石川フィルハーモニー交響楽団第23回定期演奏会
2006/04/22 金沢市文化ホール
1)モーツァルト/歌劇「フィガロの結婚」序曲
2)モーツァルト/ピアノ協奏曲第20番ニ短調,K.466
3)チャイコフスキー/交響曲第5番ホ短調,op.64
●演奏
本多敏良指揮石川フィルハーモニー交響楽団
堺洋子(ピアノ*2)
Review by 管理人hs
今日は石川県内のアマチュア・オーケストラ,石川フィルハーモニー交響楽団の定期公演に出かけてきました。指揮は,音楽監督の本多敏良さんでした。石川フィルの演奏では,数年前に行われたマーラーの「復活」の演奏が大変印象に残っていますが,考えてみると定期公演を聞いたことはありません。今回,「私自身,意外に実演を聞いたことのない曲=モーツァルトのピアノ協奏曲第20番」と「絶対楽しめる曲=チャイコフスキーの第5交響曲」が演奏されるということもあり,当日券を買って聞きに行くことにしました。

最初に演奏された,「フィガロの結婚」序曲は,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の演奏会では,非常によく演奏されている曲です。石川フィルの演奏は,OEKと比べるとさすがに野暮ったく感じてしまいますが,じっくりとしたインテンポで演奏された今回の演奏には,晩年のブルーノ・ワルター指揮コロンビア交響楽団の演奏を思わせるような暖かな雰囲気がありました。

続く,ピアノ協奏曲第20番の独奏は,金沢を中心に活躍されているピアノ奏者の堺洋子さんでした。堺さんのピアノには,常に落ち着いた雰囲気がありました。センチメンタルになるところがなく,凛とした古典的な品格の高さの感じられる演奏でした。

オーケストラの演奏も,冒頭からほの暗い気分をよく出していました。この曲の第1楽章の出だしを聞くと,いつもゾクっとします。全曲に渡り,やや遅めのテンポで,とてもしっかりと演奏されていました。ただし,「フィガロ」でもそうでしたが,モーツァルトの曲の場合,どうしても粗が目立ってしまいます。第2楽章など,メロディが極端にシンプルな部分などでは,子供の練習曲のように聞こえてしまう部分があります。やはり,モーツァルトは難しいと感じました。

チャイコフスキーの交響曲第5番は,今年実演を聞くのは2回目です。2月に聞いた金聖響さん指揮の県内の大学生合同オーケストラによる演奏も楽しめる演奏でしたが,この日の演奏も大変聞き応えがありました。全曲に渡り,ティンパニや金管楽器の響きが非常に野性的に響いており,ロシア音楽的な気分がよく出ていました。2楽章のホルン独奏,随所に出てくるクラリネットのソロなども素晴らしく,この曲の持つ,「楽器の饗宴」的な面白さも味わうことができました。

第1楽章は,このとても落ち着いたクラリネット・ソロで始まった後,かなり速いテンポの主部が続きました。弦楽器もとてもまとまりが良く,軽やかな響きを聞かせてくれたのですが,金管楽器が非常に強力な響きを出していたのに比べるとちょっと大人しい気がしました。これは私の座っていた座席の位置のせいかもしれません。

第2楽章は,上述のとおり見事なホルン独奏を楽しむことができました。今回,独奏された方の音は,とても柔らかく,高音部などはゾクっとするほど陶酔的な響きがしました。フランス音楽などでも合いそうな気がしました。後半の金管楽器の迫力のある響きは,第4楽章に大きな期待を頂かせてくれるものでした。第3楽章は,弦楽器群のスムーズな演奏が西洋風のワルツによく合っていました。その分,後に続く管楽器の演奏がちょっと野暮ったく感じてしまいました。

第4楽章は,大変エネルギッシュな演奏でした。楽章の前半は,音楽が気持ち良く流れ,全曲のクライマックスとなる楽章後半では,エネルギーの濃さを感じさせるかのように,テンポをじっくりと落とし,堂々たる貫禄を見せてくれました。コーダに入る直前の緊張感を保った大きな休符もピシっと決まりました。最後の最後の部分の「ジャ・ジャ・ジャ・ジャン」と一音ずつ噛み締めるような重い響きが印象的でした。同じアマチュア・オーケストラの演奏でも,金聖響さん指揮の時とは全く違う解釈でした。こういう聞き比べがクラシック音楽のいちばんの楽しさだと思います。

このコーダの部分では,大変気持ち良さ気に演奏していたトランペットの伸び伸びとした音も印象的でした。ちょっと豪快過ぎるかなと思わせるほど気合の入ったティンパニの響きも迫力がありました。

全曲を通じてみると,粗さの残る部分もありましたが(金沢市文化ホールは特に残響が少ないので,そう感じたのかもしれません),最終楽章を中心に,指揮者の本多さんと団員とが一体となってスケールの大きな音楽を作ろうとしている様子がとてもよく伝わってきました。やはり,長年一緒に音楽を作っている人たちの演奏だなと感じました。

この日,アンコールはありませんでしたが,チャイコフスキーの5番の演奏で十分迫力のある響きを聞かせてくれましたがので,全く不満はありませんでした。石川県内には,この石川フィル以外にもいろいろなアマチュア・オーケストラが活動していますが,さすがそのリーダー的な存在だなと感じた演奏会でした。このオーケストラのコンセプトは,「石川県民のオーケストラ」ということですので,OEK同様に応援していきたいと思います。

PS.この日は,無性にモーツァルトの20番を聞きたくなりました。聞きながら,映画「アマデウス」を見た約20年前(もうそんなになるんですね)のことなどを懐かしく思い出してしまいました。映画の最後では,この曲の第2楽章が延々と流れていました。まさに丁度今頃の4月末に公開され,今は無き香林坊の映画館で見たことが今でも記憶に残っています。

PS.演奏会が行われた金沢市文化ホールの音響は,相変わらずデッドでした。石川県立音楽堂での公演に慣れてしまうと,聞いていて何となくストレスがたまってしまいます。最近,このホールでの公演は,めっきり少なくなってしまったのですが,できれば,別のホールで聞いてみたかったなと思いました。(2006/04/23)