石川県学生オーケストラ&オーケストラ・アンサンブル金沢合同公演 2006/02/19 金沢市観光会館 1)チャイコフスキー/スラヴ行進曲op.31 2)チャイコフスキー/弦楽セレナードハ長調,op48 3)チャイコフスキー/交響曲第5番ホ短調,op64 ●演奏 金聖響指揮石川県学生オーケストラ(1,3),オーケストラ・アンサンブル金沢(2,3)
プログラムは,スラブ行進曲が学生オーケストラの単独演奏,弦楽セレナードがOEKの単独演奏,交響曲第5番が合同演奏という構成でした。後半の合同演奏では,各楽器のトップ奏者を学生が担当していましたので,大学オーケストラの演奏をOEKがサポートするという形になります。第5交響曲第2楽章の長いホルンのソロや第1楽章冒頭のクラリネット,要所要所で華やかに出てくる金管楽器やティンパニ...といった聞かせどころを,学生オーケストラの奏者たちは,立派に演奏しており,今回の演奏会を聞き応えのあるものにしていました。 前半は,学生オーケストラのみによるスラブ行進曲で始まりました(ただし,学生のみではなく,坂本さん,大澤さんといったOEKのメンバーが弦楽器のフォアシュピーラーの席に1名ずつ座り,サポートをしていました)。この曲については,全体にさらりとしたテンポで演奏し,ツボを押さえてすっきりとまとめたという印象でした。さすがにプロのオーケストラと比較すると,音の結晶度が低いという感じはありましたが,曲の後半では,打楽器などが盛大に加わり,大きな盛り上がりを作っていました(後半で,OEKの渡邊さんがドラを盛大に叩いていましたが,まだまだ学生にまじっていても全然違和感がないですね)。 なお,この日の学生オーケストラの配置ですが,金聖響さんが古典派の曲を指揮する時同様,コントラバスが下手側に来る対向配置を取っていました。チャイコフスキーの曲で,この配置を取るのはかなり珍しいのではないかと思います。 続いてOEKのみで,弦楽セレナードが演奏されました。こちらの方は,OEKのレパートリーになっている曲ということもあり,よくこなれた瑞々しい演奏を楽しむことができました(この曲の配置は,前曲とは違い,通常の配置でした。)。金聖響さんの指揮は,この曲の持つしなやかさとがっちりとした精緻さとをきちんと描き分けていました。第2楽章のワルツなどでは指揮棒なし,最終楽章などでは指揮棒を持って指揮されていましたが,セレナードとしての優しくしなやかな形を基本としながら,ところどころ力強さやキレの良さを感じさせるような演奏となっていました。 第3楽章の陶酔的な響きをはじめ,OEKの弦楽器の瑞々しさを十分味わうことができましたが(今回のコンサートミストレスは,ゲストのマヤ・イワブチさんでした),その裏には冷静な計算があり,おぼれ過ぎることはありません。CMで有名になった冒頭部分や最終楽章のクライマックスでも力み返るような粗さなく,そこはかとなくロマンティクな気分と余韻をきっちりと味わわせてくれるような演奏となっていました。 後半の合同演奏は,上述のとおり,大変聞き映えのするものでした。これは曲自体の力にもよるのですが,何と言っても学生オーケストラの奏者の頑張りに尽きると思います。金聖響さんは,その学生オーケストラのメンバーを燃え立たせ,非常にスケールの大きな音楽を作っていました。 曲は,ほの暗さのあるクラリネットによる序奏で始まりました。この部分がきっちり決まったこともあり,その後,とても音楽がスムーズに進んでいきました。金聖響さんのテンポ設定は,小細工をすることのない,大変堂々としたものでした。さすがに部分的に,不安定さを感じさせる部分はありましたが,クライマックスでは,金管楽器群の圧倒的なパワー(トランペット6人,トロンボーン7人,ホルン6人,チューバ2人というすごい人数でした)が生きていました。 第2楽章は,まず最初のホルン独奏が難所です。この部分は,OEKのホルン奏者が演奏するのかなとも思ったのですが,今回,大学オーケストラの奏者が立派に演奏しました。弦楽合奏がゆったりと静かに伴奏する中,ホルンの独奏が入ってくるというシチュエーションは非常にプレッシャーが掛かるものです。他の団員,聴衆はすべて,「頑張れ,頑張れ」とホルンを見守っていたのではないいかと思います。少しひやりとはしたものの,大きな破綻なく,この部分を演奏し切った時は,大きな拍手を送りたい気分でした。 この独奏の後,音楽全体にも勢いがついた気がしました。音楽が,パッと開放されたような感じになり,音楽が伸びやかに動き始めました。特に弦楽器の響きが素晴らしいと思いました。OEKは室内オーケストラにしては,音量が大きいオーケストラと言われていますが,この日の弦楽器群は,OEKが核となることで,瑞々しさとボリューム感を兼ね備えた充実した響きを作り出していました。 第3楽章のワルツも落ち着いたテンポで演奏されました。この楽章については,全曲のクライマックスである第4楽章への導入ということで,少々印象が薄くなったのですが,のどかで素朴な味わいも悪くはないなと思いました。 第4楽章は全曲の白眉でした。威厳を感じさせながらもすっきりと演奏された序奏部の後,3段階ぐらいに分けて点火するロケットの発射のような感じで盛り上がって行きました。性急なテンポ設定ではなかったのですが,提示部,展開部,再現部,コーダと進むにつれて熱気を増していきました。この楽章では,要所要所で,「運命のモチーフ」と呼ばれるテーマが金管楽器で演奏されるのですが,それがスカっと演奏されるたびに,曲のスケールが増して行きました。 最後のコーダの部分は大変な聞き物でした。一旦,全休符になった後,悠然とした歩みを始める部分ですが(休符の部分で間違って拍手が入ることのある部分ですね),今回はこの休符をほとんど入れず,その部分までの音楽の勢いをそのままコーダに持ち込んでいました。聖響さんは,この部分で指揮台を踏み鳴らし,情熱的に棒を振っていましたが,まさにオーケストラ全体に火を付けたような感じでした。ここでも増強された金管楽器群の力が素晴らしく,胸を透くようなクライマックスとなりました。 今回,これだけ大勢の奏者がいながら,荒々しいお祭り騒ぎにならず,最後まで余裕を感じさせる響きを保っていたのも素晴らしいと思いました。大学オーケストラの方は,この時期,十分な練習時間を取ることは大変難しかったと思うのですが(卒論提出の時期は終わっていますが,2月と言えば,丁度期末試験の時期ではないでしょうか?),トレーニングの成果が十分に現れていたと思います。聖響さんの若々しさと周到さの同居した指揮ぶりは,学生オーケストラに安心感を与え,そこから大きなエネルギーを引き出していました。 OEKのメンバーが地元の学生オーケストラを指導し,共演するというのは大変良い企画だと思います。OEKと共演した学生オーケストラのメンバーが,将来,OEKの活動を支える聞き手となって応援してくれる,といったサイクルが出来ると素晴らしいことだなと思います。
(2006/02/20) |