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2007ビエンナーレいしかわ秋の芸術祭シューベルト・フェスティバル
仲道郁代&OEKチェンバーナイト
2007/10/05 石川県立音楽堂コンサート
1)シューベルト/ヴァイオリンとピアノのためのソネチネ第1番ニ長調,D.384
2)シューベルト/アルペジョーネ・ソナタイ短調,D.821
3)シューベルト/ピアノ五重奏曲イ長調,D.667「ます」
4)(アンコール)シューベルト/ピアノ五重奏曲イ長調,D.667「ます」〜第4楽章終結部
●演奏
仲道郁代(ピアノ),アビゲイル・ヤング(ヴァイオリン*1,3,4),ルドヴィート・カンタ(チェロ*2-4),サラ・リリング(ヴィオラ*3,4),ペーター・シュミット(コントラバス*3,4)
Review by 管理人hs  

「celeste」という仲道さんの最新のベストアルバムにサインを頂きました。デビュー20周年記念愛想曲集といった感じの大変素晴らしいアルバムです。

「シューベルト・フェスティバル」4日目の3つ目の演奏会は,コンサートホールで行われた「仲道郁代&OEKチェンバーナイト」でした。半日の間に音楽堂内の3つのホールを制覇した形になりますが,こういう経験は初めてのことです。「お祭り」ならではの得がたい経験をすることができました。

過去2回の「フェスティバル」では,作曲家ゆかりのオーストリアのオーケストラとオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)とのジョイント・コンサートがメインイベントでしたが,今回は,オーケストラを招聘する代わりに仲道郁代さんと青島広志さんというスター性のあるゲストを招いていた点が特徴でした。もう少しオーケストラ公演を聞きたかったところもありましたが,この日の仲道さんとOEKメンバーによる室内楽があまりにも素晴らしかったので,仲道さんを呼んで頂いて本当に良かったと痛感しました。

この公演は当初,アルペジョーネ・ソナタとピアノ五重奏「ます」の2曲だけのプログラムだったのですが,その後,曲目が追加となり,最初にアビゲイル・ヤングさんと仲道さんの共演によるソナチネ第1番が演奏されました。その名のとおり,シンプルな曲なのですが,全く退屈することはなく,逆にヤングさんと仲道さんによる至芸と言っても良いような味わいのある演奏を楽しむことができました。

この演奏会では,いつもの定期公演の時よりもかなり前の座席で聞くことができたのですが,そのことによって,演奏者の息遣いをしっかりと感じることができました。仲道さんのピアノは,非常に洗練されており傷はないのですが,神経質に尖ったような部分がないので,安心して身を任せることができます。ヤングさんのヴァイオリンも,いつもどおり安定感がありましたので,本当にリラックスして楽しむことができました。ところどころ,悲しみが滲み出てくるような部分もあり,小さい曲の中からコクのある表現が伝わってきました。

次のアルペジョーネ・ソナタは,別に書いたとおり,直前に同じOEKのチェロ奏者である大澤明さんのチェロで聞いたばかりでした。同じ日に別の奏者によって2回アルペジョーネ・ソナタを聞くというのも初めての経験でした。大澤さんの方は,フォルテピアノとの共演でしたが,カンタさんの演奏を聞いて,やはり,現代のピアノとの共演によるがっぷり四つに組んだような演奏の方がしっくり来るかなと感じました。

カンタさんの音はいつもながらクリーミーで,男声のテノールの音域でいう「ハイC」に当たるような”そそる超高音”がとても魅力的でした。デリケートな味わいと堂々としたスケールの大きさが共存しており,絶好調という感じの演奏でした。

2楽章の”泣けるカンタービレ”の後,とても流れの良い3楽章になります。その流れが止まり,味わい深い静かなピツィカートで全曲が終わるのですが,繊細さな歌から野性味までチェロの魅力を存分に味わわせてくれました。

今回共演したカンタさんと仲道さんのお二人ですが(ヤングさんもそうですね),どちらも演奏に包容力があります。相手を受け入れながら,主張するという感じの演奏で,聞いていてとても気持ちの良いアンサンブルになっていたと思いました。

後半は,おなじみの「ます」の五重奏でした。OEKのメンバーも過去何回も演奏してきた曲ですが,今回の演奏がいちばん良かったのではないかと思いました。第1楽章の冒頭から張り切りすぎるところはないのに,楽しく明るい雰囲気がみなぎっていました。遅いテンポというわけではないのですが,無理をして演奏している感じがないので演奏に常に余裕がありました。仲道さんのピアノのしっかりとくっきりとした音がベースになって,躍動感と円満な気分が同居した演奏となっていました。

第2楽章では,ヴィオラ(サラ・リリングさんという方でした)など内声部の動きもよく分かりました。今回は,前の方で聞いたこともあり,自分自身,一緒になって室内楽に参加しているような感覚を持ちました。第3楽章は,躍動感のあるスケルツォですが,ここでも無理するようなところがなく,自然体の演奏でした。

第4楽章の「ます」の変奏曲も,各楽器の見せ場が生き生きと続きました。ここではやはり仲道さんのピアノの温かみのある清潔感が印象的でした。第5楽章も余裕たっぷりの演奏でした。途中,拍手がパラパラと入ってしまったのはご愛嬌でしたが,この箇所は,今回のように気持ち良く聞いていると,ついつい拍手したくなってしまいます(奏者の皆さんも「やっぱり,ここで拍手が入ったか」というような,ちょっと嬉しそうな表情をされていました)。

アンコールでは,第4楽章の後半部が再度演奏されました(この編成でできるアンコール曲は他にないので,こういう形をとることが多いですね)。

今回の公演は,家庭的な雰囲気を残しながらも非常に高レベルの室内楽になっていたと思いました。仲道さんはとても正統的な演奏されるピアニストですが,全く堅苦しいところはなく,周りにいる人を暖かい気持ちにさせるようなオーラがあります。どの曲からも自然な微笑みがあふれていたのが特に素晴らしいと思いました。(2007/10/08)

会場の入口です。



1階入口付近には,土産物コーナーになっていました。


私はOEKのロゴマークの入ったペンケースと青島広志さんデザインによるクリアケース(3枚セット)を購入しました。


アーティスト・ラウンジというコーナーの看板です。このコーナーで,奏者とお客さんのトークができるようになっていたようです。



ラウンジのテーブル上の花です。