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国際舞台で活躍するアーティストたちVol.3
2006/09/02 石川県立音楽堂コンサートホール
1)メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲ホ短調op.64
2)トマ/歌劇「ミニヨン」〜君よ知るや南の国
3)サン=サーンス/歌劇「サムソンとデリラ」〜あなたの声にわが心は開く
4)モーツァルト/交響曲第35番ニ長調K.385「ハフナー」
5)ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第5番変ホ長調op.73「皇帝」
●演奏
上敷領藍子(ヴァイオリン*1),鳥木弥生(メゾソプラノ*2-3),高田匡隆(ピアノ*5)
高関健指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートミストレス:アビゲイル・ヤング)
Review by 管理人hs
数年前から定期的に行われているオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)と若手演奏家が共演する「国際舞台で活躍するアーティストたちVol.3」に出かけてきました。昨年同様,定期会員ご招待でした。この公演は,チラシに顔写真が載っているとおり,当初,岩城宏之さんが指揮予定でしたが,亡くなられてしまいましたので,高関健さんに変更になりました。若手奏者にオーケストラと共演する機会を与えることに非常に積極的だった岩城さんの遺志を受けての公演ということになります。

この演奏会の名称ですが,昨年とは微妙に違っています。昨年は「国際舞台で活躍する石川のアーティストたち」というタイトルだったのですが,今年は,「石川」という言葉が抜けています。今年からは石川県出身でない人も含めて,デビューして間もない人とOEKとが共演する演奏会という位置づけの演奏会ということになるかと思います(ただし,「国際舞台で活躍するアーティストたち」とするとあまりにも対象範囲が大きくなり過ぎると思います。)。

今回,上敷領藍子さんという2005年度のいしかわミュージックアカデミー(IMA)でIMA賞を受賞された若いヴァイオリン奏者が登場しましたが,今後はこのIMA賞を受賞された方がこのコンサートに登場する機会が与えられる,というサイクルが出来てくるかもしれません。この上敷領藍子さん(ヴァイオリン)さんに加え,鳥木弥生(メゾソプラノ)さん,高田匡隆(ピアノ)さんの3人が登場しました。どなたも本当に素晴らしい演奏でした。定期演奏会のソリストとして登場しても十分の満足できる演奏でした。

最初に登場したのは,上敷領藍子さんでした。大変難しい苗字ですが,「かみしきりょう」と読みます。上述のとおり,昨年度のIMA賞を受賞された方で,現在,東京芸術大学2年に在学中とのことです。演奏されたメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲は,OEKも何回も演奏している曲ですが,大変立派な演奏でした。

今回は,いつもの定期公演での指定席とは違う,もっとステージに近いバルコニー席で聞いてみたのですが,上敷領さんの自体が備えている奏者としての迫力が大変強く伝わってきました。全曲に渡り中庸のテンポで小細工をせずに演奏していましたが,楽器の鳴り方が本当に素晴らしく,特に変わったことをしなくても,奏者の”熱い気持ち”が伝わってきました。

ステージ上でも大変堂々としており,全く危なげを感じさせない素晴らしい演奏でした。第3楽章の最初の部分は,フルートなどとヴァイオリンの動きとがなかなか合い難い箇所ですが,中庸のテンポだったこともあり,ピタリと決まっていました。今回のバルコニー席だと,高関さんと楽員とのコンタクトがとてもよく分かったのですが,こういった部分を見ていると,指揮者とオーケストラというのは,ソリストを支え,良い音楽を共同で作る職人のようなものだなと感じました。今回,クラリネット,ファゴットといった管楽器の後列の方々の動作を見ることができたのが特に面白く感じました。

続いて登場したメゾソプラノの鳥木弥生さんは,OEKとは既に過去何回も共演を行っているお馴染みの方です。石川県七尾市出身で石川県新人登竜門コンサートに出演後,イタリアに留学され,特にオペラの分野でキャリアを積んでいらっしゃいます。ただし,今回,鳥木さんは,気管支炎ということでドクターストップが掛かっている中での出演になってしまいました。当初予定されていた演奏曲数が4曲から2曲に変更されたのは残念でした。

鳥木さんですが,ステージ上からオペラ歌手としてのオーラが出ているようでした。以前に比べるとステージマナーや雰囲気が洗練され,(少々気恥ずかしい言葉ですが)すっかり「レディ」になられました。新人登竜門コンサートの頃から知っている定期会員にとっては,最近の活躍ぶりは大変嬉しいのではないかと思います。

歌はフランス語のオペラ・アリアが2曲歌われました。「ミニヨン」の方はゲーテの原作を脚色したオペラです。とても爽やかでしかもたっぷりとした歌となっていました。

「サムソンとデリラ」の方は,私自身とても好きな曲です。メゾソプラノによる代表的なアリアですが,生で聞いてみると,サン=サーンスのオーケストレーションの鮮やかさを感じることができました。イングリッシュホルンがロマンティックが気分を出した後,ざわざわとした感じの伴奏が続くのを聞くと,映画音楽に通じる分かりやすさがあるな,と思いました。本来はもう少し大きな編成で聞いた方が濃厚な感じが出るのかもしれませんが,鳥木さんの歌からは,熱い気持ちがしっかりと伝わってきました。このオペラは,とてもスケールが大きそうな話ですが,金沢で公演する機会があれば,是非,鳥木さんのデリラで聞いてみたいと思います。

その後,鳥木さんの歌う予定だったアリアの代わりに,OEKのみの演奏でモーツァルトのハフナー交響曲が演奏されました。OEK十八番の曲で,過去何回も何回も演奏されてきた曲です。高関さんは,急遽この曲を指揮することになったとは思えないほどの生命力をOEKから引き出していました。他の曲でも同様なのですが,高関さんの作る音楽には,どの曲にもピンと張ったような芯があり,緩んだところが全然ありません。OEKの自信に溢れた弾きぶりと併せ,隙のない見事な演奏を聞かせてくれました。特に管楽器の輝きと一気呵成の推進力に満ちた両端楽章が「言うことなし」という感じの演奏でした。

後半は,ピアノの高田匡隆(まさたか)さんが登場しました。1999年の日本音楽コンクールで第1位を受賞された後,浜松や仙台の国際音楽コンクールで上位入賞をされるなど,既に確固たる地位を築きつつある若手ピアニストです。OEKとも過去数回共演を行い,石川県内でもリサイタルを行っていますので,お馴染みの方も多いと思います。

今回演奏された「皇帝」は,本当に見事でした。冒頭のカデンツァから濁りのない華麗なピアノの響きが続き,イメージどおりの「皇帝」を聞かせてくれました。その後に続く,OEKのみによる第1主題も大変颯爽としており,「若き皇帝」といった凛々しさを感じさせてくれました。古典派の協奏曲らしく,演奏全体をすっきりとスタイリッシュにまとまっているのも素晴らしい点でした。今回のバルコニー席だと,オケーリーさんのティンパニーの引き締まった音や,コントラバスの深い響きもよく聞こえ,交響曲を聞くような聞き応えがありました。

その一方,第2楽章では清潔な気品も感じさせてくれました。第3楽章には,その気品に加え,堂々とした貫禄もありました。ティンパニの弱音の後,一気に流れ込むコーダの部分は何度聞いても格好良いのですが,ビシっと決まっていましたので「お見事!」と声を掛けたい程でした。OEKはメンデルスゾーンの協奏曲以上にこの曲を頻繁に演奏していますが,その中でも,特に素晴らしい演奏だったのではないかと思います。

実は,仕事の関係で2006〜2007年のシーズンの幕開けとなる外山雄三さん指揮による9月7日の定期公演には,行けなくなってしまいました。とても残念なのですが,今回の演奏会には,プログラム的にもそれを十分に補ってくれるような聞き応えがありました。この演奏会を指揮することを楽しみにしていたという岩城さんも目を細めて喜ばれたことでしょう。今回登場した3人の方々の活躍をこれからも注目していきたいと思います。(2006/09/03)