オーケストラ・アンサンブル金沢第193回定期公演PH
2006/01/08 石川県立音楽堂コンサートホール

1)ベートーヴェン/歌劇「フィデリオ」序曲,op.72
2)チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲ニ長調,op.36
3)シュトラウス,J.U/皇帝フランツ・ヨゼフ解放祝典行進曲
4)シュトルツ:喜歌劇「失われたワルツ」〜 二人の心はワルツを奏で
5)シュトラウス,J.U/ワルツ「酒・女・歌」
6)レハール/喜歌劇「メリー・ウィドウ」〜ヴィリアの歌
7)シュトラウス,J.U/「踊り子ファニー・エルスラー」〜郊外のジーヴェリングで
8)シュトラウス,J.U/チク・タク・ポルカ
9)シュトラウス,J.U/歌劇「騎士パズマン」〜チャルダーシュ
10)レハール/喜歌劇「ジプシーの恋」〜 ツィンバロンの響きを聞けば
11)シュトラウス,J.U/ワルツ「美しく青きドナウ」
12)(アンコール)ジーツィンスキー/ウィーン,我が夢の街
13)(アンコール)レハール/喜歌劇「メリー・ウィドウ」〜「グリゼットの歌」+オッフェンバック/喜歌劇「天国と地獄」〜「カンカン」
14)(アンコール)シュトラウス,J.I/ラデツキー行進曲
●演奏
マイケル・ダウス(リーダー&ヴァイオリン)オーケストラ・アンサンンブル金沢
メラニー・ホリディ(ソプラノ*4,6,7,10,12-13),トロイ・グーキンズ(司会)

Review by 管理人hs  i3miuraさんの感想

今年の金沢は例年以上に雪が多く,音楽堂前にも雪だるまがいました。
音楽堂入口の門松とこの日の公演の看板です。最近の定期公演等では毎回このような看板を出していますが,フラリと入ってみたくなりますので,PR効果は高いのではないかと思います。
入口を入ると,めだたげな正月飾りが飾られていました。この日は交流ホール前はお茶席のようになっていました。
こういうのも正月らしいですね。交流ホールでは,「新春の調べ」ということで入場無料の邦楽の演奏会が行なわれていました。
この団員のサイン入り看板も毎年恒例です。
毎年恒例のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のニューイヤー・コンサートに出かけてきました。私自身,今年の「コンサート初め」になります。登場したのは例年通り,マイケル・ダウスさんでした。現在,ダウスさんは「首席客演コンサートマスター」という肩書きですが,最近は,コンサートマスターの席に座る機会はほとんど無くなっています。それでも「OEKのニューイヤー・コンサートは,やはりダウスさんの弾き振りで」という固定ファンも金沢には大勢います。その期待に応える楽しいコンサートになりました。

もう一人の主役は,ソプラノのメラニー・ホリディさんでした。ホリディさんは,2年前のニューイヤー・コンサートに続いての登場です。昨年大晦日のカウントダウン・コンサートにもホリディさんは,登場されていましたので,ホリディさんの方も年末年始のOEK公演の常連になりつつあるようです。

ただし,今回は2年前とは違う構成でした。2年前は,前半・後半ともにウィーンの音楽が演奏されたのに対し,今回は前半はダウスさんの独奏によるチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲,後半はダウスさんの弾き振りとホリディさんの共演によるウィーンの音楽という構成になっていました。弾き振りだけではなく,ソリストとしてのダウスさんの魅力を存分に味わうことができましたので,個人的には今回のパターンの方が聞き応えがあるな,と思いました(→:2004年のニューイヤー・コンサートのページ)。

前半は,チャイコフスキーに先立って「フィデリオ」序曲が演奏されました。私自身,年末年始は生の演奏会に行かず,自宅でもクラシック音楽をほとんど聞かずにいましたので,冒頭の「これがベートーヴェンだ」という響きを久しぶりに聞いて,身が引き締まる思いがしました。

その後も念入りな丁寧な響きが続いたのですが...この曲の聞かせどころの一つであるホルンのソロで,非常に大きなミスがありました。例えて言うと,フィギュア・スケートの演技の最初の部分で3回転ジャンプに失敗し,尻餅をついてしまう,といった感じで,聞いている方もドキリと冷や汗をかいてしまいました。が,その後はそれを取り返すかのように,充実した響きが続きました。トーマス・オケーリーさんのティンパニが加わったコーダの部分の力強い響きには素晴らしい充実感がありました。

続いてマイケル・ダウスさんのヴァイオリン独奏でチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲が演奏されました(この曲以降,後半ずっと,松井直さんがコンサート・マスターの席に座り,ダウスさんはステージ中央に立って演奏しました)。このダウス&OEKによる指揮者なしのチャイコフスキーも,すっかりお馴染みになってきました。過去数回聞いたことがありますが,回を重ねるに連れて,段々とダウスさんの貫禄が増してきています。「OEK十八番」の一つに加えても良い曲だと思います。

「コンサートマスターの独奏+室内オーケストラ」というと,スケールの小さい演奏を想像してしまうのですが,このコンビの演奏は,堂々としていて,恰幅の良さがあります。第1楽章からじっくりとしたテンポで演奏されていました。神経質過ぎるところが無く,音楽が自然に流れていきます。ダウスさんの音は,基本的に大変バランスが良いのですが,聞かせどころではたっぷりと情熱的に聞かせてくれます。ダウスさんのヴァイオリンにピタリと寄り添うOEKの伴奏との一体感も素晴らしく,このコンビならではの密度の濃さも感じさせてくれる演奏を楽しむことができました。

第2楽章も自然体の演奏でした。ダウスさんの落ち着きのある音色に,まるで室内楽の演奏のように,管楽器が自発的に絡み合ってきます。第3楽章では,ダウスさんのキレの良い技巧が特に冴えていました。楽章後半でのオーケストラとの熱気のある掛け合いは,特にスリリングで,ライブならではの迫力に満ちていました。ダウスさんらしい紳士的な雰囲気を残しながらも自由自在の音の世界に遊ばせてくれるような見事な演奏となっていました。この楽章では,オーボエの加納さんの瑞々しい音色との絡み合いも印象的でした。

サイン会で頂いたダウスさんのサイン
こちらはホリディさんのサインです。サイン会に参加していた人全員に”サイン入り生写真”をプレゼントされていました。ステージ同様,大変サービスの良い方でした。
ニューイヤー・コンサートのもう一人の”顔”であるトロイ・グーキンズさんのサインです。ダウスさんのサインも上に入っていますが,こちらは数年前に頂いた時のものです。
CDショップも繁盛していたようです。女性職員の皆さんも美しい着物姿でした。
この日は,新春企画としてプログラムに印の入っていた方にプレゼントがありました。残念ながら私はハズレでした。
後半は例年どおり,第1ヴァイオリンのトロイ・グーキンズさんの日本語による進行を交えた,気軽に楽しめるウィーンの音楽となりました。例年はトロイさんの一気飲みで始まるのですが,今年は久しぶりに登場したダウスさんのチャイコフスキーの熱演を讃えるため,お二人による乾杯で後半は始まりました。今回,ダウスさんは燕尾服ではなく,薄い茶色のジャケットを着ていらっしゃいましたが,この衣装もリラックスした雰囲気を出すのにぴったりでした。

乾杯に先立って行進曲が1曲演奏されました。はじめて聞く曲でしたが,「皇帝フランツ・ヨゼフ」に関する曲ということで,途中,ハイドンの弦楽四重奏曲「皇帝」でおなじみのメロディが出て来るのが印象的でした。トロンボーンのエキストラやお馴染みジェフリー・ペインさんのトランペットを加えての柔らかい響きは行進曲のリズムをまろやかなものにしていました。

続いてスパンコールの衣装を身に着けたメラニー・ホリディさんが登場し,シュトルツの曲が歌われました。ホリディさんは,こういう小唄風の歌を聞かせ,見せるのが大変上手です。

「酒・女・歌」は比較的コンパクトなワルツですが,ダウスさんとOEKは所々アクセントを付けて演奏しており,聞き応えのある演奏となっていました。

続く2曲では再度,ホリディさんの歌が加わりました。レハールの「メリー・ウィドウ」からの「ヴィリアの歌」は,お馴染みの曲です。手振り,身振りを交えてのホリディさんの歌は大変ロマンティックでした。ダウスさんのヴァイオリンと歌手とが寄り添うように演奏しており,大変良いムードが出ていました。その後のシュトラウスの曲でも,静かに演奏されるピツィカートが甘い雰囲気を作っていました。

チクタク・ポルカは,喜歌劇「こうもり」の中に出てきそうな軽快な曲です。すっきりスマートに演奏した後,最後の部分で,OEKの皆さんが声を揃えて「チクタク,チクタク」と合唱して楽しく終わりました。

次にチャルダーシュが2曲演奏されました。チャルダーシュは,前半ゆっくり,後半はテンポアップという構成のエキゾチックなハンガリー舞曲ですが,こういうコンサートで聴くと大変盛り上がります。

「騎士パスマン」からのチャルダーシュは,ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートなどでもよく聞かれる曲です。今回のOEKの演奏では,最初のゆっくりした部分が弦楽四重奏+クラリネットという感じで演奏されており,室内楽的な魅力が出ていました。曲の最後は,ホルンの4人の皆さんが「ヘイ!」と言って,楽器を持ち上げるパフォーマンスをされていたのも楽しいものでした。

レハールの「ジプシーの恋」の中の曲もチャルダーシュ風の曲でした。この曲では,ホリディさんがショッキング・ピンクの衣装に着替えて登場しました。まさに目が覚めるような色でした。ここでもダウスさんのヴァイオリン独奏との掛け合いが良いムードを出していました。後半リズミカルになる部分では,お客さんの手拍子も加わり,今回のプログラムのクライマックスを作っていました。

ニューイヤー・コンサートの最後は,定番の「美しく青きドウナウ」です。この曲の最初の序奏部分を聞くと,前の曲でのウキウキした気分がすっと静まり,何とも言えない幸福な気分に浸ることができます。ウィーンにしても金沢にしても,”この曲のこの感じ”がニューイヤー・コンサートの人気の秘密なのではないかという気がします。

アンコールは2年前とほぼ同じものでした。ホリディさんのサービス全開のパフォーマンスは,演奏会をさらに盛り上げてくれました。最初の「ウィーン,我が夢の街」は,歌入りのニューイヤー・コンサートの定番です。これまでも何回も歌われてきました。今回,ホリディさんは,途中客席に降りて,お客さん一人一人に語りかけるように歌っていました。この親しみやすさが,ホリディさんの人気の秘密だと思います。

次の「カンカン」メドレーもまた,ホリディさんの十八番です。この前の大晦日の紅白歌合戦では,紅チームのゴリエのチアリーダー風のパフォーマンスが何と言っても強烈でしたが,この日のホリディさんもまた,素晴らしい脚線美と柔軟性を見せてくれました。

アンコール3曲目はコンサートの締めの定番のラデツキー行進曲でした。渡邉さんの小太鼓に続いて,ダウスさん無しで曲が始まった後,途中からホリディさんとダウスさんが手を取り合ってにこやかに入ってきました。明るく優雅な気分を残して,演奏会はお開きとなりました。

今回も,ダウスさんとホリディさんを中心に楽しい音楽が続き,いつもながらのニューイヤーコンサートを楽しむことができました。特にダウスさんの存在は大きいと思いました。OEKのニューイヤー・コンサートには,ダウスさんは不可欠だと改めて感じさせてくれた演奏会でした。今年もOEKのニューイヤーコンサートは今年も全国数箇所で行なわれますが,お近くの方は是非お出かけになってみてください。

PS.この日は,少々時間があったのでかなり早目に音楽堂に出かけて見ました。上述のとおり,交流ホールの壁を取り払い,自由に1階入口から入れるようになっていました。次のような新春らしい邦楽の演奏会(入場無料)を行なっていました。
桐壺という名前の雅楽のグループです。左から竜笛,篳篥,笙です。 筝の独奏です,その他,民謡や笛の演奏もやっていたようです。 この日はゲネプロを子供たちに公開していたようです。この交流ホール前のモニターにもその様子が映っていました。

この日は,ロビーで恒例のプレコンサートも行なわれていましたので,定期公演前のサービスも大変充実していました。このプレコンサートでは,木管五重奏(フルート:岡本さん,オーボエ:加納さん,ホルン:金星さん,ファゴット:柳浦さん,クラリネット:遠藤さん)でシュトラウスの曲やハイドンの曲が演奏されました。最後に演奏されたポルカ「観光列車」では,警笛の音なども入り,定期公演を先取りするような楽しさがありました。

PS.このところ,金沢はかなり積雪があります。街中の様子の写真を紹介しましょう。
我が家の屋根のツララです。 スキー場ではありません,我が家の周りの風景です。街中よりは雪の捨て場がある分助かっています。 こちらは金沢21世紀美術館の中から外を見た風景です。どこも似たような感じです。晴れていると美しいのですが。 高台から金沢市内の住宅地を眺めた光景です。
(2006/01/09)


Review by i3miuraさんの感想

毎年恒例の演奏会ですが、充分楽しい演奏会でした。前半協奏曲&後半ワルツ集という組合わせはパターン化してきましたが、非常に満足できる物だと思います。

チャイコのVn協奏曲ではM.ダウスさんの非常にゆったりとしたテンポ設定で、楽器の音色を充分に堪能でき良かったと思います。

後半のプログラムもM.ホリデーさんらしい、見て聴いて大変満足できる演奏で楽しいの一言だったと思います。(2006/01/08)