クリスマス・メサイア公演
2005/12/25 石川県立音楽堂コンサートホール
1)榊原栄編曲/クリスマス・ソング・メドレー(諸人こぞりて,もみの木,赤鼻のトナカイ,ホワイト・クリスマス,サンタが街にやってくる,天には栄え,ジングルベル)
2)ヘンデル/オラトリオ「メサイア」(抜粋,7-11,18-25,27-28,31-32,34-35,37-39,49-52曲は省略)
3)(アンコール)きよしこの夜
4)(アンコール)ヘンデル/ハレルヤ・コーラス
●演奏
ジャン=ルイ・フォレスティエ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:サイモン・ブレンディス)
北陸聖歌合唱団(合唱指揮:朝倉喜裕)*2-4,OEKエンジェル・コーラス,北陸学院高等学校聖歌隊(1,3)
朝倉あづさ(ソプラノ*2),池田香織(メゾ・ソプラノ*2),君島広昭(テノール*2),安藤常光(バリトン*2)

Review by 管理人hs  
公演のポスターです。
ホール内には贈り物や花束のコーナーが出来ていました。
北陸聖歌合唱団による「メサイア」公演は,半世紀以上に渡り続けられている金沢のクリスマスの恒例行事です。昨年はパイプオルガン伴奏で演奏されましたが,今回はジャン=ルイ・フォレスティエさん指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)との共演でした。フォレスティエさんと北陸聖歌合唱団の共演は今回で4回目ということで(そのうち1回はOEKは登場していませんが),非常に息の合った演奏を聞かせてくれました。

ただし,この日のOEKは,サイモン・ブレンディスさんがコンサートマスターを務めてはいたものの,メンバーの半分以上がエキストラで,”メサイア用特別編成オーケストラ”と言って良いほどでした。編成もこじんまりとしたもので,弦楽器は4−4−3−2−1という編成でした。ただし,「メサイア」の場合,これぐらいの編成で演奏する方がオリジナルに近いのかもしれません。というわけで,いつものOEKとは,外見的にかなり違った雰囲気がありましたが,通常と変わらない緻密なアンサンブルを聞かせてくれたのは流石でした。

今回の公演では前半にクリスマス・ソング・メドレーが演奏されたこともあり,「メサイア」の方はかなり省略されていました。それでも,核となるような聞かせどころの曲は網羅されており(メゾ・ソプラノ独唱による第2部の最初の方のアリアが省略されていたのは残念でしたが),最後のアーメン・コーラスに向けて聞き応えのある音楽を楽しむことができました。

フォレスティエさんは,要所で情熱的な盛り上がりを作りながらも,基本的には,じっくりと落ち着いたメサイアを聞かせてくれました。冒頭のシンフォニアから次のテノール独唱辺りにかけては特に丁寧な感じがしました。

昨年の公演に続いての登場となるテノールの君島広昭さんは,軽く明るい声でありながら,常に豊かなニュアンスを持った歌を聞かせてくれてました。宗教曲にとてもよく合う声質だと思いました。

やはり昨年に続いての登場となった,ソプラノの朝倉あづささん,メゾ・ソプラノの池田香織さんも,非常に安定感のある歌を聞かせてくれました。特に「金沢のメサイア」に欠かすことのできない朝倉さんは,毎回本当に曲の雰囲気にぴったりの歌を聞かせてくれます。”これぞクリスマス”という感じの第1部後半の「降誕」の部分などは,朝倉さんの澄み渡った清冽な声が私にとって「デフォルト」の演奏となっています。

ブレンディスさんの繊細なヴァイオリンを中心とした,OEKの軽やかな伴奏も朝倉さんの声にぴたりと寄り添っていました。輝きのある合唱も見事に気分を盛り上げていました(この部分,ステージ上にトランペットはいなかったようなのですが,どこからかラッパの音が聞こえていました。舞台裏にいたのでしょうか?私の座席からは見えなかったのですが,目立ち過ぎることがなく,とても良いバランスでした)。

メゾ・ソプラノの池田香織さんもすっかり金沢ではお馴染みの方です。今年の6月のメンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」に続いての登場ですが,今回もまた十分に脂が乗っていながら,スリムにまとまったバランスの良い歌を聞かせてくれました(残念だったのは...2曲しか歌を聞けなかったことです)。

この3人に比べると,バリトンの安藤常光さんの声は,ちょっと違和感を感じました。とても立派な声で迫力はあったのですが,少々オペラの悪役的な声かな,という気がしました。

合唱団の方は,41番の曲などでは,粗が目立つようなところはありましたが,各曲とも念入りにニュアンスやダイナミックスを付けて歌われおり,どの曲も聞き応えがありました。「ワンダフル」という言葉が力強く出てくる,12番の曲は,毎年素晴らしいのですが,今回,それ以外のひっそりと歌われる部分の表情もとても魅力的だなと感じました。

今回,忘れてはならないのはトランペットの素晴らしさです。昨年のトランペットも見事でしたが,今年のトランペットもまた素晴らしいものでした。非常に安定感がありました。メンバー表を見ると西村明浩さんという方が担当されていたようです。輝きと同時に節度のある品の良さを感じさせてくれ,ヘンデルのこの曲にぴったりでした。

「ハレルヤ・コーラス」の伴奏の部分で,既にその存在感をアピールしていましたが,トランペットがバリトンとともに主役になる48曲の「The Trumpet shall sound」では惚れ惚れとするようなすっきりとした気持ち良い響きを聞かせてくれました。ちなみに,この日はティンパニもバロック・ティンパニを使っていました。

「ハレルヤ・コーラス」では,合唱団も感動的な歌を聞かせてくれました。最初,比較的に穏やかに始まった後,後半に向かうに連れて,情感があふれ出てきました。今回,「ハレルヤ・コーラス」がアンコールでも歌われたのですが,こちらの方は独唱者を交えてさらに速いテンポで歌われて,フォレスティエさんらしい情感のほとばしりを感じさせてくれました。

最後の「アーメン・コーラス」でも,”最後のひと踏ん張り”といった情熱を感じさせてくれました。北陸聖歌合唱団は,半世紀以上毎年「メサイア」だけを歌っているユニークな合唱団ですが,こういった要所になると,曲に対する情熱や年季が自然に湧き上がってきます。全員が50年間歌っているわけではないのですが,伝統から自然に湧き出てくるような情熱に勝るエネルギーはないと感じました。

今回残念だったのは,演奏会の前半がどの曲で終わるのかが,プログラムではよく分からなかった点です。この日は,「メサイア」全3部を2つに分け,第2部の最初の方の第26曲の後に休憩を入れていましたが,お客さんもどこで拍手を入れるべきか迷っていたようでした。「メサイア」も宗教曲の1種なので,曲の途中での大きな拍手は不要なのかもしれませんが,静かに終わる曲の後で休憩というもちょっと不自然な気はしました。

プログラム前半では,OEKエンジェル・コーラスと北陸学院高等学校の合唱団が登場し,昨年同様,明るく健康的なクリスマス・ソングメドレーを聞かせてくれました。この演奏には,トロンボーンが1本入っていましたが,この部分など,いかにも今年亡くなられた榊原さんらしい編曲だなと思いました(榊原さんはトロンボーン奏者だったはず)。

見ていて面白かった(?)のは,「ホワイト・クリスマス」の部分の歌詞でした。この曲の時,ステージ横の電光掲示板に歌詞が表示されるようになっていましたが,この部分では「アイム・ドリーミング・オブ・ア・ホワイト・クリスマス...」とカタカナで英語の歌詞が表示されていました(何となくカラオケの表示のよう?)。こういう表示を見たのは初めてのような気がします。外国語の歌詞の場合,日本語訳が表示されるのが普通ですが,もしかしたら「ご一緒に歌ってください」という意味の表示だったのかな,と後から思ったりしました。

コンサートの最後には,この日の出演者全員で「きよしこの夜」が演奏されました。すべてが終わった後のリラックスした空気が流れる,とても気持ちの良い演奏でした。その後,上述のとおり「ハレルヤ・コーラス」が再度演奏されてお開きとなりました。恐らく,出演された方にとっても,大変充実感の残る演奏会になったのではないかと思います。私にとっても一年を締めくくるのに相応しい演奏会となりました。

PS.この日の午後は交流ホールでずっとクリスマスコンサートを行なっていました。モーツァルト・フェスティバルの時同様,交流ホールのガラスを取り払い,エントランスから交流ホールに続く,広々とした空間に楽しい歌が響いていました。私が通りかかった時は,エラ・フィッツジェラルドのヴォーカルを思わせるような素晴らしい声で「マック・ザ・ナイフ」が歌われているところでした。クリスマスの気分を盛り上げるのに相応しい企画だったようです。

音楽堂に入ると交流ホールの前がカフェのようになっているのに気付きました。 音楽の聞こえる方に行くと,交流ホールでクリスマスコンサートを行なっていました。 足を伸ばしてリラックスして聞いていらっしゃいました。 カフェの出店も出ていました。
(2005/12/26)