室内楽編成で演奏されていたのも良い味を出していました。今回のシナリオは,現代社会をチクリと風刺するような”ひとひねり”のある内容でしたので,小編成で演奏する方が雰囲気に合います。軽妙なウィットが自然に伝わってくるような演奏でした。 楽器の配置は次のとおりでした。 Fl Cl Pf1 Pf2 Vn Vla Cb Perc ジュディ Vn 指揮 Vc Perc 第1ヴァイオリン:サイモン・ブレンディス,第2ヴァイオリン:ヴォーン・ヒューズ,ヴィオラ:シャンドール・パップ,チェロ:ルドヴィート・カンタ,コントラバス:ヴェロニカ・パパイ,フルート:岡本えり子,クラリネット:木藤みき,打楽器:渡邉昭夫,加藤恭子。この9人に金沢を中心に活躍されている松井晃子さんと田島睦子さんのピアノが加わります。考えてみれば,前回の定期公演のメシアンもこれぐらいの編成で演奏されていました。こういう編成のヴァリエーションの多彩さもOEKの特徴の一つに上げられそうです。 演奏の方は,ジュディさんが各曲のタイトルを言った後,それについての”小話”を語り,その後,サン=サーンスの音楽が続くという流れとなっていました。上述のとおり,世相を風刺するような内容が中心でした。各動物のイメージと現代日本の家庭,会社の一コマとをうまく掛け合わせていました。次のような感じです。 ・獅子王と「シシロウ」という名の某首相 ・駆け回るラバと働き回る営業マン ・不向きな宴会の幹事の当たった課長とカメ ・シェイプアップの体操をするうちの母さんとゾウ ・買い物をしまくる女性とカンガルー ・浦島さんのような”良いお客”を待つ乙姫様(水族館) ・耳をそばだてるお局様と「耳の長い登場人物」 演奏の方も室内楽編成を生かしたスマートで軽やかなものでした。ブレンディスさんとヒューズさんは,遠くから見るととてもよく似ているのですが(髪型というか頭の形がそっくり),「ラバ」「耳の長い登場人物」といった曲では,このお二人によるキレの良いヴァイオリンの掛け合いを楽しむことができました。 松井さんと田島さんによるピアノ・デュオも楽しいものでした。「協調性のない”ピアニスト”」では,テンポを遅めに取り,微妙にずらして演奏していましたが,その後に続く「化石」になると一転してピタリと揃うのが面白いところです。この「化石」という曲は,次々と楽しいメロディが出てきて,私の大好きな曲です。この日の演奏は,リズムが大変軽快で聞いていて大変快適でした。 「森のカッコウ」では,生演奏ならではのパフォーマンスがありました。クラリネット奏者が客席に出没し,「カッコウ」と演奏していたようなのですが...残念ながら3階の私の座席からは見えませんでした。 最も有名な「白鳥」では,カンタさんの見事な音色を楽しむことができました。人間が歌っているような暖かさと膨らみのある演奏でした。美しいメロディが自然に息長く盛り上がって行き,大変聞き応えがありました。 この曲は,小編成の割にピアノ2台,木琴,鉄琴といった硬質の音の楽器が沢山入りますので,華やかさと同時に,「ピリッ」とした感覚が残ります。余裕たっぷりに演奏されたフィナーレでは,その魅力が全開になっていました。全曲を通じて,軽妙さと遊び心を品よく感じさせてくれる素晴らしい演奏でした。 後半はジュディさんのショーになりました。華やかな衣装,確かな歌唱力,余裕のあるトークと非常にリラックスして楽しめるステージとなりました。岩城さん(後半は水木さんでしたが)の「老人力」溢れるトークとあわせ,楽しい時間を過ごすことができました。 前半のジュディさんの衣装は「オーケストラの一員」ということもあり,お洒落だけれども,帽子に眼鏡にズボンというどちらかと言うとカジュアルで控えめな感じのものでした。この意外性も新鮮でしたが,後半の衣装は,「私が主役」ということを強くアピールするような華やかなものでした。 オーケストラによる短い序曲に続いて,メタリックなピンクの衣装にショッキングピンクのマフラーを首に巻いたジュディさんが袖から登場すると,一気にディナーショーのような雰囲気になりました。クリマスマス前のこの季節にぴったりのウキウキとした期待感を感じさせてくれるような登場の仕方でした。途中,ピンクのマフラーを外し,ステージ上に置いてあった箱から,今後はシルバーの長いマフラーを出してきて羽織ったりと,”見せる演出(ジュディさんの場合“魅せる”か?)も見事でした。華やかでも下品にならないのがジュディさんのセンスの良さです。それにしてもジュディさんは,お変わりがありません。 ステージの上方のスクリーンには,ジュディさんの版画の写真が大きく映し出されていました。今回,ジュディさんとOEKは北陸地方の各地で公演を行なっているのですが,この”マルチ・メディア”な演出は金沢公演だけのサービスだったようです。その後,ジュディさんの作品が日展で特選に選ばれたことを自分で紹介されていましたが,遠慮がちに謙遜して言うのではなく,堂々と「見てくださいね」と紹介されるのも気持ちの良いものでした。自慢に聞こえないのが彼女のさっぱりとしたキャラクターによるのだと思います。 その後,英語の歌,日本語の歌,中国語の歌とジュディさんならではの曲が続きました。どの歌も発声が明瞭で,しっかりと歌われていました。ジュディさんは,かなり長いキャリアをお持ちですが,これらの曲を聞いていて,基本はアメリカのポップスにあると感じました。オーケストラ伴奏も含め,1970年代のカーペンターズの曲などを思い浮かべました。インターナショナルで,泥臭いところがないのがジュディさんの歌のいちばんの特徴だと思いました。 ディズニーメドレーに出てきた,「スーパーカリフラジェリスティック...」では,最後の最後に大きなタメを作り,ミュージカルの一場面を思わせるような華やかな演出をしていました。お客さんを喜ばせる工夫が凝らされた楽しい演奏でした。 岩城さん指揮のOEKの演奏では,間奏などで時折現われる弦楽合奏の美しさが印象的でした。非常に上品な響きがあり,ジュディさんの華やかさのある歌にぴったりでした。 「明日に架ける橋」でプログラムに書いてあった予定の曲は全部終わったのですが,ジュディさんの看板となっている”あの曲”が歌われないはずはありません。”あの衣装”の準備をしている間,しばらく岩城さんが,お客さんの拍手を指揮して雰囲気を盛り上げた後(この”場つなぎ”はさすが岩城さんだと思いました。拍手を大きくしたり小さくしたり見事にお客さんをコントロールしていました),ティンパニの音がバーンと入り,「魅せられて」が始まりました。ジュディさんは先ほどの衣装の上に,手を広げると鳥の羽のように優雅に広がる,お馴染みの衣装を羽織って登場されました。 この曲を聞いていると,日本レコード大賞と紅白歌合戦が大晦日の最重要イベントだった時代を思い出し,非常に懐かしくなります。筒美京平さんは,非常に沢山のヒット曲を作っていますが,その中でも特に存在感のある曲です。ジュディさんが両手を広げて,白い鳥のようになる度に会場から拍手が起こるのもこの曲ならではです。ジュディさんは,曲の後,しばらくポーズを取っていたのですが,このポーズは「横から見たサモトラケのニケ」像のポーズだと気付きました。「Wind is blowing from the Aegean ... ウーン,まさにエーゲ海だ」とすっかり感動してしまいました。 というわけで,今回の演奏会は,ジュディさんにすっかり”魅せられた”ファンタジー公演でした。 ●今日のサイン会 これまでファンタジー公演では,サイン会が行なわれることはほとんどなかったと思うのですが,今回は通常の定期公演同様,サイン会が行なわれました。ジュディさんが登場したこともあり,大変賑わっていました。
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