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ふだん着ティータイムコンサートVol.9
2006/06/18 金沢市民芸術村
■オープン・スペース
14:00〜 子供のためのコンサート

1)テレマン/トランペットと2つのオーボエのための協奏曲第3番〜第1楽章
2)クラリネット・ポルカ
3)シュトラウス,J./ポルカ「観光列車」
4)1分間指揮者コーナー
5)小林亜星/にんげんっていいな
●演奏
オーケストラ・アンサンブル金沢のメンバー(松井直(コンサート・マスター))
藤井幹人(トランペット*1),遠藤文江,木藤みき(クラリネット*2),柳浦慎史(司会)

■ミュージック工房
【第1部 15:00〜】
1)ショスタコーヴィチ/弦楽四重奏曲第3番ヘ長調op.73
2)シュトラウス,J./ワルツ「春の声」(木管四重奏版)
3)モーツァルト/ピアノ・ソナタイ長調,K.331(木管四重奏版)〜第1楽章テーマ,第3楽章
4)ジョゼフ・ギス,フランソワ・セルジェ/「ゴッド・セイブ・ザ・キング」の旋律による華麗にして協奏的な変奏曲,op.38
●演奏
坂本久仁雄(ヴァイオリン*1,4),原三千代(ヴァイオリン*1),石黒靖典(ヴィオラ*1),大澤明(チェロ*1,4),岡本えり子(フルート*2,3),加納律子(オーボエ*2,3),渡邊聖子(ファゴット*2,3),木藤みき(クラリネット*2,3)

【第2部15:50〜】
1)モーツァルト/フルート四重奏曲第1番ニ長調K.285
2)ピアソラ/リベルタンゴ
3)ピアソラ/オブリビオン
4)ピアソラ/エスクワロ
5)クンマー/チェロ二重奏曲op.156(「マカベウスのユダ」の主題による変奏曲」,「水上の音楽」」から)
6)モーツァルト/弦楽四重奏曲第4番ハ長調,K.157
●演奏
岡本えり子(フルート*1),坂本久仁雄(ヴァイオリン*2-4),大村俊介(ヴァイオリン*6),大村一恵(ヴァイオリン*6),大隈容子(ヴァイオリン*2,ヴィオラ*6),石黒靖典(ヴィオラ*1-4),大澤明(チェロ*1,5),早川寛(チェロ*5-6),今野淳(コントラバス*2-4),渡邊昭夫(打楽器*2-4)

【第3部16:55〜】
1)ベートーヴェン/弦楽三重奏曲ト長調op.9-1〜第1楽章,第4楽章
2)イベール/3つの小品
3)ベリオ/作品番号第獣番〜田舎の踊り
4)ロッシーニ/弦楽のためのソナタ第6番ニ長調〜第3楽章「嵐」
5)アリュー/木管三重奏曲ハ調
●演奏
坂本久仁雄(ヴァイオリン*1,4),ヴォーン・ヒューズ(ヴァイオリン*4),石黒靖典(ヴィオラ*1),大澤明(チェロ*1,4),今野淳(コントラバス*4),金星眞(ホルン*2-3),岡本えり子(フルート*2-3),柳浦慎史(ファゴット*2-3,5),遠藤文江(クラリネット*2-3,5),加納律子(オーボエ*2-3),水谷元(オーボエ*5)

【第4部18:00〜】
1)マルティヌー/3つのマドリガル〜2曲
2)イザイ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番〜第1楽章,第2楽章
3)デュボワ/Lou Cascarelet
●演奏
竹中のりこ(ヴァイオリン*1),古宮山由里(ヴィオラ*1),山野祐子(ヴァイオリン*2),加納律子(オーボエ*3),水谷元(オーボエ*3),田中宏(オーボエ*3),渡邊昭夫(打楽器*3)
Review by 管理人hs
会場にあったポスター
今回で9回目となるオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)団員による「ふだん着ティータイム・コンサート」に出かけてきました。岩城宏之さん亡き後,初めて出かける演奏会でしたが,例年にも増して充実した内容でした。OEK団員は,オーケストラとしての活動以外に,いろいろとユニットを組んで,室内楽の活動を活発に行っていますが,今回のコンサートはその集大成のような楽しさがありました。この日は,梅雨の中休みでとても快適な気候だったこともあり,ピクニック気分で楽しめる内容でした。

今回は5部構成でした。午後2時に始まり,終演は6時過ぎという長い演奏会でしたが,団員のトークと室内楽をじっくりと楽しむことできました。順に紹介していきましょう。

最初の「子供のためのコンサート」は,例年どおりファゴットの柳浦慎史さんの司会で進められました。今回も超満員のお客さんでした。演奏会の幕開けの合図のように,テレマン作曲のトランペットを含む協奏曲の第1楽章が演奏されました(トランペットの藤井さんは,小型のトランペットで演奏されていました)。その後,恒例の楽器&メンバー紹介が行われました。今回は管楽器から紹介されました。

管楽器の紹介が終わったところで,クラリネットの遠藤さん,木藤さんのお二人によって,おなじみのクラリネット・ポルカが軽快に演奏されました。このコンビによるクラリネット・ポルカは,岩城さん指揮のチャリティ・コンサートでも聞いたことがありますが,場を和ませるのには絶好の曲です。半分屋外のようなオープン・スペースで聞くのにも丁度良い作品でした。

弦楽器メンバーの紹介の後,オーケストラ全員で(スペースの関係上,弦楽器を中心に奏者は半分ほどの人数になっていましたが),シュトラウスのポルカ「観光列車」が演奏されました。この曲もまた,行楽気分で聞くには絶好の曲です。

その後,名物企画である「1分間指揮者コーナー」が行われました。今年もまた例年にも増して「名指揮者」が続出しました。まず,子供向けの課題曲として「ラデツキー行進曲」を指揮してもらいました。この曲は単純な2拍子の曲なので,それほど難しくないと思ったのですが,それでも慣れない人が指揮すると(そして,その棒に忠実に従うと),非常に個性的になってしまうのが面白いところです。

後半の大人向け課題曲は,ベートーヴェンの交響曲第5番の第1楽章の冒頭部分でした。こちらの方も「もはや運命...」という感じの演奏が続出しました。

子供のためのコンサートの最後では,「まんが日本昔ばなし」のテーマ曲の「にんげんっていいな」をオーケストラにあわせて,皆で歌いました。この番組は私が子供の頃に放送されていた「なつかしの番組」ですが,最近またリマスターされて,放送されているようです。元気良くこの曲を歌う小さな子供たちの声を聞いて,嬉しくなりました。曲の間,柳浦さんは,マイクを持って会場内のいろいろな人の「声」を拾っていましたが,生オーケストラをバックとした「カラオケ」のような感じになっており,とても盛り上がりました。

この後は,ぐっと気分が変わり,隣のミュージック工房で室内楽の演奏が続きました。気分が変わったとはいえ,かなり子供も残っており,ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲を小さな子供がゴロっと横になって聞いているというような面白い光景が見られました(連休中に東京で行われた「ラフォル・ジュルネ・オ・ジャポン」も顔負け情景です)。

室内楽コンサート第1部は,そのショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲で始まりました。坂本さん,石黒さん,大澤さんのお馴染みのグループに原さんが加わっての演奏でした。軽妙だけど独特のひねくれた感じがあり,なかなか楽しめる曲でしたが,演奏の順番としては,やはりもう少し夕闇が迫ってくる頃に聞いた方がぴったり来るかなと思いました。大澤さんたちは,クワドリ・フォーリオという名前で活発に弦楽四重奏曲を演奏されていますが,そのうち,ショスタコーヴィチのシリーズなどにも挑戦して欲しいと思います。

続いて,女性木管楽器奏者4名(そのものずばり「ビューティ・フォー」です。)によって明るくのどかな作品が演奏されました。管楽器だけで演奏されるシュトラウスのワルツには,本当に良い雰囲気がありました。レンガ造りの建物の中で聞いていると,ビールやワインなどを飲みたくなってしまいました。

モーツァルトのピアノ・ソナタを木管四重奏にアレンジしたものは,フルートが主にメロディを演奏していました。これを聞きながら,以前,ペーター・ルーカス・グラーフという有名なフルーティストがこの曲を演奏した録音を思い出しました。トルコ行進曲での珠を転がすような音の動きはフルートにぴったりです。

第1部最後は,「「ゴッド・セイブ・ザ・キング」の旋律による華麗にして協奏的な変奏曲」という名前からして,”ど派手”な感じの曲が演奏されました。作曲者名は全く聞いたことはないのですが,パガニーニのカプリースを思わせるような技巧的な作品でした。まず,イギリス国歌の主題が出てくるまでの段階で,コテコテしていました。ヴァイオリンの坂本さんは,譜面をめくらなくても済むように,全曲を縮小コピーし,それをかなり大きなダンボールに貼っていらっしゃいましたが,この光景にもまた,独特の面白さがありました。坂本さん自身,「華麗にしてファッショナブル」な雰囲気をお持ちですので,まさにぴったりの演奏でした。

第2部では,今年がメモリアル・イヤーであるモーツァルトの曲が2曲演奏されました。最初のフルート四重奏曲第1番は,モーツアルトの室内楽曲の中でも特に有名な作品ですが,金沢で実演を聞く機会は意外に多くありません。今回,じっくりと聞くことができ,改めて良い作品だと思いました。岡本さんのフルートは,とても優しく,柔らかで,曲の雰囲気にぴったりでした。第2楽章はピツィカート主体の短調となります。これだけ間近できくと1音1音がぐっと迫ってきます。快適なテンポの第3楽章と好対照を作っていました。

次のピアソラのコーナーは,一転して,夜のムードが漂う独特の雰囲気になりました。とても格好の良いステージで,レンガ作りのミュージック工房で聞くのにぴったりの音楽でした。まず,ステージ上でコントラバスの今野さんと,打楽器の渡邊さんが力強いリズムを刻む中(渡邊さんは太鼓ではなく,足の下の箱を叩いていたようでした),ヴィオラの石黒さんともう一人のゲスト奏者の方の2名が入って演奏を始めました。続いて,ヴァイオリンの坂本さんが入ってきて,全員が揃いました。その後は,スピード感のある音楽が続きました。この編成だとベースの音がぐっと迫って聞こえ,非常に野性味があります。2曲目のオブリビオンの叙情的な雰囲気と,前後の曲とのもコントラストも鮮明で,とても楽しめるステージでした。このグループは,7月30日に同じ芸術村でピアソラの演奏会を行うのですが(バンドネオンもさらに加わるようです),これもに是非出かけてみたいと思います。

その後のクンマーという作曲家のチェロ二重奏曲は,大澤さん自身「平和な曲」と語られていた通り,とても和やかな曲でした。前半はヘンデルの「マカベウスのユダ」のテーマ(表彰式で流れるあの曲ですね)による変奏曲,後半は同じくヘンデルの「水上の音楽」の中の1曲でしたが,チェロ二本で演奏すると,とてもアットホームな気分になります。同じような背格好の大澤さんと早川さんが二人並んで演奏する姿を見るだけで和んでしまいました。前回のOEKのファンタジー公演で森山良子さんが,チェロの最前列で並んで演奏していたこのお二人を見て「ご兄弟ですか?」と尋ねて,大いに受けていましたが,この日のステージを見せてあげたかったと思いました。

ちなみに,この日,早川さんはサッカー日本チームのユニフォームを着て演奏されていました。日本対クロアチア戦を前にして,早川さんは「日本は必ず勝つ」,大澤さんは「必ず負ける」と意見が分かれていました。結果は,引き分けということで,このお二人の予想の方も引き分けに終わりました。

第2部最後では,モーツァルトの弦楽四重奏曲第4番が演奏されました。登場したのは,金沢蓄音器館を舞台にモーツァルトの弦楽四重奏曲の全曲演奏シリーズを始めたばかりの大村さんご夫妻を中心としたグループでした。同じOEK団員による弦楽四重奏でも,大澤さんを中心としたグループとはムードが違うのが面白いところです。こちらの方は,曲の性格にもよると思いますが,落ち着いた気品の漂う演奏でした。先ほど演奏されたフルート四重奏曲と似た構成で,深い情感をたたえた短調の第2楽章が印象的でした。

大村さんは「モーツァルトを聞くと頭がよくなると言われていますが...よく演奏している我々は一体どうなるのでしょう?」とポツリと言われていました。こういうジョークは,個人的に大好きです。

第3部になると,さすがに段々とお客さんの数が減ってきました。このコーナーの最初に演奏されたのは,坂本,大澤,石黒さんによるベートーヴェンの弦楽三重奏でした。大澤さんのグループは,ベートーヴェンの弦楽四重奏曲の全曲を演奏されたことがありますが,この三重奏も聞き応えのある作品でした。ヴァイオリンの数が少ないのに,先ほど演奏されたモーツァルトの初期の弦楽四重奏曲に比べると,重量感が感じされるのがベートーヴェンらしいところです。

続くイベールの3つの小品では,敢然とするところのない完成された響きを楽しむことができました。フランス音楽らしい,鮮やかさな響きを聞いて目が覚めるようでした。この演奏は,ホルンの金星さんを中心とした木管五重奏だったのですが,翌日,北國新聞会館でこのグループがコンサートを行うことになっていました。この日の演奏は,丁度「最終リハーサル」になっていたのではないかと思いました。

アンコールのような感じで,ベリオ(岩城さんとほぼ同じ日に亡くなられた作曲家です)の作品番号第獣番の中の「田舎の踊り」が演奏されました。5人の管楽器奏者たちのそれぞれが,楽器を演奏する代わりに,他の奏者の楽器演奏に合わせて,一言ずつセリフを読み上げるというとても面白い作品でした。各パートの「喋り」が音楽の一部になっている面白い曲でした(詞は,谷川俊太郎さん?)。

ロッシーニの弦楽のためのソナタ集は,私自身,とても好きな曲です。ロッシーニ12歳の作品ということですが,その瑞々しさはいつ聞いても新鮮です。今回演奏された第6番の第3楽章の「嵐(テンペスタ)」は,ロッシーニお得意のクレッシェンドを楽しむことができます。歌劇「セヴィリアの理髪師」の中にも嵐の部分がありますが,丁度そのような感じの曲で,「そこそこの激しさ」を楽しむことができます。ピアソラの時同様,美しいヴァイオリンのカンタービレの一方でコントラバスの低音が効いているのが面白い作品です。

第3部最後は,オーボエ,クラリネット,ファゴットというリードを持つ木管楽器3種類による三重奏でした。演奏前に,オーボエの水谷さんが「この作曲家はクロードといいながら女性です。また,フランス音楽の本流です」と説明されていたのですが...この”本流”と”アリュー=亜流”とを洒落ていたのに気づくのにかなり時間がかかってしまいました。水谷さんが「本流です」と言った後,柳浦さんが「ここで笑ってください」と語っていたのですが,その意味が2楽章頃になってやっと分かりました。この洒落同様に,なかなか味わい深い作品でした。

第4部になると,さらにお客さんは少なくなりましたが,このコーナーでも聞き応えのある演奏が続きました。ヴァイオリンの竹中さん,ヴィオラの古宮山さんというOEKで最も若いメンバーであるお二人によるマルティヌーは,本当にイキの良い演奏でした。ぐいぐい演奏に引き込まれてしまいました。ステージ上でも堂々とのびのびと演奏しており,頼もしいなぁと感じました。

続く,イザイの曲は,今回のプログラムの中で唯一の独奏でした。演奏したヴァイオリンの山野さんは,イザイの書いたアーティキュレーションとフィンガリングを忠実に再現するために譜面を見ながら演奏されていました。全曲ではなく,2つの楽章だけが演奏されたのですが,少しモダンなバッハというような作品で,それだけで十分,重量感と緊迫感を感じさせてくれる演奏でした。

今回の演奏会のトリに演奏されたのは,オーボエ3本と打楽器という非常に変わった編成のために書かれた作品でした。6つの小品からなる組曲なのですが,民族音楽を思わせるような単純さと繰り返しとが多く,独特の味を持っていました。個人的には大変気に入りました。

これでお開きとなりましたが,最後にオーボエの水谷さんが,先日亡くなられた岩城音楽監督のことに一言触れられました。大変,心のこもった素晴らしい挨拶でした。

岩城さんは石川県内を舞台にあれこれと新しい企画を考え,実行されてきましたが,今日のコンサートを聞いて,OEK団員の中にもその精神が生きているな,と感じました。OEK団員と聴衆との間の交流の場という意味だけではなく,OEK団員の自由なアイデアや大胆な選曲の表現の場として,これからもずっと続けていって欲しい演奏会だと改めて感じました。(2006/06/21)

演奏会ド写真集
この日は気持ちよい快晴になりました。
木陰で休んでいる人,池で遊んでいる子供の姿もよく見かけました。
OEK団員からのメッセージです。左側は岩城さんを追悼するメッセージです。
団員自らがコーヒーなどの飲み物をサービスされていました。
例年どおり顔写真入り,団員リストが付いていました。我が家の子供は,本人と写真とをチェックしていました。やはり(?)大澤さんと早川さんが気になっていたようです。
子供のためのコンサートでは,例年どおり柳浦さんが司会をされました。
藤井さんが,通常のトランペットと先ほど演奏した小型のトランペットとの大きさの比較をしています。
「子供のためのコンサート」の後,背景のガラス戸が開け放たれました。文字通りオープンスペースになりました。
このように大変賑わっていました。
ミュージック工房ではこのような雰囲気でした。
夕方が近づいてきたオープンスペースです。
終演後です。座っている方はヴォーン・ヒューズさんだと思います。
芸術村の入口にある,「れんが亭」というレストランです。
このようにJR北陸本線の本当にすぐそばにあります。時々,列車の走る音が聞こえてきますが,これもまた良い味となって感じられます。