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金沢室内管弦楽団第20回定期演奏会
2006/06/24 石川県立音楽堂コンサートホール
1)バッハ,J.S./管弦楽組曲第3番〜アリア
2)ショスタコーヴィチ/祝典序曲
3)モーツァルト/交響曲第29番
4)マーラー/交響曲第4番
●演奏
川北篤(1-2);花本康ニ(3-4)指揮金沢室内管弦楽団,大西真澄(ソプラノ*4))
Review by 管理人hs
金沢にあるアマチュア・オーケストラ,金沢室内管弦楽団(金室管)の演奏会に出かけてきました。今回出かけてきたのは,何と言ってもマーラーの交響曲第4番が演奏されるからです。恐らく,金沢でこの曲が演奏されるのは初めてなのではないかと思います(正確な情報をお持ちの方がありましたらお知らせ下さい)。

この室内オーケストラは,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)ができる直前の1986年に川北篤さんを中心に作られた室内オーケストラです。名前からするとOEKと似たネーミングですが,こちらの方が少し先輩ということになります。その20回目の定期公演を記念して,マーラーを中心とした非常に充実したプログラムが演奏されました。今年生誕100年のショスタコーヴィチの祝典序曲で20周年を盛大に祝い,今年生誕250年のモーツァルトでこのオーケストラ・オリジナルの編成を聞かせ,最後にモーツァルトの後に演奏するのに相応しい,古典的な気分を感じさせる大曲としてマーラーの交響曲第4番で締めるという見事な構成となっていました。

この日は,プログラムに入る前に先日亡くなられた岩城宏之OEK音楽監督を追悼する演奏も行われました。川北さんは,OEKの「終身桂冠ドクター・イン・レジデンス」という立派な肩書きを持っており,岩城さんやOEK関係者との親交も深い方です。川北さんのお話によると,当初,この演奏会は岩城さんが指揮する計画だったそうです。諸般の事情で実現しなかったのですが,今回の演奏会全体,岩城さんが聞いても絶賛してくれるような素晴らしい内容だったと思います。

まず,最初にショスタコーヴィチの祝典序曲が演奏されました。金室管の定期演奏会を聞くのは今回が初めてでしたので,オリジナル編成が何名なのかは分からないのですが,この曲では,トロンボーン,チューバを含むかなりの大編成となっていました。プログラムに掲載されていた「過去の演奏会の歩み」を見てみても,ドヴォルザークやシベリウスの交響曲なども取り上げていますので,コアとなる室内オーケストラ編成に,曲に応じてメンバーを増強しながら演奏を行っている団体のようです。そういう点でも,OEKのスタンスと似たところがあります。

この曲は,大変明るい爽快な作品ですが,後半にあっと驚く仕掛けがありました。川北さんの堂々とした指揮の下,順調に曲が進み,曲の後半,冒頭のファンファーレが再現する部分で,10人ほどの金管別働部隊がオルガン・ステージに登場しました。「メンバー表のトロンボーン,ホルン,トランペットの人数がやけに多いな」と思って見ていたのですが,これで謎が解けました。冒頭部分も十分華やかだったのですが,それにさらに輪をかけて気分が高揚し,視覚的面でも盛り上がりを作っていました。

2曲目に演奏されたモーツァルトの第29番は,金室管のオリジナルメンバーに近い編成による演奏でした。弦楽器+オーボエ2,ホルン2ということで,いつも見慣れたOEKとほぼ同様の編成ということになります。さすがにプロの室内オーケストラであるOEKの演奏に比べると演奏精度の点で見劣りがする部分はありましたが,弦楽器を中心とした瑞々しく引き締まった響きは素晴らしく,音楽堂コンサートホールに美しく響いていました。

特に曲の前半の第1,第2楽章が良かったと思いました。第1楽章の落ち着きのある整った雰囲気,第2楽章の弱音器をつけた弦楽器のくすんだ響きなど大変よくまとまった演奏になっていました。私は,この第2楽章の最後で「ツルの一声」のような感じで出てくるオーボエのメロディが大好きなのですが,これもぴったりと決まっており,嬉しくなりました。

曲の後半は,音の動きが大きく,テンポも速いので,その分,曲のまとまりを作るのが難しい部分はありましたが,十分に躍動感の感じられる演奏になっていました。

後半のマーラーについては,「室内オーケストラがマーラー?」ということで,聞く前は,昨年OEKが「大地の歌」を演奏した時のような,特別な版での演奏かなとも予想していたのですが,通常版での演奏でした。つまり,ショスタコーヴィチ同様,編成をかなり増強しての演奏でした。しかし,増強しているとはいえ,トロンボーン,チューバは入っていませんので,マーラーの曲としては,それほど大規というわけではありません(OEKでももしかしたら出来る?)。

私自身,この曲については,リッカルド・シャイー指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団による実演を名古屋で聞いたことがあるのですが,金沢で実演を聞くのは初めてのことです。昨年からOEKの大地の歌,ロンドン交響楽団による第5番,チューリヒ・トーンハレによる第1番と聞いていますので,金沢にもようやく「マーラーの時代」が訪れてきた感じです。

生のマーラー演奏は,見ても聞いても面白いものです。今回の演奏も大変楽しめる演奏でした。そして,大曲に果敢に挑戦した金室管の皆さんと指揮者の花本さんに大きな拍手を送りたくなるような立派な演奏でした。この曲は華やかなクライマックスを築いて盛大に終わる曲ではありませんので,その分「ごまかしが効かない」難しさがあります。今回の演奏は,モーツァルトに通じる古典的で天国的な気分をしっかりと表現してくれていました。

まず冒頭の鈴の音です。いきなり「シャンシャンシャンシャン....」と聞こえてくる曲というのはこの曲以外にはないと思います。フルートと合わさった響きは非常に清冽で,その後に続く弦楽器の響きとあわせ,一気にメルヘン的な気分に会場の空気を変えてくれました。生演奏だと,各楽器の音が生々しく聞こえて来るのも魅力的です,クラリネットが楽しげなメロディをベルアップして演奏したり,フルート4本が鮮やかに登場したり,聞き所が次々と出てきました。

この楽章についてのプログラムの解説中に,途中から「方向性を失ったような不安感に駆られます」と書かれていたのですが,展開部などを聞いていると確かにそういう感じがしました。逆に言うと上述のような部分部分の”聞き所”の面白さは伝わってきたのですが,全体としてみると,音楽の流れが停滞しているように聞こえる部分がありました。この辺はやはり,この曲の作る場合の難しさなのかもしれません。

楽章の後半部では,また古典的な世界に戻ってきます。この部分での明快な締めくくりもとても聞き応えがありました。

第2楽章では,コンサートマスターがヴァイオリン2丁を使い分けて演奏する様子がとてもよく分かりました。CDで聞いていると実はそれほど違いは分からないのですが,生で聞くと,それが視覚的に見えるのでより演奏効果があがります。コンサートマスターの方の演奏はとてもしっかりとしたもので,安心して聞くことのできました。この楽章では,この死神の踊りと陶酔的な響きとが交錯するのですが,弦楽器による陶酔的な響きの方も見事でした。

第3楽章は比較的すっきりとした感じで演奏されていましたが,前半の方はちょっと長さを感じてしまいました。楽章後半のクライマックスの部分は見事でした。トランペット,ホルン,ティンパニなどが一体となった輝かしい響きはまさに天国へのドアを開けるようだ,と思ったところで...本当にこの部分で下手側のドアが開き,ソプラノの大西真澄さんが入って来られました。この曲は,ベートーヴェンの第9交響曲同様,「どこで歌手が入れるか?」を決めるのが難しい曲ですが,今回の形は,大変スマートでした。

そして,そのまま第4楽章へと入っていきました。揺らぐような気持ち良い響きの中,穏やかな暖かみを感じさせてくれる大西さんの歌が始まりました。それほど表情豊かな感じはしませんでしたが,「子どもっぽく」という雰囲気が良く出ていました。この楽章では,第1楽章の鈴の音が何回も再現されるのですが,その部分での管楽器を交えての鋭い響きも印象的でした。生ならではの鮮やかさでした。

曲の最後は,イングリッシュ・ホルン,ハープの後,コントラバスだけがスーッという感じで演奏して終わります。この部分での穏やかで静かな気分も印象的でした。

というようなわけで,金室管の記念すべき20回目の定期演奏会は,前半後半ともに大変聞き応えのある演奏会となりました。マーラーに挑戦し,見事に演奏した金沢室内管弦楽団の皆さんに改めて大きな拍手を送りたいと思います。これからも,新しい歴史を築いて行って欲しいと思います。(2006/06/25)

この演奏会のポスターです。クリムトの絵を思い出させるような色合いが大変印象的でした。
岩城さんの追悼コーナーが楽屋口付近に移動していました。