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2006 いしかわミュージックアカデミー
IMAフェローシップコンサート:3人のIMA音楽賞受賞者によるプロローグ
2006/08/24 金沢市アートホール
1)シュトラウス,R./夜op.10-3
2)シュトラウス,R./望ましき幻影op.48-1
3)シュトラウス,R./万霊節op.10-8
4)シュトラウス,R./憩え,わが魂よop.27-1
5)シュトラウス,R./あすの朝op.27-4
6)ハイドン/ヴァイオリン協奏曲第1番ハ長調Hob.Vlla−1
7)メンデルスゾーン/ヴァイオリンと弦楽のための協奏曲ニ短調(1822年版)
●演奏
引地桂子(ソプラノ*1-5),大城治(ピアノ*1-5),ユジン・ジャン(ヴァイオリン*6),ジェヨン・キム(ヴァイオリン*6)
原田幸一郎指揮IMAチェンバーオーケストラ
Review by 管理人hs
今年もいしかわミュージックアカデミー(IMA)の時期となりました。その一連のコンサートの中から,優秀な受講生がソリストとして登場する「フェローシップコンサート」に出かけてきました。登場したのは,昨年のIMA音楽賞を受賞したソプラノの引地桂子さん,ヴァイオリンのユジン・ジャンさんとジァヤン・キムさんの3人でした。今回の演奏会は迫力がダイレクトに伝わってくる金沢市アートホールという小ホールで行われたこともあり,どの演奏も聞き応えがありました。

最初に登場したソプラノの引地さんは既に大学院を修了された方で,他の2人よりも少し年上の方でした。ステージ上の雰囲気にも大変落ち着きがあり,R.シュトラウスの歌曲の世界をじっくりと聞かせてくれました。引地さんはソプラノなのですが,かなり重い声質で,メゾソプラノを思わせる深みのある雰囲気を持っていました。その分,高音が少し不安定なところはありましたが,それもまた揺れる心を表現しているようで,悪くありませんでした。何よりも声量が豊かなのが素晴らしく,それほど長くない5曲の歌からとてもスケールの大きな世界を感じさせてくれました。

私自身,日常的にほとんどドイツ歌曲を聞く機会がないこともあり,実は歌われた曲の内容についてはほとんど分かりませんでした(「万霊節」は有名な作品だと思います)。素晴らしい歌声ではあったのですが,同じタイプの曲が続いていた感じだったので,その選曲についてはもう少し変化があっても良かったのではないかと思いました。

後半は韓国の音楽大学生2人による演奏でした。ハイドンのヴァイオリン協奏曲第1番とメンデルスゾーンのヴァイオリンと弦楽のための協奏曲ニ短調という渋い曲が2曲演奏されましたが,両者とも技術的に大変見事だったこともあり,大変楽しむことができました。

最初に登場したユジン・ジャンさんは,大変若い小柄の女性でした。「本当に大学生なのだろうか?」と思いプロフィールを見てみると,「16歳にして韓国国立芸術大学に入学し,最年少の大学生となる」と書いてあり,納得しました。

ピンクのドレスを着たジャンさんはとても細い腕でしたが,そこから出てくる音楽は大変力強く,余分な贅肉のない精悍な演奏でした。ジャンさんの音にはしっかりした芯があり,音楽がくっきりとしているので,とても清潔で折り目正しい音楽になっているのも素晴らしい点でした。ハイドンのヴァイオリン協奏曲を聞いたのは今回が初めてだったのですが,技巧的で華やかな部分もありとても楽しめる作品でした。速いパッセージでの唸りを上げるような技巧も本当に見事なもので,これからの成長がとても楽しみなヴァイオリニストだと感じました。

最後に登場したジョエン・キムさんもジャンさんと同じ韓国国立芸術大学の4年生です。こちらも,とても外見的には素朴な雰囲気の方でいかにも学生らしい感じでしたが,音楽の方はジャンさん同様に完成度の高いものでした。

メンデルスゾーンの短調の作品ということもあり,全体に少し憂いのある音を聞かせてくれました。ジャンさんの方の演奏がストレートに切り込んでくるような感じだったのに対し,もう少し奥の深さを感じさせてくれる演奏でした。こちらの方も大変技巧が鮮やかでカデンツァの部分をはじめとして勢いのある音楽を聞かせてくれました。

今回,もう一点素晴らしかったのは伴奏を務めた今年から活動をはじめたIMAのレジデントオーケストラ,IMAチェンバーオーケストラでした。今回はアートホールでの公演ということもあり,室内楽編成に近い人数でしたが,ソリストとして登場しても良いような方々が揃った弦楽オーケストラということもあり大変迫力がありました。臨時編成オーケストラといっても良い団体ですが,音がピタリと揃っており,IMAの音楽監督である原田幸一郎さんをはじめとしたの講師陣の指導の力を感じました。最後に演奏されたメンデルスゾーンの第2楽章は,独奏が入るまでの序奏がかなり長いこともあり見事な演奏を堪能できました。

IMAのレジデンスオーケストラは,昨年まではOEKでしたが,今回の演奏を聞いて,若い人たちの集まるIMAにはこのチェンバーオーケストラの方が相応しいかなと感じました。IMAの卒業生も沢山出てきたので,これからも継続して欲しいと思います。このオーケストラは,今年の1月で韓国公演を既に行うなど,少しずつ活動の場を広げているようですが,これからの活動にも期待したいと思います。

今回,「期待の若手3人」の演奏を楽しむことができたのですが,例えば石川県立音楽堂コンサートのようなもう少し大きな空間で聞いたらまた違った印象を与えてくれるのではないかと思います。今後の活躍を見守りたいと思います。(2006/08/26)